伊達木せい*
今日、障害者に対する政策的対応や支援は、身体障害者手帳の障害等級や療育手帳の知能レベルなどをもとに行われている。しかし現行の障害等級・範囲と、現実に障害のある人々が遭遇している職業的困難の度合いとの間には、かなりの乖離のあるケースがみられる。障害の等級では、中・軽度に区分されているが職業的には重度に相当する者、法的助成の対象となる障害者の範囲には含まれていないが大きな困難に直面している者、などが少なからぬ数にのぼる。
これは、①例えば機能・形態障害を中心とした現行の身体障害の等級判定では、切断のように明らかに欠損のわかる者の等級は重くつけられるのに対し、能力障害は日常生活能力を中心とした評価にとどまっていて、巧緻性、正確性、速さ(能率)といった職業上の能力としては非常に重要な能力に障害があっても、等級は軽くつけられること、②心身の重複障害をはじめとする種々の重複障害が職業上持つ困難について、必ずしも十分に評価されていないこと、③知的ボーダー層・社会適応障害・高次脳機能障害(脳損傷)・軽度多重障害・病弱・社会的ハンディキャップなど、助成対象となる障害者の範囲にはいりきらない障害者が増えてきていることによる。
日々の障害者雇用行政を進める立場からは、基本的には現行障害等級に依拠するとして、障害者の雇用を促進する上で直面する明らかな不合理については、可能なかぎりこれを修正、軽減し、職業上の困難に直面している何らかの障害のある人々がより適切な支援の対象とされ、効果的な職業リハビリテーションが実現されるよう、こうした人々を雇用に関して、「職業上の障害者」あるいは、「職業上の重度障害者」として柔軟に対処し得る余地を確保しておくことが必要と考えられる。
表1は、全国にある日本障害者雇用促進協会障害者職業センターに来所した身体障害者が、その後、現実に雇用されたかどうか、追跡調査時に雇用されていた者の割合をみたものである。これによると、障害等級1~2級(重度)では30.1%、3~4級(中度)は36.1%、5~6級(軽度)は50.5%と、いうまでもなく障害等級が重いほど雇用された者の比率は少なく、等級が軽いほどその比率は高くなっている。
障害等級 障害の部位 |
1~2級 (重度) |
3~4級 (中度) |
5~6級 (軽度) |
視覚 | 20.0* | 33.3* | 50.0* |
聴覚・音声・平衡機能 | 52.5 | 48.3 | 85.7* |
肢体不自由 | 25.4 | 34.5 | 46.3 |
脳病変(≒脳性まひ) | (24.7) | (31.0) | (48.3) |
脳病変を除く | (26.3) | (37.7) | (44.7) |
内部障害 | 30.0* | 20.0* | ― |
計 | 30.1 | 36.1 | 50.0 |
(注)
1)障害者職業センターに来所した翌年度以降の就職状況等の追跡等に雇用されていた者の割合。
2)1991年度の面接時に高校2年生以下の者(=1992年の追跡時にまだ在学とみられる者)を除く集計による。
3)*はサンプルが少ないので利用上留意されたい(特に、3~4級の内部障害は5ケースと少なく、かつ、精神薄弱との重複者が2名含まれる)
このことは障害種類を加味しても、おおむねあてはまり、重度・中度でも比較的雇用者比率が高い聴覚障害を除けば、障害の如何を問わず障害等級が重いほど職業的困難度も高い。この点で、日々の障害者雇用行政が原則として現行障害等級に依拠して行われていることには一応の妥当性があるといえよう。しかし、数値には障害間で差があり、また障害等級が中度であっても、脳病変(≒脳性まひ)による肢体不自由や視覚障害では雇用された者の割合(各31.0%、33.3%)が、重度障害者(30.1%)に準ずる状況となっている。
また表2は、障害等級では中度もしくは軽度であるが、障害者就職チェックリスト(ERCD)の判定で職業的困難度がとくに高いとされた者の内訳をみたものである(重度障害者平均よりもさらに厳しい基準でみたもの。表2の注1参照)。これによると、障害等級に比して職業的困難度のとくに高い者の多く(85~90%)は、身体障害に加えて理解・学習力が精神薄弱レベルの者であり、その他の者も何らかの重複障害のある者となっている(表2および同表注4)。
障害等級3~4級 | 障害等級5~6級 | |||
障害の部位 | 精神薄弱と同レベルの理解・学習能力2)、又は精神薄弱との重複 | その他 〔( )内は主な問題点〕 |
