投稿 病院における地域展開の方法と現状

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病院における地域展開の方法と現状

岡村太郎
坂田祥子

稲村明美

岡部信子

山本寿枝子

榊広光
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Ⅰ.はじめに

 高齢化社会を迎えようとする近年、地域リハビリテーションのニーズがますます高まりつつある。地域リハビリテーションとは英語でCommunity based reha-bilitation(CBR)の訳であるが、本邦では若干本来の意味と違う使われ方を日常見受けられる。国際的にいわれている地域リハビリテーションとは、少なくとも地域の住んでいる人に、リハビリテーションに関係する情報の分配、つまり情報の地域への浸透がテーマである。

 T市の医療、福祉、保険の個々のパートが独自に活動を行っているため、情報の集約と分散が円滑に行われにくいのが現状である。つまり、在宅障害者に適切な情報を流すためのコミュニティワークが必要と思われる。

 コミュニティワークを形成する一段階として現在ある在宅福祉サービスの情報を有効に利用するための、個人・集団・地区・市レベルでのネットワークが必要になる。

 我々の財団法人潤和リハビリテーション振興財団新所沢潤和病院(以下、潤和病院)と社会福祉法人K会特別養護老人ホームK園(以下、K園)との間で上記した現状のもと勉強会をもつことができた。

 K園と潤和病院とでは、それぞれ医療、福祉が単独で在宅障害者とその家族を支援することの難しさを感じていた。勉強会の目的として「地域での保険・医療と福祉の分離を見直し、真に老人とその家族の幸せや健康を地域のなかで求めていくためのネットワークづくりについて検討する」とした。さらにこの勉強会で得られたことを題材として、T市の社会福祉協議会や民生委員の方々と意見交換を行うことができた。

 今回、「医療」と「福祉」、「保険」をコミュニティという側面から地域を見つめなおしてみたいと考え、また、地域でリハビリテーション病院の社会的役割・地域への働きかけについて検討したので報告する。

Ⅱ.特別養護老人ホームとの活動

1.勉強会の活動趣旨

 T市は東京のベッドタウンとしての性格を持ち、人口は29万人、うち65歳以上の老人人口は、1万7,000人である。老人の占める構成比は、5.9%程である。その中でK園は特別養護老人ホームと痴呆性老人を対象としたデイケアの施設として、一方潤和病院はリハビリテーション専門病院としての役割を担っている。

 在宅にいる障害をもつ老人とその家族を支援していくなかで、福祉の立場であるK園では、潜在的に在宅で困っている老人やその家族の支援方法、対象としている老人の現在に至るまでの状況について疑問を感じていた。

 同様に、医療の立場にある当病院では退院した患者に提示した社会資源の活用状況や現実にどのような生活状況にあるのか疑問に感じていた。

 両者とも単独では、提供できるサービスや得られる情報にかぎりがあり、対象者のニーズの多様性や複雑さに対応したより良いサービスを提供するためにもT市のネットワーク作りが不可欠である。

 そこで上記した「地域での保険・医療と福祉の分離を見直し、真に老人とその家族の幸せや健康を地域のなかで求めていくためのネットワークづくりについて検討する」を趣旨に昭和63年5月より両施設間での勉強会をかさねてきた。

2.勉強会の活動方法

 期間及び頻度は、昭和63年5月より2週間に1回の割合で約4カ月間行った。構成人員は、病院側として医師、理学療法士、作業療法士、施設側として園長、生活指導員等であった。具体的な討議内容は、ネットワークに主眼を置き経過及び問題点その対策について症例の討議検討を行った。

 症例は5症例、疾患は、CVA4例、頭部外傷1例であった。当病院入院時の状況は表1のようであった。

表1 潤和病院入院時の状況
名前 年齢 性別 家族状況及び同居人 主介助者

診断

入院時のひきとる意思

K.Y

75

男性 長男(独身)

長男

CVA

あり

T.F

68

男性 三男

三男

CVA

なし

K.K

73

男性 次男夫婦と幼児3人

頭部外傷

なし

S.K

70

女性 三男(独身)

