<講座>義肢装具・3 義肢装具にかかわる関連職種

<講座>

●義肢装具・3

義肢装具にかかわる関連職種

加倉井周一 *

はじめに

 義肢装具は切断者・麻痺患者にとって四肢・体幹の機能障害の軽減をはかる極めて重要な役割をもつ。個々の患者・障害者が適切な義肢装具を利用できるためには、医師・看護婦・理学療法士・作業療法士・義肢装具士・医療ケースワーカーなど医療関係職種からなるチーム医療(義肢装具クリニック)の中で切断者及び麻痺患者の評価・処方・製作・適合検査・装着訓練を行う必要がある(図1)。特に昭和63年4月より施行された義肢装具士法により、リハビリテーション医療の領域で20数年ぶりに新しい専門職種が誕生した。本稿ではこれら関連職種の役割について説明する。

図1 下肢切断者のリハビリテーションチーム(沢村、文献(1)P.25より引用)

 

図1 下肢切断者のリハビリテーションチーム(沢村、文献(1)P.25より引用)

Ⅰ.医師

 切断者・麻痺患者の評価から始まり、処方、適合判定、社会復帰にいたるまでチーム医療の責任者として重要な立場にある。このため義肢装具に関する深い専門知識が要求される。特に切断術を行う場合は、切断部位の決定、術後の断端管理、仮義肢の処方は主治医が全責任をもつべきである。臨床的には四肢・体幹の機能障害にかかわる機会の多い整形外科・リハビリテーション科の医師が最も義肢装具に関与しているが、中には糖尿病の専門家が足底潰瘍の装具に携わったり、肢体不自由児の療育に携わる小児科医が装具に関与する場合もある。義肢装具に関する卒後教育は、関連医学会の要望を受け昭和48年より厚生省の主催する「義肢装具適合判定医師研修会」が開始され、現在までに約2,700名の医師(原則として5年以上の臨床経験者)が受講している。またこの研修会のサブテキストである「義肢装具のチェックポイント」も近々改定4版が刊行されることになっている。義肢装具士法の制定により医師の責任はこれまで以上に一層高まることが予想されるため、昭和63年7月に日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会は「義肢装具にかかわる医師のガイドライン」をとりまとめた。内容は以下に示すように医師の義肢装具士に対する留意事項等をまとめたものである。

[処方]

1.医師は、義肢・装具の処方の際に、形状・構造・機能などに関する指示ならびに必要な注意事項を義肢装具士に与えるものとする。また義肢・装具を構成する部品・材料等の選択にあたって必ず最終確認を行う。

2.医師は、患者または障害者が義肢・装具の使用に際して医学的問題があると判断した場合には、必要な注意事項を義肢装具士に与えなければならない。

[採寸・採型]

3.医師は、義肢装具の装着部位への採型に関して、患者の姿勢及び患部の肢位、局所への配慮(創傷部の取り扱い、ギプス等の圧迫具合など)、その他留意すべき事項について義肢装具士に具体的な指示を与えるものとする。また採型について義肢装具士から疑義が出た場合には、それに答える。

4.医師は、義肢装具士の特定行為制限項目** [術直後の患部の採型、ギプス固定されている患部の採型ならびに当該患部への義肢装具の適合] に基づき、必要あれば義肢装具士に臨機応変の具体的な指示を与えるものとする。

5.医師は、義肢装具士が採寸・採型を行う場合には、事前・事後の医学的処置(創傷部の消毒等)の責任をもつものとする。

[適合]

6.医師は、義肢装具の適合(仮合せを含む)チェックを責任をもって行う。

Ⅱ.看護婦

 看護婦は他の職種とは異なり、患者と24時間接するという特徴をもっている。このためとりわけ切断などの急性期や慢性期の患者のリハビリテーションには、患者の看護以外に本人・家族に対する動機づけ・指導・激励などを行えることからリハ・チームに欠かせない専門職である。最近ではリハビリテーション・ナースという専門分野が定着しつつあるが、義肢装具の領域においてももっと独自性を発揮することが期待される。

Ⅲ.セラピスト(理学療法士・作業療法士)

