〈報告〉 知的障書者や精神障害者へのパーソナル・アシスタンス・サービス

〈報告〉

知的障書者や精神障害者へのパーソナル・アシスタンス・サービス

Margaret A. Nosek*

 身体あるいは感覚に障害をもつ人々(身体障害者)のパーソナル・アシスタンス(以下PAと略)のニーズは、知的障害や精神障害をもつ人々のニーズに比べると調査が容易である。日常生活や朗読、通訳などへの援助は個別的で数量化しやすいが、判断することや日常生活を組み立てること、継続して精神的な支えを提供することなどに対する援助は、よりあいまいで数量によって表現することが非常に困難である。この2つのグループにおいて、地域における生活援助への基本的なニーズは共通しているが、対処方法は全く異なっている。身体障害と知的障害・精神障害の分野では、サービス・システムも、文献も、さらには用語でさえも全く別のものとなっている。

知的障害

理念の変化

 障害をもつ人々の生活を進歩させる新たな方向を作りだすうえで、知的障害の分野は常に指導的な役割を果たしてきた。1970年代半ばの、脱施設化をめざす訴訟とそれに伴って行われた調査・研究は、地域における統合の理念に基づいて、サービス・システムを改革する動きを生みだす結果となった。

 急速な変化の根拠は、「制約最少の環境」という考え方の中に見いだせる。この考え方は、1970年代半ばの脱施設化をめぐる改革の基礎となったものであるが、今日では、より以上の進歩を妨げるものとして次のように有識者から批判されている。(a)制限のある環境を妥当なものとしていること、(b)隔離に対する統合ということと、サービスの強化ということを混同していること、(c)“レディネス・モデル”(準備を整えることが必要であるというモデル)に基づいていること、(d)専門家による決定を優先していること、(e)市民としての権利の侵害を容認していること、(f)障害者は、発達や変化に応じて生活の場を変えなければならないという意味が含まれていること、(g)障害者が地域に統合されるために必要なサービスや援助よりも、物理的な環境に注意がむけられていること。

 知的障害をもつ成人の、地域における援助についての最近の考え方は、「施設を基盤としない」「個別化された」「障害者を中心とする」「住宅/援助サービス」アプローチと呼ばれている。いかなる援助やサポートが必要であっても、地域の中の住宅に住むひとりの成人としての権利があるという考え方に基づくこのアプローチは、次のような特徴をもっている。

  • (a)住宅の提供と援助サービスが別々に行われる
  • (b)障害者が住宅の所有者である
  • (c)評価、計画、資金調達が個別に行われる
  • (d)援助は、柔軟性をもち個別に行われる
  • (e)サービスを管理するのは当事者である

 個別アプローチの援助には、住み込んだり、呼び出しに応じたり、立ち寄ったりするスタッフ(このようなスタッフは仲介のエージェンシーにより雇用されたり、障害者と協力するために個別に雇用されたりしている)、立場はフリーであるが有給のルームメートや仲間、障害をもつ人によって雇われている介助者、報酬を受けてさまざまなサービスを提供する近隣の人などが関わっている。このようなサービスの仲介を認めるシステムによって、個々の障害者の能力発揮や社会的な責任の可能性はより大きなものとなっている。

 センター・オン・ヒューマン・ポリシー(Center on Human Policy)が後援する政策研究会は、1989年にさまざまな障害者グループの代表を一堂に集めて、コミュニティで生活する成人障害者への援助について、次のような声明を出した。

 原則:すべての人々は、それぞれの家庭で生活し、コミュニティでの生活に十分に参加するうえで必要とされる支援ならびにPAを受ける権利を有する。

 成人した人々は、それぞれの家庭やコミュニティで生活するために必要とされるあらゆるPAや支援を、尊厳をもち、自己決定に基づき、誇りをもって受けることができる。

 PAサービスには、通訳、家事、移動の援助、社会的サポート、医療的援助、交通機関の利用、健康管理、朗読、レクリエーション等が含まれるが、とりわけ重要なものは意志決定の過程に関わる援助である。サービスや支援は、個々の障害者の人間関係や社会的ネットワークを維持あるいは拡大するように提供されるべきである。

 成人した人々は、資源やPA援助を失う危険を冒すことなくコミュニティのそれぞれの家庭で生活することを選択する自由を有する。

 PAならびにその他の支援は、コミュニティにおいてそれぞれの家庭で生活しながら利用できるものとされるべきである。人々は、重度障害者を含めて、援助サービスを入手するために施設に入所したり、能力発揮の機会を失うことを求められるべきではない。

