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資料

高齢者リハビリテーションに関する英米の動向

木村伸也

上田敏**

はじめに

 人口の高齢化はアメリカにおいても日本同様に大きな問題であり、リハビリテーションにおいても老年医学的リハビリテーション(geriatric rehabilitation)という独自の分野をなして多くの文献がある。今回は比較的最近の雑誌特集および単行本を紹介する。

1.高齢脳卒中患者の医学的管理

 これは「医学の現状レビュー:物理医学リハビリテーション編」という特集中心の季刊誌の3巻3号(1989)の特集でR.V.Ericksonの編集になる。その内容を掲載順に紹介すると次のとおりである。

1)高齢脳卒中患者のリハビリテーション:老年医学の初歩

症状の潜在化/病態の重複/非典型的な発症

2)機能評価

3)脳卒中後の予後予測因子

救命の予測因子(死亡率)/機能回復の予測因子/包括的な機能評価/社会復帰の予測因子:社会復帰の可能性を予測することは、患者のQOLと長期入院のコスト削減の面から重要である。次のような研究が代表的である。

 Granger:Barthel Index(BI)スコアのみでは長期の社会生活の予後予測は無理。BIの全スコアと下位4項目の比較では、退院時スコアの予測には前者が、退院後の社会生活の予測には後者が優れていた。スコアが高いほど予後もよいということは間違いないが、入院可否の判断根拠となる適切な感度と特異性をもつ境界スコアは存在しない。Kotila:家族の有無が家庭復帰の重要な因子である。Framingham study:社会復帰の予測因子としては能力障害の重症度と同程度に家族と社会的因子が関与する。New Britain Memorial Hospital:認知機能の障害のある場合家庭復帰が難しい。失禁が第3の因子。

全体に社会的な支援体制が重要。

4)脳卒中の症候学

前大脳動脈領域の症状/失語症/右頭頂葉症状/後大脳動脈領域の症状(脳幹障害の症状/後頭葉の症状)/Lacunar Infarction/出血/運動麻痺のパターン/感覚障害/高齢者における特別の配慮:蓄積する重荷

5)高齢者における抗凝固療法の役割と危険

脳卒中の進行あるいは再発の予防(完成脳卒中/進行脳卒中/一過性脳虚血発作)/深部静脈血栓と肺梗塞の予防・治療(頻度:25―73%、死亡率の4位/深部静脈血栓の予防:少量のワーファリン投与/発症後の深部静脈血栓の治療:ヘパリン静注、ワーファリン経口/出血病変の合併/高齢脳卒中患者での抗凝固療法の考え方:治療開始前に考慮すべき因子、高齢者における抗凝固療法のリスク

6)嚥下過程:加齢と脳卒中の影響

嚥下の4相/危険因子の影響/評価と治療の鍵:チームアプローチ、ベッドサイド検査/X線透視ビデオ(VFS)/治療:非経口摂取、経口摂取

7)脳卒中患者の栄養状態の評価

(1)臨床所見(体格、X線、身体所見、心理)/(2)食事内容/(3)生化学的/(4)栄養状態の機能的指標/低栄養の臨床症状/栄養状態評価のための臨床検査項目/エネルギー消費量の測定/蛋白必要量の測定/脳卒中のリハ患者の評価にとっての特別の考慮:経口摂取をすべきか否か/定期的な再評価/評価方法の定期的な点検

8)高齢脳卒中患者の肺炎

高齢者の肺の病態生理学的変化/加齢と下部呼吸器感染のリスク/肺炎の諸型(院内感染、誤嚥性、閉塞後、胸水貯留後、結核)/呼吸訓練(予防的呼吸訓練/呼吸器感染治療のための呼吸訓練)

9)高齢脳卒中患者の尿路感染症

病態生理/無症候性細菌尿と尿路感染症:無症候細菌尿、症候性尿路感染、カテーテルからの感染/診断:検査、画像診断、細菌学的検査/治療:管理上の問題点(予防的抗菌剤投与、長期のカテーテル留置)/予防

10)高齢脳卒中患者の皮膚のケアと褥創の管理

褥創の原因(外的要因:圧、剪断力、摩擦、湿気/内的要因:貧血、拘縮、痙性、糖尿病、低栄養、浮腫、肥満)/諸段階/治癒過程/管理(刺激要因の除去、健常組織の保護/創のHydrartion、感染予防、壊死組織の除去、患者教育)/栄養状態の評価

