特集/社会リハビリテーションの世界的動向 障害をもつ人々の社会運動の諸モデル(抄訳)

特集/社会リハビリテーションの世界的動向

障害をもつ人々の社会運動の諸モデル(抄訳)

The Social Movement of Disabled People

Prof. Richard T. Smith

 近年、障害をもつ人々の社会運動は、特定のグループのための治療的サービスよりはむしろ、普遍的な目的のための集団的努力に焦点をあてる傾向に変化しつつある。この論文で示されるのはほとんどアメリカ合衆国で起こったことを基にしているが、状況的な枠組みは障害者の社会運動一般に適用するだろう。

社会運動の歩み

 1960年代の市民権運動により、マイノリティグループに対する雇用と教育の機会、政治的権限、公共施設へのアクセスなどの権利を保証する法律が導入された。この社会的背景が障害者グループに同様の権利、すなわち社会において差別的に下位分類された層としてではなく、普通の市民としての権利を求めることに影響を与えたのである。

 アンスパック(Anspach)が示唆するところによれば、この政治的行動によってこそ、障害者が資源収集と力の結集によって目標を達成する能力を有していることが立証された。(Anspach、1979)。「主体性の政治活動」と呼ばれるこの障害者権利運動家による闘いは、自立した人としての障害者に対する大衆の理解を変革させる方向性をもったものであった。

 この変化に言及するためには、障害者グループの動向の検討が必要である。医療やリハビリテーションなどの治療的サービスの提供に関する発言権を得ようとして行われた努力のほとんどは当初、特定の状況下にあるグループにより、基本的必要性を満たすための限定された資源を得ようとして行われていた。各々のグループの活動はそれぞれ個別の利益を促進しようとして企てられたのである。

 提供者主導による医学―リハビリテーションモデルは、提供者の指導とコントロールの下で行われるケア供給における個人的アプローチであったが、これにより様々なタイプの障害をもつ人々に対する障害種別に選別された援助が提供されるようになった。各々のグループはサービスの利益を得ることによってニーズを満たそうとした。この段階において互いに独立して活動している障害者グループは自身の要求に基づき熱心に運動を行ったのである。

 このように障害者へのサービスが発展していく過程で、クライエントとしての障害者の利益は必ずしも満たされていないことが少しずつ認識されるようになった。障害者自身によるこの共通の認識は、もっと一般的な社会運動、すなわち市民権運動(マイノリティの権利擁護)やそれに続くフェミニスト運動(女性の権利擁護)、そして消費者運動(市民一般の権利擁護)のおかげで確固たるものになっていった。これらの権利運動による影響で、異なる種類の障害をもつ人々の間において、集団としての障害者の目標は、平等を目指す社会運動と同じ立脚点に立つものであることが明白になってきたのである。集団の意志を訴え、市民の傾聴を求める障害者グループが今、いかに多く存在し、多くの人がその特別のニーズに関心をもつようになったかは特筆に値する。

社会運動のタイプ別分類

 なぜアプローチの様式が、当初の分断されたグループ活動からより広域の集団的運動へと変わったのだろうか。グループの内部には社会的階級(教育・職業・収入のレベル)や地理的要因による異なった要素を含みがちであるが、それぞれ特有の構成要素をもっている。また、この相違点は保健・福祉の提供者から受ける個別的ケアによっても強められる。そして多くの障害者グループは地域の乏しい資源を競い合わなければならないことにも気づいている。それらにもかかわらず、障害者グループは比較的まとまりのある集団を形成し、互いの相違点と資源競争を包括してしまった。

 別々の団体ごとの障害者運動は、次に続く活動を広めるための基礎ブロックのひとつであったように思われる。より大きく広がっていた一般の市民権運動は、障害者グループが互いに共通の利益を促進し、しかもそれを政治的活動によって行うための刺激として働いた。異なる障害をもつ人々のグループによる集団活動のための基礎作業は運動そのものの内部と外側から生じたのである。

 これまでの運動のタイプは以下のように分類されるであろう。

A.セルフヘルプ・グループ(self-help group)

 障害者の中にはインフォーマルな、典型的に草の根レベルで活動しているセルフヘルプ・グループが多くある。これらのグループの活動は機器の提供、自己表現のための助け合い、情報の提供などを含むメンバ一間の支持的援助を目指している。(ヘルパー―セラピー原則、すなわち他人を助けることによって自分を助ける原則がここでは働いている。)

 セルフヘルプ・グループは聴覚障害者、視覚障害者、ガンをもつ人々、心臓病手術経験者などがそうであったようにそれ自身がよりフォーマルな組織になり得る。近年までは、ケアの提供方法の改善やサービスの充実を求めたり、普通の市民としての障害者の権利を獲得するための法の確立などの視点による制度システムの変革にむけた努力はほとんどなされてこなかった。しかし最近のセルフヘルプ・グループでは地域における権利獲得のための組織的努力へと活動が変化してきた。グループの役割は互いの支持的援助という特殊なものから必要なサービス獲得のためのものへと広がっている。しかしこれらは特定のグループのニーズにあわせて企てられるものにすぎないとも言える。