 理学療法士・作業療法士は患者・障害者の筋力、関節可動域をはじめとする身体的評価に始まり、義肢装具の処方・装着訓練及び退院後の患者のフォローアップに深くかかわる専門職種である。とりわけわが国では、後述する義肢装具士の教育資格制度の発足が遅れたことと、彼らの大半が民間製作所に勤務しており病院には限られた時間のみ参加するという特殊事情のため、病院に常勤するセラピストが切断者の訓練用仮義肢の製作やチェックを行ったり熱可塑性プラスチックを用いた上肢装具の製作に深くかかわってきたという経緯がある。

 また現行の保険医療制度では、採型指導料(義肢装具の処方料に相当する)ならびに訓練用義肢を除くと、義肢装具の費用は療養費払いという現物給付扱い(医師による診断書と、義肢装具製作所の受け取りを保険組合に提出すると、後日7割の金額が返還される)制度のため、病院にとっては収入増加につながらず、したがってなかなか病院内に義肢装具製作工房ができず、また常勤の義肢装具士が配属されるようにはなりにくいという結果になる。今後このシステムが変われば事態は変わるかもしれないが、セラピストによる義肢装具へのかかわりはしばらく続きそうである。

Ⅳ.義肢装具士

 本来的には義肢装具士はセラピストと同様にリハビリテーションチームの有力なメンバーとして参加すべきであるが、これまでわが国では度重なる医学会の要望にもかかわらず行政の対応が不十分のため一向に教育資格制度が確立されてこなかった。このため労働省による義肢装具製作技能検定の導入(昭和51年度)など変則的な状況が生じたことは否定できない。昭和59年に国立身体障害者リハビリテーションセンター学院にわが国初めての高卒3年制の義肢装具専門職養成課程が発足し、昭和63年4月より施行された義肢装具士法によりようやく体系的な教育・資格制度が確立された。義肢装具士法に決められた経過措置(5年間に限り現に職業に従事している者は、国の定める講習会を受講すれば国家試験受験資格が与えられる)も平成5年3月に終了し、これまでに講習会受講者1,976人(平均合格率69.3%)、養成校卒業者171人、総計2,147人の有資格者が誕生した。今後は全国4校の養成校卒業者のみ受験資格が与えられることになっている。

 「義肢装具士は、診療の補助として義肢・装具の装着部位の採型及び患者の身体への適合を行うことを業とすることができる」(法37条)とあるが、医療行為と業務との関係は図2に示した。つまり医療行為に含まれない製作業務があることが、これまでの医療関連職種の資格制度に比べて特徴的である。

図2 医療行為と義肢装具士の業務との関係

 

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 このため、義肢装具士の業務指針 [業務遂行の基本姿勢、チーム医療、医療関連職種との関係、医療プログラムへの参加、法令の順守、守秘義務、患者への説明、記録の保存、医師の指示ならびに個別事項(採型・製作・適合などの注意)] が明確に規定されていることが大きな特徴と言えよう。今後残された問題は、4年生大学カリキュラムなど学校教育法への参加、民間製作所以外に病院や官公立施設にどの程度職場を開拓できるかなどであろう。

Ⅴ.リハビリテーション・エンジニア

 リハビリテーション・センターや研究所で義肢・装具・車椅子などの評価や研究開発に従事しているエンジニアである。まだ全般的に人数が限られており、臨床サイドから提示される諸問題を全て解決するまでにはいたらない。

Ⅵ.医療ケースワーカー、リハビリテーション・カウンセラー

 患者や障害者の心理・社会面・経済面での相談に携わる業務と、義肢装具交付手続きでの援助を行う職種である。

Ⅶ.義肢装具パーツメーカー

 義肢装具の完成部品を製造販売したり海外からの輸入品を販売する職種である。民間の義肢装具製作所が行っている場合もある。

おわりに

 以上、義肢装具に関与する職種の内容と問題点を述べた。繰り返しになるが、患者・障害者のニーズを各専門の立場から把握し、チームワークで対応することにより初めて義肢装具が本来の機能を発揮できることを強調したい。

文献 略

**診療の補助として、医師・看護婦・準看護婦・義肢装具士等の資格を有しない者が業として行ってはならない。義肢装具士は名称独占であるが、前出項目は業務独占になる。

*東京大学医学部付属病院リハビリテーション部


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年9月(第77号)36頁~39頁

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