研究報告 在宅高齢障害者福祉支援としての福祉機器の有効活用化に関する研究

研究報告

在宅高齢障害者福祉支援としての福祉機器の有効活用化に関する研究

高山忠男*

安梅勅江*

Ⅰ.はじめに

 21世紀長寿社会を控え、今や新しい時代に向かって身体障害者等の福祉支援システムあるいは支援技術開発の本格的な見直しが迫られていると言えよう。

 従来、身体障害者の支援として、年金等金銭給付による支援、ケースワーカー・ホームヘルパー等人的支援、福祉機器(車いす・補聴器)による生活補償機器または介助者の補助機器等が実施されてきている。しかし、人口の高齢化に伴う若年層の相対的な減少化傾向は、今後、人的パワーによる介助・介護中心の福祉支援に限界をもたらすことは明白であり、何等かの方法でそれを補完する必要性に直面している。

 そうした状況下において、福祉機器は、障害者の主体性を尊重した機能の代替・補完機器として、また介助量の軽減のための介助・介護機器として、さらには機能促進・減退予防のための機器として、今後ますますその果たす役割の拡大は疑いのないところである。

 福祉機器は、すでに紀元前5世紀には記録が残っているほど古くから使用されていたが、わが国において『福祉機器』として基本的な定義がなされたのは、昭和50年頃のことである。その後、社会変動の影響を直接的に受け、福祉機器の概念も大きく変化し、単に失われた機能の代行・代替・補完のための機器から余暇の活用を含めた生活を充実させるための機器へ、個人の使用する機器からさらに住宅設備や環境整備のための機器へと最新の高度技術を駆使した機器の対象は拡大しつつある。

 また、近年は補装具や日常生活用具から一歩進んだより高次の機能をもつ機器にも関心が高まる等、福祉機器に対するニーズも多様化してきている。また、今日工学系を中心とした新素材・新技術の開発はめざましく、ハイテク機器の実用化が新しい福祉サービスの実現に向けて大きな役割を果たすことが期待されている。

 福祉機器に関する研究は、初期には主に新作機器の開発と評価・普及に焦点が当てられていたが、最近では障害者のニーズ把握や障害特性に見合った機器支給のための調査研究が実施され、より広い視野からの有効活用が検討されるようになった。

 しかし昨今の発展の中で、多数のユーザーが福祉機器に多くの期待を持つにもかかわらず、現実には真に障害者のニーズに基づいた機器の十分な開発が図られているとは言い難い状況である。特に高齢障害者の割合が増大する中、高齢者が使用しやすい機器の開発はもとより、現在の障害構造・疾病構造から将来の状態像の科学的な予測に基づく支給の法則化等、重要な課題が山積している。

 そこで本研究では、特に在宅高齢障害者のケアシステムの開発を考える中から、在宅障害者とその介護者の生活構造を明らかにし、その分析過程から日常生活諸場面での福祉機器の活用状況を把握し、今後のわが国の福祉支援における福祉機器の有効活用の方向性を探ること等を目的とした。

Ⅱ.調査研究対象と方法

 対象は、在宅高齢障害者545名であり、地域特性を勘案し、主に移動面での問題の生じやすい寒冷地域を選択することとした。その内訳は、①郵送調査として東京市部から363名(有効回答69%)、②専門調査員による個別面接調査として、東京都については1老人福祉施設のデイケア・機能訓練・入浴・短期入所・相談サービスを利用している高齢者及びその介護者123名、宮城県についてはコミュニティ・ケア・サービスによる訪問看護対象者28名、青森県については弘前医療短大機能訓練会による訪問リハビリテーションサービス対象者31名の計182名、③グループインタビューとして、高齢者3グループ26名、介護者1グループ7名、施設職員1グループ7名、計41名である。

 方法は、量的把握として郵送法を、質的把握として専門個別面接・グループインタビューを実施し、複合考察を試みた。

Ⅲ.調査研究の結果

1.調査対象の属性・身体特性

 性別は男女半数ずつで、80歳以上が全体の41.2%を占めていた。学歴は義務教育終了までが58.6%を占め、一番長く就いていた職業は、全体では主婦29.5%、農林漁業17.3%、技能職・労務職13.3%の順であるが、地域によって大きな差がみられた。