 成人した人々は意志決定をするにあたり、サービス提供機関とは別に権利を擁護され援助を受けながら、それぞれにPAやその他の援助を最大限コントロールすることができる。

 PAの概念は、すべての人々は選択の結果を示せる方法をもっていること、また各人の期待はそれぞれに異なっているものであるという原則に基づいている。同様のニーズをもつ人でも異なる解決を期待する場合もあり、このため援助は個別化され、また柔軟に計画されるべきである。選択の結果を表現することが困難な人に対しては、独自の方法が用いられるべきである。

 成人した人々は、PAや援助の提供者を決定する権利をもつことができる。

 PAやその他の援助は、有給のスタッフ、ボランティア、近隣の人々、友人、家族などさまざまな人々によって提供されうる。関わり方はそれぞれ独自のものであるが、PAの提供者を雇用、解雇、評価そして訓練することを含めて、これらのサービスの提供者を決定する権利は、成人した人々がもつ。

 地域統合(コミュニテイ・インテグレーション)の新たな理念は、非常に明確な輪郭を提示してきたのであるが、伝統的なシステムへの影響は始まったばかりである。この理念を支持する人達は、知的障害をもつ人々がコミュニティに可能な限り貢献し、かつ自立的に生きるうえで必要な援助を受けられるようにするために、優先事項の組み替えや資金提供方式の変更、さまざまな事業の再編成をいかにすべきかという視点から、現行システムの調査を進めている。

資金提供方法の変化

 身体障害者の場合と同様に、知的障害者に対するサービス・システムも財源とその規則によって左右され続けてきた。1977年から1986年にかけて実施された、知的障害者のために支出された費用の動向を調査する全米規模の研究によると、コミュニティ・サービスに対する費用(その大半は州財政の負担とされている)が大幅に増加し(40%)、施設費用が縮小していること、そして16またはそれ以上のベッド数の施設が主流となっていることが報告された。

 知的障害者に対するサービスを調整し規制し提供することを認可されたエージェンシーを、すべての州がもっているとすれば、資金提供方法に変化が生じることと新しいプログラムを検討することの間には直接的なつながりがある。例えば、メディケイドウェーバー(メディケイドの権利放棄条項)であるが、これは身体障害者にとっては、コミュニティを基盤とするサービス資金の拡大にそれほど明確な影響を及ぼさなかったが、知的障害者については、施設からコミュニティを基盤とするサービスへと連邦の資金を転換する方法として、効果的に用いられてきている。それでも、地域を基盤とする援助サービスのニーズを満たすようになるまでには、資金面の優先順位の大幅な見直しやプログラムの運用規則の書き換えが必要とされよう。

公式プログラムの変化

 コミュニティを基盤とする援助サービスの新しい理念を取り入れて、施設型サービスの提供者が行っている伝統的なモデルから移行しようとするプログラムを援助する一連の文献が、最近現れてきている。施設型プログラムからコミュニティを基盤とする援助サービスの提供者へと変化する中で主要なものとされているのは、スタッフの役割の変化と再訓練の必要性、ならびに責任と権限の再検討である。Mount、Beeman、およびDucharmeはこの新しい考え方を、「スタッフは障害者を新しい関係、新しい場所、新しい機会へと導くための橋の建設者あるいは延長者である」と表現した。Siegel-CauseyとGuessは、重複障害をもつ人々の選択や好みを理解するための基盤として、話し言葉をもたない人々のコミュニケーション訓練スタッフに注目した。サウス・ダコタ州で実施された成人のコミュニティ生活に関する政策の分析では、住宅供給と援助の分離、持ち家と住宅供給、個別かつ柔軟な援助、当事者の管理による援助などの分野や個別評価、計画、財源の構成要素の密接な結びつきについて、明確で的を得た問題点の記述と勧告が行われている。

非公式プログラムの変化

 家族の論議は、公式なサービスから取り残されているギャップをいかに埋めるかということに集中している。家族の果たす役割や非公式な援助資源は、知的障害者への新しいサービス理論において、重要なものとなっている。

 非公式な援助と公式の援助の2つの援助様式は、混在し、補完しあい、互いに連続させることのできるものであるが、実際にはそうなっていない。その理由として、一方は官僚主義的な原則を基盤とし、他方は社会活動組織の共同的な原則を基盤としていることがあげられる。非公式なシステムは予測しえないできごとや偶然性に左右され、細分化しにくい課題には公式なシステムよりも向いているが不均等となりがちで、専門的な訓練を必要とする援助は提供できない。

