特集/学校から社会への移行プログラム 学校から職場への移行プログラム

特集/学校から社会への移行プログラム

学校から職場への移行プログラム

―職業リハビリテーションセンター経由の場合―

池田勗

 子供の時期から障害を持っていた人が学校を卒業した後に職場へ入っていく経過は、現実には非常に多岐にわたっていると思われる。これらの経過の中で、職業リハビリテーションセンターを経由する場合について考察するのが与えられた課題であろう。この場合、「職業リハビリテーションセンター(以下「職リハセンター」)をどのようなものと考えるかによって考察の内容は変わってくる。職業リハビリテーションサービス(以下「職リハサービス」)を行う機関には多種類があるが、その中で「職リハセンター」と名がついた機関の数は少ない。また、職リハサービスの概念は、わが国内の障害者関係者の中でも必ずしも一致しているといえないふしがある。そのような中で、幅広くとらえるか狭くとらえるかによって該当する機関の業務内容は大きく異なっているし、学卒者との係わり方も違っているからである。

 幅広くとらえてこれらのことすべてについてここで触れることは、とうてい無理である。そこで、まず、筆者が所属する国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(以下「吉備職リハ」)における障害を持った新卒者に対しての業務の実際を紹介し、それを基にできるだけ課題に沿った所見を述べてみることにする。

1.国立吉備高原職業リハビリテーションセンターの新規学卒者への対応

(1)吉備職リハの概要

ア.施設の概略

 吉備職リハは、昭和62年に開設された比較的新しい施設である。地理的には、岡山県が来世紀に向けて都市開発をしている吉備高原都市の中、岡山駅から北西約40kmの位置にある。

 業務の目的は、身体障害者を対象にして、職業評価、職業指導、職業訓練、職業適応指導を一貫した流れとして行い、雇用の促進を図ることである。施設の性格は、法律との関係でいうと、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づく吉備高原広域障害者職業センターと、「職業能力開発促進方」に基づく吉備高原障害者職業訓練校の2つが合体した形のもので、労働省が設置し日本障害者雇用促進協会が運営に当たっている施設である。建物は、管理棟、職業評価棟、職業訓練棟、入所者宿舎のほか、付帯設備として体育館、テニスコート、グランド、プール等が備えられている。入所者処遇に係わる部署としては、職業評価指導部(職業評価課、職業指導課)、職業訓練部(訓練第1課、訓練第2課)、生活指導がある。職業訓練の定員は80名で、その他に職業適応課程若干名となっている。

 この施設の設置の背景には、労働災害による身体障害者の職業復帰の促進策を充実することの必要性も意識されており、労働福祉事業団が設置運営する医療リハビリテーションセンターと同一敷地内にあって、業務の連携も密接に行うことになっている。

イ.入所者に関する業務

 吉備職リハの対象者は、身体障害者であって、職業指導や職業訓練の効果が見込め、その結果就職が見込める人となっている。したがって、受障の時期や障害の程度については特別な決まりはない。重視されることは、新たに就職を目指す際に、または、方向転換して再就職する際に、職業訓練または職業適応指導の課程を通じて、何か新しい職種の技能習得または特定職務遂行能力の習得あるいは修復、自信回復等が必要でありそれが見込め、かつ、一般雇用に結び付くことが見込めるということである。

 昭和62年6月の受け入れ開始以後元年度までの入所者は、年齢、障害別には表1、2のようになっている。現在までの状況としては、学卒者と就職後の中途障害者とは約半分ずつの割合で混在しており、障害の種類は、肢体不自由者(約65%)と聴覚障害者(約33%)が主で、視覚障害者、内部障害者は非常に少ない。

表1 入所者の性別、年齢別状況
(平成元年度末まで)  
~19歳 20~24 25~29 30~34 35~
 42人 28 15 5 1 91
21 10 1 3   35

63

 38

16

8

1

126

 

表2 入所者の障害別、等級別状況
(平成元年度末まで)
  肢体不自由

聴覚障害

視覚障害

障害等級 1級

21

5

26

2

2

4

 

 

 

23

7

30

2級

17

8

25

19

9

28

 

 

 

36

17

53

3級

12

1

13

4

2

6

 

 

 

16

3

19

4級

8

4

12

 

1

1

1

 

1

9

5

14

5級

4

2

6

 

 

 

1

 

1

5

2

7

6級

 

 

 

2

1

3

 

 

 

2

1

3

62

20

82

27

15

42

2

 