 また既往については、脳血管障害26.8%、高血圧12.0%、骨折4.9%、白内症5.5%、老人性難聴3.7%、痴呆症6.8%であった。障害部位については、片上下肢・両下肢障害の者が全体の50%近くを占め、その原因については脳血管疾患による者40.6%で最も多かった。

 障害程度は、寝返り不可22.8%、コミュニケーション不可8.8%、理解不可7.7%であり、一方、歩行可53.3%、コミュニケーション可60.8%、理解可58.0%であった。

2.福祉機器使用及び住宅改造の実態

 現在利用している福祉機器は、普通のベッド32.4%、手動車いす29.1%、紙おむつ25.3%であった。機器を複数使用している者は全体の58.0%、特殊ベッドまたは普通ベッドと手動車いす・紙おむつ・ポータブルトイレ等との組み合わせが多くなっていた。また特殊寝台・紙おむつは年齢が高くなるほど使用割合が高くなっていたが、手動車いす・歩行器の使用は年齢と共に減少していた。今後利用したい福祉機器については、現在でもよく利用されている特殊寝台(15.4%)・紙おむつ(12.6%)を始め、現在はあまり使用されていない寝返りを助ける道具等(13.2%)があげられていた。

 一方、これまでの住宅改造については、手すり設置23.1%、トイレ洋式化14.3%、段差解消8.2%であった。全体の39.9%が複数箇所住宅改造を行っており、「手すり+またぎ・洋式便器」等目的行動の遂行過程の補完を意図したものと「洋式便器+トイレ暖房」等屋内のある部分の総合的な改造を意図したものとがみられた。年齢別の特徴としては、「段差解消」は70歳以前までは20%弱あったがそれ以降は10%弱に減少していた。今後の住宅改造希望としては、手すり6.6%であったが、福祉機器同様、住宅改造も現在の利用に比較して今後の利用希望が少なくなっていた。

 住宅改造と福祉機器の併用は26.9%、有意に関連していたものは、①普通ベッド:非常ベル設置・段差解消・手すり設置・またぎ調整・高齢者にあった部屋の雰囲気作り、②便座:トイレ洋式化・暖房設備設置、③収尿器:手すり設置、④手動車いす:段差解消・手すり設置・トイレ洋式化・またぎ調整、⑤歩行器:段差解消・手すり設置、⑥ポータブルトイレ:段差解消、であった。

 これらの福祉機器及び住宅改造に関する情報は、病院からの入手が最も多かったが(33.6%)、「入手先なし」とした者も57名(31.3%)あった。

3.福祉機器使用・住宅改造と日常生活動作・活動レベルとの関連

 訪問者によって評価された「移動能力」と機器活用状況との関連では、<立ち上がり不可>では、特殊寝台・エアーマット・紙おむつ・手動車いす・ポータブルトイレを、また<寝返り不可>では、特殊寝台・エアーマット・紙おむつを有意に高率で使用していた。

 「室内移動能力」との関連では、トイレ便座使用は、<完全自立>に多く、ポータブルトイレ使用は<杖・歩行器移動可能>等多少不自由がありながらも自分自身で移動可能な者に多く、紙おむつ使用は<完全自立>には少なくなっていた。歩行器使用は<多少歩行不安定>が使用19名中18名であり、手動車いす使用は<独立歩行可能>には少ない一方、寝返り補助機器・エアーマット使用はほとんどが<寝たきり状態>であった。

 さらに「排泄の自立度」と福祉機器使用の関連では、トイレ便座使用と排泄自立度はほとんど関連なく、収尿器は<トイレまで要連行><着脱要介助>の場合に、ポータブルトイレは<トイレまで要連行><着脱要介助><後始末要介助>の場合に、紙おむつは<排泄能力・排泄感欠如>の場合に有意に使用されていた。

4.介護・サービス利用状況と機器ニーズ

 生活時間構造からみた総介助時間を基準に、介助時間が25パーセンタイル以下の者を『軽度介護』、25~75パーセンタイル以下の者を『中度介護』、それより長い者を『重度介護』として3段階を設け、各項目と介護量との関連を検討した。

 介護量程度と福祉機器使用状況及び住宅改造状況との関連は(図1~図3)、現在使用している機器は、重度介護で紙おむつ・特殊寝台・普通寝台・エアーマット・手動車いす・収尿器等の使用割合が高い一方、住宅改造では中度介護で手すり・洋式トイレ・トイレ暖房・またぎ設置等、割合が高くなっていた。今後の機器使用希望の特徴としては、重度介護で寝返り補助具のニーズが特に高く、ついで紙おむつ、特殊寝台があげられていた。