精神薄弱と同レベルの理解・学習能力2)、又は精神薄弱との重複 | その他 〔( )内は主な問題点〕 |
視覚 | 2(1) | ― | ― |
1(入院中、医療、健康) |
聴覚 | 5 | ― | 1(1) | ― |
平衡機能 | ― | ― | ― | ― |
音声言語機能 | 3(2)(脳1) | ― | ― | ― |
上肢切断 | ― | 1(高齢、意欲) | ― | ― |
上肢機能 | 5(1) | 2(移動) | 5(脳3) | ― |
下肢切断 | ― | ― | ― | ― |
下肢機能 | 3 | ― | ― | 1(医療、健康、意欲) |
体幹機能 | 4 | ― | 1 | ― |
脳病変3)帰因の上肢機能 | 16(7) |
1(ボーダー+移動) |
3(1) | ― |
脳病変3)帰因の下肢機能 | 5 |
1(ボーダー+手) |
2 | ― |
内部障害 | 2(2) | ― | ― | ― |
計 | 45 | 5 | 12 | 2 |
〔90.0%〕 | 〔10.0%〕 | 〔 85.7%〕 | 〔14.3%〕 | |
(うち脳病変3)) | 〔91.3%〕 | 〔 8.7%〕 | 〔100.0%〕 | 〔 0.0%〕 |
(その他) | 〔88.9%〕 | 〔11.1%〕 | 〔 77.8%〕 | 〔22.2%〕 |
注
1)身体障害者の障害等級では3~4級又は5~6級であるが障害者就職レディネスチェック(ERCD)の判定で一般企業への就職や職場適応がかなり困難である“D”にランクされた者。
なお、ランクDの者は、雇用された者の割合が13.1%と重度障害者(同30.1%)よりもかなり低いので、重度障害者の中でもとくに困難度の大きいものに相当するレベルの者についてみたことになる。 2)ERCDチェックによる「理解と学習能力」のレベルが調査対象中に含まれた精神薄弱者の「理解と学習能力」のレベルに相当する者。
3)脳病変(≒脳性まひ)
4)( )内は精神薄弱者数。(脳…)は脳損傷(脳出血、頭部外傷など)者数
5)〔 〕内は3~4級又は5~6級をそれぞれ100とした割合。
6)「その他」の内訳は、3~4級では、上肢切断の高齢者1、移動能力にも問題のある上肢機能障害者2、知的ボーダー層に属し、上肢と下肢の双方に問題のある脳病変者(=主として脳性マヒ)2である。
5~6級ではいずれも医療、健康面に問題のある、視覚障害者(追跡時、入院中)と下肢機能障害である。
これらの結果と、障害者職業カウンセラーへのヒアリング結果から、障害等級と職業上の困難度との乖離が最も顕著な障害として、件数的にも多くあげられ、また、障害の内容も比較的明白なのは、「脳性まひ」「精神薄弱ないしこれに準ずる知的障害と他の障害(身体障害または精神障害、行動情緒障害等)との重複」である。このほかには、職業能力的な面からは、片まひ(脳損傷や脳性まひなどから起こる左右の半身まひ)、軽度多重障害(脳損傷や脳性まひ、ヤケドなど)、上肢障害と他の障害との重複、身体障害と高齢との重複、身体障害と病弱との重複などが、適応という点では軽度の精神薄弱が、また、能力面よりも労働市場との関係で内部障害や弱視が今回の検討の過程で障害等級と職業上の困難度との乖離の大きな例としてあがってきている。
現在、障害者の雇用促進に関連する法律等の助成対象となる障害者は、①身体障害者手帳所持者、②療育手帳所持者(障害者職業センターで精神薄弱の判定を得た者を含む)、および③精神障害回復者等(精神障害のうちの分裂病または躁鬱病の回復者。てんかんを有する者。)である(注1)。
しかし、これらの法的助成の対象となる障害者の範囲には含まれていないが、就職や職業の継続の面で大きな困難に直面している何らかの障害を有する者が、少なからぬ数にのぼっている。
こうした「法的助成の対象とならない障害者」の内訳をみると、最も多いのは「知的ボーダー」(31.2%)と「行動情緒障害による社会適応障害(自閉症・自閉的傾向、不登校・出社拒否、対人不適応、学習障害、場面緘黙、微細脳損傷、その他の行動情緒障害、問題性格など)」(26.4%)である。この二者で全体の6割弱を占める(表3、表4)。これらにつづいては「精神病周辺領域の社会適応障害(「精神分裂病や躁鬱病」と明示されていない精神病、神経症、自律神経失調症、その他)」(21.2%)が多く、「脳損傷・高次脳機能障害(脳血管障害や頭部外傷など)」(8.4%)、「病弱者(肝臓や腎臓、ぜんそくなど長期、慢性的な経緯をたどる病気や、難病)」(5.5%)、「障害者手帳の対象とならない身体障害」(3.6%)、アルコール中毒・薬物中毒等の「その他の社会適応障害」(1.2%)、小人症、奇形などの「社会的ハンディキャップ」(1.1%)、「その他」(1.5%)となっている。
