海外レポート テクニカル・エイド情報サービスについて

海外レポート

テクニカル・エイド情報サービスについて

奥英久
山内繁**

はじめに

 1990年11月にオランダにて開催されたICTA(注)年次会議とそれに続くカンファレンスに参加する機会を得た。カンファレンスでは、アクセシビリティ、適性技術(Appropriate Technology)、テクニカル・エイド情報サービス、の各分野ごとに分科会が設けられた。著者らが参加したテクニカル・エイド情報サービスの分科会では、実際になんらかの情報サービスを実施している国および国家間グループから、一部にデモンストレーションを含む現状報告と意見交換が行われた。本稿では、これらの中から代表的なテクニカル・エイド情報サービスについて報告する。

イタリア

 イタリアのテクニカル・エイド評価情報センターは、そのイタリア名(Servizio Informazioni EValutazioone Ausili)から、SIVAと称されている。SIVAは、障害者のリハビリテーションと自立のためのテクニカル・エイドに関して、コンピュータ化した情報システム(データバンク)と相談サービスを目的として、Pro Juventuteリハビリテーション財団のバイオ・エンジニアリング・センターにより1981年に設立された。

 最初のデータバンクは、研究者・リハビリテーションセンターのエンジニア・理学療法士・作業療法士等のスタッフにより、SIVAのメインフレーム・コンピュータ(DECのVAX11/750)で開発され、1982年に稼動した。これはSIVAの情報相談センターでの使用を目的としたものであったが、電話回線を通じてVT100ターミナルからもアクセスできた。その後、多くの使用者に対するサービスとシステム運用の経験をもとに、ソフトウェアとデータ品質の改良が継続して行われた。

 そして1988年に、テクニカル・エイドの情報に対する地方関連機関および障害者団体からのアクセス希望の要求とコンピュータ技術の進歩を考慮して、データバンクを広く普及しているパーソナル・コンピュータ(以下、パソコン)用に変更することが決定され、新しいシステムが開発された。このシステムは現在稼動しているもので、640キロ・バイトのメモリを有するIBMパソコン(コンパチブルなものを含む)とハード・ディスクから構成されており、データベース自体はフロッピーディスクで供給される。操作性に関する評価は、イタリア中を通じて100以上のリハビリテーション専門家により行われた。このデータバンクは以下に示す内容を有している。

○テクニカル・エイドに関する情報

○関連する組織・機関の情報

○テクニカル・エイドと障害一般にわたる通則(条例)

○テクニカル・エイドの公式な登録、地方保健機関(USL)によって無料で供給される整形外科機器およびデバイスのリスト

○テクニカル・エイドとアクセシビリティに関する文献

 データバンクはまた以下の内容も含んでいる。

○テクニカル・エイドに関するクイック・ガイド:テクニカル・エイドのヨーロッパ分類に基づき、使用者に正しい用語を示し、選択時に適切な助言を与える。

○容易に記入できる標準形式の書式による、クライアントに対する助言サービスの記録。クライアントに6ヵ月単位で送付されるフォローアップ記録:このデータを処理し利用者の特徴(障害内容、病理)を統計処理することにより、問題点を示し回答を出す。

 SIVAのデータバンクは、専門家が相談家としての役割を期待されるリハビリテーション・サービス機関および情報センターを主な対象としている。現在まで45のセンターがシステムにアクセスしており、その9割がリハビリテーションセンターである。データベースの利用は年間契約(有料)で、契約者には年4回の更新がフロッピー・ディスクを送付する形態で行われる。これには、SIVAで開発された圧縮とソフトウェア・ユーティリティにより全てのパッケージを1.44メガ・バイトのフロッピー・ディスクに格納し、使用者側で操作用に再構築する方式をとっている。また、データベースと等価な内容を有する出版物も発行している。さらに、地域のセンターの専門家向けに、データバンクの支援によるテクニカル・エイド選択相談に関する訓練プログラムを有している。

デンマーク

 デンマークは人口3,000人~50万人にわたる279のmunicipal(市町村)から構成され、いずれのmunicipalも国内に14あるcounty(郡)のいずれかに属している。それぞれの郡にはテクニカル・エイド・センターが設置されているが、実際の交付作業についてはmunicipalが行っている。また、municipalでは、返却されたテクニカル・エイドを再使用のために清掃・修理し、その在庫を有している。

 一方、デンマーク・テクニカル・エイド研究所(Danish Institute for Technical Aids;DHI)は、高齢者および障害者のために、安全かつ信頼できるエイドの設計・生産・購入に関する指導・助言を目的として1980年に設立された独立機関である。スタッフは作業療法士・エンジニア等で構成され、主たる業務内容は次の通りである。

○テクニカル・エイドの試験評価

○機器開発に対する専門的相談

○情報活動

○国際協力

○助言サービス

 この中で、テクニカル・エイドに関する情報サービス活動については、専門家および使用者を対象とした情報提供を目指している。この中で、専門家向けにはProduct informationという資料を発行しており、これにはノルディック加盟各国で試験・評価されたテクニカル・エイドに関する情報を掲載している。また、使用者向けにはハンドブックなどを発行している。

