特集/雇用 アメリカにおける障害雇用に関する企業意識調査(抄訳)

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アメリカにおける障害雇用に関する企業意識調査(抄訳)

高木美子

 はじめに

 アメリカ、ニューヨークにあるICD(注)は、1985年、障害者約1,000人に対する意識調査を行ったが、その結果から障害者雇用に関する企業側の意識調査の必要性を感じ、1986年、約1,000社の企業を対象とした調査を行った。この調査は、全国障害者協議会及び障害者の雇用に関する大統領委員会の協力を得て、保健・福祉省人的開発サービス局及び労働省雇用研修管理局等の承認を受けたもので、実際の調査はルイス・ハリス社が行ったものである。

 調査時点がやや古いものの、この企業の意識調査の結果は、わが国においても障害をもつ者の雇用を推進するうえで参考になる点もあると思われるので、以下、その概要をまとめた。

Ⅰ.調査の目的

 本調査の目的は、障害をもつ者を雇用し、あるいは障害を受けた従業員の職場復帰のために雇用主は何を行い、どんな経験をしてきたかを明らかにすることである。また、雇用主の障害者採用上の問題点、障害者雇用促進のための手段等を探ることも目的としている。

Ⅱ.調査方法

 アメリカ全国の企業の中から、従業員規模別及び経営者の種類別に計921社を無作為抽出した。調査対象者は、トップマネージャー(副社長以上)、その地区で雇用機会平等に責任を持つ企業の経営者、企業内の役職者(部長・ラインマネージャー)、及び小企業(従業員10~49人)の経営者の4カテゴリーに分け、電話により質問に応えてもらった。

 調査内容は、障害者の雇用経験、障害者受け入れに必要な経費、最近の障害者雇用状況、障害をもつ従業員の職務成績の評価、障害者雇用増に対する問題点、将来の雇用計画等について、約50項目に及んでいる。インタビューに要した時間は、平均25分であった。

 調査回答者の概況は、以下のとおりである。

トップマネージャー 210人
その地区で雇用機会平等に責任を持つ企業の経営者(EEO) 301人
役職者 210人
小企業の経営者 200人

921人

Ⅲ.結果概要

1.障害者雇用の努力

 「障害者を雇用する努力をしている」と回答した企業は、連邦政府と契約をしている企業で56%であるのに対し、契約をしていない企業では28%に過ぎない。これは、リハビリテーション法による規定の効果が現われていると考えられる。

2.障害をもった応募者に対する評価

 障害をもった応募者に対しては、障害をもたない応募者と比較して、表1のような反応を示した。「自己を売り込む能力」で障害をもたない応募者より優れていると評価された者が多い反面、悪いと評価された者も他の項目より多くなっている。また、「過去の経験」において障害をもつ者は障害をもたない者より低く評価されている。就職の困難な障害者にどうして経験をつけさせるかが問題であるが、実地訓練、実習が一つの方法であることが指摘されている。

表1 障害をもった応募者と障害をもたない応募者の比較 (%)
  EEO 役職者
よい 同じ 悪い よい 同じ 悪い
正式な教育 13 63 7

13

60 6
職務に対する技能 13 60 9 14 58 5
自分を得る能力 23 46 16 27 42 10
リーダーシップ 10 64 6 9 62 8
コミュニケーション 11 61 6 11 61 5
過去の経験 10 45 26 9 45 20

3.企業における障害者雇用の方針

 「障害をもつ者を対象とする雇用の方針あるいは計画がある」としたのは、全経営者の37%であり、従業員規模1万人以上の大規模企業が62%であるのに対し、規模が小さくなるに従い、その割合は減少し、10~49人では僅か7%となっている。また、連邦政府と契約をしている企業では71%が障害者雇用の方針を持っているのに対し、契約していない企業では21%に過ぎない。これは、リハビリテーション法で連邦政府と2,500ドル以上の契約をしている企業は、障害者に対し雇用平等政策をとらなければならないからである。

4.最近の障害者雇用状況

 (1)過去3年間及び1年間の障害者雇用の状況

 過去3年間及び1年間に障害者を雇用した企業の割合は、表2のとおりで、大企業ほど雇用している率が高い。しかし、採用された従業員全体に占める障害者の割合は、大企業ほど高いかどうかはこの結果からは明らかではない。また、障害者採用について方針をもっている企業及び連邦政府と契約をしている企業ではそれぞれ、そうでない企業より障害者を雇用した企業の割合が高くなっている。

