特集/障害者の職業問題 産業構造の変化と職業リハビリテーションの課題

産業構造の変化と職業リハビリテーションの課題

関宏之

 

はじめに

 障害のある方々に対して職業指導や就労支援を行っている私の現場では、あれほど旺盛だった企業の障害者雇用の動きが緩慢になり、所定の職業指導を修了しようとする人たちの就労先の確保に東奔西走する日々が続く一方で、企業倒産や事業再構築(リストラクチュアリング)に直撃された人たちや就労を見合わせて緊急避難の場を求める人たちが殺到し、来期の応募者が定員の3倍にも達するという悲壮ともいえる状況に陥っている。

 第1次オイルショックや円高不況の時にも似たような経験をしたが、今回は、経済全体の閉塞感や産業構造・就労構造の変化というとてつもない不安定要因を根底に抱えながら、「国連・障害者の10年」を契機にして高まった障害のある人たちの就労ニーズに応えなければならないという難しい局面に立たされている。

 しかし、この混迷期にあって、関係者が連携することによって既存のパラダイムを克服し、多面的で躍動感に溢れる就労支援システムが稼働している地域もある。いわれつづけてきたことではあるが、たやすく実現できることではない。ややもすれば理念的・学術的に流れている職業リハビリテーションという領域に、いかにしてあたりまえの機能や現場の視点を付与できるかがわれわれの最大の課題であろう。

1 深刻な雇用情勢

 産業構造の変化に伴う今日的状況は、バブル期において、旺盛な内需や低い資本コストを背景に企業の自己資本を超過して大幅な設備投資が行われ、これが原因となって企業の財務・収益面で著しい悪化をもたらしたことに原因があるといわれる。発生した企業内部の高コストを解消し、事業を再構築するために、多くの企業が、①経費の節減、②工場閉鎖や合併による生産の合理化、③人員整理、④取引慣行の採算面からの見直し、⑤生産拠点の海外移転、⑥研究開発費の削減、に着手した。また、これに加えて急激な円高が、海外現地生産をさらに加速して産業の空洞化現象を引き起こし、内外価格差の縮小に伴う価格破壊をもたらすなど就労構造にも多大な影響を及ぼすことになった。

 雇用統計では、有効求人倍率は、1991年(平成3年)4~6月期の1.44倍をピークに、1995年(平成7年)11月には0.63倍と最悪の事態を迎えたが、1995年(平成7年)12月には0.65倍と好転した(労働省1996)。明るいきざしが見えるとはいえ、現在の失業率は 3.4倍、完全失業者も91年の 137万人から、95年冬には 210万人にも達している。企業業績の回復がさらに遅れれば日本型雇用システムが瓦解して、失業率もアメリカ並の5~6%台になるという見方もあり、大失業時代の到来を予測した深刻な議論もなされている。

2 産業別の就業者数の推移と予測

 このような厳しい雇用局面に関して、矢作(1995)は、「この度の雇用状況の悪化は、資産効果の逆である資産デフレ(注:資産価格が持続的に下落して個人消費や設備投資も減少すること)に伴う雇用調整という面もあるが、景気循環的なものというよりはむしろ本質的には産業構造の変化が背景にあると考えておく必要がある」と述べている。

 表1にみるように、各産業のなかで「製造業」従事者が占めるシェアは、1992年の 23.7%から2000年代初頭10年間の後半には 18.1%へと大きく減少するが、第3次産業では92年の 58.4%から2000年代初頭10年間の後半には 66.3%へと上昇し、なかでもサービス業では、92年の 22.0%から、2000年代初頭10年間の後半には 28.4%へと上昇すると予想されている。また、このような就業構造の変化に加えて、若年の就業者数の増加幅が減少することから、産業間の労働移動も加速されるといわれている(経済企画庁 1996)。

表1 就業者数の推移(経済企画庁1995)(単位:万人、%)
  1982年  1992年 2003年 2008年
就業者 構成比 就業者 構成比 就業者 構成比 就業者  構成比
農林水産業 680 12.1 544 8.5 475 7.2 421 6.5
鉱業 13 0.2 9 0.1 3 0.1 2 0.0
建設業 547 9.7 601 9.3 693 10.5 597 9.2
製造業 1,337 23.7 1,522 23.7 1,217 18.4 1,174 18.1
商業 1,020 18.1 1,121  17.4

