特集/第9回アジア・太平洋地域会議とアジアのリハビリテーション 韓国の障害者雇用の現状と課題

特集/第9回アジア・太平洋地域会議とアジアのリハビリテーション

韓国の障害者雇用の現状と課題

嚴成昊
南商堯**

はじめに

 韓国は1988年のSEOUL PARALYMPICSをきっかけにして、いままで、経済優先政策によって疎外されてきた障害者に対する各種制度や施設の整備などを国の政策として積極的に取り組むことになった。その中でも特に障害者雇用問題においては1990年1月、障害者の就業意欲の充足と就業機会拡大のため、「障碍人(注1)雇用促進等に関する法律」が制定された。これまで就業意欲はあったが、事業主の理解不足と偏見などで就業が難しかった障害者も就業が可能になる道が開かれて、障害者自身は勿論その関係者にも大きな関心と期待を持たせている。

 しかし、法律はできたものの、企業と社会の根強い差別・偏見意識と職業訓練施設の質的、量的不足、安心して働ける環境設備の不整備など多くの問題点もあって、障害者雇用政策が軌道に乗るには時間がかかりそうである。

 そこで本稿では、韓国の障害者雇用の現状と課題を具体的に把握し、考察してみたい。この考察がこれから福祉国家を目指している韓国の障害者雇用の問題改善と、日本側の韓国の障害者福祉に対する検討と理解につながり、さらに今後の韓日間の実務運営面での協力と交流関係に微力ながら一助となればと思うのである。

 ただ、本稿は障害者の雇用に対しては歴史が浅いとも言える韓国の現状によって、雇用問題に関する正確で、全般的な統計資料提供にある程度の制限があったことを断っておきたい。その点については、本稿は全く「試論」である。

1.韓国の障害者雇用の今までの歩み

 障害者が社会的・経済的自立を図るためには、自分の生活を支えるために就業することが重要である。現行の韓国の社会福祉諸法の中で、「自立」を法律用語として導入しているのは「心身障碍者福祉法」(1981年6月5日制定)である。同法は第1章第4条を【自立への努力】として次のようにうたっている。「心身障碍者は彼がもっている能力を最大限に活用し、社会・経済活動に参与できるように努めなければならない。」この自立概念が、障害者自身がその能力を活用して社会的・経済的に自立することを意味していることは明らかである。

 このように韓国では1981年度から心身障碍者福祉法が制定、施行されている。行政指導は、1982年度に保健社会部(日本の厚生省にあたる)社会局内に再活(リハビリテーション、更生)課が設置され、障害者福祉行政を担当しているが、その中で職業再活の分野は医療再活又は特殊教育分野より、はるかに社会的な理解が不足している。「韓国障碍者再活協会」は1982年から保健社会部の委任を受けて、障害者雇用促進事業を実施してきていた。しかし、制限的な予算、マンパワー不足、割当雇用制度がなかった実情によって、実際の雇用はもっぱら事業主の理解協調だけに依存していた。また、障害者に対する偏見意識などで、就業斡旋に多くの問題点が生じていた。これに対する対策として、任意規定を強制規定へ改正し、「障碍人雇用促進等に関する法律」を制定(1990年1月)し、障害者の就業を法的に保障することになった。そして、この法律に依拠し、1990年9月に特殊法人である「韓国障碍人雇用促進公団」(Korea Employment Promotion Agency for the Disabled)が設立された。

2.韓国の障害者雇用の現況

(1)全般的な現況

 心身障害者に対する福祉政策とその事業施行のためには何よりも正確な実態把握が重要である。そこで韓国では、韓国人口保健研究院で5年ごとに心身障害者実態把握を行っている。韓国人口保健研究院が実施した実態調査によると、韓国では約91万5,000人の障害者がいると推定集計されている(表―1参照)。この91万5,000人は在宅障害者と施設に入所されている障害者で、いわば「一般障害者」であり、傷痍軍警約14万人、労働災害障害者約19万5,000人をあわせると、韓国の障害者の数は約125万人になる。しかし、実際の韓国の障害者の数はこの推定数より多く、全人口の5%である約200万人程度であると推定されている。

〈表―1〉障害種類別の韓国心身障害者推定数 (単位:名)

障害種類

在宅障害者 施設入所者

肢  体

531,000 2,000 533,000

精神薄弱

 75,000 4,000 79,000

視  覚

 58,000 1,000 59,000

聴覚言語

243,000 1,000 244,000

907,000 8,000 915,000

*1985年度全国心身障害者実態調査報告書、韓国人口保健研究院

 また、種々の労働災害による事故と交通事故による障害発生を考慮すると、韓国の障害者の数は漸次増加することが予測され、このような障害者のための就業対策が必要とされている。