11)高齢脳卒中患者の高血圧

高齢者の高血圧の病態生理学(正常の加齢と心血管系:心臓の変化、腎臓の変化、内分泌因子/高齢者の高血圧)高齢者の高血圧の発見と評価/治療手技(非薬物療法/薬物療法:利尿剤、べータ[遮]断剤、血管拡張剤、ACE阻害薬、中枢作用性抗アドレナリン、末[梢]作用性抗アドレナリン)/管理上の問題とリハビリテーションへの影響(高齢脳卒中患者の降圧治療と脳血流/起立性低血圧をともなった高血圧/高血圧と糖尿病/運動の高血圧に対する影響/高血圧の脳卒中患者における経済的、社会心理的要因)

12)脳卒中患者の尿失禁:原因とリハビリテーション

正常の排尿:解剖、神経解剖、外尿道括約筋、神経生理/評価/脳卒中の回復過程での膀胱機能障害の診断と治療(神経因性膀胱/尿貯留障害の治療/尿排出障害の治療)

13)慢性閉塞性肺疾患をもつ高齢脳卒中患者の管理

呼吸機能:神経筋作用の側面/慢性用塞性肺疾患:定義、診断と評価、治療/脳卒中が呼吸機能に及ぼす影響/呼吸訓練プログラム

14)冠動脈疾患をもつ高齢脳卒中患者のリハビリテーション

冠動脈疾患のリスクをもつ患者の発見/冠動脈疾患の脳卒中リハに及ぼす影響/冠動脈疾患の診断/モニター:ホルター、血圧モニター/冠動脈疾患がある場合の理学療法の選択:注意事項~等尺性運動、疼痛、呼吸困難、たちくらみ、疲労等

15)脳卒中による気分の変容・障害

定義と評価の問題/頻度と罹患率/病因と解剖学的関連/臨床所見/診断/治療

16)精神状態の評価:譫妄

罹患率と重要性:急性疾患で入院中の老人の20から40%が譫妄状態に陥ると言われる。/昏迷状態の原因(一般的原因/薬物に起因するもの)/診断(見落としが多いのが問題/譫妄と痴呆の鑑別/昏迷状態、意識障害/注意力のベッドサイド検査法)/病態生理/管理(眼鏡・補聴器の使用、接し方、部屋の環境、安全性/栄養/薬物療法)

17)高齢脳卒中患者のリハビリテーションにおける倫理的問題

入院への過程(初診時の主治医がリハの適応なしとしてしまう可能性/高齢であるという理由だけでリハの効果がないとされてしまうこと/医療費の支払:Medicareによる支払の制限/入院審査委員会が自宅退院の可能性のない患者を拒否する/施設側が患者のニーズとは無関係の不文律をもっていること)/患者と医療チームの相互作用(古くからの父権的モデルと契約的モデルではなく教育的モデルを)/家族との関係/退院の決定(退院後の維持的リハの継続が困難であることが問題―社会資源の再配分が必要、退院後に地域の社会資源を利用できるようにすること)/自活能力(Alexander(1988):(1)意志疎通で意志決定反応が必要であることに気づくこと、(2)意志決定の段階で認知能力を統御できること、(3)適切な反応をするための適当な行動能力)

18)高齢脳卒中患者の健康管理の財源問題

脳卒中は単一疾患としては合衆国で最も金のかかる病気といわれる。/脳卒中の結末とコスト(年85億ドルの脳卒中による支出、リハを行ったほうが支出は減るという報告)/急性期治療に対する支払(65歳以上では主にMedicare/DRG014では同じ脳卒中なら年齢や合併症の数に関係なく一定額しか支払われない)/Medicare Catastrophic Coverage Act/リハに対する支払/長期的ケア/将来の方向

2.リハビリテーションと高齢化

 これは同上誌の4巻1号(1990)の特集でF.Patrick MaloneyおよびKevin M.Meansの編集になるものである。内容は次のとおりである。

1)加齢が骨格筋量に及ぼす影響

加齢による筋容積の減少―加齢→筋容積↓、脂肪↑(事故死した男性の死体解剖での結果、外側広筋の断面積は80歳では25歳の40%減少する。)/高齢者の筋容積に運動が及ぼす影響(運動はある程度、筋容積の加齢による減少を遅らせることはできるが、完全に維持することはできない。)/加齢が筋の構造に及ぼす影響(哺乳類の骨格筋の筋線維タイプ/加齢が筋線維タイプに及ぼす影響:Ⅰ型↑、Ⅱ型↓/加齢による筋萎縮は筋線維の脱落あるいは筋線維のサイズの減少によるものか―各筋線維の萎縮が主で、線維数の減少はない。/骨格筋の神経原性変化)/加齢が骨格筋機能に及ぼす影響(加齢による筋力の低下/加齢による筋収縮頻度の減少/加齢による筋持久力の低下/運動が高齢者の筋力に及ぼす影響)/加齢が最大酸素摂取量と筋代謝活性に及ぼす影響(加齢の最大酸素摂取量に対する影響/加齢が筋代謝に及ぼす影響)