 1,023

15.4 890 13.7
金融・保険・不動産 240 4.3 302  4.7 350 5.3 361 5.6
運輸・通信 318 5.6 358  5.6 375 5.7 395 6.1
電気・ガス・水道 33 0.6 36 0.6 49 0.7  49 0.8
サービス業等 1,450 25.7 1,943 30.2 2,444 36.9 2,615 40.2

合計

5,638 100.0 6,436 100.0 6,630 100.0 6,503 100.0

 アメリカは、わが国に先んじて産業構造が変わり、製造業雇用者数の全産業に占めるシェアが、1970年代には20%台だったものが1990年代には 17%まで低下した。一方、製造業の海外移転が進行して多くの未熟練工場労働者がそれまでの職を失ったが、その後も高付加価値型のOA機器産業の躍進に加え、 1975~90年代にサービス産業で年率 4.8%の高率で雇用機会を拡大したという。

 しかし、アメリカのサービス産業は一般的に高い生産性は求められず、従って賃金も安いために製造業からサービス業への雇用シフトは実質賃金の切下げとなり、新たな労働問題を露呈しているという。今日、アメリカの労働政策として、知識・情報などの高度化によって始まった新産業革命に対応して、余剰感のあるホワイトカラーでもブルーカラーでもないその中間の職場という意味での「グレーカラー:コンピュータ管理・整備、ハイテク機器の監視・運転、バイオ工場などでの生産管理や実験アシストなどの中間的熟練労働者」の雇用需要の拡大を見込んで、職業訓練・教育を拡大して未熟練労働者の雇用不安を解消するという労働政策がとられているという(矢作 1995)。

 図1は、わが国における労働者の過不足感である(経済企画庁 1996)。管理職やホワイトカラーの受難および技術系・専門職系への需要という構図が明らかになるが、製造業における未熟練労働者の就労問題とともに、労働力需要のミスマッチあるいは雇用の流動化による失業増加、サービス産業で吸収される際の労働条件の劣化など、さまざまな雇用の不安定要因がある。

図1 職種別人材の今後の過不足の見通し(経済企画庁 1995)
(備考) 経済企画庁「─企業行動に関するアンケート調査結果報告書─平成5年」
図1 職種別人材の今後の過不足の見通し

3 障害者雇用の実態

 『平成7年度労働白書』は、「1994年度における障害者の実雇用率は1.44%と過去最高の水準となり、大企業を中心に実雇用率が改善された。反面、雇用率未達成企業の割合は、500人未満の規模で上昇し、景気後退が長期化した中で中小企業での障害者雇用について厳しさがでてきたことがうかがえる。」と述べている(労働省 1995)。

 しかし、表2にみるように、一般常用労働者の雇用数の減少にともなって雇用率が改善されたにすぎず、 1,000人以上の規模では雇用率未達成企業の割合は多く、雇用障害者数の前年比は92年をピークに減少している。

表2 一般民間企業における規模別障害者の雇用状況(労働省1995
(単位 人、%)
区分 規模計 1,000人以上 500~999人 300~499人 100~299人 63~99人

雇用されている障害者数

1988年 187,115 78,345 19,769 17,947 52,048 19,006
1989年 195,276 81,179 20,733 18,519 54,247 20,598
1990年 203,634 83,870 21,799 19,480 56,395 22,090
1991年 214,814 88,416 23,473 20,275 58,674 23,976
1992年 229,627 96,956 25,823 21,561 60,444 24,843
1993年 240,985 103,636 27,264 22,270 61,444 26,371
1994年 245,348 106,823 28,542 22,625 61,062 26,296

雇用されている障害者数前年比

1989年 4.4 3.6 4.9 3.2 4.2 8.4
1990年 4.3 3.3 5.1 5.2 4.0 7.2
1991年 5.5 5.4 7.7 4.1 4.0 8.5
1992年 6.9 9.7 10.0 6.3 3.0 3.6
1993年 4.9 6.9 5.6 3.3 1.7 6.2
1994年 1.8 3.1 4.7 1.6 -0.6 -0.3

実雇用率

1988年 1.31 1.18 1.17 1.24 1.48 1.94
1889年 1.32 1.17 1.17 1.24 1.50 1.99
1990年 1.32 1.16 1.16 1.26 1.52 2.04
1991年 1.32 1.16 1.19 1.27 1.52 2.06
1992年 1.36 1.23 1.22 1.29 1.51 2.04
1993年 1.41 1.30 1.28 1.32 1.52 2.11
1994年 1.44 1.36 1.30 1.33 1.50 2.07

