特集/障害の定義 障害全般の用語の概念・定義

特集/障害の定義

障害全般の用語の概念・定義

―障害児の教育を中心に―

小鴨英夫

はしがき

 ここ数年、わが国では障害児の教育に関する用語について、別の言葉に言い換える動きが活発化している。

 欧米諸国においては、既に、1970年代から障害児教育の教育改革が進められ、多くの専門委員会で討議が重ねられ、徐々に教育制度の整備が行われていった。そこでは法律で使用される用語の明確な定義づけや概念が示された。更に、障害の分類化の問題などもその過程で浮き彫りにされた。

 本稿では、各国の「特殊教育」の概念、障害児教育の中で使用されている主要な用語の定義、更に、障害カテゴリーの見直しとその変化の状況などについて解説した。

1.特殊教育の定義と概念

(1) わが国の特殊教育

 わが国では、「特殊教育」は心身障害児教育と同義に用いられ、盲学校、聾学校及び養護学校ならびに小学校、中学校に設置された特殊学級の教育を指している。心身に障害があるために、小学校や中学校等の通常の学級における教育では、十分な教育効果を期待できない児童生徒(教育上特別の取扱いが必要と思われる児童生徒)に対して、その心身の障害の状態や発達段階、特性などに応じて、よりよい環境を整い、その可能性を最大限に伸ばし、可能な限り積極的に社会に参加する人間に育てるため、特別な配慮のもとに適切な教育を行う必要があり、このような必要から用意された学校教育の分野を「特殊教育」とよんでいる(文部省)。

 このように特殊教育を一般の学校教育から分離された場に限定していることに対し、近年、反省の気運がおこり、心身障害児に対して小・中学校の通常の学級において、普通児とともに学習させる機会を与えたり、必要に応じて特定の時間に特別の指導ができるような教育の形態も用意されている。

 今日、このような特殊教育は実際上、盲学校、聾学校、養護学校などの特殊教育諸学校における教育並びに小・中学校の特殊教育における教育および通級による指導等を指している。

 近年、わが国ではこの「特殊教育」という用語に代えて、「障害児教育」「養護教育」「心身障害教育」などの用語が使われている。これは、「特殊教育」という場合の「特殊」ということばが差別というニュアンスを含んでいる、あるいは特別な子どもという誤解を招きかねないなどの理由から、特殊教育という用語を他のことばに言い換えようとするものである。

 そもそも、「特殊教育」の最初の用語例は、明治14年改正の文部省事務取扱規則にみられ、その意味については、従来、何を意味するかは明らかでないとされてきた。しかし、小川克正は、従前の諸説を吟味し、この用語が使われている規程条文ならびに関連資料を分析した結果、専門学校ならびに実業学校及び「育[唖]院」を含む各種学校の教育を総称する概念として使用されていることを明らかにした。そして、ほぼ同じ時期に文部省から刊行された翻訳辞典の『教育辞林』には、類似の「特別教育」の用語がみられ、その用語は特殊教育の用語例とも一致すること、この場合の原語はスペシャル・インストラクション(special instruction)であることを確認している。

 このことからも、「特殊教育」という用語は、元来差別的な意味は含まれていないことは明らかで、障害児に適切な特別の方法による教育を意味していた。

(2) イギリスにおける「特殊教育」の概念

 イギリスの「特殊教育(special education)」という用語は、日本と同様に障害児教育の意味に使用されている。

 英国政府が1974年から5年間をかけて、障害児教育のあり方を全般にわたり審議してきた「ウォーノック委員会」は、障害児・青少年の特殊教育の場から成人社会への移行をも含めたあらゆる問題を総合的に分析調査する新たな試みとしても重要な意義を有するものであった。この調査における「教育」の概念は、その近接概念である訓練(training)、治療(therapy)、保護(care)などと画然と使い分けた意味の教育ではなく、広く一般的に理解されている教育概念を念頭に置いている。

