松岡武志*
昭和48年度に、心身障害者多数雇用事業所に対する特別融資制度(モデル工場)が創設された。その後、昭和52年には、身体障害者雇用納付金制度により助成制度もでき、また国際障害者年を経て国民一般の理解も深まってきた。当全国重度障害者雇用事業所協会(全重協)も、平成元年5月25日社団法人となり、ますます責任を感じている。
法人化の時点では141社だったのが、現在では、172社と会員も増大しつつある。21世紀を迎えるにあたり、障害者雇用も拡大、定着(社内再教育)が行われ、今回は精神薄弱者に対してもいろいろと制度上手厚い保護が行われるようになり、当全重協としても今後障害者雇用を考えておられる企業に対して、会員の雇用事業所のノウハウを出し、お互いに協力が重要と認識している。また、今回の新しい助成制度のもと、全重協としての活動も大切にしながら、障害者の一層のノーマライゼーションの達成に寄与せねばならないと思う所在である。
当協会は、会員の重度障害者その他障害者雇用の経験と実績のもとに、関係機関と連携をとりながら、障害者の雇用促進及び職場定着を推進することを目的としている。協会の組織は、図1のとおりである。
図1 全国重度障害者雇用事業所協会の組織
「会員交流部会」は、異業種交流及び会員懇談会を開き、全国的組織にのり、会員交流はもちろん、一般企業に対しても常にPRを図り、理解をいただき障害者の雇用と定着に努めている。
「広報部会」は、会員に知らせるべきこと、一般企業への障害者雇用の奨めなど多様な内容をもりこんだ広報誌「エスペランス」を5,000部発行、PRに努めている(図2 写真略)。
「調査研究部会」は、事業所、社会福祉施設、学校、家庭、その他関係団体に対する情報の提供及び啓発ならびに相談、援助等を行うことを目的として努力している。とりあえず平成元年度から3カ年にわたって、約1,500万円の予算で調査研究を行う。一般企業向け障害者雇用ガイドブックを作製して雇用の拡大と定着に努めていただくために、会員のノウハウを出し合って完成をめざしている。
「セミナー部会」は、福祉セミナー、地方協会セミナー及び全国セミナーを開催し、会員相互の研修に努める予定である。当面は、全国セミナーを年1回東京で開催し、障害者雇用と定着のための相互の研究会、および当協会会員の現在までの障害者雇用の経験を生かし、私たちの持っているノウハウを出し合って理解を深めるよう講師陣の組織化も推進している。
「展示・PR・出版部会」においては、社団法人設立を記念して東京において平成2年11月22日より25日までの間、品川区南品川丸井百貨店内の170坪で全国異業種展を開催する予定である。障害者雇用事業所の作品展、および雇用相談を関東一円の地方協会の協力を得て開催することになっている。その他のPR活動、障害者雇用のマニュアルの出版も計画している。
「会員拡大」 当協会が社団法人設立当初141社であったが、昨年末には172社になり、会員活動も活発化している。各県の地方協会のご協力により、全国各県一社の新会員加入を推進して200社を目標に進めている。
「経営雇用管理相談開設」 当協会としては、各企業が堅実な経営のもとに障害者雇用と定着に努めることができることを願っている。そこで、各企業の経営相談を専門家に依頼して、検討、指導に努めている。また、平成元年4月の助成金制度の改正に伴い、会員の蓄積したノウハウを活用して、新規に障害者を雇用する事業所の相談に応じ、助成金申請に関する相談等にも応じる相談事業も開始する。これは、助成金の有効な活用により、障害者が各企業内で働きやすくすることが目的であり、有効かつ効果的に助成金が得られるよう助言及び援助を行う。
以上が全重協の当面の活動であり、今後事務局充実とともにもっと会員各位の企業のためになるよう努力することが急務であろう。
平成元年11月に、下記の目的でアンケート調査を行った。
1)職場内に指導員常設の制度をつくるため、助成金支給の道を探る
2)特に精神薄弱者雇用事業所における助成訓練期間の延長を考える
3)重度障害者多数雇用事業所に能力開発訓練の制度の適用について今後の研究の推進を図る
アンケートは、150社の企業に発送し、回収事業所数は124事業所、回収率83%弱であった。この回収率は、当面の課題について全会員の関心の大なることをも示している。以下に、調査の中から一部を紹介する。
回答事業所の障害者雇用状況
表1の数字をみても一般企業に比べて、雇用管理面、生産性などの面からみても、障害者雇用事業所の負担が大きいことがわかる。障害者自身も大手企業の中で働くよりも、中小企業の私ども企業の中で理解ある幹部、社長のもとで社会参加できることに喜びを感じているらしい。毎年、多少ずつ雇用がのびている現状である。
障害者数 |
3,245名 |
障害者雇用率 |
35.2% |
(内身体障害者数) | 1,711名 | 障害者中の割合 | 53.0% |
(内精神薄弱者数) | 1,462名 | 障害者中の割合 | 45.0% |
(内部障害者数) |
72名 |
障害者中の割合 | 2.2% |
(現在平成2年2月末日現在で172社→全従業員数予想10,700名障害者予想3,900名=雇用率36.4%位と予想します。)
