特集/高齢者・障害者と居住環境 住宅と福祉機器と介護サービス

特集/高齢者・障害者と居住環境

住宅と福祉機器と介護サービス

筒井孝子*
新田収**

 平成元年、厚生省は「介護対策委員会」の報告書のなかで介護対策の基本的考え方を、「在宅サービスなしにお互いに無理を重ねる家庭介護」から「在宅サービスを適切に活用する家族介護」へと変えることを明確に示した。高齢者の多くは、身体が不自由になっても住み慣れた地域社会で住み続けることを望んでおり、このような高齢者の在宅生活の維持向上を支援する在宅福祉サービスに対する期待と関心が高まっている。在宅福祉は、わが国において1970年代後半から主張されるようになった社会福祉の新しい動きである。それは、可能なかぎり居宅において処遇する社会福祉の体系を意味する。しかしながら、高齢者はその心身の状況に応じて福祉のみならず保健、医療のニーズをもっており、その多様なニーズに対応していくには、高齢者にとって最も身近かな地域において保健・医療・福祉機能の連携を図り、総合的かつ効果的なサービスを提供していくことが必要である。

 本報告では、このようなことを背景に、運動障害を前景にもつ脳卒中後遺症患者をかかえる高齢者の夫婦世帯に焦点を当て、その住宅と福祉機器と介護サービスについて、今後、介護を要する高齢者の居住環境整備を行うために『高齢者用機器に関する調査』(全国社会福祉協議会、1992)の結果に基づいて考察する。

1.基礎資料

 本研究においては、『高齢者用機器に関する調査』において対象となっていた988家族のうち、持ち家で運動障害を前景にもつ高齢障害者を介護する配偶者58名を抽出し、その住宅、福祉機器、介護サービスに関する回答を分析資料とする。これら夫婦世帯の要介護者は男性45名、女性13名である。年齢階層は65~70歳未満19名(32.8%)、70~75歳未満12名(20.7%)、75歳~80歳未満13名(22.4%)、80歳~85歳未満8名(13.8%)、85歳~90歳未満6名(10.3%)で、その原疾患は脳出血11名 (24.4%)、脳梗塞28名(62.2%)、高血圧5名(11.1%)、その他1名(2.2%)となっていた。なおその主たる介護者は配偶者で、年齢階層はすべて60歳未満であった。

 以上の対象に関する調査回答のうち、1)住宅に関する不満、2)利用している福祉機器、3)介護サービスの利用内容、および、4)要介護者の①基本的なADL(排泄、入浴、着脱、歩行)、②痴呆状態、また、5)介護者の①介護期間、②介護継続意思、③介護の主観的負担感、④健康状態、⑤1日の介護時間、⑥介護上の協力者、並びに、6)環境要因(トイレ、浴室等)に関する資料を抜粋し検討材料とした。

 資料の解析は、前記項目の1―3)と4―6)との関連性をx2検定および一元配置分析で検討した。

2.住宅に関する不満とその関連要因

 現在の住宅に関する不満は、内容別にみると、最も頻度が高いのは「風呂が使いにくい」22件 (37.9%)で、以下、「手すりがない」12件(20.7%)、「段差がある」14件(24.1%)、「トイレが使いにくい」10件(17.2%)、「階段が急である」8件(13.8%)、「車椅子が使えない」9件(15.5%)、「ベッドが使えない」2件(3.4%)、「エレベータがない」4件(6.9%)、「間取りが悪い」8件(13.8%)、の順となっていた。換言するなら、住宅に関する不満は入浴、排他、移動(移乗)に関する介護との関連性が高いといえよう(図1)。

図1 現在の住宅に関する不満

図1 現在の住宅に関する不満

 以下、一般的には介護上の負担が高いとされている「浴室」と「トイレ」に関する現状を見てみる。浴室に関しては、有効回答55のうち、寝室との距離が「同室内、隣室、廊下を隔てたところ数m」が18件(32.7%)、「数~4m未満」11件(20.0%)、「4~7m未満」17件(30.9%)、「屋外、別棟を含む7m以上」9件(16.4%)となっており、廊下と浴室の洗い場との段差に関しては、「ほぼ平坦」14件(25.5%)、「11cm未満」21件(38.2%)、「11~21cm未満」15件(27.3%)、「21cm以上」5件(9.1%)となっていた。また浴槽の縁と洗い場との距離は「46cm未満」31件(56.4%)、「46~56cm未満」13件(23.6%)、「56cm以上」11件(20.0%)であった。なお浴室の広さは平均2.62㎡、奥行きは平均176.0cm、幅は平均146.7cmとなっていた。また脱衣所に関しては広さの平均が1.98㎡、奥行きは平均153.3cm、幅は平均118.4cmとなっていた。これら浴室環境と「風呂が使いにくい」といったこととの関連性が認められたのは、浴槽の縁と洗い場との距離(x2値=9.87、自由度1、有意水準1.0%以下)および浴室の(幅、奥行きを含めた)広さ(F値=5.76、有意水準5.0%以下)の2項目であった(表1、表2)。このことは浴槽改造にあたって浴槽の高さと風呂場全体の広さを十分考慮しなければならないことを示唆している。なお要介護者のADL特性や痴呆状態、また介護者の特性においては、浴室に対する不満と有意に関連する要因は見られなかった。

