特集/高齢者・障害者と居住環境 オーデンセ市における高齢者の居住環境

特集/高齢者・障害者と居住環境

オーデンセ市における高齢者の居住環境

野村歓*

 デンマークの地方自治体で展開されている在宅ケアシステムは、最近わが国でもよく紹介されているが、筆者は、1991年秋、童話作家アンデルセンの生まれ故郷として有名なオーデンセ市を訪ねる機会を得、そこで、市の施策担当者から高齢者の居住環境について直接話を聞くことができ、また高齢者住宅を視察する機会を得たので、これをまとめてみた。なお、本論を執筆するにあたり、「ELDERLY POLICY」(ODENSE MUNICIPALITY 1988)を翻訳(中島和さんによる)し、資料とした。オーデンセ市の人口は17万2,000人、うち65才以上の人口は約2万5,000人である。

1.居住環境整備の歴史

 1950年代の後半から、ホーデンセ市は高齢者対策に熱心に取り組むようになったが、当時は老人ホームも数少なく、しかも老人ホームへの入所申し込みは市当局で一括して取り扱うようになっていたので、入居希望者リストには多数の名前が連ねられていた。そこで、市は病院やレストホームにケアの必要な人を受け入れるための特定病棟を建設した。特定病棟は医師の権限の下に高齢者の治療やリハビリテーションに焦点をあて、高齢者が家庭に帰って自分で生活できるように、高齢者ナーシングホームにはリハビリテーションができない人だけが入所するように振り分けを考えたわけである。特定病棟はすぐに効果をあげた。半数以上の患者がすぐに自宅に帰り、待機者リストはだんだん少なくなった。特定病棟での活動とともに在宅ケアに対する努力がなされた。医療特定病棟から自宅への退院の計画が作られ、高齢者とその家族に援助や指導を行った。

 一方で、1972年から1976年にかけて高齢者の社会調査が実施された。2,000人ずつの高齢者の2グループに対し、ひとつのグループには定期的に看護婦が訪問し、助言や指導とともに実務的な援助も実施した。もうひとつのグループには何も援助しなかった。その結果、老人病患者は後者の方が多くみられたのである。

 この高齢者社会調査から得られた経験と知識が、1976年から1981年にかけて地域事務所福祉部の在宅ケア活動に実際に取り入れられた。これには3つのポイントがある。第一は、すべての高齢者が保健婦またはホームヘルパーを連絡者としていることである。第二は、高齢者の健康を解説する一般向け雑誌で、身体的、精神的、社会的なもの、あるいは特別の援助を必要とする欠陥や体の衰えなどを説明することである。第三の要素は、グループミーティングで問題や考え方が話し合われ、連絡担当者はアドバイスや刺激を与えたり、得たりするのである。

 1980年には、市当局にゼロ成長が要求され、一方で高齢者が増加し、今までのような方法では問題を解決できないことが明白になった。そこで、1981年に年金受給者、政治家、市職員が集まって福祉会議が開かれ、会議の結果、ここに示す高齢者施策行動計画が作られた。

2.高齢者の居住環境施策─1980年代の目標─

 高齢者に対する居住環境施策の目標は、「できるかぎり自宅で」ということにある。この目標は1981年の会議で掲げられたもので、さらに付け加えられたのは「だれもが高齢者住宅を必要とする可能性がある」というものである。この目標をより具体化するために次の5項目が作られた。

  • (1)すべての地区に高齢者住宅を建設する。
  • (2)オーデンセ市をもっと高齢者に対応できる街にする。高齢者が自分でやっていけるよう援助するような条件を整え、高齢者が活動できかつ責任をもって生活できるようにする。
  • (3)年金受給者への情報からの情報を増やす。
  • (4)福祉やケアは十分に、かつ「自ら助けるを助ける」の原則にしたがう。
  • (5) 施設における設備は、予防と在宅ケアに役立つものに。

 これを実現するために、1980年代を通して市の高齢者行政を6地域事務所に分散し、地域へ権限を委譲した。この結果、計画立案、会議、行政の目標の枠組みのすべてが地域で行われ、高齢者も地域環境に影響を与える決定に関与する機会が得られ、「オーデンセ市を高齢者に優しい町に」という市の目標が徐々に実現していった。これらの方針は、いずれさらに地区に分散する予定である。