 援助のサークルという新しい概念により、知的障害者はPAとして利用可能な非公式の資源をより有効に活用することができるようになった。援助のサークルとは、障害者がそれぞれのゴールに到達することを援助するために定期的に会うことを承諾した友人、家族、隣人、その人を最もよく分かっている人々によって構成されるグループのことである。このサークルの目的は、ゴールを明らかにし、障害となっていることや機会を確認し、さらに友人やコミュニティのメンバーと共に障害となっていることを乗り越えて新たな機会を見いだせるように援助することである。サークルメンバーによる相互関係が重要な役割を果たしており、細かいプロセスよりもサークルの精神の方がより重要なものとなっている。

 知的障害者へのコミュニティを基盤とするサービスは依然として大幅に不足していて、人々は、公的な給付を伴わない非公式な援助資源に頼ることを余儀なくされている。援助を必要としているが、どこへ行き、何を求めるべきかがわからないでいる人々や家族も多い。カリフォルニアでは、サービスを検討した結果、レスピット・ケアの利用可能性が一様ではなく、また家族がそれについての情報ももっていないことが見いだされた。これは、おそらく多くのコミュニティを基盤とする援助サービスにもあてはまることであろう。援助を必要としているがそのための資金をもたない人々は、いまだにシステムの中に根強く残っている伝統的なサービス様式の中に組み込まれているのである。

精神障害

 知的障害と同様に精神障害の分野もまた、施設を偏重していることで大変非難されているし、そのサービス構造は規模が大きく多額の費用を要するものとなっている。コミュニティを基盤とするプログラムは、新たなものであるために廃止することも容易であり、しかもそれらのプログラムの役割はシステム全体の中ではわかりにくい。これは、既存のシステムにおける考え方が変化している中で、あらゆる障害者グループが共通の争点として直面していることである。精神障害の分野でも、旧態依然とした要素がこの課題を混乱させており、コミュニティへの統合をめざす個別の援助を中心とするシステムへと変換していく歩みを遅らせている。この分野では、PAに最も近い概念として、サポーティッド・ハウジング(援助付き住居)とケース・マネージメントがあげられる。

サポーティッド・ハウジング

 サポーティッド・ハウジングは、専門的なケース・マネージメントを伴う住居の提供、援助サービス、仲間との相互関係の促進を組み合わせて、精神障害の人々を援助するアプローチである。最近では、公的な住居提供プログラムではなく、自身で選んだ家に住んでいる人々にも、同様のサービスを提供することが試みられている。

ケース・マネージメント

 最近拡大している精神障害の人々に対するコミュニティ援助プログラムのネットワークにおいて、ケース・マネージメントは重要な構成要素である。これは、システムの調整と個々に対する直接的な援助とを組み合わせたものである。

 コミュニティ援助サービスでは、心理治療サービスと並行してケース・マネージメント・サービスを提供し、個々のサービスニーズを調整してそれぞれのコミュニティでの生活を維持することができるような援助を行っている。しかしながら利用者(消費者)は、施設サービスと比較してこれらのサービスに用いられる資金が相対的に不足しており、その結果、ケース・マネージャーが意味のある個別的な援助をそれぞれのクライエントに行う時間が不足していることを鋭く指摘している。

 ニューヨーク州ではこのような批判に対応して、集中的ケース・マネージメントと呼ばれるプログラムを実行してきた。このプログラムでは、資格をもつ、高給のケースマネージャーが1人につき10人の割合でクライエントを担当し、少なくとも月に4回会うことになっている。各々のクライエントに対して年間で4,000ドルが与えられ、その資金は適当と考えられるいかなる用途にも使うことができる。時間と経費に弾力性があり、創造性を発揮する余地があることは、ケース・マネージャーが規則や官僚制度によって不当に煩わされることなく、危機的状況が続く間はクライエントに情緒的・経済的援助を引き続き提供し、生じるニーズに対応することができるようにしている。このプログラムはメディケイドの資金によってまかなわれるが、画一化を避けるために、一部がクライエントの自己負担となっている。

 現在、このタイプのケース・マネージメント・モデルは、一般のケース・マネージメント・サービスの中に組み込まれつつある。なぜなら、サービス・システムが改善されるにつれて、このタイプの集中的なサービスを必要とする人の数は非常に少なくなりつつあるし、また、一方、干渉されたくない人々の多くは、デリバリー・サービスがより柔軟になれば、実質的な利益は得られるのである。

 ケース・マネージメントは、コミュニティを基盤とするさまざまな精神衛生サービスの中で重要な役割を果たしている。職業を重点とするプログラムには、しばしばケース・マネージメントとモービル・ジョブ・サポート(移動職業援助)のようにコミュニティへ出向いていくこと、ならびに友達関係や仲間関係を育てるグループ活動が含まれてる。このように、精神衛生サービスの利用者(消費者)は、職業や個人生活の中で生ずるPAのニーズをある程度までは満たすことができる。しかしながら、このタイプのプログラムでは、専門家以外による非公式な援助のネットワークの役割は重視されていない。