表2 過去3年間及び1年間に障害者を雇用した企業の割合 (%)
   過去3年間 過去1年間
 従業員規模
10,000人以上 69 52

1,000~9,999人

63 42
50~999人 54

27

10~49人 45 16
障害者採用方針

   あり

80 67

   なし

49 42
連邦政府と契約

 している

75

65

   していない

52 48

 (2)障害をもつ者を採用しなかった理由

 過去3年間に障害をもつ者を採用しなかった理由としては、以下のようなものが挙げられた。

・資質のある応募者がいない 66%
・空席、待ちポジションがない 52%
・本人及び他人に危害を及ぼす危険がある 19%
・建物の構造上の問題、障害者用の設備がない 17%
・障害者を訓練できない 12%

5.障害をもつ従業員の職務成績の評価

 (1)障害をもつ従業員の全般的成績

 経営者の圧倒的多数が、障害をもつ従業員の全般的成績に、よいまたは優れた評価を与えている(82~91%)。まあまあと答えた経営者はトップマネージャーは5%で、小企業経営者が11%で最も多い。悪いと答えたものはトップマネージャーが1%、小企業経営者が3%をあげたに過ぎず、きわめて少ない。

 また、表3に示す主要指標について、障害をもつ従業員と障害をもたない従業員の成績の比較を行った。これによると、障害をもつ従業員の大多数が、障害をもたない従業員と同等またはそれ以上の仕事ぶりであることがわかる。

表3 主要職務主要指標ごとの評価 (%)
 

トップマネージャー

役職者

よい 同じ 悪い よい 同じ 悪い
仕事への意欲 50 40 46 33
信頼性 42 46 39 42
出勤率、時間の遵守 43

44

1 39 40 1
生産性 18 66 6 20 57 2
昇進への希望 13 69 4 23 55

1

リーダーシップ能力 7 60 13 10 62 6

(注) *は0.5%未満のもの

 (2)障害をもつ者の昇進

 障害をもつ者の昇進については、「障害をもたない従業員と同じ速度またはそれ以上で昇進する」とするものはEEOの役員で69%、役職者で59%、小企業経営者で47%であるが、「障害のない従業員よりも遅い」というものも11%から17%程度みられる。一方、「障害をもつ者の昇進がうまく成功している」とするものが、27%から48%に対して、「あまりうまくいかない」、あるいは「全然うまくいかない」が22%から36%あることが指摘される。

 (3)障害者監督の経験

 役職者の大半(54%)が障害をもつ者の監督をした経験を持っている。障害をもつ者を実際に監督したことのある役職者の84%、実際にはその経験のない役職者の80%は、「障害をもつ従業員の監督が、障害をもたない従業員の監督より難しい」とは思っていない。また、半数が、障害をもつ者を採用したとき、他の従業員に教育をすべきだと考えている。

 (4)障害者雇用に対する認識

 障害をもつ者の雇用についての認識を調査した結果、約半数(46%)の経営者が障害をもつ者には特権を与えなければならないとしている。また、47%の経営者は、障害をもつ者の方が仕事中の事故が少ないとし、大多数(93%)の経営者は障害をもつ者は障害をもたない従業員とうまくいかないとは考えていない。

6.障害者雇用及び受け入れの経費

 (1)障害者雇用に必要な経費

 障害者雇用に必要な平均経費は、障害をもたない人の場合と比較し、ほぼ同じと回答した経営者が多い(64~81%)。障害者の方が経費がかかると回答した経営者は、13%から17%に過ぎない。

 (2)受入態勢の整備

 障害をもつ従業員が仕事をしやすいように、職場の受入態勢を改善または変更したかをみると、トップマネージャーでは70%と高いのに対し、小企業経営者は18%と受入態勢を整備することが少ない。受入態勢の改善等の内容は次のようなものである。

・構造上の障害を除去、または家具類を変えた 90%
・特別の設備を購入した 50%
・就業時間の調整または仕事の再構築をした 50%
・朗読者や手話通訳者を提供した 23%