2)アルツハイマー病とその他の痴呆症

痴呆(定義:DSM―ⅢR/罹患率:65歳以上の米国人の15%、施設収容老人の50%以上/譫妄と痴呆/痴呆の原因:48%がアルツハイマー、20%が脳血管性、可逆性のもの12%、不明8%)/アルツハイマー病(病理/臨床所見/神経伝達物質の欠損/推測される病因と今後の研究:遺伝的要因(21番染色体の異常)、感染については明確な根拠なし、アルミニウム中毒説、その他/管理)/脳血管性痴呆(病理:無酸素状態、大梗塞、多発梗塞、Binswanger's disease/臨床所見:高血圧/予防と症状進行の防止法:抗血小板療法はSDATとMIDの合併例では問題あり。/画像診断:CT、MRI、PET、SPECT

3)加齢の心理学的側面

精神衛生/精神障害/ストレスと適応/健康の自覚:M=P(Os)×V/C(M:motivation, P(Os):probability of successful outcomes, V:perceived value, C:estimated personal costs)/評価と治療上の問題:精神医学的評価だけでなく、機能的評価、環境因子の評価を加えるべき。精神衛生サービスの利用が高齢者では低いことも考慮にいれる必要あり。治療については、包括的な対応が必要。健康状態を自覚できる、自信の自覚をもてるように対応すること。/認知能力(知能:differential pattern of psychometric intellectual decline/記憶/問題解決能力/論理的思考能力/評価とリハビリテーション上の問題)

4)高齢者の認知能力のリハビリテーション

定義:=remediation, retraining, neurotraining/科学的基礎/概念モデル:Weingartnerらの概念/評価:従来の神経心理学的評価法は最近の新しい概念を基礎にしていないこと、また、認知障害が日常生活にどう影響するかを評価できないことが問題である。/治療の諸型:(1)障害を回避する代償法の習得、(2)新しい反応の方法を開発する、(3)障害を直接治療/結論:(1)評価は患者の能力を反映するべきものである、(2)残存認知能力と治療法が適合するように注意すること、(3)治療は患者の自然な日常生活のなかで行われるべきこと、(4)非認知領域の機能も考慮にいれること。

5)転倒と骨折

骨粗鬆症(危険因子―女性・高齢・白人あるいはアジア系、家族歴・低Ca食・運動不足・早期の閉経・飲酒・高リン食・高蛋白食・カフェイン摂取・喫煙)/転倒(危険因子―内部因子〈視力障害・聴力障害・前庭障害・末梢神経障害・痴呆…〉/環境因子〈照明・床の滑り・段差の高さ・トイレ座高の低さ…〉/転倒の治療とリハビリテーション)骨折(疫学:USA―骨折120万のうち538,000人は脊椎圧迫骨折、172000Colles、227000hip/大[腿]骨骨折の生体力学/大[腿]骨骨折の分類:頚部内側、転子間、転子下/外科的治療/リハビリテーション(リハ医学的評価/治療手技:TENS等/歩行訓練:術後の歩行訓練開始時期/運動療法/作業療法:ADL/効果)

6)変形性関節症

背景/病態生理学/臨床所見/薬物療法:薬物使用には慎重であること、予防が重要/リハビリテーション:早期リハ開始の重要性。疼痛の緩和、関節への負荷転減、ROMの維持、筋瞬発力・持久力維持、日常生活動作の向上

7)関節置換術

股関節:感染の予防(超無菌手術室)と接合部の緩みの予防/膝関節:膝関節の運動の複雑さのため股関節よりも難しい。/他の関節(肩と肘:緩みが問題/手・指・足趾/足)手術適応/禁忌/関節置換術の現在:(TKA:90%で4―5年以上の良好ないしは優秀な成績/THA:臼蓋にはUH-MWPE、大[腿]骨側には種々の合金(コバルト/クロム/モリブデン等)90%以上で優秀あるいは良好な成績/他:金属/プラスチック関節)/リハビリテーション:(TKA:術前、術直後、術後早期、リハの進行をおそくする因子/THA:術前、術直後、術後早期、リハの進行をおそくする因子)