 そうした立場から教育の目標は、第1に児童の知識、経験そして想像性豊かな理解力を増大させ道徳的価値観および趣味の能力を高めること、第2に、個人的独自性を堅持しつつ、社会の一員として責任を果たし、社会に貢献し得るような児童を育成することにある、と規定しこのような観点から現行の特殊教育の実情を詳細に調査し、今後の特殊教育の在り方に検討を加えることとしている。また、重度児の教育に対しては、次のような見解を示している。

 狭義の教育という観点から教育効果の全く期待できないケースに対する社会的努力と経費の投入に疑念が提起されていることは事実である。この問いに対し、我々はあらゆる援助にもかかわらず前進できないケースであれば、なお、その子どもを援助する方法を探求すべきであると答えねばならない。こうした不幸な子どもの世話をし得ない文明社会が、自ら納得させることは不可能であると確信する。従って当委員会における特殊教育の概念は、極めて広義なものであると理解されてよい。例えば、重度児のみでなく、いかなる形態のものでも、特別な教育を必要とするすべてのものに関係している。その必要とする援助は、重度・重複障害児に対する特殊学校における集中的な教育プログラムを含む専門家による援助から、軽度な学習困難児に対するパートタイムの援助をも含めた少なくとも何らかの措置が加えられた場合すべてを「特殊教育」として把握している。

(3) アメリカ合衆国の特殊教育

 アメリカ合衆国は伝統的に教育は、地方の問題であったが、1957~63年の間に多くの議論を重ねた後に連邦政府が障害児教育の分野の専門家の養成と研究に対して、若干の援助をすることとなった。これにはケネディ大統領の強力な指導の下で実施されたものである。1965年に「初等・中等教育法」が通過して以来、連邦政府はいろいろの面で公教育に関与するようになったが、障害児を援助する連邦としての立法化は容易ではなかったのである。そして、1975年に「全障害児教育法」(PL94‐142)が連邦における障害児教育の基本的な枠組みを定める単独の法律として立法された。

 この法律及び施行規則において、特殊教育に関する用語の定義がなされているので主なものを取り上げてみよう。

 先ず「障害児」(handicapped children)の用語の意味は、精神遅滞、難聴、聾、口語または言語の障害、視覚障害、重度の情緒障害、整形外科学上の障害その他の健康上の障害のある児童または特異な学習能力の障害をもった児童で、そのために特別な教育および関連サービスを必要とする者をいう。

 また「特殊教育」(special education)の語は、障害児の独特なニーズを満たすために特別に考案された指導で、親または後見人に費用を負担させないものをいい、学級指導、体育の指導を含む、としている。

 このように「全障害児教育法」では、障害児を障害のために特殊教育及びサービスを必要とするものと規定し、障害カテゴリーも指定している。この特殊教育及び関連サービスの対象は、「障害者教育法(PL91‐230,1970年4月制定)」、「1974年障害者教育法改正法(PL93‐380)」、「1975年全障害児教育法(PL94‐142)」、そして「1991年障害者教育法修正(PL102‐119)」と法改正のたびに、名称や対象が変化してきている。

 なお、「関連サービス」は、全障害児教育法で定義が明示され「輸送ならびに障害児が特別な教育から利益を受けることを援助するために必要な発達、治療その他の援助サービス(言語病理学、オージオロジー、心理学的サービス、理学療法、作業療法、レクリエーション、医療および相談サービスを含む。ただし、医療サービスで診断および評価のみを目的とするものは除く)をいい、児童の障害の状態の早期発見・評価を含む」とされた。その後、関連サービスについては、新しく「学校保健サービス」が加わり、また「レクリエーション」や「心理学的サービス」の内容や字句の変更が行われた。

(4) ユネスコの特殊教育の概念

 ユネスコの1983年改訂版「障害児教育用語辞典」(Terminology of special education)では、特殊教育の種々の用語のもとになっている、いくつかの広い意味の概念について検討を加えている。

