特集/社会リハビリテーションの世界的動向 ヨーロッパにおける自立生活の動向(抄訳)

特集/社会リハビリテーションの世界的動向

ヨーロッパにおける自立生活の動向(抄訳)

Independent Living

Peter Mitchell

 自立生活の手段としてのパーソナル・ケアは、ここ数年、RI社会委員会の任務の中の鍵となる要素である。1988年の浜松市で開催された「社会リハビリテーションセミナー」において、私はヨーロッパのメンバーに配布されたアンケートの結果を発表し、アジア・太平洋地域については岡由起子氏から報告があった。

 自立生活については、1989年10月トレドにおいて開催された、社会委員会のミーティングでも取り上げられ、翌月ローマで開かれたRIヨーロッパ共同体協会(Rehabilitation International European Communities Association : RIECA)のセミナーでも、ヨーロッパ委員会のための、自立生活に関する方策が提案された。同年4月、障害者団体が一堂に会し、パーソナル・ケアについての 「ストラスブール宣言」を発表、さらに1990年9月、オランダで開催された会合において、自立生活のためのヨーロッパ・ネットワーク(European Network on Independent Living)が設立された。

 これらの活動は、北米で様々な討議や活動が行われているのと同様に、ヨーロッパの障害者にとっても、重要な話題であり、3月には自立生活に関するDPIのニュースレターの第1号が発行された。その中から一部引用してみたい。

「自立生活とは自己決定であり、一連の動作を遂行していく機会と権利を意味する。その中には失敗する自由を持つことも含まれている。失敗を通して―障害のない人々もそうするように―学んでいくのである。」

 また、ヨーロッパ・ネットワークの基本方針は以下のとおりである。

「自立生活とは意識の高揚、権限・能力の付与、そして解放のプロセスである。このプロセスがすべての障害者に機会・権利の平等と完全な社会参加を可能にさせるのである。」

 これらの目的を政府のプログラムの中に組み込んでいくのは、実は非常に難しい仕事である。目下我々は欧州地域において、障害者自身が介護者を雇うことができるような政府のシステムを推進しつつあるが、(メンバー各国で様々な制度が考えられてはいるが)、現在のところそれが国の方策として軌道にのっているのは、おそらくデンマークのみであろう。

 このデンマークのシステムについて、ここでは簡単に2点をあげておきたい。まず、パーソナル・ケア提供システムが、社会保障制度の中の最優先順位を占めているということである。社会保障制度が経済的に十分なパーソナル・ケアをうることを可能にしている。次に雇う側である障害者は、雇用関係を結ぶことによって生じる責任を、雇用者として十分に果たし得る、という条件を満たさなければならないということである。この条件を満たすことが困難な精神的、知的障害者はその結果、この枠から除外されてくる。

 今日までの障害者運動は、比較的豊かな国々の中の自分自身の意見をはっきり表明できる障害者が、自立生活に向けて必要なものを要求するという形で進行してきたと言える。オランダのヨラン・コスター・ドリースは北京で聞かれたワークショップで次のように述べている。

 「一部では、自立生活運動に関わる団体が推進している制度は、いわゆる『強い障害者』のみにあてはまるものであるという見方がある。『強い障害者』とは自身の障害を恥じることなく、外部との対決を恐れずに、自分の置かれた状況の改良にむけて、非常に多くのエネルギーを投じることができる人々である。確かに、まだ『自分が安全でいられる場所にとどまっている』人、傷つきやすい人、自分自身のために戦うことに慣れていないおとなしい人々にとって、自立生活はまだあてはまらないだろう。しかし自立生活運動のメンバーたちは、解放運動の先駆者として、仲間の障害者達に、より自立した人生にむけての道を示唆していくことも可能である。」

 (「International Rehabilitation Review」1991年6月号より抜粋)

 それゆえ私はこのセミナーで、自立生活の理想(目的)の発展を2つの面から詳しく検討していきたい。その1つ目は人々は自立を達成するために、それぞれ異なった種類の援助を必要としているだろうということである。2つ目は各国の社会経済状況が異なるので、デンマークで行われているようなサービスが、他の国で必ずしも遂行可能ではないということである。北ヨーロッパでの自立生活運動とは、概して、ケアの皆無に対する抗議ではなく、その不十分さに対する反応だったのである。運動の指導者のほとんどは、在宅介護を自らの管理下におくことを望んでいる。1988年の浜松市でのセミナーで私はある試みを企てた。それは自立生活運動の基本方針―選択と管理―とはやや矛盾するものであるが、その基本方針が限られた生活環境(施設)のなかでも、いかに実現可能かというものであった。南、中央、そして東ヨーロッパにおける自立のための詳細な青写真はまだないが、世界の多くの国において、在宅介護の質の向上は自立生活へむけての重要なステップなのである。

 チェシャホームやフォーカス・フラットのような北欧の身体障害者の施設は、いかにそのサービスが不十分で、制限が多くても、精神障害者のための施設の多くに較べれば、それらはまるで天国のようである。

 これまでのところ、社会委員会のなかで重度精神障害者の自立生活の意味についての討議はまったくと言っていいほどなかった。自立生活運動は障害者の市民権確立とともに発展してきたが、精神障害者に対する社会的姿勢、容認とともに彼等が必要とする援助を得るための、政治的運動が遅れをとるかたちとなった。私自身の知識は南、中央、東ヨーロッパと限られてはいるが、障害者の置かれた状況の改良は、政治的変革における必須条件であり、そしてそれが完全平等と自立を達成する上での資源をもたらすものと考えている。

(抄訳 飯村まきみ)

王立障害者リハビリテーション協会嘱託


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1992年4月(第71号)19頁~20頁

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