三男

CVA

あり

Y.T

60

女性

夫と長男

CVA

なし

 結果は、経過を以下の項目(場所・その期間・その時の主な状況・問題点・誰がサポートしていたか・サポートの内容・ネットワークの段階)についてまとめた(表2)。

表2 経過のまとめ

ケース

期間 場所 状況及び問題点 サポーター サポート内容 ネットワークの段階 機能判定
K・Y 1ヶ月 医療センター 歩行困難となる 潤和病院に入院をすすめられる 3 あり
6ヶ月 潤和病院 歩行自立排泄監視となる 特老入所勧める。了解をとる 3 なし
2ヶ月 自宅 つかまり立ち監視となる × 世間体の為特老申込みせずヘルパーを依頼する 1 あり
介助のみ行う 3 あり
6ヶ月 老人病院 ねたきりとなる 市の相談員が特老入所説得し了解をとり申請済 3 あり
特老 ねたきりのまま 3 あり
T・F 1ヶ月 国立病院 歩行困難となる 特老入所を家族が知人に依頼した 2 なし
潤和病院を紹介する 3 あり
3ヶ月 潤和病院 介助歩行、経済的に入院困難 知人が申込みをせず特老入所できない 3 あり
6ヶ月 国立病院 歩行一部介助入浴以外自立 特老申込む 3 あり
特老 食事以外全介助 3 あり

K・K

2ヶ月 国立病院 歩行困難 潤和病院を紹介する 3 あり
6ヶ月 潤和病院 ADL自立、自立歩行となる 自宅に退院を勧め了解を得る 3 なし
2ヶ月 自宅 世話をする時間的余裕がない × 困惑する 1 なし
隣人に片麻痺の人がいる 通っているデイケアを勧められ了解する 2 あり
デイケア 地域のゲートボールクラブに復帰 3 あり
S・K 3ヶ月 潤和病院 歩行監視部分的介助 老人病院を紹介。特老入所申請 3 あり
12ヶ月 老人病院 不潔行為、失禁有 3 あり
特老 歩行介助 3 あり
Y.T 1ヶ月 自宅 歩行不能となる × 病院へ入院させる 1 あり
1ヶ月 国立病院 歩行介助となる 3 なし
4ヶ月 自宅 痴呆出現、歩行不能となる × 病院へ入院させる 1 あり
3ヶ月 潤和病院 歩行自立となる 特老入所申請 3 あり
7ヶ月 自宅 歩行不能となる × 困惑する 3 なし
特老 ADL全介助ねたきりとなる 3 あり

〈サポーター〉      ○フォーマルコミュニティサポート ▲インフォーマルコミュニティサポート ×ファミリーサポート
〈ネットワークの段階〉 1段階:パーソナルネットワーク 2段階:アソシエイティブネットワーク 3段階:ソサイアタルネットワーク

 サポートの分類は、ファミリーサポート(家族、親戚等による支援)、インフォーマルコミュニティサポート(友人、町内会、民生委員、民間サービス、ボランティア等による支援)、フォーマルコミュニティサポート(市町村、保健衛生課、福祉事務所、第三セクター社会福祉協議会、老人福祉施設等による支援)に分類した。ネットワークの分類は牧里らによる段階、パーソナル・ネットワーク(生活上のニーズの充足、生活課題の処理を主体的、総合的に進めるインフォーマルなシステム)、アソシエイティブ・ネットワーク(パーソナルネットワークで解決できない生活上の課題を協同で解決しようとするセミフォーマルなシステム)、ソサイアタル・ネットワーク(保健、医療、社会福祉、又は教育等の機関とのネットワークで制度として形成されるもの)を用いた。また、ネットワークが機能していたか、していなかったかの判定は次のように行った。例えば対象者の状況に問題が起きた時その問題が、本来ネットワークが適切に作動していたならば起こらなかった事項についてネットワークが機能していなかったと判定した。