(1)住 宅

 まず、将来どのくらいの数の住宅が必要になるかを見通すために、現存の住宅がどの程度高齢者の需要に対応しているかを調べた。その結果、高齢者用ベッド1,450床、ケア付き住宅500戸、共同住宅(共通の施設を使うもの)100戸、年金受給者住宅1,200戸であった。住宅の数としてはこのレベルを将来も維持するべきとされた。これに基づき、高齢者住宅1,800戸を各地区のニーズに対応した形で建設する計画ができた。高齢者住宅は1988年に908戸、1991年に1,500戸であるが、2000年までに1,800戸にする予定である。このようなすばらしい結果が可能となったのは、市開発局と社会福祉局の緊密な協力があったからである。住宅は、建設業界、民間建設会社を通じて実施されたが、建設貸付金によって促進された。

 住宅建設では、これまでの経験から高齢者は同じ地域内なら転居することに抵抗はないことがわかっているので、自分の地域の高齢者住宅に移れるようにすることが目標である。また、ショッピングセンターに近いこと、バスが利用し易いこと、ヘルパーが介護し易い住宅構造であること、車いすで生活可能なスペースがあること、緊急連絡装置があることが重要である。この他に集合住宅のなかに共用スペースを設け、例えばパーティーなどが自然発生的にできる部屋や工作室などがあると、お互いに助け合う意識を強める効果が期待できる、という。

 住宅計画が実施される前には、2つの老人ホームが計画されていたが、代わりに活動センターを併設した28戸の共同住宅が作られた。さらに、160戸の高齢者住宅が4ないし5グループに分けてそれぞれ活動センターを併設して作られることになっている。

(2)地区環境事業

 地区環境事業の目的は、「高齢者自身が活動し、責任をもてるように」、「高齢者が互いに助け合いながら自分も自立するように」高齢者の生活環境を自分でできるように改良することである。この考え方のなかには、住宅条件、活動とふれあい、買物の距離、市内交通等が含まれる。

 オーデンセ市は18地区に分かれており、全地区で高齢者委員会が社会福祉部と一緒になって高齢者施策のために働いている。この活動のなかで、高齢者自身の希望や要求を実現することに力点が置かれている。多くの活動が高齢者自身のイニシアチブによってはじめられたし、さらに目標にむかって責任をもって活動していこうという意志と能力をもっている。高齢者の活動は、バスルートの変更、新しいベンチ、郵便箱、電話ボックス、多数の講習会など地区の改善をもたらした。また、高齢者同士の助け合いも多く生まれた。友情による気軽な助け合い、交流、クラブ活動などである。

 1)クラブ活動

 地区環境事業が1981年にはじまって以来、クラブの数は1988年までに80から155にふえた。ほとんどのクラブは高齢者によって運営されている。既存のクラブ会員年齢も上がっている。この事業の外にも、地区をもっと高齢者に対応させるためのアイディアや実務にも高齢者が参加する傾向が出てきている。

 地区環境事業のその他の要素としては、「健康高齢者の現状維持作戦」がある。ワーカーがホームヘルパーやホームナースとともに、高齢者を「利用者」にしないよう予防するために働いている。高齢者自身が自分の身体や環境を維持あるいは向上することができ、地区が活動を提供することができれば、高齢者は社会福祉部の援助を部分的にも全面的にも受けなくても済むようになる。

 2)ネットワーク化

 地区環境事業のひとつにネットワークがある。交流が少なくてもっと広げたいという希望があれば、新しい交流を紹介する。高齢者自身、お互いに助け合うことに関心をもち、必要と感じている。地区環境事業のなかで中心となる層は55~60歳の若いグループ(デンマーク法では、年金の早期受給の道が開かれている)から70~80歳までである。積極的な参加へのエネルギーと関心、自信、リーダーシップがこの若い層にみられる。この特徴は、第一に積極的な高齢者が積極的でいられる、第二に積極的な人々の意気込みが比較的積極的でない人を社会に引っ張りだす力になるというよい効果がみられる。

 3)高齢者委員会

 1981年から1988年までの地域環境事業のなかで、すべての地区で高齢者委員会が設置された。高齢者委員会は町会議で投票で選ばれ、それぞれの地区で社会福祉部と協力し高齢施策の維持、開発にあたっている。高齢者委員会は、高齢者住宅の新設に関連する建築委員会、年金受給者諮問協議会発刊の「En venlig hilsen(幸福を祈るの意)」の編集委員会、その他もろもろに参加する。社会福祉部は、助役が参加するオーデンセ市の高齢者施策を議論し発表する年一回の会議に高齢者委員会を招く。