 「特殊教育」(special education)とは、通常の教育の方策だけでは、年齢相応の教育的、社会的、その他の水準の目標到達ができない、もしくは難しい人々に用意される教育の形態を指し、同時に、その水準に向けての教育効果を促進する目的をもつものとする。

 注意すべき点は、この定義では特殊教育の概念についての相対性(relativity)を認めていることである。用意されるべき「特殊性」に対する個々の子どもの必要性は、そのコミュニティの一般的な子どもに用意されている教育の実態に依存している。同様に、個々の子どもがどの程度与えられた教育環境の中でうまくやっていくことができるかは、その個人の資質と欠陥からくるものに依存している。

 特殊教育という用語は、最も一般的には子どもや若年齢層の人々に対して用いられることばで、それまでに獲得できていない内容を教えるという意味をもっている。年齢層の高い人々においても言及する可能性を排したものではない。このほか、「障害」、「インテグレーション」などの用語の概念についても記述されている。

2.その他の特殊教育に関する用語の定義

 アメリカ合衆国では、「1975年全障害児教育法」および「同法施行規則」(1977)の中で、連邦政府によって数多くの障害カテゴリーが規定された。また、その他の特殊教育関連法の中にも主要な用語の定義がみられる。以下、それらの特殊教育に関する主要な用語の定義を取り上げる。

 1)発達障害(developmental disability)

 「1970年発達障害サービスと組織法(PL91‐517)」は、連邦最初の「発達障害」に関する法律として注目される。発達障害児とは「18歳以前に精神遅滞に近い神経学的状態にあり、その障害は恒久的あるいは長期に継続するものと思われ、そのためその個人にとって重大な不利益をこうむるもの」とし、保健教育福祉省の長官により、精神遅滞、脳性まひ、てんかん、その他の神経学的状態を示す障害に対し、発達障害のための援助プログラムが利用できるよう資金が準備された。次いで、1975年の改正によりPL94‐103では、自閉症と難読症(dyslexia)が加えられ、発達プログラム、住宅、雇用、確認、促進、治療、輸送そしてレジャー・レクリエーションなどのサービスが設けられた。そして、1978年の法改正(PL95‐602)では、発達障害の定義を、「その障害が精神的もしくは身体的であろうと、重複したものであろうと、22歳以前に出現し、その結果、生活活動の特別な領域に重要な機能的制限が現われ、生涯にわたってサービスを必要とする重度障害」としている。この法では、結節性硬化症と骨不全症など、以前になかったものが含められた。そして最近では1984年10月のPL98‐527の改正では、自立、生産性そして地域社会への統合などを通して発達障害を有する者の潜在力を最大限に発揮することを反映したサービスが盛り込まれている。また、予防サービスがその他のサービスのリストに付加されている。

 2)特異な学習障害(specific learning disability)

 「特異な学習障害をもつ児童」とは、口語または文字の理解もしくは使用にかかわる基礎的な心理的過程のいくつかに混乱があり、その混乱が、聴く、考える、話す、読む、書く、綴るまたは計算するといった能力の欠陥として現われる児童をいう。

 この種の混乱は、知覚障害、脳損傷、微細の脳機能障害、難読症、発達上の失語症といった症状を含む。この用語は、主として視覚、聴覚または運動障害、精神遅滞、情緒障害もしくは環境、文化または経済面の不利から結果する学習上の問題をもつ児童は含まない(PL98‐199)というものであり、いろいろのタイプの障害を総称するものとして定義している。

 わが国でも、最近、この学習障害の問題が教育上、重要な課題となっており、学習障害に関しては通級制による指導が効果的であるという指摘も行われている(平成4年3月、「通級学級に関する調査研究協力者会議・座長山口薫)。学習障害については、全体的な認知能力に比して特定の能力の発達が著しく遅れていることを特徴とし、広汎性発達障害とは一応区別されるという点、およびこれに該当すると考えられる児童生徒がわが国にも存在するという点では、関係者の間で見解が一致している。