 コンピュータを利用したテクニカル・エイド情報サービスは“information database for technical aids from Danish Institute for Technical Aids”と呼ばれ、政府および財団の資金援助により1989年から開発がスタートした。開発スタッフは作業療法士・司書・プログラマーで、1990年に試作システムを完成させ、1991年から市販化を計画している。システムはIBMパソコン(コンパチブルなものを含む)とハードディスクから構成される。データベース自体は、フロッピー・ディスクにより供給されるが印刷媒体でも供給される予定で、いずれも有料である。データベースには以下の内容が含まれている。

○テクニカル・エイドに関する情報

○テクニカル・エイドに関する条例・規則

○テクニカル・エイドの地方ディーラーに関する情報

 データベースの更新は4ヵ月ごとに行い、無料のマニアルを準備すると共に、有料の講習会を行っている。

イギリス

 ロンドンにあるDisabled Living Foundation Center(DLF)は古くからテクニカル・エイドの展示と情報提供を行っており、日本からの視察、見学者も多い。このDLFでは、VAXのミニ・コンピュータを使った情報提供システム(DLF―DATA)を運用しており、公衆電話回線およびパケット通信網を通じて、契約者が外部からアクセスすることが可能となっている。情報はメニュー形式あるいは直接コマンド操作のいずれかで取り出すことが可能で、モニター画面での表示・プリンタによる印刷・記憶(ダウンロード)などが行える。公的資金も一部得ているが、DLF自体が多くを拠出しているため、希望者に対してアクセス用のパスワードを有料で販売する方式をとっている。アクセスを行うためには、640キロ・バイトのメモリを有するIBMパソコン(コンパチブルなものを含む)、20メガ・バイトの容量を有するハード・ディスク、カラー・モニター、モデム、プリンタ、通信ソフトウェア、DLF―DATAへの登録が必要である。

 DLF―DATAは以下に示す4種類のファイルを有している。

○テクニカル・エイドのファイル

・ファイル1:テクニカル・エイドおよび関連サービスの情報

・ファイル2:現状では市販されていない古いテクニカル・エイドの情報

○文献ファイル

○中古機器の情報ファイル

 この他に、電子メールと電子掲示板システムが設けられている。

 このような電子化した文字データベースに加えて画像情報等を含めたCD―ROMが1990年の9月に開発され、従来からのオンライン・サービスに加えて、有効なデータベースとしての利用が見込まれている。CD―ROMは一般的な音楽用CDと同じく5インチの円盤形状で、その中に550メガ・バイトの容量まで文字データ、画像データ(図、写真)、音データ(音声時計、音声電卓などの合成音声など)を記憶させることができる。これを前述のシステムで使用するためにはCD―ROM駆動装置の購入が必要となる。

オランダ

 ルーカス(Lucas)財団は小児用および成人用の2つの総合リハビリテーションセンターを有している。このうち成人用のセンターはオランダ南部Zandbergsweg州のHoensbroekにあり、リハビリテーション病院を含む5つのセンターから構成されている。この中にリハビリテーション情報センター(Revalidatie Informatie Centrum;RIC)があり、以下の業務を行っている。

○文献ライブラリ(国内外の検索機能あり)

○ビデオ・ライブラリー

○福祉機器の製品情報

○福祉機器展示室

 この中でテクニカル・エイドの製品情報については、TECHHULPというコンピュータ化されたデータベースがある。この開発は地方自治体の資金提供により1983年からスタートし、リハセンターのエンジニア・作業療法士などによるチームが1988年に最初のシステムを稼動させた。その後、数度の改良を経て、現在のシステムはIBMパソコン(コンパチブルなものを含む)とハード・ディスク(オプションでCD―ROMを含む)により構成されている。データベースは、フロッピー・ディスクとCD―ROMおよび刊行物の形態で市販されている。データベースの基本となるのはカタログおよび文献等を収集して構成したファイリング・システムで、これらの情報を電子化してデーダースを構築している。このため、データベースは以下の内容を含み、カタログ等と等価な利用を目指している。

○テクニカル・エイドに関する情報

○テクニカル・エイドの地域ディーラーに関する情報

○企業(生産者)に関する情報

 コンピュータ化データベースについては無料のマニュアルを提供し、年1回の更新を行っている。1990年9月現在において、TECHHULPで28、印刷媒体で205の利用者(機関)があり、これらはリハビリテーションセンター・一般病院・大学・研究所・企業などである。

ヨーロッパ共同体(EC)

 ハンディネット(HANDYNET)と称されているこの計画は、障害者の統合と関連団体のニーズを満たすオンライン・サービスに参加する多分野の情報交換のための、コンピュータ化したネットワークの構築を目的としている。具体的には、障害者の領域におけるEC国相互の多言語コミュニケーション・システムであり、情報交換の推進とECの3,000万人の障害者の協力推進を行うことを目的としている。HANDYNETはまた、コミュニティの障害者に対する社会統合計画の一つの方策であり、計画自体は障害者の社会統合に関する1981年12月21日のEC会議において決議案(O.J.C347)として提出されたものである。