3.勉強会の活動の結果

 各症例は、身体機能の問題はもとより、家族関係、家庭介護能力、経済問題など多種多様にわたっており状況及び問題点等を表2に示す。

 発症後、救急などの準備を有する一次病院に入院した症例は4例あり、その退院までの平均入院期間は1.25カ月、リハビリテーション専門病院である当病院での入院期間は平均5.4カ月である。症例が当病院からK園利用までに要した期間は、9カ月から15カ月、平均12カ月であった。その間、自宅療養した期間は3.7カ月、老人病院へ入院した2症例の平均入院期間は9カ月であった。

 潤和病院入院から最終的にK園を利用するまで平均12カ月を要しているが、5例中4例が自宅での介護能力が及ばず機能低下をおこしており、老人病院へ再入院しなければならない状態になった症例もあった。このことから、キーパーソン的な役割をもつ人の存在の必要性が伺えた。

 ネットワークを中心に結果を述べると以下のとおりである。

(1) ソサイアタルネットワークについて

・病院から病院、病院から特老へのネットワークは機能していた。(延9例)

・病院から特老以外のフォーマルコミュニティサポートへのネットワークは機能していなかった。(延4例)

・病院から地域住民等(インフォーマルコミュニティサポート)へのネットワークはなかった。

(2) アソシエイティブ・ネットワークについて

・知人・隣人からフォーマルコミュニティサポートへのネットワークは、機能している例としていない例が1例ずつあった。

(3) パーソナルネットワークについて

・家族は、病院へ入院させるという機能(延3例)とヘルパーを雇うということをした。

 次に、症例の経過をコミュニティサポートの観点から述べてみる。

 サポートの分類により症例の経過をサポーターとして示す(表2)。

 症例ごとに、どのようなサポートを受けたかを調べるとフォーマルコミュニティサポートだけで経過してきた症例は1例だけである。その他の症例は潤和病院からK園への経過のなかですべてファミリーサポートをうけており、3例は次の療養過程選択のために友人や隣人などのインフォーマルコミュニティサポートの助言を受け入れていた。

Ⅲ.民生委員との勉強会

1.経過及び方法

 ネットワークに主眼を置き勉強会を施行した。場所は民生委員定例会の場を借りた。期間は平成元年3月~6月の間に行った。対象地域はT市内10地区で対象はその地域の民生委員285名であった。勉強会の方法は次のように行った。

(1) 病院の紹介として当病院の入院から退院

 ・フォローまでのリハビリテーション各職員の関わり方についての説明(特老の紹介も同様に行った。)

(2) 勉強会の活動趣旨として、医療・保健・福祉のネットワーク作りについての説明

(3) 症例検討の発表

(4) 質疑応答及び意見交換

(5) 4地区の民生委員にアンケート施行(計91名)

2.勉強会での質疑

 ネットワークを結ぶための問題点、意見交換ならびに民生委員の方々にアンケートを行った。

 質疑応答の際、民生委員の方々からさまざまな討議がなされた。その内容を分類すると次のようになった。

(1)入院に関する手続きと経費及び利用方法に関する討議(8件)

(2)デイケアサービスを利用するための手続き及び利用方法に関する討議(8件)

(3)在宅サービスを利用するための手続き及び利用方法に関する討議(5件)

(4)特別養護老人ホームを利用するための手続き及び利用方法に関する討議(5件)

(5)勉強会での症例についての討議(2件)

(6)痴呆についての討議(1件)

(7)ネットワークに関する討議(1件)

(8)行政の高齢化対策に関する討議(1件)

3.民生委員から見たリハビリテーション関係者の知名度・抱えている問題

 アンケートの内容はリハビリテーションに関係すると思われる人々の名称に関してその知名度の割合を調べた。

 その結果表3のようにボランティア68名を筆頭にホームヘルパー・友愛訪問委員・理学療法士・老人相談委員・婦人相談員・ケースワーカー・老人福祉指導主事・作業療法士・身体障害者福祉司・精神衛生相談員の順であった。

