特集/公共交通とアクセス 障害者・高齢者の交通ニーズに応える

特集/公共交通とアクセス

障害者・高齢者の交通ニーズに応える

―欧州の経験―(抄訳)

Tony Shaw

秋山哲男**

 この論文は1989年フェスピック神戸大会記念「障害者・高齢者とともに生きるまちづくり」国際シンポジウムにおける、Tony Shaw氏の講演原稿と当日の講演、ロンドン地域交通局のレポート等を参考に著者の解説も含めてまとめたものである。
 本論の主要な内容は英国だけにとどまらずヨーロッパ全域の障害者の交通問題全般に関して言及したものである。我が国にはみられない最近の事例として、スウェーデンのサービスルート、エレベーティドバスや英国のモビリティバス、ケアリンクバス、エアバスなど新しい試みも紹介されている。詳細は、秋山・三星論文にも書かれている。

1.交通システム

・ヨーロッパの多くの人はマイカーを利用し、障害者にとっても車は最も重要な唯一の交通手段であり、同時に職を得るための条件でもある。しかし、個人個人に合った車両の開発が不十分である。

・車を持たない高齢者・障害者はタクシーを含めた公共交通を利用する。とくに歩行障害を持つ人は、バスを最も良く利用するが、住宅地の奥までバスが入り込めない。

・ヨーロッパのバス・鉄道の交通計画は家から歩いて400mにバス停・駅が設定されているが、50%の障害者は車を使わないでバス停・駅まで行けない。したがってドア・ツー・ドアサービスの交通も必要である。

・バスやタクシーから鉄道・地下鉄等の乗継ぎ、都市部では障害者・高齢者のバス乗降に時間がかかることによる遅れなどの問題もある。

2.道路と舗装

・一般的な交通対策では、ドイツの住宅地の歩車共存道路における速度制限(例えば30km/時)や中心商業地区の歩行者専用道は、特に歩行障害者と高齢者にとって有益である。

・道路からみた障害者の分類は以下の3つに分けられる。①歩行障害者(長くかつ速く歩けない層)、②感覚障害者(全盲・弱視者)、③車いす使用者

・オランダの運輸省では、道路のガイドラインを作成し、車いす使用者・視覚障害者に配慮した道路整備を行っている。

・英国でも、道路のガイドラインを作成し、モビリティ・ハンディキャップ者に対する道路の基準や要綱を作成している。詳細は、わが国の基準とほぼ同様のメニューがみられる。

・横断歩道では、車と歩行者の事故、とくに老人と障害者が危険である。

・大部分の障害者配慮の道路設計は、すべての人に使いやすいが、段差切下げについては視覚障害に問題となる。

・ECMT(ヨーロッパ大臣交通会議)では、エンジニア向けに駐車場・バス停・鉄道駅等の歩行者環境の整備基準のリーフレットを出版した。

3.バス停留所

 外出が困難な障害者のための設備等の整備を行うことが求められ、以下の4点に要約した。

①バス停のシェルター―風雨や寒さから乗客を守る設備。十分な座席数の確保と、視覚障害者やその他の歩行者の安全性を配慮すること。

②バス停と周辺道路―バス停までの経路の安全性やアクセスがし易い歩道を設置すること。

③停車条件の改善―バス停にバスがアクセスできるように、一般車両の駐車規制を含めた交通管理や道路設計の対応をすること。

④車いす配慮のバス停―バスが歩道に沿ってぴったり停車できない場合は、そのバス停付近の歩道にスロープを整備すること。

 乗客に対して、バスが何時来るかを知らせるバス接近表示システムは、障害者や高齢者にとっても極めて有効である。これらの接近表示システムが音声や視覚情報として提供できればより利便性は増す。英国運輸省はバス停での機械による音声提供システムで、音声によるバスが何時来るかの情報提供(ELSCE)を試みた。これは視覚障害者に有効である。

4.ターミナル

 公共交通が整備されても、乗換えターミナルが整備されなければ障害者は結局使えない。英国は、大規模バスターミナルや鉄道駅整備の指導要綱を作成した。詳細は以下の項目である。

 ①プラットホームやバス停へのアクセス

 ②すべらない床

 ③情報提供(時刻等)

