講座 最近における義足の進歩

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義肢装具・4

最近における義足の進歩

澤村誠志

幸幹雄**

 私が義足の勉強を始めた1958年頃は、PTB型の下腿義足がカリフォルニア大学で開発され、アメリカの大学の教育コースにのりかけていた時代であった。当時、わが国では義足は木、皮、鉄とアルミで製作され、合成樹脂はほとんど用いられていなかった。もちろん、PT、OT、義肢装具士の身分制度は存在せず、したがって、形の上ではチームによる義肢装具クリニックが形成されていなかった。したがって、チームアプローチを行うことができず、自ら切断術を行い、手術直後に切断端にギプスソケットを装着してパイロンをとりつけ、義足装着訓練を行うのが医師としての仕事であった。一方、当時は義肢の価格が低価格に抑制されていたため、現在のようにパーツ、材料を海外から輸入することができず、処方選択の幅がきわめて少なかった。義足足部にしても、せいぜい単軸かSACH足の選択にすぎなかった。その後、PT、OT、そして義肢装具士の身分制度が発足してチームアプローチが可能となった。これと同時に、わが国の経済力の向上による義肢価格の適正化が進み、海外からのパーツの利用が可能となり、選択の幅が著しく広がった。当初の状態を思うと隔世の感がある。

 最近の義足の進歩は、合成樹脂を主とする義肢製作材料の開発をべースにして、さまざまな形の進歩が認められる。ソケットの材料にしても、シリコンやポリプロピンの導入により適合性や懸吊性が著しく改良された。また、義足の軽量化はカーボンファイバーやチタンの適用により、著しい進歩をとげている。さらに、リハビリテーション工学の関与が深くなるにつれて、義足の進歩に与えた影響は大きい。ひとつの結果として、インテリジェント義足など多くの膝、足継手の開発がみられた。また、CAD/CAMの導入によるソケット製作もリハ工学の成果といえる。さらに、切断者自身のより豊かな生活を追求し、体の一部となっている義足の機能をスポーツや余暇活動を通して楽しみたいとする傾向が、多様な義足の進歩に寄与している点は少なくない。図1(インテリジェント大腿義足 写真略)は、女性の右大腿切断者自身の希望により作成した義足である。内ソケットには、熱可塑性樹脂のポリエチレン樹脂の中で最近開発され、非常に柔軟で耐久性と適合感にすぐれたEVAコポリマーを用い、外ソケットにはカーボンファイバーを用いた坐骨収納型のフレキシブルソケットである。義足の外ソケットのデザインとして、本人の好む衣服の布地を用いてソケット製作を行っており、衣服感覚で義足を装着することができる。ささやかであれ、QOLを求めたものといえる。膝継手から下腿部はカーボンファイバーを用いて軽量化をはかり、膝上部には、横座りをしたり、靴の着脱のときに用いるターンテーブルを処方している。膝継手には、英国ブラッチフォード社の立脚相制御、つまり、体重を義足側にかけても容易には転倒しない装置がついている。その上、コンピュータで空気圧シリンダーを利用して歩容を調整し、しかも正常に近い歩容で速く歩けるインテリジェント義足(兵庫県立総合リハセンター開発、NABCO製作)が取り付けられている。足部は、エネルギー蓄積型足部で、よりダイナミックに活動性が高くて歩けるようになっている。いずれの材料、パーツをとってみてもこの10年前のわが国では全く考えることができなかったほどの進歩した機能をもった義足といえる。

 本年5月に日本義肢装具士協会が設立され、今後、リハ工学の協力のもとに義肢・装具の研究・開発に拍車がかかるものと思われる。いずれにしても、これからの義肢の開発およびサービスは、私が経験したような医師主導型から、リハエンジニア、義肢装具士、PT、OTなどのチームアプローチの中で進んでいくものと思われる。本稿では、私共のセンターの下肢切断グループが近年行ってきた研究開発の実績を中心にして、義足の最近の進歩の現状をご紹介したい。

Ⅰ.骨格義肢とモジュール化への傾向

 従来、わが国の切断者の多くが装着してきた義肢は、殻構造型と呼ばれているものであった。この義肢は、義肢に働く外力を殻構造で負担、支持するとともに、この殻の形そのものが手足の外観に類似するものである。これに対して近年、骨格義肢と呼ばれる義足が主流として用いられるようになった。これは人体の手足の構造と同様に、中心軸にパイプなどの骨格様のものが通りこれで外力を支持し、外観の復元には、発泡樹脂などの軟らかい材料を被せた構造をもつものである。したがって、この骨格構造をもつ義肢は構造上モジュール化された部品が個々の切断者の能力に応じて選択され、総合して組み立てられるようになり、これが現在、私共の処方の主流となっているモジュール義肢であり、システム義肢として製品化されている。