 また、障害をもつ従業員やその監督者と一緒に働く障害専門家を雇用している企業も6%あった。

 これらの受入態勢を整えている企業の経営者は、そのコストは高くないと回答している(72~80%)。幾分高いとした経営者は4分の1以下で、非常に高いと答えたものはいない。

 受入態勢作りをしなかった理由は、80%以上がその必要がない、または要求されないという回答である。「費用がかかりすぎる」は、EEOの役員と小企業の経営者でそれぞれ7%あっただけである。

7.障害者に対する訓練計画

 過去3年間に、政府及び民間の行う職務イニシアティブ及び訓練計画へ参加したものをEEO役員の回答でみると、以下のとおりで、あまり多いとは言えない。

・PWIまたはPWIプログラム 10%
・特定職務税支払い猶予プログラム 40%
・職業訓練パートナーシップ法プログラムまたは民間業界協議会 25%
・州職業リハビリ機関に関与 42%
・自立生活センターに関与 6%

 これらのプログラムに参加した企業の多くが、その経験が非常に有効または幾分有効と回答している。あまり有効でなかったと評価しているEEO役員はきわめて少数で、失敗だったと回答したのは3%から5%に過ぎず、これらのプログラムの利用を拡大する必要があることを示した。

 一方、自社内で障害をもつ従業員のために教育ができるとした経営者は大半を占めているが、トップマネージャーとEEO役員では60%以上であるのに対し、小企業経営者では46%と低くなっている。

 障害をもつ者に対して社内教育ができない理由としては、マネージャーに対する特別教育がない、必要な特別設備がない、建物の構造上問題があるなどが主要なものである。

8.障害者となった従業員のリハビリテーション

 従業員が怪我や病気で障害者になったとき、それらの人々の大半が職場に復帰しているかどうかを調査した。かなりの企業でこの質問に該当しないと回答しているので、これらを除いた経営者についてみると、「大半が職場に復帰」が半数以上で、20%前後の企業では「大半が障害者になってすぐに退職している」と回答している。

 従業員が病欠または補償休暇をとったとき、いつ頃からその経過を監視しているかをEEO役員の回答でみると以下のとおりである。

・1ヵ月以内 40%
・1~3ヵ月後 27%
・4~6ヵ月後 3%
・6ヵ月以上後 5%
・場合による 4%
・監視しない 4%

 病気や怪我をした従業員のリハビリテーションへの援助の大きさは、障害管理計画の有無でみることができる。現在企業で行っているこの種の計画を多い順にあげると次のとおりである。

・長期障害手当の支給 82%
・軽作業に雇用、パートタイム、フレックス勤務の適用 72%
・試用期間中、障害手当を支給 38%
・民間リハビリテーション機関による相談 36%
・医療管理 35%

 小企業では、これらの計画を持っているところが少ない。

 障害者になった従業員が職場に復帰を望んだ場合、労働組合や監督者、同僚から抵抗を受けることは、ほとんどないといってよい。

 「障害者になった従業員のリハビリテーションに対して雇用主は責任があるか」に対して、4分の3が責任ありとしている。また、8%から10%が、「従業員が就業中に怪我をした場合のみ責任がある」と回答している。また、経営者の大半が、障害者になった従業員に障害手当を支給し、代わりの人を雇用するよりは、リハビリテーションにより職場復帰させる方が経済的であると考えている。

9.障害者雇用努力を増やす可能性

 ほとんどの経営者が、すでに十分努力しているので、これ以上障害者雇用のために努力する必要

はないと考えている(70~77%)。しかし、経営者の大半は今後3年間に障害者雇用の努力を増加させる可能性が幾分または大いにあると考えている(46~63%)。

 トップマネージメントが今まで以上に障害者雇用に対して役割を強化するかという質問に対し、トップマネージャーの49%が取り組みを強化すると答え、46%が強化しないと答えている。強化すると回答した経営者が最も重視している項目は次のとおりである。

・障害をもつ者を雇用する 25%
・障害者雇用について人事担当者や監督に指示、奨励する 22%
・会社の政策を強化、設定する 13%
・プロセスへの関与を強化する 12%
・障害をもつ者も他の従業員と同じという認識を強める 12%
・障害をもつ者をもっと積極的に募集する 10%
・関係機関に連絡をとる 9%
・障害をもつ者のための訓練を行う 3%