計 | 知的ボーダー | 行動情緒障害による社会適応障害 | 精神病周辺領域の社会適応障害2) | 脳損傷・高次脳機能障害3) | 病弱者 | 障害者手帳の対象とならない身体障害 | その他の社会適応障害(アルコール・薬物中毒等) | 社会的ハンディキャップ(外貌等) | その他 |
実数・構成比(計=100) | |||||||||
895人 100.0% |
279 31.2 |
236 26.4 |
190 21.2 |
75 8.4 |
49 5.5 |
32 3.6 |
11 1.2 |
10 1.1 |
13 1.5 |
就業状況(雇用された者の割合)4) | |||||||||
%4) 33.5(23.5) |
55.6 | 31.4 | 18.9 | 10.7 | 30.6 | 12.5 | 9.1 | 20.0 | 38.5 |
(注)
1)1992年度および1993年度に障害者職業センターに新規に来所したクライエントのうち、障害者の雇用の促進に関連する法律等の助成の対象となっていない障害者の意。
2)精神分裂病や躁鬱病(現在、この二者は法的助成の対象となっている)と明示されていないが、何らかの精神病とみなされる者や、神経症、人格障害などの非精神病性の精神障害。
3)脳出血・脳梗塞等の脳血管障害と頭部外傷。
4)障害者職業センターに来所した翌年度以降の就職状況等の追跡時に雇用されていた者の割合を示す。( )内は知的ボーダーを除く数値。
障害区分 | 実数・構成比(計=100) | 就業状況4) 〔雇用された者の割合〕 |
|
計 (知的ボーダーを除く) |
人 % 895(100.0) |
% 33.5 (23.5) |
|
知的ボーダー | 279( 31.2) | 55.6 | |
行動情緒障害による社会適応障害 | 自閉症・自閉的傾向 | 63(7.0) | 30.2 |
不登校・登校(出社)拒否 | 62(6.9) | 35.5 | |
対人不適応 | 28(3.1) | 17.9 | |
学習障害 | 19(2.1) | 36.8 | |
場面緘黙 | 19(2.1) | 42.1 | |
微細脳損傷 | 9(1.0) | 11.1 | |
その他の行動情緒障害 | 19(2.1) | 42.1 | |
問題性格 | 7(0.8) | 14.3 | |
その他 | 10(1.1) | 30.0 | |
精神病周辺領域の社会適応障害2) | 神経症 | 76(8.5) | 15.8 |
何らかの精神病・同周辺層 | 75(8.4) | 22.7 | |
自律神経失調症 | 10(1.1) | 20.0 | |
その他 | 29(3.2) | 17.2 | |
脳損傷・高次脳機能障害3) |
75(8.4) | 10.7 | |
病弱者 |
一般的な病気(長期・慢性的) | 27(3.0) | 29.6 |
難病 | 22(2.5) | 31.8 | |
障害者手帳の対象とならない身体障害 | 視覚障害 | 12(1.3) | 8.3 |
聴覚障害 | 8(0.9) | 25.0 | |
上肢障害 | 5(0.6) | 0.0 | |
その他 | 7(0.7) | 14.3 | |
その他の社会適応障害 | シンナー・薬物等中毒・依存 | 6(0.7) | 0.0 |
アルコール中毒・依存 | 5(0.6) | 20.0 | |
社会的ハンディキャップ | 小人症 | 6(0.7) | 0.0 |
外貌奇形・やけど跡など | 4(0.4) | 50.0 | |
その他 | 13(1.5) | 38.5 |
(注)1)~4)とも表3に同じ
このようにこれらの障害者の内訳は、きわめて多岐にわたり、それぞれが数としてまとまった集団にならないために、政策的な対応が遅れがちとなり、福祉も含め、すべての援護からもれてしまうという困難な状況におかれている。