(3)デイアクティビティセンター

  •  1)クラブ
  •  オーデンセ市には年金受給者のクラブや会が155ある。
  •  年金受給者自身が計画をたて、社会福祉部からの多少の補助を得てすべての活動を運営する。カードゲーム、講習、学習コースなど幅広く行われている。
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  •  2)高齢者センター/ハウス
  •  1982年から1988年までにオーデンセ市では高齢者センター、高齢者ハウス、共同室などが高齢者住宅に併設された。これらのセンターは、社会福祉省が家賃、備品、保険、電話を負担する。さらに運営費が補助される。センターの利用者による委員会が運営にあたる。また、どのセンターも職員は雇用していない。ほとんどのセンターは簡単な台所もあり、運営委員会は利用者のための喫茶を開いている。1988年現在オーデンセ市の高齢者センターは8ヵ所ある。
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  •  3)共同室のある高齢者住宅
  •  地区の高齢者住宅に併設される共同室は1982年から1988年までに6室作られた。この共同室は、近所の高齢者の集まる場所としてつくられたもので、地区のあらゆる文化活動に利用できる。オーデンセ市は日常の運営を担当する高齢者運営委員会に部屋を貸し、毎年補助金をだしている。
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  •  4)その他の活動
  •  そのほか市の補助を受けている全年齢層を対象とした活動センター、ケア付き住宅に併設された活動センター(入居者と近隣の年金受給者が利用している、運営委員会には両方が参加しており、雇用職員もいる)、28人の高齢者がそれぞれの独立した部屋に住んでいるナーシングセンターなどがある。また、デイセンター、福祉センターでは、個人的な集まりや活動が行われている。主としてあまりケアを必要としない高齢者を対象としている。デイセンターの数は1981年の233ヵ所から1986年に273ヵ所にふえた。一方で福祉センターの数と利用者数は同じ期間に64ヵ所から12ヵ所に減っている。1988年現在デイセンターの入所待ちは約100名である。

施設名 AEDRECENTER LILLE GLASVEJ

施設名 AEDRECENTER LILLE GLASVEJ

 45戸の高齢者住宅とその住民を対象としたアクティビティセンター。住宅部分は2階建てと3階建て部分からなり、センターは市の5番目として1991年5月より開所。
 住宅部分(戸当り67㎡、共用部分を含む)
 延べ面積3,000㎡、建設費2,900万クローネ(5.8億円)
 公共住宅公団によって建設され、賃貸住宅として同公団により運営されている。外壁は元々あったガラス工場とおなじ煉瓦色とし、廊下部分が鉄筋の打ち放し、エレベーター部分のみが青く彩色されている。インテリアは入居者の個性的な装飾が生かせるように、また明るさやメンテナンスの理由により、シンプルな白のクロスとしている。
 間取りの概略を上に示す。記入してある家具のレイアウトは今回訪問した住宅のものである。住戸のみの面積は約42㎡と思われる。

(4)情 報

 年金受給者に対する情報、年金受給者からの情報はオーデンセでは重要な位置を占めている。「En venlig hilsen」はすべての年金受給者および退職者に年金受給者に年4回送られる雑誌である。25%が社会福祉部からの情報で、新しい事業の説明、旧事業の再紹介、75%は年金受給者からの情報というのが編集方針である。この雑誌が新しい事業を始めたり継続するために重要な役割を果たしている。この雑誌はまた、経済・住宅・孤独・性的役割・感謝など高齢者の状況について議論を行う場ともなっている。すべての地区の高齢者委員会の代表が編集委員会に加わっており、この雑誌の批評をしたり意見を述べたりしている。編集スタッフには、年金受給のジャーナリストが2名いる。この雑誌のほか「Kommune Information」という広報があり、おもに新しい法律や規定を知らせている。この他、地区環境事業、自助を援助する事業、クラブや会の情報などのレポートやパンフレットもある。さらにオーデンセ市の高齢者施策を紹介しているビデオも三種ある。

 上記の情報のほか、オーデンセ市には高齢者との会話を重視するという方針がある。これは高齢者とともに働いているすべての人にとって役立つ方法である。地区環境事業のプロジェクト担当者、ホームヘルプ、ホームヘルパー・リーダー、看護婦、作業療法士、さらに年金受給者クラブで高齢者施策について話す助役にとっても重要である。

