特集/アフリカの社会リハビリテーション クウェートにおける障害者福祉とリハビリテーションの政策(抄訳)

特集/アフリカの社会リハビリテーション

クウェートにおける障害者福祉とリハビリテーションの政策(抄訳)

Social Policy for Welfare and Rehabilitation of Disabled in the State of Kuwait

クウエート、社会・労働省

 クウェートにおいて障害者関係施策の基本原則は次のとおりである。

  • 1.人間が対象であり、その人の尊厳を尊重することが、社会福祉のプロセスで一番重要である。
  • 2.各障害者にとって一番身近にいて養育の責任をもつのは家族であり、施策を立てる時には、家族の状況を優先的に考えなければならない。
  • 3.障害者のリハビリテーションや福祉は、総合的な施策によって実現され、具体的なサービスは地方自治体および政府機関によって提供される。
  • 4.福祉現場における調査・研究、早期発見、適正診断が、福祉・リハビリテーション施策にとって重要である。
  • 5.障害(disablement)は、能力(ability)という視点から見るべきであり、機能障害(impairment)からのみ見るべきではない。

 社会福祉の目的は以下のとおりである。

 クウェートの社会施策は、国籍、性別、宗教のいかんにかかわりなく、障害をもつ者、障害をもたない者すべてを対象にしており、差別はない。社会福祉の目的は以下のとおりである。

  • 1.家庭内の問題をもつ家族に対しては、家庭生活が保たれるよう援助する。
  • 2.尊厳のある生活を営めるよう援助するために、社会保障でカバーする。
  • 3.国による施策や活動を支援するために、民間社会事業も育成する。
  • 4.家族の状況に応じて、施設処遇、デイケア、一時保護等のサービスを提供する。
  • 5.障害者が社会の活動に積極的に参加できるように、障害者の身体的機能を高め、スポーツもできるようにする。
  • 6.障害者が国内スポーツ大会や国際スポーツ大会に参加できるように、障害者が利用できるスポーツセンター、スポーツクラブ、レクリエーション施設を設立する。

 障害者にとってより良いサービスを提供するための、生活保護・社会保障法の改正

 1962年に制定されたクウェート国憲法第11条によると、障害、老齢、疾病にある市民を対象に、社会保障サービスと医療ケアを提供することが規定されている。クウェート国憲法に基づいて、生活保護・社会保障法(General Assistant and Social Security Law)が制定され、社会施策はこの生活保護・社会保障法に基づいて立案されている。

  • 1.1978年の生活保護条例第22号の第1条、第2条およびその改正法により、「すべての障害者、疾病者、貧困者は援助を受けることができる」と保障されている。
  • 2.1976年の社会保障法第61号によると、すベての公務員および被雇用者は、障害をもったり、老齢になったり、疾病または死亡した場合には、それまでの月収入の65~95%の額に相当する年金を受給することができる。
  • 3.1970年の生活保護法改正法の第5条では、生活保護を受けている者がリハビリテーション訓練を受ける場合には、生活扶助費のほかにリハビリテーション手当を受給できると規定している。

 障害者問題にかかわる民間社会事業の促進

 障害者にかかわる民間活動に、市民や地域社会がもっと積極的に参加できるような施策を取っており、その方針は以下のとおりである。

  • 1.地域におけるサービスの連絡調整をするために、地域社会開発センターを増設している。
  • 2.各地区での社会サービスを増強するために、生活協同組合の利益の20%を社会サービスに充当する。
  • 3.クウェートの女性のための訓練プログラムを作り、女性が民間活動に積極的に参加できるようにする。
  • 4.障害予防のために、地域社会および家族を対象とした啓蒙・指導プログラムを強化する。
  • 5.障害者に対する理解を深めるための社会啓蒙プログラムを企画・実施するよう、地域社会、市民、銀行、企業、政府諸機関等に働きかけ、障害者のためのキャンプや募金活動を奨励する。

 イラク侵攻により、クウェートの国民、家族、社会が被った社会的・心理的打撃は以下のとおりである。

  • 1.人々の離散、家族の崩壊
  • 2.市民や家族の平和な生活に対して行われた野蛮で恐ろしい行為のために、子どもやティーンエイジャーの中に、恐怖感を植えつけてしまった。
  • 3.子どもやティーンエイジャーの家族が虐殺の被害にあい、その結果、彼らの意欲を低下させ、無気力な状態におとし入れてしまった。
  • 4.自分たちの目の前で、イラクからの侵略者による殺害や略奪が行われ、クウェートの国中が混乱状態に陥った結果、クウェート国民および子どもたちの価値観がひっくり返ってしまった。
  • 5.自分の家の前で殺人がくり広げられた結果、子どもたちは精神的に大きな傷を受け、突然叫び声を上げるような心理的問題が多発している。
  • 6.イラク侵攻により、障害者の数が急増した。炭坑の爆破などによる外傷の結果、多くの子どもたちが障害児になったが、障害をもつ者の数は日々増え続けているので、その総数は現在のところ把握しきれない状況である。
  • 7.油田の炎上や炭坑の爆撃の結果、子どものためのレクリエーションや教育活動を行っていた青少年センターや児童遊園の機能が停止してしまった。

 クウェートの地域社会の再建と社会施策に関する将来計画は以下のとおりである。

 クウェートの社会や社会制度は、イラク侵攻により多大な打撃を受け、現在は、国家、民間機関、政府機関等が協力し、サービスの改革に取り組んでいる。全国的および政府にかかわる課題を優先し、以下のような社会施策に取り組んでいる。

  • 1.犠牲者の家族の福祉を行うために、恒久的事務所をアメリディワンに設置する。
  • 2.捕虜や行方不明者の福祉のために全国委員会を設置し、捕虜の開放を求め、その家族の生活を援助するために、国内および国際レベルでの事務所を設置する。
  • 3.戦争犠牲者の福祉のための協会を設置し、戦争犠牲者と障害者の福祉についての調査・研究を行い、サービスを実施し、それにかかわる出版物を発行し、社会連帯の思想を普及する。
  • 4.専門的なリハビリテーションを実施する施設や、障害者がレクリエーションの場として使える多目的ホールを設置し、社会施策プログラムを現在のニーズに合ったものに変える。
  • 5.障害者にかかわる仕事に従事する者のための養成コースを設置し、特別手当を支給する方法などにより、意欲を促進する。
  • 6.障害者にかかわる問題についての理解を深めるための指導プログラムを作成し、国際リハビリテーション協会(RI)のような機関との情報交換を行い、民間活動を奨励したい。

 我々クウェート国民は、障害者のリハビリテーションをさらに促進していくために、「リハビリテーション90年代憲章(the 90th Charter of Rehabilitation)」を是非、制定してほしいと待ち望んでいる。

(抄訳 奥野英子)

編者注:本稿のみは『アフリカの社会リハビリテーション』という特集内容にそぐわないが、ナイロビで行われた社会リハビリテーション・セミナーの席上で発表された、唯一そしてはじめての中近東からのきわめてリアルで湾岸戦争の爪跡を物語る論文なので特に掲載することにした。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年3月(第75号)16頁~18頁

menu