障害者が従事する作業内容
障害者は従事する作業内容は障害者の91%が製造部門で、他の部門は大変少ない(表2)。円高その他世界の情勢により雇用構造の変化に拍車がかかり、製造部門の縮小が進むなかで障害者の雇用にどこまで頑張れるか不安な結果もでたが、今日までの障害者雇用の経験・ノウハウを生かし、各企業が頑張り雇用と定着に努め得ると信じる。
障 害 者 数 | 身体障害者数 | 精神薄弱者数 |
その他障害者数 |
|
製造部門 |
2,868名(91%) |
1,291名(86%) |
1,482名(99%) |
95名(77%) |
営業部門 | 124名(4%) | 94名(6%) | 17名(1%) | 13名(1%) |
管理部門 | 145名(5%) | 130名(8%) | 0名(0%) | 15名(12%) |
合 計 |
3,137名(100%) |
1,505名(100%) |
1,499名(100%) |
123名(100%) |
作業中、日常生活面に指導員を必要とする内容と障害別人員割合
この項目は回答があった企業の中にも、記入していない企業が多かった。作業中、日常生活面で指導員を必要とする障害者別割合は、精神薄弱者重度、中軽度、視・聴覚障害者、重度身体障害者、中度、内部障害者の順で精神薄弱者は他に比べて作業中でも日常生活面でも必要とする人の割合が多い(表3)。また、この調査結果をみると、日常生活面より作業中の方が指導員の必要度は高く、しかも直接作業の生産性にかかわる部分で指導員をより多く必要としていることがわかる。
身体障害者 |
身体障害者 (中軽度) |
視聴覚障害者 | 精神薄弱者 (重 度) |
精神薄弱者 (中軽度) |
内部障害者他 | ||
人 数 | 526名 | 510名 | 272名 | 622名 | 640名 | 36名 | |
1 | 異常対処 | 25.1%(132) | 15.5%(79) | 31.6%(86) | 63.0%(392) | 47.5%(304) |
30.6%(11) |
2 | 品質チェック | 21.5%(113) | 12.9%(66) | 32.0%(87) | 58.0%(361) | 46.9%(300) |
8.3%(3) |
3 | 作業準備 | 20.7%(109) | 10.2%(52) | 21.7%(59) |
60.2%(312) |
33.9%(217) |
2.8%(1) |
4 |
工程調節 |
19.6%(103) | 12.9%(66) | 22.8%(62) | 59.6%(371) | 39.4%(252) |
2.8%(1) |
5 | 品種毎指示 | 19.0%(100) | 9.8%(50) | 26.8%(73) | 56.4%(351) | 41.4%(265) | 5.6%(2) |
6 | 速度補充 | 17.3%(91) | 11.5%(60) | 19.1%(52) | 53.1%(330) | 32.5%(208) | 13.9%(5) |
7 | 常時指示 | 16.7%(88) | 10.8%(55) | 31.6%(86) | 64.0%(398) | 40.9%(262) | 2.8%(1) |
8 | 作業報告 | 15.0%(79) | 6.7%(34) | 22.4%(61) | 55.3%(344) | 40.6%(260) | 2.8%(1) |
9 | 事故防止 | 14.6%(77) | 7.1%(36) | 41.5%(113) | 40.5%(252) | 28.9%(185) | 2.8%(1) |
10 | 働く意欲 | 12.5%(66) | 6.5%(33) | 25.0%(68) | 40.4%(251) | 35.0%(224) | 5.6%(2) |
11 | 作業態度 | 12.4%(65) | 4.5%(23) | 16.2%(44) | 41.8%(260) | 30.3%(194) | 2.8%(1) |
12 | 健康管理 | 11.6%(61) | 3.9%(20) | 10.7%(29) | 28.5%(179) | 22.5%(144) | 11.1%(4) |
13 | 人間関係 | 11.2%(59) | 4.9%(25) | 23.5%(64) | 38.7%(241) | 25.9%(166) | 8.3%(3) |
14 |
会社行事 |
8.4%(44) | 4.5%(23) | 31.6%(86) | 41.0%(255) | 30.8%(197) |
2.8%(1) |
15 | 身辺処理 | 6.8%(36) | 2.2%(11) | 6.3%(11) | 28.8%(179) | 17.2%(110) | 2.8%(1) |
16 | 出勤状況 | 6.1%(32) | 3.5%(18) | 7.0%(19) | 24.0%(149) | 16.7%(107) | 0%(0) |
平 均 | 14.9% | 8.0% | 23.1% | 46.5% | 33.2% | 6.6% |