8)高齢切断

高齢切断の90%以上が血管性、切断後の死亡率も高位ほど高い。/リハビリテーション(術前/術後:術後の創部ドレッシング:soft, semirigid, rigid plaster cast/術後リハ:早期に残存肢の筋力増強、ADL訓練等/器具:家屋改造/義足装着前の家庭訓練)/義足使用に必要なエネルギー/義足なしの場合の必要エネルギー:A/KはB/Kに比して義足歩行時のエネルギー消費が高い。/心血管系への配慮/切断者の臨床的評価:視力・聴力・感覚、拘縮、残存肢の筋力、既存障害の有無/義足の検討(ソケット:PTB、四辺形ソケットに加えて、Ischial Containment Socket/懸垂:より近位での安定した懸垂方法の考慮。A/KにThe 4-Bar Linkage Kneeは軽量で立脚期の安定性に優れる。/足部:SACH, The Grensinger multiaxis foot, Seattle Foot, Seattle Lightfoot)

9)末[梢]神経障害

病理:軸索変性か、脱髄か/臨床的特徴(症状と徴候:感覚障害、異常感覚、運動障害、自律神経障害)/一般的な末梢神経障害(糖尿病性/アルコール性)/管理(診断一問診と身体的所見、電気生理学的検査/治療―原因物質の除去・基礎疾患の治療、G-Bの急性期治療、アルコール性の場合、ビタミンの補給、糖尿病性の場合/リハ―拘縮予防、装具、足部潰瘍、早期の筋の易疲労性に注意等/合併症の予防、特に皮膚の防護)

10)高齢患者の疼痛管理

一般的注意事項

高齢者における疼痛の自覚:10から20%の疼痛自覚の減少が高齢者に見られる。/全身管理:加齢にともなう生理学的変化を考慮にいれ、疼痛の緩和だけでなく活動性・社会性の向上を目標とすること。/急性疼痛の管理:物療、NSAIDs、局麻/慢性疼痛/癌性疼痛:抗うつ薬、マイナートランキライザー、外科的治療

頭頚部癌:ブロック/上肢の癌:Pancoast tumorにはposterior rhizotomy、乳癌術後の肩手症候群には交感神経ブロックが有効。/胸痛:癌性―後根切除/肋間神経障害―交感神経節と肋間神経の同時切除

癌による腹痛:上肢腹部痛―腹部神経叢ブロック/下腹部、下肢疼痛―cordotomy, myelotomy, 硬膜下ブロック

良性疾患による慢性疼痛

頭痛:巨細胞性血管炎は失明を招く等、重大な疾患を鑑別するためにCT、MRI等必要

三叉神経痛

ヘルペス後神経痛:抗うつ剤、TENS、PT、DREZ(dorsal root entry zone)

頚肩部痛:変形性頚椎症/腰背部痛/Fibromyalgia

11)癌のリハビリテーション

癌の問題の大きさ/リハビリテーションの原則/心理的問題:癌を心疾患や糖尿病と同じ慢性疾患とみなすこと/高齢癌患者の管理上の一般的問題(治療法の選択:腫瘍・患者・医師のそれぞれの条件で決まる。/血管確保/栄養/筋骨格系の問題:筋骨格系の廃用予防/疼痛コントロール/終末期ケアあるいは快適さの確保)/部位別リハビリテーションの問題(乳癌/大腸/肺/頭頚部/婦人科)

12)嚥下障害のリハビリテーション

頻度/発症/嚥下の生理と病理:口腔準備相、口腔相、咽頭相、食道相/評価/病態生理と治療法:口腔準備相、口腔相、咽頭相、食道相

13)尿失禁のリハビリテーション

原因と評価/治療(薬物療法/外科的治療)/行動療法(バイオフィードバック/再教育訓練/蓄尿方法)

14)性と加齢

性生活に関する調査:高齢者の性生活調査方法の問題点。最近の調査結果では加齢にともなって性行動は減退するものの健康な高齢者ではこの減退はわずかである。性生活の質と満足度は年齢とともに増加する傾向もある。