10.公共及び民間機関がとるべき行動

 「今までは実施されていないが、今後、公共及び民間機関が行うべき雇用促進対策で最も重要なものは何か」に対するEEO役員の回答を多い順に列挙すると次のとおりであった。

・応募者を無能力と捉えるのではなく、能力を重視する 23%
・障害者向け職業訓練・プログラム 16%
・応募者募集情報 10%
・雇用主にプログラムや機関について認識させる 9%
・職務に必要な特定技能を確認し、それを目指す 6%
・障害者に応募するよう奨励する 5%
・もっと積極的にアプローチあるいは市場調査をする 5%
・障害をもつ者に対する偏見、恐怖、誤解をなくす 3%
・特定職務のために特定の訓練をする 3%

 また、障害者の雇用増加につながるイニシアティブや政策変換案について、効果があると賛意を示した経営者が多かったものから列挙すると次のとおりである。

・雇用主がより資質のある障害者に出会えるよう、学校や職業リハビリ機関と協力をして、直接、訓練・募集計画を立てる 92%
・障害者にフルタイムの職業への道を開く方法として、もっと多くの会社に実習やパートタイムの職を提供させる 88%
・特定の障害をもつ従業員の受け入れや問題解決のために、障害専門家が雇用主に技術的援助や相談を与える 82%
・空席の職務内容を説明する一部として、雇用主に特定の機能的要件を説明させる 80%
・障害をもつ者に対する現場訓練のための費用を、財団や信託が一部負担するようにする 79%
・受入態勢の準備にかかる費用を分かち合うために、政府が税額控除をもっと増やす 74%
・障害をもつ労働者のニーズや、会社の障害者雇用対策について、会社は従業員の認識を高める 73%
・障害をもつ従業員が仕事について学べるよう、外部のリハビリテーション機関からジョブコーチを派遣してもらう 70%
・重度障害をもつ従業員の試用期間中の給与を政府が補助する 68%
・障害をもつ者が他の少数民族と同様に扱われるよう、現在連邦で行っている肯定的行動要求の範囲を広げる 65%

Ⅳ.まとめ

 以上の結果から、雇用主の障害者雇用に対する意識は次のようにまとめられる。

①ほとんどの経営者が障害をもつ従業員の優秀さを認めており、ほとんどすべての障害をもつ従業員は、障害をもたない従業員と比べて、同じ仕事を同等もしくはそれ以上にこなすと評価している。

②半数の経営者が障害者受け入れのために、職場の改造、特別な設備の購入、勤務時間や仕事の手順の調整などを行ったと述べているが、これらを含め障害者の受け入れに伴う経費は障害者の雇用促進の妨げとはなっていない。

③障害者雇用はそれほど幅広く進んではいない。中小企業よりも大企業の方が障害者雇用の見込みがあり、連邦政府と契約している企業の方が、そうでない企業よりも障害者雇用の見込みがある。

④過去3年間に障害者を雇用しなかった主な原因は、資質ある障害者の応募がなかったこと、障害者雇用の方針や計画を持った企業が少ないことである。経営者は、中間管理職の障害者雇用に対する意識を向上させる上で積極的な役割を演じることができるが、概して経営者及び管理職の障害者に対する意識は低く、これが障害者雇用拡大のもう一つの障壁になっている。さらに、職業上の差別も依然として障害者の雇用促進の最大の妨げの一つである。

⑤従業員が障害者になった経験をもつ雇用主のほとんどは、それらの従業員の大多数は職場復帰すると回答している。雇用主のほとんどは、障害者となった従業員のリハビリテーションに対して支援し、また、実践しており、障害をもつ従業員のリハビリテーションを十分行っていると考えている。

⑥ほとんどの経営者は、障害者を雇用するためにすでに十分努力しているので、これ以上の努力を払うべきであるとは考えていない。一方、経営者の大半は、3年以内に障害者雇用のために、これまで以上の努力を払う可能性があると考えている。

(「The ICD Survey Ⅱ:Employing Disabled Americans,March 1987」より)

(注)International Center for the Disabled

国立職業リハビリテーションセンター研究部長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1990年3月(第63号)14頁~19頁

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