2

91

35

126

 入所者に関係する業務の内容を大きく分けると、入所前の段階、入所中、修了後の3段階となり、その内容は以下のようになる。

 (ア)応募から入所まで

 応募は地元の公共職業安定所(以下「職安」)を通じて行ってもらうことになっており、応募書類は随時受け付けている。これに関連して、募集の案内、募集要項は全国の職安、障害者職業センター、その他関係機関に送付しており、また、応募するかどうかを考えるために施設を見学する人は歓迎している。

 入所者の選考は、原則として書類選考によることになっている。その主な理由は2つあり、ひとつは、選考のために全員に来所を求めるのは地理的、経済的に負担が大き過ぎると考えられることである。もうひとつは、入所を考えるすべての人は以前から居住地の関係機関と相談をすすめてきているはずであり、また、当センター入所後もいずれはそれぞれの地域にもどって就職を目指すはずで、その際にはそこにある関係機関のお世話になることになる。特に、職業紹介の権限は当センターにはなく、すべて職安にお願いしなければならない。職業的自立に向けた経過の中で一時的にセンターに来るのであり、いわば「本拠地の関係機関」の所見、意見と統合性を欠いてはならないし、いわんやそこが知らないうちに入所していたということであってはならないと考えられるためである。

 応募書類は入所者処遇に関係する全部署の代表者によって検討、協議され、受け入れ得るかどうかが決定される。この間には、疑問点や地域事情等の照会について、地元の関係機関と情報交換することになる。

 書類選考での主な観点は、入所中の生活と入所することによる効果との2側面である。吉備職リハの生活環境で職業訓練を支障なく経過できることが、第1の側面である。効果に関しては、①職務遂行能力以外の職業生活への準備性が整っているか、多少の問題が残っていても入所中に解消され得る程度であるか、②職業訓練または職業適応指導の課程で効果を上げ得るか、③結果として、修了後に就職に結び付く見込みが持てるか、が検討されることになる。

 吉備職リハは随時入所制となっているが、現実には、約2ヵ月ごとに年間6回の入所日を設定して受け入れており、平成2年度は2年の4、5、6、9、11月と3年2月の各月となっている。各入所時期の概ね1カ月前までに入所者を決定するようにしているが、新規学卒者(以下「新卒者」)については後述のように別にしている。

 吉備職リハが受け入れ可能と判断した者については、センターの所在地を管轄する岡山職安が職業相談を行い、そこでも適当と判断すれば法に基づく入所指示をすることになっている。入所指示をされると入所期間中は一定の手当(約10万円)を支給されることになる。

 (イ)入所期間中

 入所した最初の1ヵ月間は職業評価の期間となっている。この評価の主目的は、各人の職業リハビリテーション計画に沿った訓練コースの決定と指導上の配慮事項の把握である。ここで行う評価の特色は、本人が希望する職種を含めた2、3種目の作業課題を体験してみる作業評価と、職業訓練指導員に説明してもらう訓練室の見学とである。これらを通じて、職業の内容をよく理解したうえで自分の適性、特徴を見つめなおし、自発的に適切な選択を決定するよう配慮しているのである。

 評価の段階から、入所者ひとりずつについて評価担当者と職業指導担当者が決定され、入所期間中は係わりを継続することになる。職業評価が終了する時点までに、本人の意志、特性等について、上記担当者と職業訓練指導員、生活指導員との情報交換が行われ、評価の結果としての訓練コースを岡山職安に通知することになる。この結果を踏まえて、岡山職安では職業訓練への指示変更または職業適応指導への指示追加を行う。

 吉備職リハで行う職業訓練には、表3のように4系の内容があり、どのコースも標準訓練期間は1年となっている。訓練は、評価の結果を踏まえて個人別のカリキュラムを立てて行う。訓練期間は必要な場合には2年まで延長することができることになっているが、この際には当然岡山職安に延長申請し妥当と認められることが必要である。

表3 職業訓練系と主な訓練職種
(「募集あんない」より)
職業訓練系 主な訓練職種
機械金属 NCプログラマー
マシニングセンターオペレーター
NC旋盤工
機械製図工
CADオペレーター
電子電気 マイコン制御システムワーカー
シーケンス制御システムワーカー
電子機器組立工
電子計測工・製品検査工
事務情報 一般事務員
経理事務員
OA機器オペレーター
電子計算機プログラマー
製版印刷 写真植字オペレーター
電算写植オペレーター
写真製版工
オフセット印刷工

 職業訓練とは別に、4ヵ月という比較的短期間に、特定な職務遂行能力の習得や修復、または、自信回復を行えば就職の見通しが立てられる人向けの職業適応指導の課程がある。これは、職業訓練のように標準的カリキュラムを予め用意しておくのでなく、必要に応じて可能な方法について関係者と相談しながら指導計画を立ててすすめることになる。