 この約91万5,000人の障害者の中で、15―64歳までの経済活動障害人口は76万1,000人であり、この中で就業可能人口は68.4%である52万0,718人である。(表―2参照)

〈表―2〉経済活動障害者の中で就業可能人口
経済活動人口 就業可能人口 就業不可能人口
761,000名 520,718名 240,282名
(100%) (68.4%)

(32.6%)

*KIM JONGIN「韓国の障害者の雇用と促進」、第8回(夏期)国際セミナー、1989。
*就業不可能人口は経済活動人口の中で、学生又は特に重い障害による障害者である。

 また、就業可能人口52万718人の中で就業人口は54.9%である28万6,136人であり、非就業人口は45.1%である23万4,582人と集計されている。就業人口28万6,136人は障害者全体の約30%を占めており、類型別就業現況をみると、農林水産業が39.1%、賃金生活者が38.3%である。

(2)職業訓練の現況

 問題は就業可能人口の中で非就業人口23万4,582人を職業リハビリテーション対象者とみなすと、現在職業リハビリテーション訓練をうけている障害者は<表―1>のように施設入所者約8,000人(注2)の内で約4,000人と、特殊学級に在学中である学生約2万6,000人の中で約8,000人と、利用施設等での職業リハビリテーション訓練者約2,000人など総計1万4,000人に推定されている。これは23万4,582人の職業リハビリテーション対象者に10%の水準にも至っていない状況にある。

 また、わずかながら実践されている職業訓練においても教育訓練されている職種の大部分が、手芸、木工、洋裁、印刷、宝石加工などを零細家内工業水準であるので、適用雇用のための職種開発及び技能修得において積極的な対策が求められている。

 このような障害者職業リハビリテーション施設の現実的な問題に対し、障害者自らが権利擁護と意欲の充足を目的として、民間障害者福祉団体である所謂「障碍者任意団体」を結成し、運営している。1988年末現在、韓国のソウル市内だけでも117の「障碍者任意団体」があり、約3万3,000人の障害者に職業リハビリテーション・プログラムを含んだ福祉サービスを行っている。

(3)韓国障碍者再活協会の雇用活動

 1990年9月「韓国障碍人雇用促進公団」ができる以前の障害者雇用に関する事業は「韓国障害者再活協会」が主に担ってた。1981年に制定された心身障碍者福祉法の第11条【雇用の促進】を基盤として社団法人「韓国障碍者再活協会」が1982年7月から政府支援をうけ、障害者就業斡旋事業を今まで実施してきたわけである。「韓国障碍人雇用促進公団」の事業は始まったばかりであるので事業実績を示す資料は未整備であり、また、「障碍人雇用促進等に関する法律」が実施された後の28万6,136人の障害者の就業者に対する具体的な雇用資料もないのが実情である。従って、ここでは28万6,136人の就業者全体の中で極めて一部分にすぎない統計資料ではあるが、障害者雇用に対して活発な活動をしてきたとは言え、いろいろな問題はあるものの「韓国障害者再活協会」のことを参照しながら1990年度現在の韓国の障害者雇用の現況を見てみたいと思う。この資料だけでは韓国の障害者雇用の全体的な実態把握には無理があると思われるが、部分的でありながらある程度の現況把握には参考になると思うのである。

 ①障害別

 就業者全体の中で、下肢障害が半分以上を占めており、男性が78.2%、女性が21.8%の割合をみせている。〈表―3〉。

〈表―3〉就業者障害別現況
(単位:名、%)
下 肢

上 肢

片麻痺

脊 椎

729 203 382 106 75 19 24 7 28 11
932 488 94 31 39
100.0% 52.4 10.1 3.3 4.2
脳性 聴覚 視覚 精薄

その他

86 21 79 18 4 1 30 13

21

7

107 97 5 43 28
11.5% 10.4 0.5 4.6 3.0

*1990年度心身障碍人就業斡旋事業実績報告書、韓国障碍者再活協会

 ②就業者年齢別

 就業者の年齢別分布をみてみると、20―29歳が66.6%で高い割合をみせており、高年齢化するとともに就業者は減少してしまうのである。

〈表―4〉就業者年齢別現況
(単位:名、%)
肢体 聴覚 視覚 精薄
合  計 932 720 97 5 43 67
100.0% 77.3 10.4 0.5

4.6

7.2
20歳未満 75 52 11 9 3
8.1%          
20―29歳 621 472 72 4 32 41
66.6%          
30―39歳 190 158 13 1