図1 使用福祉機器(介護量別)

図1 使用福祉機器(介護量別)

図2 住宅改造状況(介護量別)

図2 住宅改造状況(介護量別)

図3 福祉機器使用希望(介護量別)

図3 福祉機器使用希望(介護量別)

 サービス利用に関しては、現状では重度・中度介護者では入浴サービス・訪問介護サービスの利用が中心であり、軽度介護者では機能訓練・デイケアの利用が中心であったが、今後、福祉機器に関してより一層の充実を求める声が高く、特に重度介護者では福祉機器の貸与にも期待が集まっていた。

 また、介護上の問題を解決するためには、介護程度が重度になるにつれ『代替介護者』が必要であるとする者の割合が高くなり、また中度介護者には、便利な福祉機器の開発や相談場所の充実が役立つと回答した者が多かった。

5.「福祉機器の必須使用者」の機器使用効果判定

(1)本人の機器使用効果

 機器支援に関しては、移動可能域の拡大・排泄自立促進等物理的効果はもとより、精神面での効果が強調された点が特徴的であった。グループインタビューでは「自分のことぐらいはすべて自分でしたい」「自分の思うままにやりたい」等の意見があり、適切な機器を使用することにより「多少時間がかかっても気は楽」に生活できるとしていた。移動能力の障害はあっても知能面での障害のない者からは、可能な限り自力で対応し、他者への依頼は最低限にすべきだという意見が多数寄せられた。

(2)介護者の機器使用効果

 介護者に対する物理的な効果として、介護時間の短縮については、紙おむつの使用は汚物処理・洗濯時間の大幅な短縮に寄与する一方、寝返り機器使用者の介護時間はすべて15分以内であるにもかかわらず、非使用者は35分要する場合がある等が示された。

 また介護力の軽減については、特に高齢の介護者が自分より重量の大きい配偶者を介護時には、特殊ベッド・ポータブルトイレ使用が必須不可欠条件となっている状況も示された。

 さらに、精神面における効果も無視できず、在宅介護継続の必須条件として福祉機器使用をあげた者も6名あった。在宅介護継続意志を目的変数に、機器使用・住宅改造状況、本人の移動・コミュニケーション能力・痴呆症状・問題行動、介護状況、介護者との人間関係を説明変数に数量化2類を実行したところ、現在の福祉機器使用・住宅改造は、今後の介護継続の方向に寄与していた。

Ⅳ.考察

 本調査研究では、身体特性別機器使用状況を把握する一方、高齢者・介護者の生活構造から介護状況を捉え、介護負担の軽減のための機器活用の有効性について検討した。

 本調査研究から明らかにされた高齢者の福祉機器使用については、高齢者自身の精神機能が正常である場合、日常生活において可能なことの幅を広げたり、社会参加への機会を保持するために活用されていることが明らかにされた。実際に在宅高齢者の使用している福祉機器については、《ベッド》《紙おむつ》《手動車いす》が3種の神器的な存在であった。

 身体状況との関連では、「トイレ便座」は移動能力との関連が高く、排泄自立程度とは一定の相関傾向は見られないこと、「移動能力」の低下に伴って、「歩行器」「手動車いす」を使用しながら「手すり」「段差解消」「またぎ調整」等の住宅改造を行うこと、さらに寝たきり状態になると住宅の改造はもはや行わず、「紙おむつ」「エアーマット」「寝返り補助具」等を使用する、というパターンが浮き彫りになった。

 これらから、移動能力と他の能力との相関を明らかにしつつ、能力別に個々の福祉機器の使用範囲について詳細に検討しプログラム化していくことで、今後の適切な福祉機器支援システムへの貢献が可能であることが示唆された。

 福祉機器使用のメリットとして、障害者本人からは特に意識面で、「他人の世話にならずに」「自分の思うままに」行動が可能であるという点が強く訴えられ、「自己実現」を基調とする今後の主体性尊重時代の支援として福祉機器の重要性が確認された。

 一方、介護者にとっては、機器を使用することで<持ち上げる><運ぶ>等の体に無理のかかる介護や、最も困難の多い排泄の介護量が軽減されるとしており、特に介護者自身も高齢の場合に、省力機器の利用は在宅介護を継続する上で必須であることが示された。それを受けて福祉機器ニーズも《省力機器》に関するものが多く、特殊寝台や洋式トイレ、寝返り介助装置への期待が高かった。