身体障害者 (重 度) |
身体障害者 (中軽度) |
視聴覚障害者 | 精神薄弱者 (重 度) |
精神薄弱者 (中軽度) |
内部障害者他 | ||
1 | 健康管理 | 18.1%(95) | 9.4%(48) | 15.8%(43) | 39.7%(247) | 23.6%(151) |
16.7%(6) |
2 | 通院面 | 7.6%(40) | 1.6%(8) | 21.3%(58) | 36.3%(226) | 18.0%(115) | 0%(0) |
3 | 通勤面 | 5.7%(30) | 0.4%(2) |
4.4%(12) |
20.7%(129) | 13.9%(89) | 2.8%(1) |
4 | 衣食面 | 5.3%(28) | 1.4%(7) |
5.1%(14) |
27.2%(160) | 16.1%(103) |
2.8%(1) |
5 | 保護者指導 | 4.8%(25) |
1.8%(9) |
7.7%(21) |
29.7%(185) | 25.0%(160) |
11.1%(4) |
6 | 余暇 | 3.4%(18) |
1.4%(7) |
8.1%(22) |
30.1%(187) | 21.1%(136) |
8.3%(3) |
7 |
金銭管理 |
1.9%(10) |
1.0%(5) |
5.1%(14) |
39.2%(244) | 28.0%(179) |
2.8%(1) |
平均(1~7) | 6.7% |
2.4% |
9.6% |
31.7% | 20.8% | 2.6% | |
8 | 寮利用者 | 22.2%(117) |
11.6%(59) |
10.7%(29) |
31.2%(194) | 32.8%(146) |
13.9%(5) |
注)寮利用者のなかには通勤寮利用者も含む
精神薄弱者 (重度) |
精神薄弱者 (中軽度) |
視聴覚障害者 | 身体障害者 (重度) |
内部障害者 | 身体障害者 (中軽度) |
|
作業中 | 5.8 (46.5%) |
4.2 (33.2%) |
2.9 (23.1%) |
1.9 (14.9%) |
0.8 (6.6%) |
1 (8.0%) |
日常生活 | 13.2 (31.7%) |
8.7 (20.8%) |
4 (9.6%) |
2.8 (6.7%) |
1.1 (2.6%) |
1 (2.4%) |
また事故防止の項目をみると視・聴覚障害者が他の項目に比べて、また他の障害者に比べても指導員の必要を強く求めている点は注目しなければならない。寮利用者については、精神薄弱者、重度身体障害者の順で多くなっているのは、生活面や通勤など困難な面が多いからで、雇用には寮の必要度の高いことを知ることができる。
私たち協会会員企業は、電気機器部品、精密機械、金属部品、自動車部品、木製品家具食器、玩具、建設関係、窯業、塗装、印刷製本、リネンクリーニング、畜産、養鶏など多種多様で一次、二次、三次産業にわたっている。現在は日本経済もなんとか良いほうへ廻っているが、経済成長はいつまでも続くものでもなく、ある時もし経済成長もとまり不振になると、働く者の中で一番弱者の障害者にしわよせがくるのではないか。そのためにも今後の助成制度の活動も障害者の雇用とあわせて足腰の強い中小企業にならねばと思い、将来の展望にむかって進みたいものである。
次に、問題点は、健常者と比較して高齢化が早いので将来の雇用と施設の設置も考えて、障害者の老後は施設で生活できる企業内施設にすることも大切であろうと思われる。
障害者は経験年数を積んでも能率のよい方向へのシフトはみられない。つねに40~50%前後は低い作業能率をランク付けされているので、企業主としては今後の大きい悩みのひとつである。
設備関係助成金等の恩恵により、重度障害者多数雇用事業所の施設設備の拡充が図られてきた。通常、一般企業においては、設備投資を実行する場合、その投下資本の回収の目的を綿密に検討し、採用計画を立てたうえで行われる。しかしながら重度障害者多数雇用事業所においては近年行われてきた設備投資の多くは、障害者の就労に適した施設設備の拡充に重点がおかれており、必ずしも生産性の向上に直接的に結びつくことを目的としていないような気がしてならない。しかし、企業経営の実戦上からの重要な課題はこうした設備の拡充によって障害者の機能的欠落部分を補充し、行動時間や作業能率を高め、生産性をいかに向上させるかにあり、この点を無視した設備投資は、たとえ、企業の直接的な投資負担がない場合であっても、設備投資に伴う経費の増大を賄いきれず、破綻する場合も想定されるので、今後十分注意しながら会員事業所の平均売り上げ増加をはかるようにしたいものである。
今後障害者雇用事業所の大きい悩みは、定着に伴って人件費の増大、能率が向上しなくても人件費の割合は増大していく。売上高と人件費のバランスを失した形になっては困るので、常に研究会を開き検討して行きたい。
*全国重度障害者雇用事業所協会総務総括常務理事
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1990年3月(第63号)20頁~23頁