雇用率未達成企業の割合

1988年 48.5 80.5 69.8 61.0 45.7 39.4
1889年 48.4 80.4 70.3 61.0 42.2 39.8
1990年 47.8 81.2 69.7 59.9 44.6 39.0
1991年 48.2 82.1 69.7 59.9 44.8 40.0
1992年 48.1 80.8 69.3 59.3 44.6 40.7
1993年 48.6 77.9 67.4 58.0 45.3 42.3
1994年 49.6 74.9 65.3 58.6 46.6 44.4

(注)
1)障害者数については、1992年までは身体障害者(うち重度身体障害者については、ダブルカウント)及び精神薄弱者の計。1993年からはこれに加えて、重度障害者(重度身体障害者及び重度精神薄弱者)である短時間労働者を合算するとともに、重度精神薄弱者も重度障害者と同様にダブルカウントしている。
2)実雇用率=雇用されている障害者数/常用労働者数×100

 いくつかの統計資料から、障害者雇用や就労実態の特徴を探ってみよう。

 図2は、労働省が昭和63年と平成5年に行った障害者の雇用実態調査(労働省 1989/1994) から、産業別の雇用状況を比較したものである。 昭和63年と平成5年では、製造業において知的障害者の雇用がやや減少し、卸売・小売・飲食店において雇用が伸びた程度の変化しかない。

図2 労働省による障害者の雇用実態調査にみる産業別雇用状況の推移(労働省 1988/1993)
図2 労働省による障害者の雇用実態調査に見る産業別雇用状況の推移

 なお、常用労働者では製造業の構成比率が減少しているのに対し、障害者では製造業における比率が高く、特に知的障害者においては顕著である。運輸・通信業や金融・保険業において身体障害者と常用労働者との比率が酷似、あるいは幾分高くなっているが、これは障害者雇用率を重視した行政指導を反映したものと考えられる。サービス業が障害者雇用を下支えしており、平成5年度調査では、知的障害女子の雇用率は 37.5%と大きなウェートを占めているが、その賃金は、就労している知的障害者のなかでも下位にランクされる。

 図3は、障害者の配属部署である。製造・検査部門が多く、続いて総務・庶務部門、営業部門となっており、情報処理、設計・デザイン部門での雇用事例は少なく、障害種別では、視覚障害者、知的障害者の雇用が進んでいない(労働省・日本障害者雇用促進協会 1994)。

図3 障害者の配属部署・障害種別(労働省・日本障害者雇用促進協会 1992)
図3 障害者の配偶部署・障害種別

(注)東証・大証上場企業729社へのアンケート調査結果による

 表3は、東京都下における企業の身体障害者求人と求職障害者の状況である。バブル期にあったとはいえ、情報処理関連では障害者の求職が少なく、製造・検査では障害者の求職が企業からの求人を上回っている。障害者自身の製造業・事務系職種への指向傾向が強いが、それが雇用のミスマッチを生む原因ともなっている(労働省・日本障害者雇用促進協会 1994)。

表3 東京都下における障害者求人と求職障害者の職種(労働省・日本障害者雇用促進協会1992)
(人)
業種 平成3年5月 平成3年11月 平成4年2月 平成4年5月
求人 求職 求人 求職 求人 求職 求人 求職
情報処理関係 281 25 449 32 901 37 298 21
 事務(PC・ワープロ操作)
 端末入力・キーパンチ
 プログラマー
 FA(CAD)
 経理(PC・ワープロ操作)
 システムエンジニア
 電子ファイリング
 版下作業(ワープロほか)
 ICE(カストマエンジニア)
140
60
38
4
2
33
0
1
3
2
11
9
0
0
3
0
0
0
326
55
28
12
1
25
0
0
4
12
13
1
0
2
0
0
0
508
129
100
36
33
85
2
4
4
11
7
13
5
0
1
0
0
0
142
75
19
19
6
33
0
4
0
9
3
6
1
0
2
0
0
0
産業マッサージ関係 4 4 6 7 6 15 0 15
マッサージ業 
 ヘルスキーパー
2
2
3
1
4
2
7
0
1
5
12
3
0
0
8
7
事務系 382 173 286 222 731 256 267 198
営業一般管理事務
 受付事務
 旅行広告代理店業務
 電話交換
 その他事務系業務
339
0
0
14
29
163
3
1
4
2
222
0
0
40
24
203
3
4
6
6
628
6
4
67
26
213
3
2
10
28
219
0
0
22
26
181
2
0
4
11
営業・販売・ルートサービス 59 10 46 11 133 18 73 16
運送・陸送など 0 7 10 9 10 15 2 7
運転手 0 7 10 9 10 15 2 7
設計・デザイン・企画 44 31 22 42 143 35 46 36
 パタンナー・デザイナー 
 その他
12
32
4
27
12
10
12
30
30
113
7
28
17
29
3
33
製造・検査 71 121 118 152 307 203 95 145
印刷関係
 縫製・呉服仕立
 検査・検品・商品管理
 調理・調理関係作業
 軽作業・単純組立他
6
4
17
9
35
14
4
14
6
83
3
12
54
18
31
27
3
14
2
106
18
20
97
63
109
11
5
13
5
169
39
4
19
3
30
14
5
10
7
109
その他 88 22 46 29 105 28 19 35
清掃・用務員・雑務
 守衛警備員・ビル管理
 その他
58
19
11
1
10
11
11
9
26
13
15
1
53
30
22
6
16
6
12
4
3
7
14
14
総合計 929 393 983 504 2,336 607 800 473