 「寝返りに機器が必要」としている者5名のうち実際に使用している者はわずか1名であり、介護負担の軽減のために寝返り機器ニーズの高かった点を勘案すると、今後の対応を早急に検討する必要性が示された。

 特に夜間介護の軽減は多くの介護者からニーズが訴えられており、介護継続条件としても夜間介護の軽減が大きな位置を占めていた。しかし、現実には排泄介助で延べ112名が、寝返り介助で延べ17名が夜間介護を要しており、これらを解決するために有効な機器を開発する必要がある。

 在宅ケアを可能にするためのサービスや福祉機器へのニーズは、介護負担量によって異なっていたが、軽度介護の場合はデイケアサービスや余暇活用サービス等に、中度介護の場合は自立を促し主体性を尊重する福祉機器活用や相談サービス等に、重度介護の場合は入浴サービスや家庭奉仕員の派遣等に、主たるニーズが集中していた。特に重度介護者では福祉機器の貸与にも関心が高く、レンタル制度等新しいシステムの導入による柔軟な対応が期待される。

 しかし、快適な「第2の人生」を送るための、福祉機器の有効活用や住宅改造を今後希望する者は、必ずしも数的には多くはなかった。これは単に利用希望が少ないということを意味するのではなく、福祉機器・住宅改造に関する情報不足及び経済的な問題が大きく影響しているものと考えられる。これらの点の解決のためにも、《情報システム》《機器レンタルシステム》等につき、今後、重点的に整備する必要があると言える。

 福祉機器の有効活用を図るためには以下の4点の課題解決が必要と考える。

1.対象者の環境を含めた生活状況に適応した支援のための基準設定

 生活障害を基準にした対象自身の障害分類に、介護者の介護意識・介護可能時間量・介護エネルギー等の介護環境の分類を加え、科学的に指標化を試み、支援の際の基準とする必要がある。

2.支援技術を応用するためのソフト開発

 現状の福祉機器支給システムでは、単に<もの>のみの支給に終わり、有効活用するためのソフト提供が軽視されている場合の多いことは否めない。支給と同時に確実にソフト情報を提供可能にすること、支給後のアフターチェック、使用評価システムの確立が必要である。

3.福祉機器情報の提供・収集システムの必要性

 福祉機器の有効活用や住宅改造を希望する者の数が必ずしも多くない理由として、福祉機器・住宅改造に関する情報不足の問題が、大きく影響しているものと考えられる。この点の解決のためにも、《情報システム》等につき、今後、重点的に整備する必要があると言える。

4.機器レンタルシステム等柔軟性に富んだ支援システムの必要性

 在宅福祉を推進していく上で、特に機能変化の著しい高齢障害者が増大する中、その時点の身体・精神状況に見合った適切な福祉機器を効率よく供給し、活用可能なよう機器のレンタルシステム等を取り込んだ柔軟性に富む福祉機器支援体制の確立が必要である。

 現在、本領域においても、保健と福祉の連携から統合への動きが高まっている。特に高福祉機器活用においてもこの2つの流れが統合される必要がある。すなわち、《機能促進機器》あるいは《機能減退防止機器》等本人の能力をより発展させ維持する機器と、《介護・介助機器》等省力機器を有機的に連携させながら活用する時期到来と言えよう。

 これらを踏まえつつ、福祉機器支援をさらに推進していくためには、原点に返って、『人間にとっての福祉機器による支援の意味』について議論を重ね、人による支援のどの部分までを機械で代替できるか、その基本哲学を再検討する必要があると考えられる。

 機器支援の有効性評価手法を確立し、それに見合ったハード及びソフト技術の開発、さらにそのインターフェースを充実させることで、あくまでも主体性を核とした『豊かな長寿社会』実現のために一石を投じることが可能になるであろう。

参考文献 略

*国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所

<脚注>
 現行の福祉機器を分類すると以下のようになる。
1)失われた機能を補う代行(代替)する機器
2)残存機能を補う(補完)機器
3)介護力軽減としての介助・介護機器
4)社会生活促進機器(レクリエーション・スポーツ用機器)
5)設備等を含むその他の機器(障害特性別住宅改造とこれらに伴う機器)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年10月(第61号)21頁~26頁

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