就職率(雇用された者の割合)は、33.5%と中度の身体障害者(36.1%)よりも低く、知的ボーダーを除いた数値では、23.5%と重度障害者(30.1%)よりも低い(表3、表4)。「障害者職業センターには、一般労働市場での就職がどうしてもできずに困り果てて来所する人が多く、助成なしに就職できる人はごく少ない」という現場からの指摘を裏づけるものとなっている。
なお、助成制度は設けられているが、家族や本人が判定を受けることを望まず、結果として助成からもれる階層に、療育手帳(又は精神薄弱判定)を取得しない精神薄弱者がある。できれば「精神薄弱の判定なしに就職したい」、「烙印をおされたくない」、「小さな市町村ではプライバシーが守られない」、「本人や家族の結婚に支障が出る」等から手帳の取得を希望しないケースで、雇用された者の割合は44.3%と軽度身体障害者を下回る。カウンセラーの84.1%はこの層の雇用促進には助成が必要であると考えている。
3、4で述べたような法的助成からもれる障害者は、障害者職業センターの業務統計上「その他」の障害者に区分されるが、その数は平成4年度で2,759人(全新規来所者10,781人の25.6%)、5年度2,249人(同10,531人の21.4%)と利用者の1/4~1/5に達する。
「『その他』の障害者の就業状況等実態調査」によると、このうち、制度上「法的助成の対象とならない障害者」が6割(56.7%)、法的助成制度はあるが「療育手帳(又は精神薄弱判定)の取得を希望しないために助成からもれる精神薄弱者」が4割(43.3%)を占める。
障害等級と職業上の困難度との乖離のある障害者が職業上の重度障害者と認定されれば、雇用率のダブルカウント、手厚い助成金や助成期間の延長等による一般企業への雇用の促進という効果のほか、一般企業への就職の難しい層が、重度障害者をより多く対象とする、第3セクター方式での事業所等に雇用されるチャンスを拡げることが期待される。
助成対象外の障害者を障害者に組みいれることによるメリットは、1つにはこれによって適応訓練等に各種の助成金や委託費が支給され、企業の人件費負担の軽減と、企業の指導者への補助が可能になる事である(これがないと、全くの健常者との競争になり就職はおぼつかない)。さらに加えて雇用率にもカウントされることになれば、特に中堅企業、大企業への雇用を促進する上で大きな効果を発揮することが見込まれる。
障害等級と職業的困難度との乖離、あるいは助成対象外の障害者の中に職業的障害者あるいは職業的重度障害者が存在する、との認識は関係者の中に従来からあったにもかかわらず、必ずしも十分に対応できなかったのは、職業上の障害者あるいは重度障害者を判定する具体的で汎用性のある手段に欠けていたこと、その原因としては、検査や1~2回の判定業務では測りきれない諸要素が現実の職業場面で生起し、決め手になる事前の評価方法・基準が必ずしも見いだせなかったためである。
しかし、今日、職域開発援助事業等により、障害者を現実の作業場面の中で多面的、かつかなりの期間にわたって(最長5ヵ月)試行を繰り返しながら、その職業上の適性や困難性を評価できるという新たな状況が生じてきている。
対策の迅速性あるいは業務量を勘案すると、グループとして職業的障害者、あるいは職業的重度障害者として、雇用行政限りで計上し得るものは極力見直しの機会にこれを障害者あるいは重度障害者に組み入れ、それによってカバーしきれないものであって、なお職業的困難度の高いものを障害者職業センターが随時認定できるようにしておくことが、多様化する職業上の障害者あるいは重度障害者への対応上必要と考えられる。
もちろん職業上の障害者の認定は雇用促進に資し得る範囲内で、かつ本人の希望があった場合に行うものであって、本人の望まない判定によって差別となることのないよう配慮する必要があることは言うまでもない。
職業上の重度障害者、あるいは、職業上の障害者の範囲の見直し、ならびに判定基準の設定をめぐっては、私案であるが次のように対処することが現実的ではないかと考えられる。
・職業上の重度障害者(障害等級上、中・軽度にランクされているが、職業上、重度に相当する者)の範囲の見直しについて:
1)職業上の重度障害者の判定
標記については以下の①~③のいずれかに該当する者を対象に障害者職業センターにおける判定会議で総合的に判断して決定するものとする。
①身体障害と精神薄弱との重複
身体障害者手帳を持ち、かつ、療育手帳を有する者、または障害者職業センターで精薄判定された者