表3 知名度について
名  称 件数
ボランティア 68
ホームヘルパー 60
友愛訪問委員 49
理学療法士 40
老人相談委員 38
婦人相談員 38
ケースワーカー 38
老人福祉指導主事 27
作業療法士 27
身体障害者福祉司 27
精神衛生相談員 13

 また、民生委員が現在抱えている問題を調べた。結果は表4のように一人暮らしの老人・身体障害老人・寝たきり老人・病弱老人・痴呆老人・精神障害者・非行少年・その他の順となった。

表4 民生委員が抱えている問題

抱えている問題

件数

一人暮らしの老人 63
身体障害老人

49

寝たきり老人 43
病弱老人 41
痴呆老人 26
精神障害者 21
非行少年 6
その他 3

Ⅳ.二カ所の勉強会から得られた考察

1.特別養護老人ホームK園との勉強会で得られた考察

 ネットワークを中心に考察してみた。

(1) パーソナルネットワークについて

 家族・本人は入院以外の根本的解決能力が低い。

(2) アソシエイティブネットワークについて

 隣人知人の善し悪しで好結果をもたらした例と入院が長引いた例とがあった。このことからも家族等を支えるインフォーマルコミュニティサポートが生活上の問題発見に重要な機能を果していることが推測される。つまり家族・本人を支えるインフォーマルな機関への啓蒙活動・ネットワーク作りが重要と思われる。

(3) ソサイアタルネットワークについて

 同時に、病院側でインフォーマルを支えるシステム(教育入院・在宅訪問指導・退院通報等)がリハビリテーションの医療関係者として携わなければならない重要な課題と思われる。

2.民生委員との勉強会で得られた考察

 民生委員が抱えている問題の約半数は「身体障害老人54%」「寝たきり老人47%」等である。この問題は民生委員から医療、福祉等のフォーマルコミュニティサポート(市町村、保健衛生課、福祉事務所、第三セクター、老人福祉施設、病院)へのネットワークが必要と考えられる。このことは入院・デイケア・在宅福祉サービス・特老に関する質疑が31質疑中26質疑と多数で占めていることからも伺われる。以上のことからも民生委員からフォーマルコミュニティサポートへのネットワークの必要性が推測される。しかし現状はフォーマルコミュニティサポートに関わる職種の知名度が低い。特にリハビリテーション医療に関わる職種として作業療法士は30%と低く、次いでケースワーカー42%、理学療法士44%の順である。一方では、インフォーマルコミュニティサポートであるボランティア74%、友愛訪問委員54%等の知名度が高いという望ましい結果である。

 以上のことからフォーマルコミュニティサポートに関わる職種が知られていない原因の一つとしてネットワークの未熟が考えられる。

 障害をもつ老人や家族の相談相手は、フォーマルコミュニティの専門家ではなく、家族や知人・隣人等のファミリーあるいはインフォーマルコミュニティの人々が多く、地域では重要な役割をもっていることが推察される。このことから、障害をもつ老人と家族を中心としたネットワークは、人々が生活していくうえで直接的・間接的に関わりをもち、すべてのコミュニティサポートを包括したネットワークづくりの重要性が伺われた。

Ⅴ.おわりに

 リハビリテーション病院と地域とのネットワークの充実をはかるためには業務の中に診療・教育・研究・管理に加え「啓蒙活動」が必要になると思われる。ここでいう啓蒙活動とは、医療・福祉・保健・一般住民等が相互理解と研鑽の場を作ることにあると思われる。インフォーマルな場でコーディネーターになりえる人間は多い。今後、インフォーマルコミュニティのネットワークを図るための啓蒙活動と同時にインフォーマルをささえるネットワークづくりがリハビリテーション病院として重要な課題の一つと思われる。

参考文献 略

(財)潤和リハビリテーション振興財団 新所沢潤和病院 作業療法士
**大隅鹿屋病院 理学療法士


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1990年12月(第66号)26頁~30頁

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