 ④触知図

 ⑤明確なサインシステム

 ⑥座席と手すり

 ⑦待合室

 ⑧自動ドア

 ⑨職員の訓練

 ⑩公衆電話の車いす、聴覚障害者の対応

 ⑪食堂等のアクセス

 ⑫窓口の磁気ループ設置

5.鉄道駅

・鉄道は作られた時代が古く、ほとんど高齢者・障害者の利用を配慮していないのが現状で、その改善には極めて大規模な改修工事を要する。

・車いす使用者に対して、階段の代わりにスロープを設置すると、歩行障害の人には距離が長すぎて問題が大きい。したがってヨーロッパの大規模な駅では、荷物用エレベータを乗客に利用させるケースがある。

・ヨーロッパの鉄道や地下鉄は車両とホームのレベル差が大きく、乗降に大きな障害となる。車いす使用者の利用においてはリフト等の設備が必要。また駅舎の階段やエスカレータの代わりにエレベータやスロープの設置の必要性の声が強いが、古い駅では極めて高価につくことや、物理的に不可能なこともある。

・視覚障害者の対策は、障害物を表示することや誘導のために床材の材質を変えること、色のトーン、線状の表示等によって配慮している。視覚障害者の利用が多い駅は触知情報や自動音声情報等の設備が加わる予定である。

・地下深部を結ぶエスカレータの箇所に垂直のエレベータを設置する場合、地上の入口と地下のホームが同じ垂直線上にない。この問題を解決したのがストックホルムやハンブルクの斜行エレベータ(斜めに昇降するもの)である。ハンブルクでは既存のエスカレータの代わりに斜行エレベータを設置したので基準よりやや小さいエレベータである。

・新駅を作る場合は地上からホーム等までのエレベータ設置が不可欠である。これは車いす使用者のみならず乳母車・バギー・荷物を持った人などにも便利である。

・道路上を走行するLRTや路面電車ではプラットホームをつくることによりアクセスが確保される。しかし、車両の床高とプラットホームともより低ければ歩行者とくに視覚障害者の安全化が図れる。

6.主要ターミナル

 高齢者・障害者の大きな問題は、ターミナルの大きさと複雑さである。従って以下の点に特に注意を要する。

①ターミナル内の歩行距離を最短にすること。

②視覚障害を持つ利用者のための誘導・案内システムの設置や、色のコントラストや誘導ブロック等で補足すること。

③明瞭なアナウンスをすること。

④職員に障害者の特性やそのニーズに関する訓練をすること。

7.自動車

 重度障害者が自ら運転できるようさらに改造することもできるが費用が高い。ベルギーに続きイギリスや他のヨーロッパ諸国では、障害者ドライバーがモビリティを高めるための適正な選択ができるよう、助言・評価センターをオープンした。

8.タクシー

 ロンドン型タクシーはイギリスの他の地域でもみられ、普通の乗用車よりも天井が高く、車いす使用者が十分に利用できる。これは乗降の携帯用スロープと車いすを安全に固定できるスペースが準備されている。現在すべてのロンドン市内の新しいタクシーは車いすにアクセシブルにせよという規定がある。2000年までにはロンドン市内の1万5,000台のタクシー全部がこの設計のものとなる。ノルウェーでもタクシー業者とバス会社が共同して、高性能のものにはリフトをつけ、車いす使用者が利用できる車両を開発した。

9.ミニバスの普及

 英国のロンドンを除く多くの都市でバスの規制緩和(運行の認可がゆるくなったこと)により、16~20座席のミニバスが運行されることになった。ミニバスはよりきめ細かなサービスを提供するので、高齢者・歩行障害者の多くがミニバスにより外出がしやすくなった。

 この車両は床も高く、急勾配のステップでかつ出入口・車内の通路も狭く乗降りの困難を伴う。ミニバスが障害を持つ人に使いにくいためにミディバス(座席数25~30、出入口はより広く、内部のスペースも広い)へと移行している。

 学校・デイセンター・ソーシャルサービス等の福祉施設の送迎などには、後部にスロープやリフトのついたミニバスも広く利用されている。

 スウェーデンやイギリスでは、同様の車を、障害者に個人の移動の機会を与えるためにダイヤル・ア・ライドという予約制のドア・ツー・ドアサービスを提供している。ダイヤル・ア・ライドは特に訓練を受けたスタッフが運転し、車両は4~8人乗りの一般座席と2~3台の車いす用スペースが確保されている。