②適応行動尺度により、職業生活に著しい障害があると認められた者(たとえば、ERCDのランクDないしこれに準ずる者、または、社会生活能力調査で重度の者など)。
③不採用頻度(面接以前に断られるケースを含む)、失業期間、解雇による離転職回数等からみて、重度と考えられる者(頻度、期間、回数については、別途目安を定める)。
2)見直しの時期、およびポイント
当面、1)によって運用し、3年程度の実施結果を見て、判定基準の妥当性を見直す。その際のポイントは、
①基準の緩和ないし拡大の必要性の有無の検討
②1)の実施結果から、グループとして重度扱いできる障害が特定できれば、これを一括計上する(たとえば、身体障害と精神薄弱との重複、脳性まひの3~4級など)。
○職業上の障害者(法的助成の対象となっていないが、職業的困難度の高い者)について:
①「障害の有無とその程度について医師の診断により確認できるグループ」については、職業安定所長が、「医師の診断書、意見書等」を参考として助成の対象とする(医師の診断の得られた者について、“長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難”か否かについて、さらに評価が必要である、と職業安定所長が判断した場合は、地域障害者職業センターに職業評価を依頼し、その結果を確認することにより、最終的な判断を行う)。
これは現行の“精神障害回復者等”と同じ扱いである。
前出の障害種類でみると、脳損傷や小人症・外貌奇形等による社会的ハンディキャップ、手帳の対象とならない身体障害、病弱者(肝臓、腎臓、ぜんそくなど慢性的な経過をたどる病気や難病)、神経症など精神病周辺層の社会適応障害、アルコールや薬物中毒・依存といったその他の社会適応障害、自閉など行動情緒障害のうち精神科医の診断の出る者がこの対象になるものと考えられる。
②「障害の有無とその程度について医療機関による診断の得にくい、あるいは、それのみでは判断の困難なグループ」については、職業安定所長が地域障害者職業センターによる職業上の障害者判定を参考として助成の対象とする。
具体的には、「職業障害調査票」を含む職業上の障害の判定基準を設定し、職業リハビリテーションの様々なプロセス(障害者職業センターにおける相談・評価・職業準備訓練・職務試行・職域開発援助事業・職場適応指導、職業安定所や福祉関係機関における職業指導の経緯等)を通じて職業的困難の状況を把握し、知能、動作能力、医師の意見等もふまえた総合所見をもとに職業上の障害の判定を行うものとする。
これは現行の精神薄弱判定に準ずる手続きである。ほとんどの行動情緒障害(自閉症・自閉的傾向、不登校・登校(出社)拒否、対人不適応、学習障害、場面緘黙、微細脳損傷など)と、知的ボーダー、その他①からもれる者がこの判定の対象になるものと考えられる。
(判定基準の詳細および議論の経緯は本誌次号に「法的助成の対象となっていない障害者に関する職業上の障害の判定について」として収録予定)
療育手帳(又は精神薄弱判定)を取得しない精神薄弱者の問題については、たとえば、前記の職業上の障害者の②に準じて対応し、障害者職業センターの判断で、最低限、助成の対象とするという救済をできるようにすることが考えられる。
いずれの人々も少なくとも入職の時点で何らかの助成による補填措置がなければ事業主の理解は得難く、助成を得て就職にこぎつけることができれば、様々な形での就業継続の可能性は開けてくるからである。
(注1) ①②は助成金の支給等各種助成制度と雇用率算定の対象となる。③は雇用率算定の対象には含まれていないが、助成制度の対象となる。
備考:これらの職業上の障害者あるいは職業上の重度障害者の特性や、職業リハビリテーションに際して直面している困難や諸問題の詳細については、日本障害者雇用促進協会調査研究報告書№3「職業的困難度からみた障害者問題―障害者および重度障害者の範囲の見直しをめぐって―1993.3」ならびに、日本障害者雇用促進協会第2回職業リハビリテーション研究発表会発表論文集P123「法的助成の対象とならない障害者―就職困難度と助成の必要性をめぐって―」を御参照いただければ幸いである。
*日本障害者雇用促進協会統括研究員
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1996年3月(第85号)21頁~27頁