2

16

20.4%      
40―49歳 38 30 1

7
4.1%          
50歳以上 8 8
0.8%          

*1990年度心身障碍人就業斡旋事業実績報告書、韓国障碍者再活協会

 ③就業者学歴別

 就業者学歴別分布をみてみると高校卒が45.5%で一番高い。次が中学校卒、小学校卒の順である。また、未婚者の就業率が高い数値をみせている。

〈表―5〉就業者学歴別現況
(単位:名、%)
  肢体 聴覚 視覚 精薄
合 計 932 720 97 5 43 67
100.0% 77.3 10.4 0.5 4.6 7.2
無学 46 37 4 2 3
4.9%          

小学校卒

150 112 12 8 18
16.1%          
中学卒 242

190

20

12

20

26%    

 

高校卒 424 322 56 2 20 24
45.5%          
短大卒 27 23 1 2

1

2.9%        
大卒以上 43 36 4 1 2
4.6%          
婚姻事項 既婚 122 104 8 3 7
13.1%          
未婚 810 616 89 5 40 60
86.9%          

*1990年度心身障碍人就業斡旋事業実績報告書、韓国障碍者再活協会

 ④就業者職種別

 就業者の職種別分布をみてみると、無技能の状態で単純生産を主としてする生産関連職が77.3%をしめている。専門技術修得のための職業訓練が必要であろう。

〈表―6〉就業者職種別現況 (単位:名、%)
  肢体 聴覚 視覚 精薄
合  計 932 720 97 5 43 67
100.0% 77.3 10.4 0.5 4.6 7.2
専門技術職 14 13 1
1.5%    
行政管理職 18 16 2
1.9%          
事務関連職 75 68 1 1 5
8.0%          
販売職 42 39 2 1

4.5%

       

 

サービス職 29 26 1 2
3.1%          
農畜樹林 9 7 1 1
1.0%          

生産関連職

加工修理

52 42 5 2 3
5.6%          

製造工

132 83 29 6 14
14.2%          

機械技術

80 51 19 4 6
8.6%          

電子技術

204 161 17 8 18
21.9%          

印刷

12 10 1 1
1.3%          

他生産

240

183

21 1 18 17
25.7%

 

       

その他

25

21

3 1
2.7%          

*1990年度心身障碍人就業斡旋事業報告書、韓国障碍者再活協会

 ⑤就業体規模別

 就業体規模別では16―99人の規模が44.9%、16人未満のところが39.9%で、全体の84.8%、大部分をしめている。就業体規模と職種をみてみると、16―99人の規模に電子技術職種が122人で一番高い就業率をみせている。就業体の宿舎で生活している者は34.7%、通勤している者は65.3%であった。

〈表―7〉就業体規模及び宿舎現況 (単位:名、%)
  16人
未満
16―
99人
100―
299人
300人
以 上
宿舎
合  計 932 372 418 88 54 323
100% 39.9 44.9 9.4 5.8

34.7

専門技術職 14 5 7 2 1
1.5%          
行政管理職 18 1 3 14
1.9%          
事務関連職 75 52 15 7 1 11
8.0%          
販売職 42 37 4 1 8
4.5%          
サービス職 29 24 5 8
3.1%          
農畜樹林 9 9 7
1.0%          
生産関連職 加工修理 52 27 20 5 23
5.6%          
製造工 132 25 79 7 21 52

14.2%

         
機械技術 80 27 35 11 7 23

8.6%

         
電子技術 204 46 122 34 2 84
21.9%          
印刷 12 6 6 4
1.3%          
他生産 240 98 116 19 7 98
25.7%          
その他 25 16 8 1 4
2.7%          

 ⑥就業者賃金水準別

 就業者賃金水準別の分布をみてみると、25万ウォン以上の賃金をもらっている者が44.9%で、昨年(1989年)の13―16万ウォン未満が多かったことと比べてみると、就業障害者の賃金は徐々に改善されているともいえるだろう。

〈表―8〉就業者賃金水準別現況
(単位:名、%、ウォン)(100円=530ウォン)
 

10万
未満

10―20万
未満

20―25万
未満

25万
以上

合  計 932 9 247 257 419
100% 1.0% 26.5%

27.6%

44.9% 

専門技術職 14 1 2 11
1.5%        
行政管理職 18 18

1.9%

       
事務管理職 75 13 21 41
8.0%        
販売職 42 9 15 18
4.5%        
サービス職 29 3 5 21
3.1%        
農畜樹林 9 1 4 2 2
1.0%        