表1 浴槽と洗い場の距離と浴室に関する不満の関係
(N=55)

要因

カテゴリー区分 人数 不満を感じる 2
浴槽の高さ 46cm未満 31 7(22.6) 2(2)=9.87
46-56cm未満 13 7(53.8) P<0.01
56cm以上 11 8(72.7)   

表2 浴室の広さと浴室に関する不満の関係
(N=52)
標本数 平均値 標準偏差 F値
全体 52 2.616 0.958
不満を感じる 22 2.257 0.731 F=5.76
不満を感じない 30 2.880 1.017 P<0.05

 トイレに関する不満は、上述したように58家族中10件で17.2%となっていたが、その現在の状態は、有効回答57のうち、寝室との距離が「同室内、隣室、廊下を隔てたところ数m」が16件(28.1%)、「数~4m未満」12件(21.1%)、「4~7m未満」23件(40.4%)、「屋外、別棟を含む7m以上」6件(10.5%)となっており、廊下と便所との間の段差は、「ほぼ平坦で2cm未満」32件(57.1%)、「2~6cm未満」17件(30.4%)、「6~10cm未満」5件(8.9%)、「10cm以上」2件(3.6%)となっていた。トイレの様式は「和式」14件(24.1%)、「洋式」44件(75.9%)、であり、トイレ内に「手すりがある」のは28件(48.3%)となっていた。トイレの出入口の幅は「800mm以上」13件(22.4%)、「650~800mm未満」25件(43.1%)、「650mm未満」20件(34.5%)であり、広さは平均1.98㎡、幅の平均118.3cm、奥行き153.3cmとなっていた。トイレの使いにくさと関連する要因は様式で、和式を使用中のものが洋式に比して不満度が高くなっていた(x2値=4.41、自由度1、有意水準5.0%以下)。その他の要因としては「介護の継続意思」や「介護の主観的な負担感」がトイレの使いにくさと強い関連度を示していた。以上の結果は、トイレに関しては浴室と異なる背景があることを示唆するものである。この点は以下の福祉機器との関連で検討する(表3)。

表3 トイレに関する不満と諸要因の関係(N=58)

要因

カテゴリー区分 人数 不満を感じる 2
トイレの様式 和式 14 5(35.7) 2(1)=4.41
洋式 44 5(11.4) P<0.05
継続意志 継続したい 49 6(12.2) 2(1)=5.52
限界を感じる 9 4(44.4) P<0.05
負担感 感じない 8 0( 0.0) 2(2)=9.30
少し感じる 28 2( 7.1) P<0.01
感じない 22 8(36.4)

 なお、住宅改造の希望をもちながらも簡単に改造できない理由としては、希望者18家族中、(複数回答で)「経済的に難しい」8例(44.4%)、「構造上難しい」7例(38.9%)、「どのようにしたらよいかわからない」7例(38.9%)であった。改造内容に関しては(複数回答で)「トイレの改造」8件(うち様式の変更4例、暖房設備5例など)、「浴室の改造」11件(うち8例は浴槽関係)であった(図2)。

図2 住宅改造を困難にする要因

図2 住宅改造を困難にする要因

3.福祉機器の利用

 ここでも、入浴および排泄に焦点を当て、それに関連する福祉機器の使用状況について見ていくことにする。

 入浴介護に関連して使用されている福祉機器は(無回答を除く)、その使用頻度に着目するなら、「入浴用手すり」20件(35.1%;使用の有無に関連する項目なし」、「入浴台・椅子)18件(31.6%;関連項目なし)、「入浴用滑り止めマット」12件(21.1%;関連項目なし)、「シャワーチェアー」7件(12.5%;関連項目なし)、「ポータブル浴槽」4件(7.0%;「介護継続意思」と「介護の主観的負担感」が関連しており、「継続意思のない」9名中4名44.4%が使用)、「特別なブラシ・タオル」3件(5.3%;関連項目なし)、「更衣台」2件(3.5%;関連項目なし)、「浴槽用リフト」使用なし、「バス・ボード」2件(3.6%)の順であった(表4)。

表4 介護のために使用している福祉機器の内容
入浴介護に関連して
使用されている福祉機器
人数

入浴手すり 20 35.1%
入浴台・椅子 18 31.6%
入浴用滑り止めマット 12 21.1%
シャワーチェアー 7 12.5%
ポータブル浴槽 4 7.0%
特別なブラシ・タオル 3 5.3%
更衣台 2 3.5%
浴槽用リフト 0  
バス・ボード 2 3.6%
排泄介護に関連して
使用されている福祉機器
人数

おむつ 29 51.8%
しびん・さしこみ便器 25 44.6%
防水シート 20 35.7%
手すり(簡易手すり) 19 33.9%
ポータブルトイレ 16 28.6%
暖房便座 14 25.5%
収尿器 6 10.7%
温水温風洗浄式便器 8 14.3%
トイレチェア 3 5.4%

