特集/社会リハビリテーションの世界的動向 ハンガリーにおける社会リハビリテーション(抄訳)

特集/社会リハビリテーションの世界的動向

ハンガリーにおける社会リハビリテーション(抄訳)

Social Rehabilitation in Hungary

Dr. Pal Gado

 障害者に対する社会の姿勢は、かなり大きな変化を見せてはいるが、まだまだ慈善が主で、全国民に機会平等を実現するリハビリテーション・プログラムを提供すべき政府でさえ、貧困に対して本腰を入れて取り組んでいないように見える。

 一般の人々は、残存能力を駆使して自分で生計を立てている活動的な障害者の姿をイメージすることが未だできないでいる。統合教育のシステムが導入されたが、唯一これが西暦2000年の次の世代へ向けての突破口となるであろう。現存する社会の中の偏見は、教師や当局のみでなく、健常児や障害児の親たちが表明する拒絶感を反映している。

 ハンガリー国内では障害者の多くは仕事という重荷を背負うよりも、社会保障で暮らしていく方を望んでいる。1990―91年には状況がさらに悪化した。健常者人口の10%が貧困レベルすれすれのところへ押しやられ、全人口1,000万人のうち、約30万人は失業中である。社会的変革が続く中で、今は積極的な発展策を提案するよりも、現存する社会保障システムを見つめ直していくことがより現実策であろう。

 ここでハンガリーの障害者のためのいくつかの制度を紹介しておきたい。

1.所得税の減免

2.障害年金付きの早期退職措置

3.障害児のいる家庭への特別手当

4.在宅障害者のケアを提供している家族への手当

5.交通費優遇措置(車購入、交通費割引等)

6.住宅改造補助

7.障害者を雇っている雇用主に対する優先的な仕事の提供と授産所へのサポート

8.リハビリテーション用補装具への補助手当

9.市場経済導入後の物価上昇に備えての障害者保護

 公共の建築物や交通機関へのアクセスに関しては、奨励措置がとられてはいるものの法的規制はまだない。これらの制度はいくつかのケースにおいて、非常に好ましい援助を提供している。しかし、その他の援助を要する多くの人々にとっては解決策とはなっていない。ハンガリーにおいては、現在の経済状況では障害者の自立生活を支えていく余裕があまりないようである。ハンガリー社会は、障害者の自立生活に必要な在宅介護制度や介護者を提供することが難しい。より現実的な解決策を模索するとすれば、大規模施設を廃止し、小規模居住センターかグループホームを設立することであろう。現存の大規模施設では、若い障害者が慢性疾患の高齢者と共に生活をし、意義のある活動にも参加できず、挫折感の多い生活を強いられている。しかし幸運なことに最近では民間のイニシアチブが大幅に許可されてきているので、この方向への動きが見られる。今年6月に国内初の精神障害をもつ若者のためのホームが開かれ、時を同じくして身体障害者用の小規模グループホームも設置された。ハンガリーの行政機構も全体として大きな変化を見せており、さまざまな権限が中央政府から地方自治体の手へ委ねられてきている。この線にそって、コミュニティを基本としたリハビリテーションがより強化され、地方の障害者団体は各地区において自らの権利及び利益擁護のためのより多くの機会を得ることができるであろう。しかしそのプロセスはゆっくりとしたものであり、ハンガリーの経済が現在の危機状態を乗り越え、健全な社会市場経済に達することができれば、その効果を発揮することが可能である。現時点ではそれは早くても1993年になるだろうと予測されている。

ハンガリー障害者リハビリテーション協会(HSRD)の活動報告

 ハンガリーのRIの加盟団体はハンガリー障害者リハビリテーション協会(以下「HSRD」)(1)である。この組織は350名の会員を擁し、その多くは医者であるが、その他理学療法士、特殊教育教員、障害者、そしてリハビリテーションに携わるすべての職種を含んでいる。またこの組織は全国障害者協議会(2)とも密接なつながりをもっている。この全国組織は障害者の政治的圧力団体としての機能をもち、HSRDは主に身体障害者のリハビリテーションにあたっている。

 HSRDは4年に1回、国際レベルでの会議を開催している他、毎年国内での総会を開き、次の会議開催までの期間における全体的な方策を決定している。また、この総会は同時期に2日半にわたって開かれる科学会議(学会)とペアをなしている。1年のうちには各分野(移動障害、内部障害、小児リハビリテーション、言語障害など)の専門家による相当量の仕事がこなされ、各分野はそれぞれのプログラム(研究所訪問、講義、セミナーなど)をもって機能している。

 1991年にはHSRDから季刊誌「リハビリテーション」が発行された。1冊60ページから成るその専門誌は、国の内外から医学リハビリテーションのほかさまざまな分野における記事を収めている。

 また毎年、若手のリハビリテーション専門家を対象にコンテストが開かれ、最も優れた発表者には賞が贈られる。そのほかHSRDは毎年、医療分野に従事する人々でリハビリテーション専門家を目指す人に対して、10日間の研修コースを提供している。この種の大学卒業後のレベルでの教育を充実させるためのハンドブックが準備されつつあり、大学医学部でのリハビリテーション教育が強化されつつある。

 ハンガリーにおいてHSRDは、専門家の組織として、保健、社会福祉行政とつながりをもっており、政府の要請に応じて諮問機関となったり、また協会そのものがイニシアチブをとって、新しい法制度の導入や問題にかかわる時もある。

 国際化に伴って、ハンガリーのリハビリテーションの分野でも様々な国と2国間協力体制が組まれつつある。フィンランドとのプログラムではお互いの興味分野における専門家の派遣や交換が行われているし、オーストリアの労働者共済組合(3)とも、同様の交流が行われている。最近の社会政治的変革に伴って、ポーランドや(旧)東ドイツとのリハビリテーション組織の交流が非常に少なくなってきているという危惧もあるが、HSRDは1992年、そして1994年にもブダペストにおいて国際会議を開催する予定である。

(1)The Hungarian Society for the Rehabilitation of the Disabled

(2)The National Federation of the Associations of Persons with Disabilities

(3)The Austrian Workers' Compensation Board

(抄訳 飯村まきみ)

ハンガリー全国障害者団体連合


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1992年4月(第71号)17頁~18頁

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