特集/第9回アジア・太平洋地域会議とアジアのリハビリテーション 韓国における障害者総合福祉政策

特集/第9回アジア・太平洋地域会議とアジアのリハビリテーション

韓国における障害者総合福祉政策

―障害者福祉に関する大統領委員会報告から―

小野隆

はじめに

 国連がIYDPを宣言してから一年後の1977年に「特殊教育促進法」が制定・公布され、IYDPの年には障害者の基本的人権を確認し、保障する「障害者福祉法」が制定・公布された。1988年のソウル・オリンピックに際して開催されたソウル・パラリンピックは障害者福祉政策の作成にあたってターニング・ポイントとなった。

 韓国人口健康研究所のサンプリング調査によれば、91万5,000人の障害者がいるといわれ、他の統計などによれば「特殊教育促進法」の定義による障害者が71万人すなわち学齢人口の7.19%おり、「障害者福祉法」の定義による障害者が133万6,000人、すなわち韓国全人口の3.38%いるといわれている。

 これらの障害者の人間としての尊厳及び幸福を追求する権利は、自由競争や能力本位の考え方・差別的で不公正な法律や規則・社会的偏見・総合的一般的福祉サービスの不足などによって無視されている。

 「障害者福祉に関する大統領委員会」は1988年9月15日大統領令に基づいて組織され、障害者福祉政策の原案作成のため11のプロジェクトを選定し、調査を行った。第一次試案は障害者、その親、現場従業員、専門家などのニーズを検討して作成され、関係者の意見を取り入れ修正されて原案となり、1988年4月24日の大統領への中間報告を経て作成された。

 全体は、「障害の予防」「医療介護の提供」「リハビリテーション器具の供与」「教育機会の拡大」「雇用の促進」「所得保障及び経済的負担の軽減」「福祉施設の拡充」「環境の改善」「一般の人々の理解の促進」「専門家の教育及び研究開発」「サービス供給システムの改善」からなっているが、この中から幾つかのものを取り上げ、韓国における障害者福祉への提言を紹介する。

教育機会の拡大を

 特殊教育の対象となる障害児のうち79%が普通のクラスに統合できる軽度の障害児である。統合教育の中でこれらの障害児が質の高い教育が受けられるように努めなくてはならない。教育大学のカリキュラムや教師の再教育プログラムの中に必須科目として「特殊教育入門」を取り入れ、普通学校の教師を啓蒙する。障害児の受け入れが可能なように普通学校の教育環境を改善する。

 軽度の障害児にとっては統合教育は可能であるが、これらが困難な14万6,000人の生徒は特殊学校または特殊学級で教育を受けるべきである。現在5万1,700人の児童が100の特殊学校と3,026の特殊学級に入学しただけであり、まだ、65%の者が特殊教育施設の不足のために教育の機会を奪われている。したがってこれらの施設を増設し、すべての障害児の教育ニーズを満足するようにしなければならない。

 障害者福祉施設と大都市での特殊学校の設立、自閉症児のための特殊学校または特殊学級が望まれる。また、小中学校だけでなく、技術系高等学校にも特殊学級を設立する。一方高等教育についても機会を広げる方策が講じられるべきであり、大学・短期大学が一定の率で学習能力のある障害者の入学を認めることができるようにする。入学許可時において障害者が不利益な取り扱いを受けないような措置を講ずる。職業教育はほとんどの特殊学校と障害者福祉施設で行われているが、短大レベルの専門コースが特殊学級内に設けられるべきであり、障害の種類別の専門的な職業訓練が専門職に就くために行われるべきである。障害者が新しい職務を獲得し、職業適性にかなった技術教育を受けるために障害者職業訓練センターが設置されなければならない。

雇用の促進

 重度障害者を除きほとんどの障害者が働く意思と能力を持っているにもかかわらず、雇用者の誤解と拒否のために職業を持って働くチャンスは少ししかなく、職業を持っているものも多くは自営業か低収入の単純肉体労働に従事しているのが現状である。「障害者雇用促進法」が制定され、働く能力を持った障害者が雇用されるチャンスを拡大し、保障するため、また、障害者を自立させるため強制割当雇用制度が採用されるべきである。

