特集/リハビリテーションと介護 アメリカ社会への参加:自立生活のための個別的援助

特集/リハビリテーションと介護

アメリカ社会への参加:自立生活のための個別的援助

―合衆国における介護サービス事業に対する全国調査報告書―(抄訳)

Simi Litvak
Hale Zukas
Judith E. Heumann
抄訳 植田恵

本論の原典は、「ATTENDING TO AMERICA:Personal Assistance for Independent Living‥Report of the National Survey of Attendant Service Programs in the United States.」(発行:World Institute on Disability、1987)である。ここでは調査結果の詳細なデータは省略し、調査の概要とその結果から出された提言についておもに紹介する。

はじめに

 地域に根差した自立生活のための個別的援助(personal assistance)の必要性とその施策の立ち遅れが、障害者の間で大きな問題となっている。合衆国全体、また国外においても、これは障害者のみならず国家レベルの問題として論議されて来ている。個別的援助とは、利用者の意向を最大限に生かし、彼らがより快適、安全に生活すること、及び地域社会とのつながりを持つことを保障するような性格の援助である。

 この調査の結果から、何らかの形の地域に根差した公的資金による、身辺介助(personal maintenance)、保健衛生(personal hygiene)、移送(mobility)、家事援助(household maintenance)等のサービスを受けている障害者は約85万人に上ることが明らかになった。しかし、これらのサービスを必要としながら受けていない潜在的利用者は300万人もいると推定される。しかも、彼らが受けている現行のサービスの内容は不十分で、適用基準も統一されておらず、またサービス従事者への待遇も良くない等の様々な問題を抱えていることが明らかになった。

全国的な個別的援助事業と政策の必要性

 個別的援助の需要が高まって来ている背景には、様々な要因が存在する。まず、医療技術の進歩である。これにより、瀕死の患者や先天性疾患を持つ子どもが救われるようになり、その結果障害を持ちながら長く生活していく人が増えたということである。二つ目は、死亡者の減少と寿命の延長による老年人口の増加である。この調査でも個別的援助を受けている人口の77%以上が60ないし65歳以上であると思われる。三つ目には、15年前にBarkleyで初めて自立生活事業(Independent Living Program)が施行されて以来、障害者の間で、施設ではなく地域で生活するという意識が高まってきたことである。その結果、現在では全米で200以上の事業が展開されている。四つ目には、高齢者の介護の場をナーシングホームや施設から家庭、地域へと移行させることが強調され始めたことが挙げられる。五つ目は、家族形態の変化である。職業を持つ女性が増えたことや離婚率の上昇等により介護従事者が家庭にいなくなったことである。最後には、1970年代から80年代の初頭にかけて、施設ケアより経済的であるという理由から、政府が地域におけるケアに関心を持ち始めるようになったということが挙げられる。

 しかし、このように地域での個別的援助へのニードや関心が高まって来ているにもかかわらず、政府の対策には全く進展が見られない。また、その管轄は多くの機関や委員会に分割されていて、統合的なシステムが存在しない。一方、独自の方法で個別的援助に取り組んでいる州もあるが、その数は決して多いとは言えない。

 このようなことから実際に現在サービスを受けている人々も本当に必要なサービスを効率良く受けることが出来ず、また利用出来る場も、家庭生活とは隔絶された施設においてのみである等の問題を抱えている。更に実施されている事業は、そのほとんどが貧困者のみを対象とするものであり、収入が増えるとサービスが停止されるというシステムになっているため勤労意欲が阻害され、その結果ますます財政支出が増大するという悪循環が生じている。

世界障害研究所(WID)が介護サービスを研究する理由

 WID(World Institute on Disability)は、個別的援助が年齢を問わず、すべての中・重度の障害者の自立生活確立のための鍵であると考えており、この研究を行うのに最もふさわしい団体である。それを裏付けることとして、研究所のスタッフが自らこのサービスの利用者としてその重要性を体験しており、また政府の政策立案に当たっての、民間団体の役割の重要性も理解している。そのため研究所の設立母体である各種の運動団体から政策研究を委ねられている。また、このサービスの最も進んだカリフォルニア州に設立されている等が挙げられる。