(5)高齢者へのサービスと援助

 在宅高齢者へのすべてのサービスと援助は地域事務所ごとに運営されている。

  •  1)在宅ケア
  •  ホームヘルプと訪問看護事業は、地理的に分けられてグループごとに行われている。各グループごとに事務所があり、会議や分担を決めたりする場所になっている。オーデンセ市ではもっともニーズが大きい人に援助がいくように、実際に関わっている関係者が資源を割り当てている。
  •  ホームヘルパーのサービスを受けている市民は約5,000人である。1988年現在、ホームヘルパーは100人、ホームナースは136人となっている。
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  •  2)24時間サービス
  •  1978年から24時間体制で働いている。夜間は無線連絡が、昼間は呼び出しシステムで援助がすぐに届くようになっている。24時間在宅ケアを受けている高齢者は1988年現在300人である。
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  •  3)病院、医師との協力
  •  高齢者の不必要な入院を避け、また治療後の早い退院を進めるために、オーデンセン社会福祉部、フーネン郡協議会、医師会の間で協力がなされている。
  •  このために24時間サービスが確立された。緊急医が指定されており、誰もが24時間ケアや救急サービスを受けられる。1987年からこのシステムが実施され、その結果高齢者の入院が減ったことが統計からも明らかになっている。
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  •  4)援助から自助へ/各自の選択
  •  高齢者ができるかぎり自分でやっていけるようにあらゆる援助が行われている。スタッフが高齢者のために決定することから、高齢者自身が自分のために決定するように、少なくとも決定に参加するように変わってきている。
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  •  5)その他のサービス
  •  1988年中には、在宅年金受給者に対する冷たい食事の配食サービスが実施された。ここの目的はよりよい製品を提供するとともに、システム全体を合理的かつ費用を押さえたものにすることにある。また高齢者にとって公共交通を使いやすいものにすると共に、必要なときには特別交通機関を利用できるようにすることが考えられている。
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3.施設の変化

 いままで老人ホームやケア付き住宅は、在宅ケアとは全く別に中央機関によって運営されていた。しかし、1988年からふたつの動きがある。第一は、老人ホームの入居者は各自の家庭医と連絡を保つようにすること、第二は、ケア付き住宅の入居者は通常の借家人(高齢者用住宅)となり、スタッフは中央機関の所属ではなく在宅ケア部門の所属となった。さらに、1988年から、老人ホームと在宅ケアの間で資源をきっちりと分けていたのを、施設ごとに仕事を配分するのでなく地区ごとに割り振るように変えようという動きが始まっている。

4.年金受給者諮問協議会

 オーデンセ市議会には1978年から年金受給者諮問協議会を設置している。委員会の任期は2年で、1986年からは高齢者委員会が10席中4席を保持している。諮問協議会の任務は、オーデンセ市社会福祉部が関わっている事項について議論することである。意見を公に発表すること、責任者である助役に対し、あるいは社会サービス委員会に対し意見を発表できる。助役、社会サービス委員会および社会部は原則的事項については諮問協議会に発表することができるが、個々のケースについては発表できない。年金受給者諮問協議会は、すべての市立老人ホームの監督委員会に代表を委員としてだしている。

5.結論

 本論では、高齢者施策への行動計画が作成された1981年以来、「オーデンセ市を高齢者に優しい都市に」を目標に、「自ら助けるを助ける」という方法を原則に実施してきた。最初の7年間で目標の主眼は日常活動のなかで実践されるようになったが、今後在宅ケア面で高齢者の自立と健康をめざしてさらにサービスを強化し、ケアを多く必要とする人には多くの援助を行うつもりである。数の多い「健康で若い高齢者」にとっては、機会が多様化した。スタッフの労働条件は良くなり、将来性も増した。そして、将来の高齢者施策では、もっと弱い高齢者にも最大の援助が受けられるように約束されている。

 しかし、まだサービスは未完成である。新しい世代が高齢者の仲間入りをし、新しい要求やニーズが生まれる。社会が急速に変化するのと同じである。

 オーデンセ市はさらに高齢者に対応できる街にするため努力しており、その実現には高齢者の参加が条件となっている。

 今後は、在宅介護の高齢者と老人ホームに入居している高齢者とが同じレベルの介護を受けられるようにすること、リハビリテーション部門を強化し現在1ヵ所しかないリハセンターを3ヵ所に増やすこと、高齢者センターの増設、精神障害者の問題を各地域で取り上げて行くこと、痴呆性高齢者は在宅介護では家族が支えきれない場合が多いので共同生活の場を作ること、高齢者自らが新しい政策の立案に関わっていき、さらに財政面のコントロールにも関与できるよう検討している。

*日本大学理工学部助教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年1月(第74号)2頁~7頁

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