 公共機関の最低強制雇用率は総従業員数の3%とし、100人以上の従業員を雇用する民間企業では総従業員数の2%とする(*法律は、1990年1月13日公布された。また、強制雇用率は、同法第34条によれば、公共機関は2%以上、民間企業は同法第35条によれば、1%―5%の範囲で大統領令で定める率とされた)。強制割当雇用の実施を促進するため、補助金・助成金、税の免除が企業には提供されるべきであり、雇用義務のない企業には奨励金が提供される。また、強制雇用割当てを満たさず、雇用計画を提出せず、実行もしない企業には出資金を課するものとする。

 障害者は、労働契約の賃金など労働条件、昇進などにおいて差別なく扱われるものとする。障害者が専門資格を取得しやすくするよう合理的な資格システムが提供されなければならない。資格取得を規制する法律などは排除されるべきである。

 雇用の場に進出できない低所得の障害者が自営業を行うための支援システムが用意されなければならない。長期・低利のローンが提供され、一定期間の租税控除が与えられるべきである。

 国・地方・公共機関などが障害者によって生産された商品の購入を要請された場合、優先的または自由契約によりこれら商品を購入すべきである。

所得保障及び経済的負担の軽減

 貧困にありながら福祉手当を受けていない多数の障害者が存在する。これらのものを援助し、標準的生活を享受できるよう生活保護制度を改善しなければならない。貧困障害者の選定基準は一般の生活保護受給者より広くするべきである。障害者手当が労働能力を持たず生活保護を受けていない重度障害者に支払われるべきである。無拠出の障害年金制度が順次採択されなければならない。

 障害者は一般的に低所得なのでその経済的負担は生活の安定のために引き下げられるべきである。贈与税・相続税・付加価値税・自動車税及び障害者用料金の控除が勧告されよう。電話料・ファクシミリ料・TV受信料・公共施設入場料・鉄道等公共交通機関料金などは軽減されるべきである。

福祉施設の拡充

 120の障害者用福祉施設があり、1万1,700人が入所し、生活をし訓練を受けているが、利用希望者の数は増え続けているので、ニーズに応えるために増設されなければならない。既存の無料のリハビリテーションセンターと居住施設の増設と有料施設の設立、障害者福祉センターを含めた中間施設の設置、労働作業所・保護的作業所の増設などであり、さらにこれら施設におけるサービスの質の向上のため人員の拡充と待遇の改善などが望まれる。

専門家の養成及び研究開発

 障害者が障害に対処するためには専門家の援助を必要とするが、そのニーズを満たすために専門家の要請が急務である。大学の教育課程を通して言語療法士、職業リハビリテーションカウンセラーなどを養成するとともに、各種の訓練課程を通じて手話通訳者、視覚障害者リハビリテーション専門家などを養成する。また、これらの専門家に対し資格を与え、職務の開発を図る。また、特殊教育教諭の資格を定める。さらに障害の予防・障害者福祉サービスの質的向上のために研究開発が奨励されるべきであり、研究費用の援助や研究機関の設立がなされるべきである。

 この報告では77項目があげられているが、24項目は予算を伴うものである。53項目は予算を伴わないもので法律の改正等で実施しうる。予算を伴うものの実施にはおよそ1,300億ウォンが必要とされる。必要な予算のための財源割当に関する事項を考慮して優先順位は雇用促進などの予算を伴わないものに与えられることになる。予算を伴うものは、長期計画(10年)にしたがって順次行われることになるが、障害者とその親の高いニーズのある医療サービス、教育、福祉関連のものから優先的に実施していくことが望まれる。

 (このレポートは、大韓民国・障害者福祉に関する大統領委員会の作成したCOMPREHENSIVE WELFARE POLICY FOR DISABLED PERSONS IN KOREA-IN ABSTRACTED FORM -1989/9「韓国における障害者総合福祉政策(抜粋)」をもとに作成したものである。)

日本障害者雇用促進協会広報課長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1991年6月(第68号)21頁~23頁

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