 WIDは自立生活運動(Independent Living Movement)の推進者により、その政策面での問題を協議する機関として作られたものである。

 我々は現行の個別的援助の地域格差と情報不足を十分に認識している。このような認識に基づいて個別的援助事業として提供される、身辺介助、保健衛生、移送、家事援助等のすべてのサービスについて調査を行うことにした。これは、合衆国内におけるこれらの中心的なサービスが的確かつ包括的に供給されるようになることを目的としている。この報告は、その調査の結果を明らかにしたものである。

個別的援助と介護サービスの概念

 このレポートは介護サービス(Attendant Services)についてのみ報告している。介護サービスとは、地域社会での自由な生活を望む障害者のための様々な個別的援助サービスの一部分を指している。具体的には、保健衛生、移送、家事援助等が挙げられる。また、それには緊急時のサービスや、介護家族のためのショートステイプログラムも含まれる。しばしばこれらのサービスは細分化され、別々の事業として展開されている。

 しかし、我々が考える適切な個別的援助サービスの概念は、このようなサービスの分類ではない。その最も重要なことは利用者自身がサービスの主導権を握ることである。つまり、いつ、誰に、どのようなサービスを受けるかということを利用者が決めるということである。これは、「自立」とは決して他者の力を借りずにすべてのことが出来るということではなく、自らが決定権を持ち、指示を下すことであるという自立生活運動の考えに由来するものである。従って、重介護を要する障害者であってもサービスを選択し、主体的に利用する権利を有するのである。

 このような考え方からすれば、家族の一員から受けるサービスでさえも個別的援助として認められることになるのである。つまり、障害者に要請されてその家族が援助を行えば、それは相当の報酬に値するものであるということである。家庭での介護従事者は外で働く機会や、その他の家事のための時間を明らかに削られていることになる。老親の世話をする中年女性にこのような状況におかれるものが圧倒的に多いが、このことは女性の貧困を招く大きな要因にもなっている。また、家族や友人等によるヴォランタリーな援助に頼るということは、障害者自身の依存傾向を高めることになったり、介護者のストレスが心理的、肉体的虐待につながったりする恐れもある。このようないくつかの問題から考えても介護サービスは、障害者が地域で潜在的能力を最大限に発揮し、快適な生活を送るために絶対に欠くことの出来ないものである。

介護サービスの潜在利用人口

 介護サービスの潜在的な利用者は非常に多く、また多岐にわたっている。これまで、一般に援助を必要とするのは身体的な障害を持つ人だけだと思われて来た。しかし、最近では、身体的な障害を伴わない、精神障害や知能障害を持つ人々が、生活上の機能障害を補う目的で介護サービスを利用するようになって来ている。その利用者は大きく以下のような3つのグループに分けられている。(1)機能障害を持った高齢者(2)障害を持ちながら働いている成人(3)障害児。しかし、(1)と(2)に関して言えばどちらも生活上の制約から孤独や事故の危険性を伴うため、施設入所を余儀なくされることが多いという点で共通している。また、自らの生活や利用するサービスをコントロールしたいというニードがどちらの場合も強いため、介護サービスは利用者の自立を助長する性質のものでなければならない。

 一方、障害児を抱える家庭での個別的援助は、ひとつには他の兄弟の情緒的な緊張を和らげる働きを持っている。そして、障害児が将来、自立生活を送るための自己管理技術を自ら習得していくのを助ける役目も同時に果たしている。

 また、集合住宅、グループホームといった集団に対しても介護サービスは適用される。そして、仕事、レクリエーション、旅行等の場合のニードも存在する。このようなことから、誰がどのようなサービスを受けるかについては、医学的な診断上の分類だけでなく、個人がある状況の中で生活を営んでいく上での障害として検討され、決定されるべきである。