 図4は、精神薄弱養護学校卒業生の進路状況である。就労者と福祉施設入所者の割合が昭和58年に逆転し、昭和61年にはその間差が広がり、以後は平行のまま推移していたが、平成6年にはさらに間差が開いた(関 1996)。これと連動するかのように職業訓練施設などの利用者割合も減少し、平成元年以降は低迷状態が続いている。知的障害者や保護者の就労意欲の低下・養護学校の指導力が低下したことが原因だという意見もあるが、雇用就労を望んだとしても利用できる職業訓練施設が身近にないという実態もある。就労しなかった知的障害者を施設福祉利用者として吸収するというパターンを繰り返しながら、障害者問題を施設に封じ込めてきたとも考えられる。

図4 精神薄弱養護学校高等部卒業生進路の推移(各年3月卒 文部省初等中等教育局特殊教育課編)

図4 精神薄弱養護学校高等部卒業生進路の推移

図4のマークの見方

 図5は、就労している知的障害者の離職状況(全日本精神薄弱者育成会 1990)で、就労後5~10年にピークがあるとされるが、リストラのあおりでさらに離職年数は早まっているものと推測される。知的障害者全体では約2割強の人たちが在宅しており、そのうちの約3割は就労経験のある人たちだという調査結果(吉村 1994)もある。職場不適応者としてではなく、労働移動時に適切な配慮を要する人たちが何の支援もなく放置された結果だということを忘れてはならない。

図5 勤続年数別離職精神薄弱者の離職状況

図5 勤続年数別離職精神薄弱者の離職状況

 なお、在宅雇用やサテライトオフィス勤務など、新たな雇用形態を模索する動きもあったが、いわれたほど進展はしていない(社会経済生産性本部 1996)。

4 雇用就労問題と課題

 障害者雇用の特徴は、産業構造の変化にともなって就労者が減少している製造業や雇用余剰感のある事務部門を中心に未熟練労働者として雇用されているといえよう。しかし、関係者や当事者は、強い行政指導を期待しながら、なおも製造業・事務系職種での雇用確保に望みを託し、それが叶えられない場合の代償として施設福祉に依存してきたといえよう。障害者の解雇には厳しいしばりがあるものの、製造業・事務系職種に偏っていては、事業の再構築や雇用調整のあおりを受けやすく、いつかは大量失業を迎えるか、劣悪な労働条件下での雇用確保しかできないという悲観的な見方も成り立つ。

 『平成7年労働白書』は、構造調整を進めながらも景気は回復基調に向かっているとしながらも、①専門的能力を有した創造的な人材や情報化に対応できる人材養成、②転職を余儀なくされる労働者の産業間・企業間の労働移動による雇用機会の確保や移動の際の能力開発、③失業のない労働移動のための事業主支援や離職者の再就職対策、④第3次産業における職業能力開発の推進、⑤労働者の自己啓発の推進(ビジネス・キャリア制度)の重要性をあげている。