 次に前出1(3)アメリカ合衆国の特殊教育の中で取り上げた用語「障害児」の定義の中に使用されている多くの用語についての定義を取り上げる。

 3)「聾」(deaf)とは、音を増幅させてもさせなくても、聴覚を通じての言語情報の処理に障害があり、教育上の遂行に不利な影響を及ぼすほど重度な聴覚障害を意味する。

 4)「聾・盲」(deaf‐blind)とは、聴覚障害と視覚障害が重複し、そのため聾児もしくは盲児のための特殊教育プログラムだけでは対処できないような重度のコミュニケーションやその他の発達上および教育上の問題をひきおこすような障害を意味する。

 5)「難聴」(hard of hearing)とは、恒久的であれ、変動するものであれ、子どもの教育上の遂行に不利な影響を及ぼすような聴覚障害を意味する。ただし、本条の「聾」の定義に該当するものは含まれない。

 6)「精神遅滞」(mentally retarded)とは、一般的知的機能が明らかに平均よりも低く、同時に適応行動における障害を伴う状態で、それが発達期に現われ、子どもの教育上の遂行に不利な影響を及ぼすものを意味する。

 7)「重複障害」(multihandicapped)とは、(例えば、精神遅滞と盲、精神遅滞と肢体不自由などのような)重複する障害を意味し、その組み合わせのために単一の障害のための特殊教育プログラムだけでは対処できないような重大な教育上の問題をひきおこすものをいう。ただし、「聾・盲」の子どもは、この中に含まれない。

 8)「整形外科的障害」(orthopedically impaired)とは、子どもの教育上の遂行に不利な影響を及ぼすような重度の整形外科的な障害を意味する。この中には先天的異常(例えば、内反足、四肢の欠損など)、疾病による障害(例えば、ポリオ、結核性骨関節炎など)、その他の原因による障害(例えば、脳性まひ、切断または拘縮の原因となる骨折や火傷など)が含まれる。

 9)「その他の健康上の障害」(other health impaired)とは、心臓病、肺結核、リューマチ熱、腎炎、ぜん息、鎌状赤血球貧血、血友病、てんかん、鉛中毒、白血病、糖尿病などの慢性もしくは急性の健康上の問題によって、体力、活力、敏捷性に制限が生じ、子どもの教育上の遂行に不利な影響を及ぼすものを意味する。

 10)「重度の情緒障害」(seriously emotionally disturbed)とは次のように定義される。

(ⅰ) 長期にわたり、著しく以下に挙げるような特徴の一つないし、複数の徴候を示し、教育上の遂行に不利な影響を及ぼすような状態を意味する。

(A) 知能、感覚または健康上の要因では説明できない学習能力の欠如

(B) 仲間や教師と十分な対人関係を確立し、維持する能力の欠如

(C) 正常な環境の下での行動または感情の不適切さ

(D) 全般的な沈うつまたは抑うつ状態

(E) 人間関係の問題または学校での問題と関連するような身体的徴候や不安を示す傾向

(ⅱ) 本用語には、精神分裂や自閉症の子どもは含まれるが、社会的に不適応な子どもは含まれない。ただし、情緒障害であると確定された場合は除く。

 11)「言語障害」(speech impaired)とは、子どもの教育上の遂行に不利な影響を及ぼすような、吃音、構音障害、言語の障害、声の障害などのコミュニケーション上の障害を意味する。

 12)「視覚障害」(visually handicapped)とは、矯正してもなお子どもの教育上の遂行に不利な影響を及ぼすような視覚障害を意味する。本用語には、弱視と盲の両者が含まれる。