調査の概要

 この調査は、郵送、あるいは電話により、1985年2月から1986年1月までの期間、合衆国内で短期、長期にかかわらず身辺介助、保健衛生、家事援助を行っているすべての事業の運営者に対して行った。ただし、精神病患者と精神遅滞者のみを対象とするものは除外した。そして、173の事業がこの基準で採用されたが、うち19は調査拒否または集計不可能のため、最終的に154箇所について分析を行った。

結論と提言

 この調査の結果は、「全国規模の個別的援助サービスに関する包括的な政策が不足している。そのため、障害者がやむをえず依存的な生活を強いられている。」というWIDの見解を裏付けるものとなった。これを踏まえたうえで我々は、第一に「自立の原則」に基づく全国的な個別的援助サービス事業の確立と、そのための全国会議の開催を提言する。そして第二に連邦政府は、諸外国がどのように個別的援助サービスを統合してきたかということについて学ぶべきであることを提言する。

 以下に、全国的な個別的援助サービス事業の創設に寄与するような提言を述べる。最初の12個は全米障害者評議会が主催した全国介護シンポジウムから採用し、残り4つは、WIDの調査結果より生まれたものである。

1.個別的援助事業は、実際のニードに基づいて、あらゆる種類の障害者に提供されるべきである

1)各州はすべての障害者に対するサービスを実施すること 2)知能、精神神経系の障害をもつ人のニードを把握し、サービスの内容を検討すること 3)これらの障害者と他の障害者へのサービスが一体化した総合的なサービス事業が行われること

2.個別的援助事業はあらゆる年齢層の人々を対象とすべきである

1)障害児が介護サービスを受けられるようにすること 2)各州は年代別のサービスの統合化をはかること

3.個別的援助事業は、利用者の状況に応じた最もふさわしい水準の自己管理と独立を保障し、直接雇用関係から機関契約までの幅を持つべきである

1)利用者が個人的なサービスを受けるか、公的資源を利用するかの選択権を与えられること 2)サービスの経営に、利用者が参加出来るようにすること 3)ショートステイプログラムの利用者も希望によりその他のサービスも受けられるようにすること 4)サービスの利用者は、自らサービスをコントロールすることを望んでいるということと、一方でそれを望まない、あるいは望んでも出来ない人がいるということをどちらも踏まえたうえで政策を検討していくこと

4.個別的援助事業は、身辺介助、知覚・感覚系に拘わる援助(cognitive)、人間関係、家事その他の関連サービスを提供すべきである

1)別々に行われていた事業をサービス供給(Service delivery)組織として一本化すること

5.個別的援助事業は、週7日、一日24時間のサービスが提供され、また、必要に応じてショートステイの援助や緊急援助が提供されるべきである

1)地域ごとに緊急時の援助体制を確立すること 2)必要に応じてショートステイのサービス期間の変更を可能にすること 3)短期、緊急どちらのサービスも利用者の希望する場で行うこと

6.個別的援助事業は、適切な費用負担制度の上で収入、資産レベルのかかわりなく提供されるべきであり、就労への意欲を阻害する仕組みは除去されるべきである

1)適切な利用者の費用負担の基準を作ること 2)民間の健康保険をうまく利用できない働く障害者には医療給付等の公的扶助を行うこと

7.サービスは、どこでも必要とされる場所で提供されるべきである。(例えば、家庭、職場、学校、戸外レクリエーション時、旅行中)

1)地理的条件により、障害者の活動が制限されないように他州への旅行の際にも個別的援助は利用出来るようにすること 2)個別的援助を行う機関はスウェーデンでなされているような職場でのサービスを開発すること