 各人の処遇の方針等に関しては、関係者によるケース会議で合議することになっている。入所者の選考、職業評価の結論づけがそうであるが、職業訓練、職業適応の課程にすすんでからも、必要に応じて関係者によるケース会議が行われる。訓練期間の半分が経過した時点では、全員について中期ケース会議を行い、計画通りにすすんでいるかどうか、技量の程度はどうか等が検討される。計画どおりであることが確認されると、就職に向けた具体的な活動を開始することになる。

 就職問題は入所の時点から意識されている事柄であり、職業指導担当者は定期的職業指導と担当の個別相談を行っているが、中期会議後には資料を準備して岡山職安の就職相談をセットする。同所ではこの相談を踏まえて、就職希望地域の職安へ公式に職場開拓の依頼をすることになる。このステップ以後は、地域の職安、企業との連絡や面接の手配などが訓練と並行してすすめられる。

 (ウ)修了後

 訓練の修了時までに就職が決定していることが望ましいが、未決定のまま修了して就職活動は帰宅後に継続して行う場合もでている。いずれの場合も、入所の際に関係した地域の関係機関へ、また、出身地と別の地域へ就職が決定した場合には両方の地域の機関へ連絡し、あわせて職場適応への援助等の協力依頼を行う。

 修了者本人に対しては、一定期間(おおむね6ヵ月間)が経過した時点で手紙による近況調査を行い、関係機関と協力しながら必要な援助を行うことにしている。

(2)吉備職リハでの新規学卒者への対応

 吉備職リハで新規学卒者を意識した対応を行っているのは、募集、選考時期、入所時期の3点についてである。

ア.募集関係

 入所希望者のほとんどが職業訓練を希望していること、職業訓練の内容は法でいう養成訓練を行うことになっていてこれは高校新卒者が最もなじみ易いことを考慮して、学校へのPRには力を入れている。当初は肢体不自由養護学校とろう学校を主体にPRしていたが、最近では一般高校に在学する身体障害児で卒業後に職業訓練を希望する人も少なくないことがわかってきたため、西日本地域については全部の一般高校へも広げてきている。PRの方法も種々試行しており、パンフレットや募集要項は年度が変わるたびに送付し、機会が得られる時は訪問したり、ビデオテープを提供したりもしている。

 新卒者向き募集としてその他の人の場合と違えている点は、10月末に一旦締切時期を設けることと、学校の成績証明書をつけてもらうことである。この、10月締切の意味は、後述の選考と入所時期について「新卒者扱いをする」ことで、この時期をはずれた場合でも他の一般の人とまじって選考対象になることは当然である。

 また、当センターでは、新卒者が幅広く機会を探るのは当然であるとの考えから、一方で進学や就職を考えながらあわせて当センターへ応募する、いわゆる併願もかまわないことにしている。

イ.選考時期と入所時期

 通常は入所時期の1ヵ月前に選考し入所者を決定するのであるが、新卒者については年末までに選考結果を連絡できるように努めている。入所時期についても新卒者については配慮し、年度の早い時期に入所してもらうようにしている。実際には、障害別の郡構成を考慮して決めており、本年の例でいうと、4月は新卒の聴覚障害者、5月に新卒の肢体不自由者、7月には残りの新卒者と一般の人の混合というようになっている。

 新卒者としての受け入れは例年約40人を見込んでいるが、10月末の締切でその人数に達しない時には、年度内に追加募集を行うこともある。この場合の手続きは、通常の新卒者募集に準じて行うことになる。

2.吉備職リハ業務を通しての新卒者に関する所感

 前段で、吉備職リハの業務とそこでの新卒者に対する業務の実践を紹介してきた。これを通じて明らかなように、吉備職リハのサービスは、新卒者の受け入れをかなり意識しているが、新卒者だけに向けたサービスではない。入所者のうち、新卒者だけに共通する特色があるかを考えてみても、あまり明確なことは思い当たらない。年齢が必ず若く、当然社会経験が少なく、そして、幼さを感じさせる人が多いことは共通しているが、これは新卒者に限ったことではない。入所者全体に若い人が多いこと、就職に向かうという意識の方向が同じという、新卒、一般を通じての共通点の方が大きいためであろう。したがって、吉備職リハを有効に利用していただく条件も、新卒者特有ということはあまりないように思われるが、今までの応募者、入所者に関して感じている問題点等をいくつか取り上げてみる。