 HANDYNET計画は、効果的な結果を得るために、以下に示す目標を設定して一定水準の保持を図っている。

○全ての社会統合をカバーするための、多国語による検索システム開発と使用(HANDYVOCシソーラス)

○最少データ構造の開発と使用

○将来における音声/文章/イメージ伝送などマルチ・メディア遠隔ネットワーク(ISDN)を想定して、CCITT(国際電信電話諮問委員会)が示す指針に沿った標準の採用

○簡単で標準的なアクセス方法の開発

○多言語プロセスと質問語彙の設定

○最も簡単にできる研究過程

○サービスにおける一つのモジュールから他のモジュールへの容易な移動

 オンライン・データベースとデータバンクへのアクセスはHANDYVOCの多言語シソーラスで行われる。このHANDYVOCは社会統合の観点から徐々に以下の領域をカバーする予定となっている。

予防・訓練・学校から職域への移動・雇用・社会支援・移動・アクセシビリティ・スポーツとレジャー・条例と規則・統計など。

 現在はテクニカル・エイドのモジュールを構成しているだけであるが、ファクト・データベースによるモジュラ構造のため、モジュールの追加が簡単にできる構成となっている。現在開発が行われているテクニカル・エイドのデータベースには、以下の内容が含まれている。

○製造企業・ヨーロッパ全圏にわたる輸出入および保守ネットワークを含む、参加国で入手できるテクニカル・エイド(ハイテクノロジーおよびローテクノロジー)

○テクニカル・エイド分野における営利・非営利団体の一覧表

○参加国のテクニカル・エイドに関する、多様な分類の互換、入手、修理に対する経済的社会補償の国ごとの規則

○参加国相互のエイドの流れに関する統計データ

○電子新聞および電子メールの機能

 テクニカル・エイドの分類に関し、委員会と関連国立機関との同意により、各国の国立ハンディネット・データ収集センター(Date Collection Centres;DCC’s)が選ばれる。DCC’sは、技術協調と、その国で入手できるテクニカル・エイドの分類に関するデータの収集・入力・伝達に対する品質管理に責任を有している。

 HANDYNETによる情報提供は、情報・助言センター(Information and Advice Centres;IAC’s)を通じて行われ、その調整は国レベルで行われる予定である。

ニュージーランド

 これまで個別に行動を行ってきた複数の自立生活・障害者生活センターが、1982年から情報と普遍的なニーズを共有することを目指した年間ワークショップを共同で開催することとなり、1984年には協議会組織を設立した。その後、種々の検討が行われ、1988年にニュージーランド障害者情報センター連盟が設立された。そして情報センターの果たすべき役割として、以前から行っていた検討結果を踏まえ、情報サービス(収集・管理・提供)のためのシステム構築に着手した。

 情報サービスを行うこのシステムの正式名称はINDIS(Integrated National Disability Information Sevices)で、1987年から検討が開始されていたが、連盟発足後に政府資金および財団の援助を得て本格的な開発がスタートした。開発は障害者情報に関する専門家とプログラマーで構成されるチームにより行われ、試作システムは1990年に完成した。

 INDISは関連したデータベースの集合であり、シソーラス(制限された語彙)を通じてアクセスされる。操作は簡単であるが、熟達したユーザはより高速なアクセスで情報を得ることができる。シソーラスとデータベース間の非常に多くの関連性(リレーション)が作り出されているので、目的とする個々の情報を非常に多くのスタート・ポイントから捜し出すことができる。システムは、IBMパソコン(コンパチブルなものを含む)とハード・ディスクにより構成され、データベースはフロッピー・ディスクで供給される。データベースの内容としては以下のものを含んでいる。

○テクニカル・エイドに関する情報

○テクニカル・エイド入手のための資金援助情報

○テクニカル・エイドに関する通則

○テクニカル・エイドの地域ディーラーに関する情報

 INDISは、現在のところ、連盟に参加している12の障害者情報センターに無償で提供され使用されている。データベースの使用方法についてはマニュアルを準備しており、更新は1年に4回行っている。

おわりに

 1990年のICTAカンファレンスで報告されたテクニカル・エイド情報サービスの現状について、入手した資料に基づき概説した。

 それぞれのシステムは、国情の違いにより細かな内容については相違点があるが、テクニカル・エイド・センターあるいは情報センターなどが中核を成し、その基盤の上に情報サービスを提供するシステムが構築されている。そして、直接障害者に関わる専門家を支援するための情報提供を主体としたサービスが実施されている。日本におけるテクニカル・エイド情報サービスは数年前から各地の自治体および関連機関で稼動し始めているが、拠点となるテクニカル・エイド・センターあるいは相談センターなどが十分整備されない状況で進められている。本報告が、今後における有効な情報サービス・システム構築の一助になれば幸いである。

参考文献 略

(注)Rehabilitation International(RI)国際リハビリテーション協会の専門委員会のひとつ。
  ICTAは、International Commision on Technology and Accessibilityの略。

兵庫県リハビリテーションセンター
**国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1991年6月(第68号)30頁~35頁

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