生産関連職

加工修理 52 3 18 17 14
5.6%        

製造工

132 1 29 37 65
14.2%        
機械技術 80 6 29 45
8.6%        
電子技術 204 3 90 58 53
21.9%      

印刷

12 1 2 9
1.3%        

他生産

240 1 60 67 112
25.7%        

その他

25 13 2 10
2.7%        

*1990年度心身障碍人就業斡旋事業実績報告書、韓国障碍者再活協会

3.問題点及び今後の課題

(1)障害者雇用の問題点

 部分的ではあるが、以上のような雇用統計資料をみてみた結果、韓国の障害者雇用においての問題点は次のように三つに分けて取り上げられると思われる。

 まず、何よりも大きな問題点として、雇用の前段階ともいえる職業リハビリテーションの体系が確立されていないことが挙げられる。職業訓練施設の質的・量的不足、職業訓練内容の非現実性などが、結局障害者の就業準備を難しくしているのである。また、この他にも地域間の不均衡な施設の配置、従事者の専門性欠如、運営費の不足等多くの問題点を抱えている。

 次に、雇用者側の問題である。障害者に対する偏見・差別意識、障害者の労働能力と雇用に対する認識不足、障害者が安心して働ける作業環境・設備の絶対的な不備、求人企業体の零細性と低賃金などが挙げられる。

 そして最後に、行政と関係機関の問題である。雇用の実態把握とフィード・バックのための正確な統計資料の不備、就業斡旋担当者の不足、保護雇用のための諸施設や制度の不備、障害者雇用の必要性に対する広報不足などがある。

(2)障害者雇用の課題

 以上(1)で挙げた問題点に基づいて、今後の韓国における障害者の雇用に対する課題を述べてみたいと思う。この課題は企業と社会、行政、障害者自身など三つに分けられると思われる。

 障害者が就労できる職種は相当数あると聞いている。しかし、韓国のある地域の541の企業を対象として実施した「障碍者義務雇用制実施に対する企業意識調査」によると、障害者義務雇用制実施において否定的である、あるいは関心のない企業が73.4%であるとの結果が出た。このようなことから、義務雇用制の実施に対していかに企業を理解させ、彼らの意見をまとめるかが大きな課題であると思われる。また、障害者の雇用問題解決においては大企業の役割が非常に重要であるにもかかわらず、統計が示しているように大企業の雇用率は相当に低い。企業利益の社会還元という意味からみても大企業の協力活動が要請されているところである。

 このようなことと共に障害者雇用のための職業訓練施設の拡充による多様化、実質的な職業訓練の実施、障害者の能力に適切な職種開発など職能評価から就業後のアフターケアまで総合的なリハビリテーション体系の確立が必要である。

 そして行政の側からも、勤労時間や最低賃金の保障や、作業環境助成のための各種設備・施設等に対する徹底的な指導監督、活用できる正確な実態調査の実施、障害者に対する歪んだ認識や障害者の雇用の必要性等に関する広報活動、就業できない重度障害者のための年金制度の充実と保護作業場の増設などが並行されて行われるべきであろう。

 ある企業では障害者の働く意欲も問題にしているが、その前に働ける場を確保するのが急務であろう。しかし、障害者自身の姿勢も依存的であり、保護的な思考方式から脱皮し、健全な勤労意識を持って自立に向かう努力が必要であろうと思われる。

おわりに

 福祉国家の共通的な特徴とは、民主主義の発展と、自由市場原理に基づく混合経済制度の運用、社会保障制度の確立、福祉社会の構築であると言われている。2000年代に福祉国家を目指している韓国での障碍人雇用促進法等の障害者福祉制度の拡充と就労による障害者の社会的・経済的自立の実現は、福祉国家・福祉社会建設の礎となるのではなかろうか。

参考文献・資料 略

〈注〉
(注1)韓国では「障碍人」という。以前は障碍者と呼ばれていたが、「雇用促進法」の制定とともに障碍人と変えた。この本論では固有名詞・名称には障碍人か、障碍者を使い、それ以外のところでは日本の「障害者」をそのまま使うことにした。
(注2)1988年度保健社会部の統計では、施設入所者が1万1,141名である。

EOM SEONG-HO 明治学院大学大学院社会福祉学専攻
**NAM SANG-YO 韓国聖世再活院企画室長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1991年6月(第68号)24頁~29頁

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