海外レポート 障害予防と生命倫理

海外レポート

障害予防と生命倫理

―世界のさまざまな動き―

 出生児の障害と生命倫理の問題について、世界各国で最近みられる様々な動きは、この問題についての意見の対立の深さを示すものといえよう。この問題が浮上してきた要因としては、1)妊娠中の診断が正確かつ安くなり、普及したこと、2)その結果、国の立法なり、政策なりが必要となってきたこと、3)医療費の爆発的増加に悩む各国政府関係者が、最近盛んになった予防診断と障害者の障害にかかる費用の比較研究に注目したこと、4)医療サービスと費用の論議に「生活の質」の概念が導入され、誰がどんな基準で人の生活の質を決定するかという問題がでてきたことなどが挙げられる。

 医学の進歩は、子宮内診断を可能にし、障害児の出産を予め阻止することも可能にした。その結果、社会は、障害をもって生きる人生の価値を問いただされることになった。障害児の出産予防は、集団殺りくと同じと主張するグループ、障害をもつ人生についてカウンセリングを受けた上で両親が判断すべきと考えるグループ、経済を考慮にいれた政府の政策に委ねるべきと主張するグループなどがある。

 中国の立法

 甘粛省では1988年11月に、精神薄弱者が子供を持つことを禁じる地方法を制定した。精神薄弱者は結婚前に、不妊手術を受けねばならず、また既婚者は不妊手術を、妊娠者は中絶をしなければならない。中国政府は、全国法としての立法を検討中である。

 フランスの団体の動き

 児童障害予防協会は、ヨーロッパ議会に「異常児の出産を減らす」立法を提案するよう請願した。国の経済的負担を減らし、家族の心理的負担を和らげるために、真の生活の質を持ち得ないと乳児の治療と維持策を中断するには、犯罪としないことを要求している。医師2人と両親もしくは保護者の同意を条件にしている。

 ヨーロッパ倫理会議の中止

 西ドイツの親の会が計画した精神薄弱における倫理問題についてのヨーロッパ会議は、議題のなかの優性保護問題に抗議とデモが起こり中止となった。精神薄弱の主要な団体がこのような議題を会議で扱い、優性保護支持者が講演者になっていることが問題となった。

 イギリスの「Cちゃん」事件

 重度障害を持つ乳児の治療の決断をめぐって、いわゆる「Cちゃん」事件が1989年4月に最高裁で争われ、積極治療か、消極治療かの決定に医療関係者、法廷、家族がどのようにかかわるべきか、マスコミを巻き込んだ論争となった。精神薄弱団体は明確な法的根拠のもとに、客観的事実に基づいて決定を行う倫理委員会が必要であると主張している。

 アメリカの生命倫理論争

 アメリカでは1960年代後半から、生命倫理団体が100以上も設立され、議論が盛んである。しかし、最近では医学や科学の進歩の中で人間性をいかに尊重するかという目的からいささかずれて、規制団体になっているという指摘もある。

(International Rihabilitation Review,Sept.1989)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1990年2月(第62号)33頁

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