 排泄介護に関連して使用されている福祉機器は(無回答を除く)、「おむつ」29件(51.8%;「ADL状態」と関連あり)、「しびん・さしこみ便器」25件(44.6%;「要介護者の性」と関連しており、「男性」43名中25名58.1%が使用に対し、女性は皆無)、「防水シート」20件(35.7%;「ADL状態」、「介護者の健康状態」、「介護の継続意思」、「介護者の主観的負担感」と関連あり、「病気がち」の8名中6名75.0%が使用)、「手すり(簡易手すり)」19件(33.9%「ADL状態」関連性が高く、「後始末が不十分な」6名中5名83.3%が使用)、「ポータブルトイレ」16件(28.6%;「介護者の主観的負担感」と関連があり、「何らかの負担を感じている」50名中16名32.0%が使用)、「暖房便座」14件(25.5%;関連項目なし)、「収尿器」6件(10.7%;「ADL状態」と「介護者の健康状態」が関連し、「居室で用をたしている」30名中6名20.0%が使用)、「温水温風洗浄式便器」8件(14.3%;関連項目なし)、「トイレチェア」3件(5.4%;関連項目なし)の順であった。なお、「トイレに不満のある」群においては、10名中9名90.0%が「しびん・さしこみ便器」を使用し、「不満のない」群は46名中16名34.6%がこれらの機器を使用しており、このことはトイレに不満をもちながら住宅改造ができないことの代替行為と推定される。

4.介護サービス

 利用している介護サービスの内容は、「入浴サービス」19例(32.8%)、「給食サービス」1例(1.7%)、「ホームヘルパー」33例(56.9%)、「デイ・サービスもしくはデイ・ケアサービス」21例(36.2%)、「訪問看護」14例(24.1%)となっていた。

 これらサービスの利用頻度はトイレや浴室に関する不満と関連性は認められなかった(図3)。

図3 介護サービスの利用度

図3 介護サービスの利用度

 ただし、①「入浴サービス」の利用は、要介護者の「ADL状態」(水準が低いものほど利用度は高く、「おむつを常時利用しているもの」25名中56.0%がこのサービスを利用)や「介護者の健康状態」(病気がちの介護者ほど利用度は高く、「病気がちである」8名中6名75.0%が利用)と密接に関連しており、②「ホームヘルパー」の利用は、介護者の「ADL状態」(「後始末が十分できない」群35名中28名80.0%が利用)、「介護の継続意思」(「意思のない」9名中8名88.9%)が利用)、「介護者の主観的負担感」(「負担感がある」22名中17名77.3%が利用)、「介護者の健康状態(「病気がち」8名全員が利用)、と関連性が認められた。③「デイ・サービスもしくはデイ・ケアサービス」の利用は要介護者のADL状態とは関連性がなく、介護援助者の有無(「援助者がいない」18名中13名72.2%が利用)および「介護者の主観的負担感」(負担感の少ない者ほど利用度が高く、「負担感なし」8名中6名75.0%が利用)、が強く関連していた。なお、④「訪問看護」に関しては、「ADL状態」(「ひとりでは着脱ができない」32名中14名43.8%が利用)、「介護継続意思の有無」(「意思のない」9名中6名66.7%が利用)、「介護の主観的負担感」(「負担感がある」22名中9名40.9%が利用)が関連していた。

5.まとめ

 本研究においては、運動障害を前景にもつ脳卒中後遺症患者をかかえる高齢者の夫婦世帯に焦点を当て、その住宅と福祉機器と介護サービスについて、『高齢者用機器に関する調査』(全国社会福祉協議会、1992)結果を要介護者の①基本的なADL(排泄、入浴、着脱、歩行)と②痴呆状態、介護者の①介護期間、②介護継続意思、③介護の主観的負担感、④健康状態、⑤1日の介護時間並びに⑥介護上の協力者、および環境要因(トイレ、浴室等)との関連で検討した。

 その結果、介護を要する高齢者の居住環境の整備に当たっては、浴室の改善が大きな課題であり、特に浴槽と洗い場の高さの調整が肝要であることが示された。この点に関し、比留間等は要介護者の身長との関係で、1)身長160cm以上では、介護を要するものに、60cmの浴槽の出入りが可能で、2)身長150~159cmでは、60cmの高さの台では必ずしも安定した座位が維持できないので、健手で患足をもって入れるものは(すなわち、健手で手すりをつかみ座位を安定させることができない)、60cmより40cmの高さが適当であり、3)身長149cm以下では40cmがより安定した座位が保て安全であると述べている。

 以上のように、入浴場面における臨床的評価においても、浴槽と洗い場の高さとの調整の重要さが示されており本研究の結果が在宅介護の現実場面を反映していることが示された。今後は、さらに、これまでの臨床的な先行研究の成果をふまえながら、高齢者の居住環境整備に必要な基礎データを集積していくことが課題である。

参考文献 略

*日本大学大学院理工学研究科博士後期課程建築学専攻
**東京都府中療育センター理学療法士


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年1月(第74号)14頁~19頁

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