 その他リフト付きの15人乗りのミニバスも開発され、ロンドン中心部でケアリンクバスとして運行している。

10.既存のバス

 スウェーデンでは都市部運行の新しいバスはすべて法規に従って障害者配慮が不可欠である。イギリスでは、障害者交通諮問委員会(DPTAC)発行の「推奨仕様書」が法令として必要条件の基礎的なものと考えられている。 

 高齢者・非車いすの歩行障害者の主要な問題は、乗降り・走行中のバス車内で転倒することである。現在のバスの多くは、床高50cmでこれより低くすることは難しい。障害者にとって乗降口のステップの高低差、特にバスが歩道に接近して停車できない時、第一ステップと地面の間の高低差が極めて重大となる。地面から第一ステップの高さが20cm以下の場合大部分の人の乗降が可能となる。実際問題として20cmを確保することは折りたたみ式ステップを使うかニーリングバスにしなければならないが、都市部では運行に遅れをもたらす原因となる。ロンドンで、入口のステップの一部分にちょうど250mm以下の固定式第一ステップを取りつけ、乗車の助けに十分な手すりをそえた。ロンドンのバスに我々が設けている基準を以下に要約する。

・ナンバー、起点、終点名を示すこと―前と後に高さ20cmに黒字に白のナンバーと終点駅名を示すこと。可能ならば経由地も示す。

・第一ステップの高さ―30cm以下(25cmが望ましい)、その他の2つ(第二、第三番目)のステップは最大25cmとする(15cmが望ましい)。ステップの踏み面は奥行30cm程度、表面は滑りにくい材質とし、かつ照明も十分にし、かつステップの境界もはっきり表示すること。

・ドア―有効幅員が最低53cm、手すりはすべてすべり止めをし、明るい緑色かオレンジ色の上塗りをした30~35mmのパイプ状のものとする。

・押ボタン・停車サイン―色のトーンをつけ見やすくし、低い位置に設置する。バス停車サインは、乗客全員が見える位置に設置する。

・座席―バスの前方に近い進行方向に向いた座席のうち少なくとも2組には、最低450mmの杖等を置くスペースを設け、高齢者と障害者優先の席であることを明記する。

 1986年半ばに初めて発表したこの必要条件は製造コストアップがわずか1~2%で新しいバスにとり入れることが可能で、乗客の利用者層が広がり、採算ベースにものるものである。またこれは路面電車やLRTに応用できる。

11.車いすによるアクセス

 車いすの乗客を乗せるため「標準」バスを改良することは可能であるが、ヨーロッパでは多くのバス運行管理者が、リフト装着費用、車いす使用者の乗降による遅れの問題、車いすスペース確保の必要性等につき懸念を持ち、加えて利用者が少ないということから、車いす対応のバス導入には消極的であった。

①モビリティバス/エアバス(英国)

 ロンドンでは、モビリティバス(ロンドン郊外の車いす使用者と一般利用者がともに使える路線バス)や世界で初のエアバス(ロンドン中心部とヒースロー空港を結ぶ車いす使用者も利用可能なリムジンバス)の導入を積極的に図った。

 エアバス―空港からロンドンの中心までの2本、24台のバスすべてが車いすの利用が可能である。車両は車いす1~2名、運行頻度は1時間に約5回、バス停数も限られているので、運転手が乗客を補助しても平均運行時間がそれ程のびることはない。リフト維持費はわずかであり、初期投資としての割増コストはリフトの購入費と設置費である。バスの寿命が伸びることで採算ベースに乗るものと考えられる。

②独・仏等

 フランス・ドイツは、車いす使用者を路線バスサービスに組み込むシステム開発を決定した。ミュンヘンでは車いす対応の規準化した路線バスがすでに市内で運行している。フランス政府は、今後5年以内にあらゆるバスや大型長距離バスを誰にでもアクセシブルにすることを発表した。

 デンマークでは今日100km以上走る大型長距離バスにはリフトを備え、2人の車いす使用者を乗せることとした。

③エレベーティドバス(スウェーデン等)