 ①入所の目的に関して、教養を高める進学の一種と考えている、競争できないから厳しさの緩かなステップを期待している、現状では就職はムリだから見込みは抜きにしてとにかくワンステップを踏ませたいと考えている、手厚いケアを期待している、といった例がある。これらは、程度の問題ではあるが歓迎したくない事柄である。また、入ることが目的となってしまっていると思われる例もあり、これは問題である。

 ②吉備職リハでは、前述のような職種の技能の習得に大きなウェイトが置かれているが、職種の内容を知らないとか、誤解をしていると思われる例がある。入所後の評価の段階で修正可能な範囲ならば支障は生じないが、ここでは行い得ないことを希望するのではないかとハラハラさせられることもある。

 ③義務教育で養う基礎学力がしっかりしていれば、相当多くの職種について技能習得が可能と思われるが、基礎学力をおろそかにしている者がある。生徒が見学に来た際にこのことを説明したら、付添いの先生が「いつも言っていることと同じことを言われただろう」と指摘しておられたことがある。ことばで言われてもそのまま受け取ることはなかなか難しいのかもしれないし、先生とか親とか日頃から慣れてしまっている人からの指摘は、印象深く受け取りにくいのかもしれない。これに関しては、机の上の勉強には熱心でなかったが、ある職種に興味を深めて実務に必要と感じると猛烈に勉強する人があることは、何かのヒントを含んでいるように思える。

 ④実行を伴う行為、経験が不足していると思われる例がある。遊びやごく身近にある行為を通じて、道具を使うとか片付けるとかを経験していることは職業の行為と無関係ではない。造りあげることの楽しさと配慮(ていねいに、とか、いつくしむようにとか)、危険の予知、努力の程度、ポイントとなることを味わう等々、有効なことを沢山学ぶ機会であるはずである。

 ⑤口に出していう希望、問題意識とそれに対する準備、それ向けの行動とにギャップがある者もある。また、自信がなくすぐ頼る習性とか、新しいことに興味を示さない、欲ばって獲得しようとしないとかも問題だと思う事柄である。

 ⑥入所をすすめても、家庭から離れた遠い場所に送り出すことに親が不安がる例があるということを耳にしたことがある。しかし、入所して、自分の障害とは別の障害者と混じるとか、今まで経験のない大きさの集団に入るとか、新しい人間関係で成長するという副産物を示す人もある。また、周りから支えられた生活から何でも自分でやる生活に切り替わっても、皆さんがそれなりに処理している。職業生活を目指すのであるから、ある程度の冒険も必要なことであろうとも思う。これには、大丈夫だという一定の見込みを前提にすることはもちろんであるが。

3.職リハサービス機関の利用

 以上に、吉備職リハでの業務に関することを述べてきた。しかし、職リハサービスを提供する機関は非常に多く、それぞれでの事情には違ったことがあると思われる。労働行政がリーダーシップをとっているものは国の施策としてほぼ統一的に行われていることが多いが(職安、障害者職業センター、障害者職業訓練校等)、その他にも福祉行政の中でも伝統的に職リハサービスに力を入れているところがあるし、地方自治体がかなり独自性を持って行っているものもある(東京都職能開発センター、大阪市立リハビリテーションセンター等)。また、最近は、ひとつの機関が単独でサービスを行うのでなく、2つの性格を異にする組織体が協同したり利用し合ったりというサービスもある(身体障害者能力開発訓練、職場適応訓練、PWI等)。

 これらを有効に利用するには、その準備としての下調べが大切と思われる。これには、業務内容の他に、設備、時期の条件、業務の特色、スタッフ、立地条件としての場所、隣接または近隣の機関、背景となる制度との関係等が含まれよう。もうひとつ大切と思われることは、学校教育終了までに経験したり積み上げてあること、いいかえれば、その年齢相当の準備性が常識的な範囲に納まっていることがあげられる。職業の世界は、常識的なことが最も大切な世界であると思われるからである。

 最近でも、職リハセンターとは職業訓練と機能訓練を一緒にするところ、職業訓練をするのではなく機能訓練をするところ、あるいは、授産を行うようなところ、といった誤解に時折遭遇するが、何か先入観にとらわれていると感じる。

 施設はブラックボックスではないし、期待することと期待されることとは必ずしも一致していないことがある。都合のよい期待だけをするのは危険である。リハビリテーションサービスでは連携が大切だといわれているが、それには正しい理解が基礎となると痛感している。サービスを有効に利用する場合にも同じことがいえるのではないかと思っている。

国立吉備高原職業リハビリテーションセンター


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1990年12月(第66号)14頁~19頁

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