3.障害の類型化の問題

 ここでは、障害カテゴリー別分類の問題について、イギリスとアメリカ合衆国について歴史的背景についてふれながら現状を比べてみる。

(1) イギリスの状況

 1)1944年教育法

 第2次大戦後のイギリスの特殊教育制度の枠組みは1944年教育法が基礎となっている。この教育法は第1に特殊教育を要する児童の対象を拡大し、第2に軽度の心身障害児は原則として普通学校で教育するという2大原則をたてた。前者については、従来の盲、聾、心身欠陥、てんかんの4つから、盲、弱視、聾、難聴、虚弱、糖尿、教育的遅滞、てんかん、不適応、肢体不自由、言語障害の11種類に拡げ細分化をおこなった。そして後者については、障害種類のうち、盲、聾、てんかん、肢体不自由、失語症の5障害児は特殊学校において教育し、その他は可能な限り普通学校において教育することを原則とすることとした。1944年教育法では、特別の教育措置を必要とする児童生徒の教育は、障害が重度の場合はそれぞれの障害の種別に適合する特殊学校で、そしてそれが実施できない場合や障害が軽度の場合には、普通学校で行うとし(第33条)、また、特別な教育措置を要する児童を確認し、特殊教育が受けられるようにすることを地方教育当局に義務づけた(第34条)。

 しかし、地方教育当局は個々の児童生徒について特殊な教育措置を定めるのであるが、すべての障害児について教育措置を決定するわけではなく重度知能障害児については、「学校教育に不適当な児童」と判定された場合、地方保健当局の措置のもとに置き、義務教育の対象外としていた(第57条)。

 2)1970年教育法

 1970年教育法は、「学校教育に不適当な者」(children unsuitable for education)とされていた児童の措置を地方保健当局から地方教育当局へと移管して、義務教育の対象に組み入れた。この結果、障害児の全員就学が法的に保障されることになり、障害児教育は新たな段階を迎えた。

 保健行政当局の管轄下にあった初級訓練センター(junior training centres)や施設内学級が教育行政当局の管轄下に移されて特殊学校となり、全国の特殊学校数、児童生徒数は大幅に増加した。すなわち、同法は精神薄弱児の教育を地方教育行政当局の所管と定め、これらの児童生徒の保護訓練に関する保健当局の権限および初級訓練センター、特別保護訓練ユニットの施設、職員を教育当局に移管するという根本的な改革を行なった。この改革に伴って1944年教育法における教育遅滞児(educationally sub‐normal)は、中度の教育遅滞児(moderately educationally sub‐normal[ESN(M)])とよばれ、これに対する重度の教育遅滞児(severely educationally sub‐normal[ESN(S)])という分類が導入された。

 3)教育白書「教育における特別なニーズ」

 政府はウォーノック委員会報告の答申に答えて今後の特殊教育に関する政策、立法の方向を示した政府白書「教育における特別なニーズ」(Special Needs in Education)を1980年8月に公表した。

 政府は「特別な教育ニーズ」という概念を導入した。現在の分類形態は、障害児は皆、単一の能力障害をもつものと仮定しているが、多くの障害児は複数の障害をもっているのである。いかなる分類体系をもってしても、ひとりの児童のニーズの医学的、心理学的、教育的および社会的諸側面を一挙に記述することは容易にできることではない。しかも、医学的診断は、児童の教育上の必要条件を適切に分析評価するわけのものでもないのである。「特別な教育ニーズ」には、身体、知覚もしくは精神の能力障害、または情緒もしくは行動の変調に起因するニーズで、教育の場、内容、時期もしくは方法といった事項に関して特別な措置を要するもの、ならびにその効果の点で類似の他のニーズを含むと考えている。

 地方教育当局は、その地域のために十分な学校を確保するという一般的責務の範囲内で、現在のようにある定められた範疇の障害に該当するという理由で特別な教育的取扱いを要する生徒のための措置に替えて、特別な教育ニーズをもった生徒のために、そのニーズに留意してそれに適切な措置を保障する責務をもつことになる。