 スウェーデンとノルウェーでは、バスにリフトやスロープを用意しなくてすむ代案が導入され成功している。スウェーデンのハルムスタッドのバス停では道路にスロープのついたホームの用意があり、車いすの乗客をバスの床の高さまで導く。バスはこのホームに横付けに止まり、バスから短い「ステップ」が伸ばされてホームとバスの床との行き来が可能となる。この方法は小さな町では効力を発揮したが、各バス停でバスの車両がホームにうまく横付けできるかどうかにかかる。これに似た方法はネソデン(オスロ近郊)にもある。

④サービスルート(スウェーデン)

 もうひとつの代案は、スウェーデンのボロースやストックホルムのベーリングビーの超低床バスの「サービスルート」である。サービスルートを使用する層は、一般的なバスが使えなかったり、ドア・ツー・ドアのサービスまで必要としない層のためのものである。

12.路面電車と軽量高速鉄道(LRT)

・ヨーロッパの都市では路面電車がLRTにグレードアップが図られつつある。路面電車に代ってLRTを運行する場合、ホームのない街路からの乗降が可能となるような床高の開発(地上から28~35cm)の研究が行われている。

・このデザインが適用された都市はグルノーブル(仏)とジュネーブ(スイス)である。また、その後、より低床の車両も開発され多くの都市で試みられている。

・LRTは騒音・排ガスなどの公害もないことから、トランジットモール(歩行者専用道にバスやLRTが入り込む歩行者と公共交通共存のシステム)として都市中心部に導入されている。ミュンヘン(独)では古い路面電車にリフトを取り付けている。

・イギリスの2つのLRTは幹線鉄道の軌道の一部を使っているが、地下や橋上に新たに建設した。これらはいずれもアクセシブルで、エスカレータはもとよりエレベータの設置をはじめとし、車体とホームの隙間を最少限度にするためホームをまっすぐにした。

13.都市の鉄道

・LRT・地下鉄・郊外鉄道ははっきり区別できないが、多くの車両は自動化が進み、性能はよくなっている。

①車両

・高齢者や障害者で駅までのアクセスが可能な人にとっては、鉄道は極めて利用しやすい。

・ホームの高さやカーブが原因の隙間の改修は費用がかかるが、出入口や車内の適正な位置に手すりが設置されていれば、安全にかつ素早く楽に乗降できる。一般に鉄道は、バスほど急に速度を変えたり方向転換しないので、車いすを車体に固定させる必要性が少ない。乳母車・バギーでも広扉のドア近くか、通常の座席を持ち上げてある指定場所に置くことができる。

②情報提供

 駅名その他の情報のアナウンスを確実なものにすること。また各車両内に視覚表示を置いて補足することが大切である。将来ロンドン地下鉄で使う新しい車両は、各々の車両の端に自動音声アナウンスと共に電照式サインも設置されている。ドアの開放ボタンには、ドアの開く時や開く側を音声と視覚情報により知らせるシステムを組み込む。

14.都市間鉄道・船・飛行機

・長距離の移動のため、乗客は十分な快適さと充実したトイレ、軽食堂等の設備を求める。

・車いす使用者をはじめとする障害者が使うことができるドア、特別室、トイレ、ビュッフェやレストランの設計を行うべきである。

・高齢者が間違わずに目的地に降りられるように、音声と視覚表示の情報システムには、遅れや迂回があれば必ずその詳細を入れておくこと。

・スタッフの訓練は障害者の介助、障害者ニーズの理解のために行うこと。

・ヨーロッパの都市間鉄道は、車いす対応の車両を使っているところもある。英国では車いす使用者の乗降に、ホームと車両のレベル差が少ない高いホームでのみ携帯用スロープを利用する。オランダではリフトを開発中である。

15.コスト

・ハンディキャップ者配慮の設備費用は、公的資金等が期待できる。市場も人口の10~14%と大きく、商業ベースで進むものもかなりある。

①公共交通とSTサービスのコスト

・障害者配慮の対策はすべての乗客が共有できるとしても、利益を生むことは少ない。一方重度障害者用のドア・ツー・ドアのサービスは公共交通よりずっと高価で、ほとんど公的資金による援助が不可欠である。民間資金と公的資金との割合はサービスによって違い、政治的な決定と姿勢が影響を及ぼす。普通は特別なサービスの利用者に少額負担をさせるが、大部分の乗客には普通より高い料金を支払える見込みは少ない。