 障害者の雇用問題も同様で、産業構造の変化に対応してなおも障害者雇用を促進し就労を確保するためには、次のことが急務である。

①重度障害者多数雇用事業所や特例子会社の設置を促進して雇用を開発すること

②雇用意欲のある企業開拓や職業紹介機能を充実することなど、従前から行われてきた労働施策を強力に推進する

③現在、国公立19カ所、私立14カ所にすぎない障害者職業能力開発施設や数カ所の養護学校でしか行われていない「職業指導・教育」を拡充すること

④能開施設・養護学校・授産施設などで産業構造の変化に対応した「グレーカラー」に相当する職業技能の習得機会を提供すること

⑤被雇用障害者の社内失業を予防するためのキャリアアップ制度を創設すること

⑥障害者雇用に伴う企業の負担感の軽減措置(設備の設置・更新や給与面での補填策)を図って企業の雇用意欲を創出すること

⑦リストラによって離職・退職を余儀なくされている障害者に対して労働移動という観点から就労支援策を整備すること

⑧雇用が進展していない知的障害者などに対して法定雇用率を適用すること

 最近になって、労働省は、地域を意識した障害者の就労支援策を進めるようになった。「障害者職業センター」では、職域開発援助事業を小規模作業所にまで拡充し、新たに設置が勧められている「雇用支援センター」は地方自治体レベルで設置できる。しかし、先に掲げた整備要件のうち、その財源が雇用納付金に依存しており、昨今の財源不足から充分な対応ができないものもある。

 知的障害者の雇用就労支援は遅れて始まったが、各地の「通勤寮」では、生活・就労の両面からの支援をしながら知的障害者の地域生活の確立に貢献している。神奈川県や枚方市・茨木市・高槻市などの大阪府下の7市町では、職場適応助成金や重度障害者職場適応助成金(注:平成7年11月より改訂)の支給期限後も同様の制度を独自で整備して企業の雇用意欲を開発している。また、加古川市・宝塚市・大阪市・東京都大田区などでは、地方自治体レベルで就労支援事業が実施され効果をあげている。雇用就労は、労働行政によるナショナルミニマム施策を基盤にしながらも、地方自治体レベルでは福祉行政が積極的に関与するようになった。

 なお、進展しない就労対策として、地方自治体などが知的障害者を対象にしたリサイクル主体の福祉工場をこぞって設置するようになった。安易とまではいわないが、先行自治体からはいくつかの問題点も指摘されており(堺市 1996)、そこで就労している知的障害者からの苦情も聞いている。雇用就労を敢えて否定してまで低賃金労働者として障害者を囲い込むことの是非を事前に論議しておく必要がある。また、行政・地方自治体は、産業界に対しては障害者の雇用促進を指導しておきながら、産業界が開陳するのと同じ理由で知的障害者の雇用を拒んでいるという批判もある。精神障害者の就労問題もやがて大きな社会問題となろうとしており、行政の取組について明確な姿勢を示すべきであろう。

おわりに

 最近になって、国や地方自治体における新長期行動計画では、障害者雇用についても、「ノーマライゼーション」の観点から、「希望する人すべてに就労の機会を提供する」と大変耳ざわりのよい文言で飾られるようになった。しかし、一層の経済成長も望めず、障害者雇用の主流を占めている製造業・事務系職種では労働移動が進行しているという現状にどのように対処するかは、定かではない。いたずらに空想論を振りまくのではなく、この事態を凌駕するだけのエネルギーを創造することこそ急務である。その方策として、

①就労問題に直面している障害者の実態の把握

②必要とされる支援システムや雇用形態に関するシミレーション

③目標値の設定とそれを実現させるためのタイムスケジュールの策定

④実施に要する予算の立案と財源の確保

について具体的な手順を示すことである。

 今、箕面市などでは、商工部・福祉部・地域組織が連携して就労支援を行ったり、神奈川県のように労働組合を中核に、福祉行政・労働行政・福祉機関との連携によって就労支援が進められている。中央集権・ナショナルミニマム・縦割り行政、あるいは、理念・学術先行型の職業リハビリテーションによるアプローチだけでは閉塞的な現状に対応できないということから、産業構造の変化や障害者問題に敏感なフロントランナーたちが能動的に連携して、地域主体の実践的な就労支援システムを構築したものである。地域格差が拡大しているといわれているが、これらのアプローチは、どこの地域にもある機関や人々によって運営されているということを強調しておきたい。

 なお、このようなアプローチを立ち上げようとする時に、その前に立ちはだかって訳もなく既存のスキームを守るためにその動きを阻止することを至上命令とする内向きの障壁組織人たち、あるいは、就労問題の所在を知りもしないでただ理想論を弄ぶだけで実践的な展開をしようとしない先生たちの存在がいかにも疎ましい。この場からそっと退いて頂きたいというのが率直な感想だ。

引用文献 略

参考文献 略

大阪市職業リハビリテーションセンター・大阪市職業指導センター所長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1996年3月(第85号)11頁~20頁

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