B.障害者グループの連合体

 セルフヘルプ・グループは政治力の獲得にむけた運動における積極的な役割を負うようになった。そして組織化されたグループの多くが、相互の利益を促進するために他の障害者グループと「連合体」を形成することにより、その視点を広げていった(May & Hill、1984)。会員数は連合に加わるグループの広がりによって増加するようになり、地域の障害者グループの一部またはすべてを包括し、組織形態としては高度にフォーマル化されるようになる。互いの利益の促進によってグループが統合され、その目標を例えば、障害者の権利を保証し社会に統合させる、といった広範なものに広げることができる。「ニュージーランド障害者会議(New Zealand's Disabled Persons Assembly, Inc.)」は連合体のユニークなタイプを示しており、障害者団体とサービス供給団体を統合したものである(Wasserstrom、1991)。

 連合体は、市民権をより確固たるものにするために立法化に向けて議員にロビー活動を行ったり、サービス提供者の意識を変えようと試みたりすることを通じて、変革の第一線に立つようになった。またそのことを通じて彼らは影響力を及ぼす方法を獲得してきたと言える。社会や政府、あるいはサービス提供者の目からみた彼らの地位は変わりつつある。障害者は徐々に自身の生き方をコントロールするまでになってきたのである。

C.ボランティアグループまたは組織

 障害者グループと対照して、障害者に代わって、または彼らを支えて活動してきたボランティアグループや組織の発展の歴史がある。多くの場合それは愛他心や宗教的な信念を行動に移している人で、自身は障害者ではない個人によって構成される。彼らは無償のボランティア原則にのっとって自分の時間を提供し、それによって個人的な満足を伴うものである。これらのグループは通常、その活動の対象を特別のグループに向けている。しかも素人からなるその会員は普通、日常生活援助のようなケアや危機的状況における精神的な援助、または情報照会サービスを行っている。この個人的なやり方は、政府の役割やサービス提供に従事する専門職の役割とは全く別のものである。ボランタリズムは社会の主流として存在するものであり、それが区別的かつ限定的基盤にすぎないとしても、障害者のニーズに目を向ける限りにおいて、その幸福に貢献するといえるだろう。

D.政府との連携

 障害者運動が政府の権威とフォーマルに結びついて活動することがある。障害者グループに対しての公による認識は、障害者の地位の改善や目標の向上を企図した立法を行うことで強化される。国は、障害者による地域資源のシェア獲得における障害者グループの役割をある程度までは合法化している。これは社会における障害者の地位を正当化するための制度的メカニズムである。

 一般にこの集団的代弁のための連携形式においては様々な種類の障害者グループ、および政府側からの代表者(障害者と非障害者からなる)を含む。政府との連携は地域レベルでも、州や県レベルでも、また連邦や中央レベルでも効果的であろう。事実、障害者グループの連合体は国家からの代表者と協力して活動しており、基本的にそれは障害者の権利の代弁を行っている。そしてこの障害者グループと政府機関の代表者の連携は障害者による政治的活動をさらに進めさせる傾向にある。

今後の課題

 障害者は比較的短期間に多くのことをやってきた。個人個人を特別の状況を共有する集団へと組織し、各々の利益を主張する中で自らの潜在的な能力を自覚し、連合体をつくり、ついには消費者グループとして政府との協力による活動を通じて集団の意志を通すようになってきた。かつて自分の生き方を選ぶことはできないものと決めつけられ、提供者本位の扶養と援助のためのサービス制度を被ってきたが、障害者グループは社会における自身の地位を変化させるだけでなく、一般市民や国家、そしてサービス提供者の認識までも変化させてきたのである。彼らの進歩は自身のことを管理することにおける自律性の促進を目指した自立生活運動や、地域の資源や施設へのアクセスの改善に反映されている。また立法化を通じて必要な資源配置を行ったり、市民としての障害者の権利を保障しようという社会自体の意欲にも反映されてきている。

 障害者権利運動の行く手にあるのは、今日までにやり遂げられてきたことと同様に困難なことである。反動的な流れや、障害をもたない人の助力が得られないことや、障害者自身による無関心さによってこれまでに獲得したものを失うことがないようにするためには、障害者団体による更なる活動が必要である。

 障害者の権利を守りまたは促進するために他人だけに頼ることは確実に障害者をこの運動が始まる以前の状態、すなわち障害をもたない人に自らの運命を決定されてしまう状態に戻すことになるだろう。障害者権利運動の目標は政治的代弁から離れるべきではない。むしろ、ゾラ(Zora)が示唆したように(Zola、1989)、障害者グループの連合体は、より一般的な政策形成を探るべきであり、「障害者政策の普遍化」に目を向けるべきであろう。

(抄訳 河村ちひろ)

メリーランド大学教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1992年4月(第71号)29頁~31頁

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