 4)1981年教育法―「特別な教育ニーズ」という概念の導入

 この法律は、1980年8月に発表された政府白書「教育における特別なニーズ」で明らかにされているように、ウォーノック報告(1978年)で提示された数多くの勧告のうち、実現に当って立法措置が必要なものについて定めたものであり、英国の教育に関する基本的な法律である1944年教育法の障害児教育に関する部分を大幅に改めるものである。

 要点のうちの一つに、心身の障害を類型化し、それに対応した特別な教育上の取扱いを行うこととしていた従来の枠組みを、「特別な教育ニーズ」(special educational needs)という障害の種類にとらわれない広い概念を導入することによって取扱い、個々の児童の具体的ニーズに対応した柔軟な教育措置が講ぜられるようにしたことである。

 法は本文全21条からなり、その第1条は、「特別な教育ニーズ」、「特別な教育措置」および「学習上の困難」(learning difficulty)という新しく導入された概念を定義している。

 同年齢の大多数の児童よりも著しく大きな学習上の困難を抱えていたり、同年齢の児童のために通常用意されている教育施設、設備を利用できないような能力障害を負っている児童(その学習上の困難が家庭と学校とで話される言葉の違いから生じている場合は除く)―これを「学習上の困難を有する児童」と総称する―で通常講じられている教育措置に加えて補足的な何らかの教育措置または通常の教育措置とは別の教育措置―これらを「特別な教育措置」という―を必要とする児童を「特別な教育ニーズ」をもつ児童として包括的にとらえる。

 「特別な教育ニーズ」という概念が導入されたことにより、1944年教育法に基づいて国務大臣が規則で定めた障害生徒のカテゴリー(前出10種類)が廃止され、それらのカテゴリーのいずれかに分類することができないような障害をもつ児童、例えば重複した障害をもっている者や通常の教育措置では教育効果が得られないがどの範疇の心身能力障害をもつかは明らかでない者であるため、従来は法的には不安定な地位にあった児童も、すべて新しい法的枠組みに取り組まれることとなった。

 医学の発達や経済、社会状況の変容に伴った心身の能力障害そのものの変化や将来、予想もできないような原因から生ずるかもしれないいかなるニーズにも柔軟に対応できる可能性が開かれたといえる。

(2) アメリカ合衆国の状況

 アメリカの特殊教育で今日論争点の一つになっている問題に障害児童の分類(labeling)類型化(classification)の問題がある。類型化を支持する者は、

 ①子どもを識別することによって、さらに精密な診断や治療の基準に役立つ。②原因、予防、治療の基本的な研究の進歩に役立つ。③地方の学校が州及び連邦の規則によって補助金を受けることができる。④法制化の促進に役立つ。⑤政策遂行に合理的な説明ができる。⑤ボランティアのグループが関心をもってくれ、経済的な面や他の支援の確保に影響がある、などである。これに対し、①類型化は、治療プログラムの違いを描き出すよりも、その名をつけることによって問題を閉鎖的にし、それ以上の診断へ進まないことになる。②経験の不足から、表面的な異常を示す少数グループの子どもの診断の誤りをおかすことになる。③社会的、生態学的状態に目を向けるよりも、個人の問題に焦点化してしまい、社会的な改善の必要性を遅らせてしまう。④一度名がつけられると、その状態が変化しても指導プログラムが不適当なままに置かれていることがある、などの反対がある。

 障害カテゴリー別の分類をしないといった傾向は障害児の早期教育の進展につれて顕著になっているという報告がある。1986年障害者教育法修正(PL99‐457)は、この法律により定義されたすべての適格性をもつ出生から2歳までの乳幼児に対し、早期療育サービスを提供するために設けられたものであるが、各州は政府に障害カテゴリー別の人数報告は必要でなく、総人数だけを報告すればよいとされた。このように行政面でも最近は、特殊児童に使われている分類や名付け方を出来るだけしないようにする動きがみられている。

〔参考文献〕 略

淑徳大学教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1995年3月(第83号)22頁~28頁

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