用語の解説 廃用症候群(disuse syndrome) 職業前訓練

用語の解説

廃用症候群(disuse syndrome)

 安静、臥床は疾病治療において重要であることは一般にもひろく知られている。しかしながら安静・臥床には同時にマイナス面がある。この「安静(活動性低下)の弊害」を強調した概念が廃用症候群で、身体の全部あるいは一部を使用せずにいること(活動性低下)によって、全身あるいは局所の機能的・形態的障害を生じることをいい、米国の早期離床・早期歩行およびリハ医学の経験や研究で確立された。また運動不足病、不動症候群などの名称も用いられる。諸症状は極めて多彩であるが、筋力低下、筋萎縮、関節拘縮、骨粗鬆症などの局所的廃用によるもの、心・肺機能低下などの全身的廃用によるもの、起立性低血圧などの臥位・低重力によるもの、知的活動低下などの感覚・運動刺激の欠乏によるものに大別できるが、実際にはこの4者はほとんど常に同時に存在しており、相互に影響していると考えるべきである。

 廃用症候群は、ごく軽微な疾患や外傷を契機としてその治療に伴う安静、活動性低下、また疾患でなくても単なる運動不足が身体機能を低下させそれ自体が身体運動を困難にし、生活の不活発化をまねくという形で悪循環を形成して進行していく。特に高齢者ではおこり易く、一旦おこると若年層に比べて治療(回復)は困難であり、「ねたきり老人」を作る大きな原因である。予防・治療のためには、必要以上の安静をとることを避け、その状態にあわせて安全な局所および全身の活動性維持、向上をはかることが重要である。

(大川弥生/東京大学医学部付属病院)

 

職業前訓練

 職業訓練(Vocational Training)がある特定の職業技能や機能の訓練であるのに対して、職業前訓練(Pre-Vocational Training)は、職種に関わらず、人が職業生活を送る上で最低必要とされる基本的能力(体力・耐久力・一定の作業速度・基礎学力)や態度(作業習慣・協調性・コミュニケーション)を養うものである(小島1972、西川1988)。

 そもそも職業前訓練は米国の作業療法士(OT)らが1920~30年代から発展させてきた職業前プログラムの一部であり、職業前評価と対をなすものであった(Krefting1985)。訓練方法としては主に作業見本法が用いられていたが、1956年にTOWER法が標準化されてからは、その導入としての職業前評価と訓練に役割が分化された。今日米国における職業前評価の用語と概念は「職業評価」や新たな「作業評価」の中に吸収されている(Holmes1985、菊池1990)。

 要するに、職業前訓練の目的は、障害者の職業人としての諸要因の発達指導であり、例えば雇用に見合う作業耐久性を身につけ、集中性や一貫した作業速度等作業への適応性を養い、さらには職場の規律を守り他の作業者との強調を図る等、職場での役割の認識と遂行能力を高めることにある。

 従ってその対象は、自ずとより重度の身体障害者や精神障害者、精神発達遅滞者となり、耐久性等はOT場面が、作業適応性等は職業評価場面でより良く対応出来る。

(菊池恵美子/東京都立医療技術短期大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1991年6月(第68号)45頁

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