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用語の解説

「するADL」

 ADLには「できるADL」「しているADL」のレベルがある。しかし、実際のリハ・アプロ-チを進めていくに際して最も重要なのは「するADL」すなわち、将来的な生活の場で実行するであろう(と予想され、それを目指す)ADLの能力である。この「するADL」とは「できるADL」や「しているADL」のレベルを高めていって結果的に行き着くものではない。最初から、「するADL」の具体的なやり方を想定するものである。その上でそれを実現するために、どのような順序で「しているADL」を実行させるかを決定し、その上で、「できるADL」としては何をどのように訓練していくかの優先順位を決めていく。「するADL」はこのような「目標指向的ADL訓練」によって初めて達成させうるものである。

 このように最初から「するADL」を想定する理由は、1つ1つのADL項目の具体的な手順・方法(姿勢、手順、使用する補助具・家具・家屋その他の物的条件を含む)には極めて多種多様なバラエティーがあり、1人1人の患者の状態・環境・ライフスタイルによって必要な方法で訓練の優先順位が当然異なってくるからである。ADL訓練は、同じ疾患や障害ならばある一定の決まりきった順番があり、その順を追ってステップアップさせていくのではない。

 リハの目標はQOLの向上であるが、QOLとは本来極めて個別性の高いものであり、それは具体的な生活像からなる。「するADL」とは個々の患者が将来のQOLの高い生活を送る際に行なう個々のADLの極めて具体的な(手順・方法を含めた)目標なのである。

(大川弥生/帝京大学市原病院リハビリテーション科講師)

「できるADL」と「しているADL」

 あるADL(日常生活行為)が、リハビリテ-ションの訓練時や診察時にはできるけれども、病棟や自宅の実生活では実行していないことが少なくない。このような状態は、“本来はできるはずなのに、患者の意欲がないためにできない”とされることが多い。しかし実はADLには、「できるADL」即ち評価・訓練時の能力と、「しているADL」即ち実生活で実行している状況の2つのレベルがあり、リハ・アプロ-チの途上においてはむしろくい違いがあって当然なのである。差の原因としては、下に述べる多くの因子が関与している。「できるADL」よりも「しているADL」を重視すべきことは患者の生活を重視するリハ医学としては当然のことである。そして両者の差をみきわめ、その原因を明らかにすることがリハ・プログラム作製上極めて重要である。

 「できるADL」と「しているADL」の差を生む諸条件は以下の通りである。1)環境条件:模擬的な訓練場面ではやりやすいが実際の生活の場である病棟や自宅・社会では物的・人的な様々な障害が多い。2)体力:訓練だけで疲れはててしまって、病棟においては行なえないことが少なくない。3)習熟:新しいADLのやり方を身に付けることは、健康なときと同じような体の使い方、動かし方ではなく、新しいやり方を身に付けることである。いちいち手順を考えずに、努力なしで新しい手順で行なえるようになるには、繰り返すことによって習熟し習慣化することが不可欠である。4)リハビリテ-ションの目的についての患者・家族の正しい理解:患者・家族は訓練室で行なうことだけがリハでありADLの実行の仕方は大した意味をもたないと誤解していることが少なくない。5)患者の心理的要素、すなわち自立欲求と依存欲求とのバランス:患者自身の価値観ともいうことができる。生き方の根本を規定しているもので、「障害の受容」とも深いかかわりをもっている。6)指導する側の能力:以上挙げた「しているADL」を規定する諸因子をまず見極め、それに対して最も適切なリハ・プログラムを作って実行していく知識と技術とが問われているのである。

(大川弥生/帝京大学市原病院リハビリテーション科講師)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1996年3月(第85号)51頁