〈講座〉 義肢装具の支給のしくみ

〈講座〉

●義肢装具・2

義肢装具の支給のしくみ

河野康徳

はじめに

 平成5年5月、「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」が施行された。この法律において福祉用具とは、“心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人又は心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並びに補装具をいう”と定義された。今後斯界では福祉用具が法律用語として定着し、義肢装具を含む補装具はその範疇とされることになる。

 福祉用具の支給制度は今や社会保障体系に広範囲に含まれており、そのことは当然に研究開発から品質管理、処方・適合等、福祉用具の良質なサービスを提供するための支援体制の構築を必要とする。それが福祉用具に関する新法を生むこととなった理由でもあるが、補装具に関しては、大要次の6分野により、その普及が図られてきた。

① 社会福祉制度としては身体障害者福祉法及び児童福祉法があり、わが国における補装具制度の基本的骨格を形作っている。

② 労働災害補償制度としては労働者災害補償保険法があり、療養の給付としての治療材料及び労働福祉事業としての補装具の支給を行う。船員保険法、国家公務員災害補償保険法、地方公務員災害補償保険法が類似の制度をもつ。

③ 医療保険制度に関しては健康保険各法があり、療養の給付として行われる治療材料の内容に義肢装具を含む治療用装具を認めている。

④ 年金保険制度に関しては厚生年金保険法があり、福祉サービスとして、義肢、装具、車いす、

歩行車、補聴器に限定して支給する。農林漁業団体職員組合法が類似の制度をもつ。

⑤ 公的扶助としての生活保護法では、医療扶助の対象となる治療材料として、義肢、装具等の特定品目を指定し運用している。

⑥ 国家補償としての戦傷病者特別援護法においては、戦傷病者に対し、身体障害者福祉制度に準じた補装具支給制度をもつ。

1.身体障害者福祉法に基づく補装具の交付

(1) 補装具に関する法的規定と運用

 身体障害者福祉法の補装具に関する規定としては、次の条項が基本となっている。

 法第20条(補装具) 市町村は、身体障害者から申請があったときは、盲人安全つえ、補聴器、義肢、装具、車いすその他厚生大臣が定める補装具を交付し、若しくは修理し、又はこれに代えて補装具の購入若しくは修理に要する費用を支給することができる。

2.前項の規定による費用の支給は、補装具の交付又は修理が困難であると認められる場合に限り、行うことができる。

3.第1項に規定する補装具の交付又は修理は、補装具の製作若しくは修理を業とする者に委託して行い、又は市町村が自ら行うものとする。

 法第21条(受託報酬) 前条第3項の規定により補装具の交付又は修理の委託を受けた業者は市町村に対して請求することができる報酬の額の基準は、厚生大臣が定める。

 法第21条の2(支給費用の額) 第20条第1項の規定により支給する費用の額は、前条の規定により業者が請求することができる報酬の例により算定した額とする。但し、当該身体障害者又はその扶養義務者の負担能力があるときは、その負担能力に応じ、これを減額することができる。

 以上の条項で明らかにされる基本的事項の第1は補装具の規定及び受託報酬の額の基準を厚生大臣が定めること、第2は身体障害者の申請に応じ市町村は補装具の交付又は修理を業者に委託して行うこと、第3は受益者たる身体障害者又はその扶養義務者に負担能力があるときは費用を徴収されることのあること、といった事柄である。

 補装具の交付・修理は、援護の実施者たる市町村が福祉の措置として行う内容の一種であるが、市町村が福祉の措置に関する業務を行うに当たって、特に専門的判定を必要とする場合は、身体障害者更生相談所の判定を求めることとされており、補装具の処方及び適合判定はそのような専門的業務とされている(法第9条、第10条、第11条)。

(2) 補装具交付基準の構成

 法第20条及び第21条による厚生大臣の定めとは、「補装具の種目、受託報酬の額等に関する基準」(昭和48年6月16日厚生省告示第171号:平成4年10月までに25回改正あり)であるが、この交付基準が前述したようにわが国における補装具関連諸制度が規範として準拠する内容である。