 骨格モジュラ一義肢の目的は、①各切断者にいろいろな部品の組み合わせを試みて、最適の状態をさがしうること、②アライメントの調整が完成後でも可能であり、部品を取り替えるなど補修が容易なこと、③外観および触感がきわめて優れていること、さらに希望的には、④軽量化、⑤耐久性の優れていること、そして安価を目標としている。

 現在、私共のクリニックでは、股義足、大腿義足、膝義足のほとんどは殻構造から骨格構造となっており、下腿義足も足部の選択との関連で徐々に骨格構造義足の装着率が増加している。

 図2(片側骨盤切断例に対する軽量骨格構造カナダ式股義足(骨盤結合児ドク君、ベトナム) 写真略)は、ベトナム戦争の枯葉剤による骨盤結合畸型をもって生まれ、その後、分離手術を受けたドク君に装着した義足である。このような片側骨盤切除例には、極めて軽量化した骨格構造義足でないと継続した装着は不可能といえる。

Ⅱ.各継手の開発と日常生活への適応

 健常肢の関節に相当する義足の継手には、股継手、膝継手、足継手がある。

1)大腿義足に使用される膝継手は、切断者の断端長、活動度、職業、年齢、性、生活様式、余暇活動、スポーツなどを考慮して処方されなければならない。しかし現実には、近年の多様なモジュール型の骨格構造義足の開発普及により、多くの継手の選択肢が生まれている。たとえば、切断者が義足を前に振り出すときに用いる膝継手の遊脚相制御機能にはいろいろなものがあるが、正常歩行にみられる理想的な遊脚相制御モーメントに近い形になれるように、油圧や空気圧がよく用いられている。特に、大腿切断者が義足で走るためには、この油圧機能が必要である。一方、空気圧制御の場合には、比較的理想的に近い制動モーメントを示す。私どもは長年にわたり、空気圧シリンダーの開発に取り組んできた。この弁の開閉の調節を適切に行うことにより、健常者の膝屈曲角度変位とほとんど同等の角度変位を示し、良好な歩容が得られることが分かり、臨床的にも多くの評価を得た。この過程の中で、この弁の開閉に義足に内蔵したコンピュータによる制御を行い、広い歩行速度の範囲に対して良好な歩容を得ることが可能となっている。このインテリジェント義足は、長い間のフィールドテストを経て、現在、ナブコにより量産体制に入っており、今後、独・英の協力を得て国際的にも認知される方向にある。

2)足継手の開発も著しい。図3(各種エネルギー蓄積型足部 写真略)は、義肢装具クリニックの場で、最近よく処方されている足部である。従来の単軸足部、SACH足部が中心であったものが、足根間および足根中足関節の回内外運動機能をもつ、グライシンガー足、SAFE足、ブラッチフォード多軸足部などが用いられるようになった。

 また、近年、より速く歩き、走りたいとのスポーツ愛好家のニーズに応えるために、立脚相の踏み切り期に蓄えたエネルギーを放出して走ったり、ジャンプしたりできるエネルギー蓄積型足部が開発されている。Seattle, STEN, SAFE, Carbon Copy II, Quantum, Flex footなどがその例である。それぞれ特性があり、最適な足部を処方することが重要である。

Ⅲ.各切断部位における義足の進歩

 股義足については、カナダ式股義足を基本とするが、ソケットの適合技術と股継手の開発および骨格構造化への傾向がみとめられる。

(1)特にソケットでは、外側開きのダイアゴナルソケット、フレキシブルソケット、半側ソケットや外側開口部つきのソケットなどが開発されている。また、骨格構造化による軽量化と立脚相制御機能をもつ膝継手の処方が実用性を高める上で、きわめて重要である。

(2)大腿義足は、上記の膝継手および足継手の進歩と選択の幅の拡大が大腿切断者の歩容、歩行時の安全性、軽量感、外観などを良くし、スポーツおよび余暇活動などの社会参加の機会を増している。また、4本リンク膝の開発が、従来問題にされていた大腿長断端か、膝離断かの選択論議を無意味なものとしている。