②計画の考え方

・高齢者や障害者のモビリティに合わせた複数の交通手段の整備を考えること。

・投資した費用が最適に使われること。

・高速道路や交通の計画に最大のアクセシビリティ計画を決定すべきで、その際、障害者の意見を反映した「基準」を作成する。これを都市交通の基盤整備(道路・交通機関)や車両に適用すること。強制的な基準の効果は何年か後に新しい設備が自動的に採用され、障害者のニーズを満たすことになる。

・幹線的な鉄道・バスのネットワークを確立することにより、非常に高くつく長距離のドア・ツー・ドアサービスが減少する。

③STサービスのコスト

 ストックホルムの例によりSTサービスのコストを計算する。自分で車を運転できない障害者のタクシー利用は1回当り約10ポンド(約2,500円、500万回/年、5,000万ポンド/年)である。重度障害者が利用しているSTサービスのミニバスは1回当り30ポンド(7,500円、80万回/年、2,500万ポンド以上/年)。このサービスのために7,800万ポンド/年が使われ、その資金の出所は、地方自治体の税収(63%)、政府補助金(24%)、社会保険(7%)、乗車運賃(6%)である。

・スウェーデンで高くついているのは、既存の公共交通を障害者が利用できるようにすべて改修しないうちに、障害者向けSTサービスの運行を十分行ったからである。

・コスト軽減のため、STサービスの利用者の一部をサービスルートという固定路線で運行するシステムに変える方式をとっている。これは床が非常に低く、ステップが一段(20cm)でアクセシブルな小さなバスを使っている。サービスルートの乗客の平均乗車コストは既存のバス乗車の0.8ポンド(約200円)、ドア・ツー・ドアサービスの10ポンド以上に比べて、1.6ポンドと安い。これらのコストは一律に比較できないが相対的に何を優先すべきかが理解できよう。

④間接費用便益

 ECMTで検討した費用の間接的な便益(クロスセクターベネフィット)の問題である。1985年、関係交通大臣は、「メンバー国の政府は、障害者のための交通手段を提供することにより得られる広範囲にわたる社会経済上の間接費用便益を、各政府の省内、省間で考慮し、さらにそれが妥当ならこれらの便益を明確にさせるため積極的に処置を講ずべきである」ことを承認した。

 便益をコストに換算することは難しいが、障害者の生活の質の向上という見地から間接費用便益があるとECMTでは考えている。コスト計算できるものは、STサービスによる通院など費用が高くつくものをより安い交通手段で代替することや、自分自身で買物・通院できる場合は家庭でのケアのコストの節減、在宅ケア(在宅老人)が可能な場合のコストの節減などが含まれる。もし外出が出来れば、訪問する場所の収入にプラスとなり、働くことが可能となるかもしれない。モビリティが高まるほど、ケアの必要が少なくてすむ。

 これらの換算できる便益はすべて、当然障害者が高速道路や交通システムを利用でき、目的地へ行くことができるという、基本的な「権利」である。外出できることは、外出できないことによる抑うつ状態やフラストレーションも和らげる。

 ECMTは、モビリティが減少している人々のための交通サービスを計画し提供する際に必要なコストの間接費用便益の概念をより完全に把握するため、これらの要因の分類、明確化、算定を行う努力を続けている。

16.結論

 結論として以下の5点を強調したい。

①高齢者や歩行障害者数は多く、その数は今後さらに増大する。障害者の大部分は高齢者で、車いすの人は少ない。

②これらの人々の援助では、多額の費用をかけずに多くを達成できる。多額のお金も必要だが予算よりも心の問題も強調したい。

③高齢者や障害者に役立つ施設・設備は、一般の人にも役立つ。

④投資の誤りを犯さないため、各段階で多方面にわたり障害を持つ人との相談が不可欠である。

⑤職員の訓練を行うこと。障害者や高齢者のニーズを理解できる職員を訓練することで成果はただちに得られる。

ロンドン地域交通局障害者交通担当課長
**東京都立大学工学部
***翻訳協力 早田信子


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1990年2月(第62号)20頁~26頁

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