 厚生大臣の定める交付基準の内容は膨大かつ複雑であるので、その中の義肢装具部分を摘要する。

 義肢装具の交付種目等は右図のとおりであるが、その価格構成は、次に示す基本価格、製作要素価格及び完成要素価格の合計とされる。

・基本価格:基本工作に要する加工費及び採型又は採寸の使用材料によって発生する価格

・製作要素価格:材料メーカーから購入する材料の購入費及びその材料を義肢装具の形態に適合させるための加工、組合わせ、結合の各作業によって発生する価格

・完成要素価格:完成部品の購入費及び管理費によって発生する価格

図 義肢装具の交付種目

図 義肢装具の交付種目

(3) 義肢装具の給付事務取扱要領

 社会福祉関係八法の改正により、身体障害者福社法に基づく援護の実施者が市町村とされたことに伴い、厚生省社会・援護局通知「補装具給付事務の取扱について」(平成5年3月31日、社援第106号)が施行された。同通知に示された補装具給付事務取扱要領のうち、義肢装具に関する主要事項を摘記する。

 第1に基本的事項として、①補装具の給付に当たっては、身体障害者の機能の現況、生活環境等の諸条件を考慮すべきこと、②補装具の給付はリハビリテーションの重要な過程として、取扱いに適正かつ慎重を期すること、③補装具を装用している者の状況を的確に把握し、装着訓練等を積極的に行うよう努めること、④他法の規定により給付が受けられる者については、それらを優先して適用すべきこと、⑤委託業者の設備、技術等の整備強化を図るべく指導すること、⑥業者との委託契約に際しては適切な業者を選定すること(この場合、義肢装具士のいる業者が望ましいとされる)。

 第2に実施要領として、①交付基準の運用について、告示された内容によりがたい場合は基準外交付の申請が可能なこと、耐用年数の取扱い等には実情に沿うよう慎重に行うことなど、②業者に委託して行う場合、義肢装具等の給付に際してはその要否及び処方について更生相談所長の判定を求めるべきこと、③更生相談所長が新規申請者の判定を行うときは、できる限り主治医との緊密な連絡をとり判定に慎重を期すること、④更生相談所長は、専任の医師又は適切な検査設備を欠くときは、関係医学会等の意見に基づき選定した専門医に判定を委嘱すること、⑤型取り、仮合わせに際しても前記の判定に準じ、専門医の指導のもとに行うこと、⑥適合判定についても当初の給付判定に準じ更生相談所長の判定を要するか、不適合の場合は、申請者の過失等によるものを除き、業者の責任において改善させること、⑦市町村が自ら交付を行う場合も、前記の業者委託の場合に準ずること、⑧市町村長は、原則として申請日より2週間以内に要否決定する等速やかに処理すること。

2.各制度による義肢装具の支給方法のあらまし

(1) 社会福祉制度による補装具交付

 前節までに述べたとおり、身体障害者福祉法は法第20条に補装具の規定を設け、それを福祉の措置の重要な柱のひとつとされ、また同法に基づく補装具の種目及び受託報酬の額等に関する基準(厚生省告示)は、身体障害者福祉審議会補装具小委員会の議を経ることとされており、事実上わが国の補装具制度の規範として用いられている。

 本法の定義による身体障害者とは、法別表に定める身体上の障害がある18歳以上の者であって身体障害者手帳の交付を受けた者、であるので、本法に基づく義肢装具の交付は、身体障害者手帳の所持者からの申請に対して行われる福祉の措置ということになる。したがって、義肢装具を必要とする身体障害者は、援護の実施者たる市町村に対し「補装具交付(修理)申請書」を提出する。市町村は、申請にかかる義肢装具の要否判定等を更生相談所に求め、その判定(処方箋を含む)に基づき、申請者に対し交付決定を通知するとともに、業者に対し製作委託を通知し、最終的に申請者の自己負担額を差引いた受託報酬額を業者に支払う。

 以上が本法に基づく支給方法の原則である。その手続過程を模式化して示せば、図aの如くである。

図a.身体障害者福祉法の場合

図a.身体障害者福祉法の場合

 社会福祉制度による補装具交付の方式をとるもうひとつのものとして児童福祉法がある。児童福祉法の場合は、交付対象を18歳未満の身体障害者手帳所持者とするが、申請窓口を福祉事務所又は保健所とし、医学的意見を指定育成医療機関又は保健所に聞くことが前者と異なる(図b参照)。