正常の性的機能の変化

男性:男性ホルモンレベルの加齢にともなう低下はわずか。男性ホルモンと性欲の関係は高齢者の場合大きくない。NPTのみを性的不能の原因診断に用いるべきではない。

女性:閉経を境に大きな変化。

高齢者の性的機能障害

糖尿病、心臓病、前立腺肥大、乳癌による乳切、腎疾患、アル中、等の性機能に影響する因子。高齢者の離婚率の増加。うつ病。

診断的評価

性生活の聴取を患者およびその配偶者からえること。

病歴、身体的、心理的所見。

NPTの信頼性は低い。

治療

原則は成人と同じであるが、高齢者の場合、他の疾患、うつ状態をもつものが多く、これらの疾患とその治療薬が性機能に影響することを考慮する必要がある。

最近の治療法の進歩:パパベリン、催眠療法。

15)高齢者のリハビリテーションにおける倫理

意志決定:自己決定能力のある患者とそうでない場合

長期ケアとリハビリテーションにおける意志決定

(1)突然障害をもった患者のリハビリテーションの可能性を理解できない。

(2)うつ状態

(3)自己イメージの変化

(4)家族の役割が不明確

目標設定にあたって本人、家族とのコミュニケーションが不可欠。

生命延長のための治療の制限

急性期治療の制限:利益と負担の比較

長期ケアにおける治療の制限:アルツハイマー末期の経管栄養を継続すべきか、否か。

リハビリテーションにおける治療の決定

16)1990年代以降の高齢化

The Graying of America(アメリカのたそがれ)/人口統計学のドラマ/新しい世代:若々しい老人/1990年代以降の高齢化の問題の骨格/1900年代以降の予測因子と予測―2020年にむけての予測:寿命の延長、男女人口比の増加、教育水準の向上、疾病構造の変化(悪性疾患の減少、COLDの減少、動脈硬化性疾患の減少等)/障害発生率の抑制/雇用、早期の退職、社会補償/医療費の分配とメディケア・メディケイド法/高齢アメリカ人法

3.加齢とリハビリテーション

 これはStanley J.BrodyおよびGeorge E.Ruff編の、1986年にSpringer社から発行された単行本で1984年にワシントンで行われた第一回全米高齢者リハビリテーション会議の記録である。そのテーマを紹介すると次のとおりである。

Ⅰ.リハビリテーションと高齢者―概観

1)加齢、能力障害、そして治療的楽観主義

2)加齢過程:生物学的および心理社会的考察

3)加齢、精神衛生、そしてリハビリテーション

4)障害高齢者リハビリテーションの目標―概念的アプローチ

5)障害高齢者の特徴とそのリハビリテーションへの関連

6)高齢者リハビリテーションの公衆衛生的側面

7)公的支援システムが高齢者リハビリテーションに与えるインパクト

8)障害高齢者のリハビリテーションにおける非公的支援システム

Ⅱ.精神衛生と高齢者

9)リハビリテーションとアルツハイマー病

10)老人のリハビリテーションにおける心理社会的および精神衛生的諸問題

11)高齢精神遅滞(発達障害)者―サービス提供システムへのチャレンジ

12)地域における高齢障害者の状態

Ⅲ.感覚障害

13)盲および視覚障害老人のリハビリテーション

14)聾および聴覚障害老人のリハビリテーション

Ⅳ.器官障害

15)高齢心疾患患者のリハビリテーション

16)脳卒中とリハビリテーション

17)筋骨格系障害

Ⅴ.社会的・環境的側面

18)自立能力と自立生活のための機器

19)関節炎・リウマチ性疾患の社会的影響

20)高齢者差別と障害者差別―二重の桎梏

21)高齢障害者の雇用:現在の環境、見通し、そして研究の必要性

Ⅵ.結論

22)Can You See What I See?

23)加齢とリハビリテーション―社会運動の誕生

24)加齢とリハビリテーション―会議のまとめ

4.高齢者の多文化的保健とリハビリテーション

 これはAmanda J.Squires編、Edward Arnold社発行(1991)の単行本で、イギリスにおける多文化(多人種)状況を反映して、少数民族に属し、言語的困難があり、風俗・習慣・食物などの異なる老人が障害をもった時の医療とリハビリテーションの問題点を21章の分担執筆で種々の角度から追究している。

おわりに

 以上、きわめて表面的な紹介に終ったが、高齢者のリハビリテーションが英米においても深刻な問題として受けとめられ、真剣に対処法が議論されていることはうかがうことができると思われる。

東京大学リハビリテーション部
**帝京大学市原病院リハビリテーション部


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1992年10月(第73号)28頁~33頁