 また、私共が国際会議を通じて胡座や横座りや履物の着脱動作をする上で処方の必要性を説いていたターンテーブルが、最近、諸外国でもよく用いられるようになった。

 これと同時に、大腿ソケットの適合技術も近年大きな変化をとげている。特に、従来の四辺形のソケットから座骨結節と座骨枝の一部がソケットの内に入りこんだ座骨収納型ソケットが、近年、注目を集めている。

 これとともに、フレキシブルソケットの開発も注目に値する。従来の大腿義足ソケットは、断端を包みこむ機能と体重を荷重する機能の両者を併せもつ硬性ソケットであった。この異なる機能を2つの別々のソケット構造にもたせて解決しようとしたのがフレキシブルソケットである。このフレキシブルソケットは、一般的には快適な装着感、すぐれた懸垂性、放熱性、床からの接触感覚がよりよくソケットを通じて断端に伝わるなどの利点があげられている。

(3)下腿義足では、PTB(1957)が今もなお、主流として用いられている。この中で、最近開発され注目されている義足を紹介したい。

 ①シリコン吸着ソケット(3S Silicone Suction Socket)

 これは、直接、断端皮膚に接する内ソケットとして弾力性にすぐれたシリコンを断端末からころがすように被せ、これを下腿足部と繋ぐもので、利点として義足の懸垂力を増すこと、皮膚に対する剪力を減ずることと、軽量感に優れている。

 ②全面荷重式吸着義足(UCLA Total Surface Bearing(TSB)Suction Socket)

 この義足も内ソケットにシリコンを用いたものであるが、PTBと異なり、ソケットを断端周径より少し小さく作り、シリコンの弾性と摩擦力を用いて皮膚とソケット間の摩擦と圧迫を用いた吸着義足である。

 ③CAD/CAMによるソケットの製作

 コンピュータを用いて断端の計測デザインを行い、そのデータからソケットを製作する方法をCAD/CAMと呼んでいる。計測から仕上げまで3時間で義足を完成でき、製作技術の安定性、易修正性、遠隔地へのサービスなどが利点としてあげられている。現在、臨床的には、なお試行錯誤を繰り返しているが、今後開発途上国での義肢支給サービスを含めて、注目に値する開発といえよう。

Ⅳ.おわりに

 以上、最近における義足の大体の傾向について述べた。膝義足、サイム義足などについては、紙面の関係で割愛させていただいたことをお許しいただきたい。

 わが国の社会保障の充実による補装具の価格体系の整備、標準規格化における研究、補装具判定医師講習会の充実、ISPO第6回世界会議の開催による国際協力、そして、日本義肢装具士協会の設立など、この10年間の義肢装具サービスにおいて著しい進歩をみとめた。特に、行政側といろいろな医療職との連携・協力体制のすばらしさに敬意を表したい。また、わが国の義肢装具サービスに関連する医師、義肢装具士、PT、OT、エンジニアなど各種専門職間のチームワークの存在は、海外には比例をみないほど優れた存在であると評価している。

 今後、われわれに課せられた問題としては、わが国でオリジナリティのある研究開発を期待したい。

 上記に紹介した義足の進歩のほとんどは外来性のものであり、わが国で開発されたものはインテリジェント義足ほか、わずかである。過去10年余りにわたり、通産省、科学技術庁を通じて、多くの福祉機器の研究プロジェクトが行われた。しかしいずれも、エンジニア主導型であったこともあって、消費者である障害をもつ人々のニーズに合わず、研究論文作成の域にとどまってきたことはきわめて残念である。この意味では、本年成立された福祉用具の開発普及に関する法案は障害をもつ人々に、より身近な効果を上げうる方向に転換することを期待したい。また、日本義肢装具士協会の設立に伴って、これからは独自ですばらしい研究が競い合って、国際的にも優れた業績をあげられることを期待したい。

 ISPOは、1995年4月2日より、オーストラリア・メルボルンで第8回世界会議を開催するべく準備中である。この間の1994年3月には、タイのパタヤで“下肢切断と義足”に関するカンファレンスが開催される。少しでも多くの方がわが国から参加し、国際的な協力の中で、将来、アジアの開発途上国の人々にまで手を差しのべていただければ幸甚である。

兵庫県立総合リハビリテーションセンター
**兵庫県立総合リハビリテーションセンター


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年12月(第78号)36頁~39頁

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