図b.児童福祉法の場合

図b.児童福祉法の場合

(2) 労働者災害補償制度による給付

 労働災害補償に関する制度の典型は労働者災害補償保険法である。本法による義肢装具の支給には二通りある。その1は療養の給付としての治療用装具であり、その2は障害者に対する労働福祉事業としての義肢等の支給である。

 治療用装具については、療養補償給付又は療養給付を受ける者を対象とし所管の労働基準監督署を窓口として「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」に医師の証明書等を添えて提出し、立替え払いの後で費用の支給を受ける。労働福祉事業の場合は、「義肢等支給申請書」で同様の手続きをとり現物給付を受ける。いずれも費用負担はないが、患者に対する前者と障害者に対する後者とでは、支給過程に図c及びdのような差異がある。

図c.療養(補償)給付の場合

図c.療養(補償)給付の場合

図d.労働福祉事業の場合

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(3) 年金保険制度による給付

 ここでは厚生年金保険法に基づく福祉サービスとして行われている整形外科診療という名目の補装具給付制度を紹介する。この制度は財団法人厚生団が厚生省の委託を受けて行うもので、厚生団経営の厚生年金病院が実質運営する。被保険者、年金受給者及び障害厚生年金受給見込者に対し自己負担なしで給付される。「整形外科診療承認申請書」に医師記入の診査表、見積書等を添えて、都道府県保険課に申請。厚生年金病院での判定を要す(図e参照)。

図e.厚生年金保険の場合

図e.厚生年金保険の場合

(4) 医療保険制度による給付

 医療保険制度は、健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、共済組合各法、老人保健法と法体系も多様であり、自己負担率等内容にも差異がある。これら健康保険各法で共通に給付される義肢装具は、療養の給付の中の治療材料としての治療用装具の取扱いを受ける。治療用装具は、保険診療において、医師が傷病の治療のために必要があると認めて業者に作らせ患者に装着させた用具のことであり、具体的にはコルセット(体幹装具)、関節用装具(上肢装具、下肢装具)等である。義肢についても、練習用仮義足等が認められる。これら治療用装具の給付は療養費払いであるため、「療養費支給申請書」に医師の証明書等を添え、各健康保険所管の窓口あて申請する(図f参照)。

図f.医療保険の場合

図f.医療保険の場合

(5) 生活保護制度による給付

 生活保護法による医療扶助においては、必要に応じ治療材料として義肢装具を給付する。この場合も医療給付の一環であるが、医療扶助としての性格から現物給付としているため、前記の療養の給付の場合とは異なり、やや複雑な手続きをとることとしている。被保護患者からの申請を第一義とするが、治療材料の性質上、医師の診療及びそれに伴う義肢装具の処方の行為が潜在的に先行していることは言うまでもない(図g参照)。

図g.医療扶助の場合

図g.医療扶助の場合

(6) 戦傷病者特別援護による支給

 戦傷病者特別援護法は、戦傷病者に対する国家補償の精神に基づく援護の内容を定めているが、そのひとつに補装具の支給がある。この制度による義肢装具の支給は、全額国庫負担であるため自己負担のないこと、都道府県知事(援護担当課)へ申請すること以外は、ほぼ身体障害者福祉制度の場合に準じて行われる(図h参照)。

図h.戦傷病者特別援護の場合

図h.戦傷病者特別援護の場合

(7) 各法適用の優先関係

 義肢装具に関する支給方法を大別して六通りの制度分類で示したが、これだけ多岐にわたる制度があれば必然的に競合関係が生ずる。一般的には災害補償や社会保険の制度が社会福祉制度に優先して適用されるべきであるが、各制度の給付内容が必ずしも等質でないところから、それらの適用に当たっては、ソーシャルワーカーの困惑も少なくない。原則的には、Ⅰ戦傷病者特別援護、Ⅱ労災補償、Ⅲ医療保険、Ⅳ厚生年金、Ⅴ社会福祉、Ⅵ生活保護、の順となるが、純然たる治療材料であれば、ⅥがⅤに優先適用されるものである。

国立身体障害者リハビリテーションセンター指導部長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年6月(第76号)34頁~38頁

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