8.援助者には十分な報酬が支払われ、(社会保険などの)基礎的な保障が提供されるべきである

1)援助者には少なくとも最低賃金の150%の報酬が支払われ、それは物価の上昇に合わせて上がって行くべきであり、また、経験や資格が加味されること 2)援助者には休暇が与えられるべきであり、また社会保障に加えて団体健康保険や失業保険が受けられるようにすること 3)労使間での交渉が行われるようにすること

9.管理機関と実施組織の管理者や組織に対する訓練がなされるべきである

1)事業の創設に当たっては管理者や組織の職員に対して適切な訓練がなされること 2)実際にサービスを利用している障害者がこの訓練を行うようにすること

10.個別的援助事業は、必要に応じて個別的援助者の募集と訓練を行うべきである

1)すべての個別的援助の訓練には自立生活運動の思想を盛り込むこと 2)訓練事業はどこでも自立生活センターの指導の下で行うこと 3)訓練の大部分は実際の経験を通して利用者側から与えられるということを援助者は心得ること 4)訓練は他の機関に委託しないで行うこと 5)精神障害や知能障害を持つ利用者には特別な訓練を受け、登録された援助者が当たること

11.個別的援助事業は、必要に応じて出張サービスや利用者への訓練を行うべきである

1)すべての個別的援助サービスは、リハビリテーションセンター、作業所、学校等への訪問、またテレビやラジオ、バス等でのアナウンスなどを引き受けること 2)うまく個別的援助を利用出来るように利用者を訓練すること

12.利用者は、個別的援助事業の政策の形成と事業の運営に実質的に参加すべきである

1)事業の管理、経営には積極的に利用者を入れて行くこと 2)個別的援助事業に関する政策会議には自立生活事業の代表者が出席すること

13.個別的援助事業は、個別的援助者が行う服薬、注射、カテーテル管理等の行為を制限すべきでない

1)医療行為を行う援助者は他の援助者と独立した存在であることを利用者に知らしめるべきであること

14.家族も個別的援助者として雇用される資格が認められるべきである

1)家族であっても、障害者に要請されての援助を行う場合、報酬が支払われること 2)「個別的援助手当」が支給されている場合は、家族に援助を依頼するか、それ以外の者を雇うかは障害者自身が決定すること

15.個別的援助がなされても尚、家庭では生活することが出来ないと認定された場合を除いては、ナーシングホームや施設への入所は行うべきでない

1)すべての州はナーシングホームへの入所資格を検討する期間を設けること

16.利用者の自立への要求を考慮しつつ責任機構を開発する必要がある

1)自立生活運動に関する会議には、個別的援助事業の利用者及びその経営者が招集されること

 これまでにも連邦政府は、障害者に対するいくつかの事業を展開してきたが、それは低所得層の障害者のみを対象とするものであった。個別的援助、中でも介護サービスは地域生活を送るすべての障害者にとって非常に重要な役割を担ってる。

 この事実を踏まえ、1985年に2つの重要な会議が開かれた。それらは、世界リハビリテーション基金と全米障害者評議会がWIDと共同で開催したものである。そこでは合衆国及び、ヨーロッパにおける個別的援助サービスの在り方について議論された。その会議に参加した、自立生活運動の代表者、政府関係者、研究者、サービスの利用者らは一様にWIDの「全国的な自立生活のための個別的援助事業が行われるべきである」という主張に賛同した。

 現在の政策なき事業を継続していくことは、もはや何のメリットももたない。このようなやり方に伴う利用者の障害の医学的判断を根拠としたサービスは、非常にコストがかかるばかりでなく不適切なものである。現在も介護サービスを必要とする老年人口は増え続け、同時に介護に従事出来ない家族も徐々に増えて来ている。

 このような状況がこのまま続けば、近い将来危機的状況を招くことになる。そのような状況に対処するために政策担当者はこの調査の一連の報告や、提言を考慮すべき義務がある。

日本社会事業大学大学院


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1990年9月(第65号)20頁~24頁

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