非公式なサポート

 ケース・マネージメントやサポーティッド・ハウジング・サービスでは、精神障害者に援助を提供するにあたって、ほとんどの場合専門家や仲間が主要な関わりをしている。専門家以外による非公式な援助ネットワークの拡大を促すことはわずかに行われている程度であるが、このメカニズムは、精神障害の人々が自立し生産的な生活を維持していくうえで最も効果があることを、多くの関係者が認めている。事実、自分以外の人に対する依存の促しは、心理社会リハビリテーション・プログラムでの重要な部分である。精神障害者は、コミュニティを最も必要としているときに、それから隔絶されることが多い。コミュニティとのつながりを再構築することに向けた援助は、脱患者運動と一部の専門家組織の課題となっている。

 このニーズに対応しているプログラムは、非常に大きな成果をあげている。全米32州にわたる119プログラムによって構成されているComPeerと呼ばれるネットワークでは、精神障害者と障害をもたないボランティアを結び付けている。各々の組織では州の資金援助を受けて、ボランティアの募集や訓練、ボランティアによるフォローアップや利用者同志のつながりを確立することに取り組んでいる。結果として、再入院率、機能レベル、就労率、自殺率、ホームレスになる割合がどれも大幅に改善されている。

 高齢で精神障害をもつ人々、特に農村地域に住む人々への援助が、同様のプログラムによって行われている。高齢の人々が発病した頃は、サービス・システムは未発達で現在よりも偏見が強かったために、彼らは家族から見捨てられ、人生の大部分を施設で過ごすことを余儀なくされていた。脱施設化の結果、彼らはコミュニティに住み、さまざまな公的収入やサービス・プログラムによる援助を受けることになったが、非常な孤独に悩まされている。家族と暮らしているのは1%以下であり、50%以上が一人で生活、残りは非公式あるいは州機関のいずれかの資金援助によるグループ生活をしている。オハイオ州デイトンやバージニア州リッチモンドのプログラムでは、高齢のボランティアを募集し、危機のマネージメント、向精神薬の影響・効果、有意義な終末(死)にいかに向かうかなどに関する訓練を行ったのち、精神障害をもつ高齢者と組みあわせている。このような高齢者ボランティアによるサービス・システムは、意志が弱く混乱しがちな日常の援助を必要としている人々のニーズを満たすうえで有効である。身体障害や知的障害の分野に比べて精神障害の分野では、専門家以外によるPAの役割にあまり注目してこなかった。生活施設から離れて地域援助を提供するプログラムの拡大に伴って、精神障害者が、他の人からの組織的な援助を使って生活するという考え方が一般的になってきたのは、つい最近のことである。

結論

 個人が自分の選択によって生活スタイルを決定し維持するという原則は、すべての障害者グループの最近の運動をつなぐ共通の糸となってきている。同様にすべてのグループが、伝統的なサービス・システムを改革することへの挑戦、隔離から脱出するための資金の確保、地域での統合に向けてサービスを提供する医療モデルの確立、自立モデルの確立という課題に直面している。欠如しているが故に重要とされるのは、重複障害者や複数のサービス・システムの対象とされる人々のPAのニーズに関する文献やプログラム作りである。

 今回の分析では、身体面での援助とは区分して、認知面、情緒面での援助における問題点を扱った。それぞれの援助においては、有給の提供者、家族や無給の提供者そして利用者が、それぞれ異なる要求をもっている。複数のタイプの援助を必要とする人々は、必要な援助を提供する人を探し、管理し、またそのための資金を確保しなければならないという、非常に複雑な課題と向かい合っている。

 新しい理念は、いかなる障害をもっていても、またどのような能カレベルであっても、コミュニテイのメンバーとして自分自身を確立し、維持するためのメカニズムを生み出しつつあり、それは、自己決定による援助を希望する人々に対して将来提供されることになるであろう。私たちは、転換点に立っている。また、私たちには、個人に関するこの新しい目標を確立することのできる状況を生み出すために、政策的戦略を先に進めなければならない責任がある。

〔翻訳〕

水上和子(東京都心身障害者福祉センター/ヒューマン・サービス研究会)

曽根原純(翻訳業)

*米国ベイラー医科大学助教授、テキサスの自立生活研究所(ILRU)研究部長。米国では、現在、介助保障法の制定を目指す働きがあり、博士はその中心的な人物の一人である。また、博士は日本の状況についても関心が深く、何回も来日し、実態調査を行ったりしている。他にも、障害者の問題に関する論文を多数執筆している。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年1月(第74号)27頁~32頁

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