用語の解説 Supported Employment 社会生活力

用語の解説

Supported Employment

 「援助付き雇用」または「援護就労」と訳されている。これまで就職するのが困難とされてきた障害の重い人々に対し、就職以前に行われていた指導、訓練等のプロセスを省き、いきなり実際の職場に就職させ、その現場で指導、訓練を継続的に実施していくという職業リハビリテーションの方法をいう。米国において、1986年、リハビリテーション法が改正された際に導入され、全米で実施されるようになった。

 これまで一般雇用の場で受け入れられなかった脳性まひや精神薄弱などによる発達障害者を主な対象としており、慢性の精神障害者もこれに含まれている。

 その要素としては、(1)週平均20時間以上就労するフルタイムまたはパートタイムの競争的仕事であること、(2)障害のある者とない者とが共に働く統合された職場環境であること、(3)職場の内外で、直接的あるいは間接的なサポートを、それが必要でなくなるまで実施すること、が含まれている。

 作業形態としてほぼ半数を占めるのは、個別就労で、障害者の働く職場にジョブコーチと呼ばれる指導者が出向き、マンツーマンの指導を行うものである。その他に、工場などに8人以下の小グループを編成して就労し、指導者が全体を訓練、監督するエンクレーブ、公園の保守や野外清掃などの契約を取り、小人数のグループが車で移動しながら行うもの、障害者がひとりまたは数人で、指導を受けながら事業を運営するもの、などがある。米国では、この方法を実施して成功した多くの事例が報告されている。

(大漉憲一)

 

社会生活力

 社会生活力は今日の社会リハビリテーションの概念を解くキーワードである。1972年のRI(Rehabilitation International)社会委員会は「将来の指針」の中で、障害者の社会リハビリテーションを実現させる1970年代の課題を、物理的、法・行政的、経済的、心理的環境の整備と定め、事実その線にそって改革が先進国では行われて来た。

 国際障害者年を経て障害者問題に社会が本格的に取り組む一方、障害者自身には環境を使いこなして生きる主体としての権利と責任が問われる段階に至った。RI社会委員会は、1986年に北欧地域委員会の原案を下敷きにして北欧出身の委員長のもとで社会リハビリテーションを次のように再定義した。

 「社会リハビリテーションとは、障害者が社会生活力(social functioning abilities)を身につけるのを援助する過程である。この社会生活力とは様々な社会状況の中で、障害者自身が自らのニーズを充足することに向って行使される能力であり、それは最大限、豊かに社会参加を達成する権利を実現せしめる自らの力である」としたのである。

 そこでいう社会生活力は、ADL能力や職業能力よりも根本的で、かついかなる重度者にでも潜在的に備わる自律への可能性である。たとえ自力では摂食、入浴、移動などができずとも、介助者に自己のニーズを伝え、介助時間や賃金を交渉し、契約して生存の条件を作る。もし制度的不足があれば、合法的な消費者運動を通じて生活条件を獲得していく。そして現存するサポート・ネットワークを組み立てて、自らの生活を現実社会の只中に実現させる力である。

(小島蓉子)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1990年3月(第63号)34頁

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