特集/障害者施策の最近の動向 障害者介護保障と公的介護保険

特集/障害者施策の最近の動向

障害者介護保障と公的介護保険

岡崎仁史

 

1.日本の公的介護保険構想における対象

 1996年1月31日に、厚生省老人保健福祉審議会は1995年10月~12月の3分科会の検討作業を経て「新たな高齢者介護制度について(第2次報告)」を発表した。これにより公的介護保険構想に関する費用負担・制度の在り方を残して、公的介護保険が扱う介護サービスの対象、内容、水準、利用手続き、介護サービス基盤の整備等の概要はほぼ提案されたと言ってよい。日本の場合、公的介護保険の対象には「加齢に伴う障害等により自力で日常生活を送ることが困難で、介護が必要な状態(要介護状態)にある高齢者」、痴呆性老人、虚弱老人、若年痴呆も含めたが、「若年障害者に対する介護サービスについては、基本的には障害者福祉施策によって対応することが考えられ、平成7年末策定された『障害者プラン』に基づき具体的整備目標に沿って計画的にその充実が図られることにより、若年障害者にふさわしいサービス提供が実現されることが望ましい」とし、今回は高齢期以外の障害者を公的介護保険の対象に含めず新制度を先ずスタートさせることにした(「第1介護サービスの内容、水準及び利用プロセス」の「Ⅱ介護サービスの対象者」の項)。しかし、含みとして、将来的には公的介護保険に、障害者の日常生活行動の介護サービスを含めることを構想していると読む方が適当であろう。ドイツの公的介護保険の場合は、後述するように年齢、理由の如何を問わず日常生活が要介護状態である人を対象としている。

 さて、筆者は1994年7月中旬から13か月間ドイツ・ミュンヘンに滞在し、先行研究を参考にして、介護保険施行前後1994年8~10月、1995年4~6月の2回、高齢者・障害者等への在宅サービスを提供しているゾチアル・スタチオーンSozialstation(英語読みすればソーシャルステーション)、及び障害者自立生活センター(直訳すれば社会統合センター Vereinigung Integrations Foerderung略称VIF)において実習を行い、社会保険方式下の在宅サービスの実際、拡大するサービスの財源としての介護保険等を調査研究する機会を持った。以下公的介護保険を先行実施しているドイツ南部のミュンヘンの事情を通して、日本の在宅サービスを考えてみたい。

2.ドイツの社会サービスの特徴

 (1)市民社会と自治、公私関係の伝統: ドイツにおける社会福祉の分野における公私関係は、近世以降キリスト教会、修道院、人道主義団体あるいは労働組合関係の民間福祉団体が先行して救貧事業や病人看護事業を奉仕活動として行い、後に市民自治を背景に19世紀半ばの救貧法により市町村や国の行政事業に移行し、地区担当制の個別援助を行うハンブルグ方式等を編みだしたり、また民間団体の看護事業は公共的団体の経営に移管し、医療保険組合を生みだし、各種の社会保険組合の自主管理原則、自治原則を生み出してきた。近代においては、社会主義政党系の福祉活動も生まれ、これらがドイツ公私福祉連盟加盟の6民間福祉団体(SPD系労働福祉団、プロテスタント系のディアコニア事業、無党派の障害者自助団体系のドイツ・パリタティシェ福祉事業団、カトリック系のドイツ・カリタス連合、ドイツ赤十字、ユダヤ人中央福祉機関)を作り、これらの福祉活動が公共性を作り、社会保障の法制化を進めた。民間福祉団体の自立性、社会保険組合の自治原則等の市民社会の自治形成が底流に形成されている。近年では在宅サービスの分野でこれら6民間福祉団体が先行して利用者負担、寄付金等を財源としてゾチアル・スタチオーンを作り、1992年現在で約3900か所にまで成長しており、特に1989年の医療構造改革法によりそれらの行う在宅看護サービスが医療保険給付対象になり、また1995年4月より在宅介護・家事援助サービスが介護保険給付になって、民間が先行しその後から試みが制度化されてサービスを安定・拡大しているのが特徴と言える。また、これらが非営利福祉団体に対する「補助の原則」der subsidiaritaetprinzip という権利をも作った。金銭給付以外のサービスについては、民間の伝統を尊重し民間福祉団体に任され、それが公に優先し、費用は行政の責任で民間団体に支払われ、民間ができない場合に限って公立施設等が作られるという原則であり、日本と逆の関係を形成してきている。

 (2)介護扶助等を組み込んだ社会扶助: 行政は、社会扶助法に基づき、住民が自己責任や社会保険で対応できず人間の尊厳を冒す状態に対しては、補足性の原理、自助優先の原理に従って、困窮の原因の如何を問わず社会扶助で対応し、住民の自助のための援助を行う。社会扶助には一定の基準で行われる「生計扶助」と特別な生活状況への扶助である「特別扶助」がある。特別扶助には「障害者社会復帰扶助」「介護扶助」「家政継続扶助」等11種類ある。「障害者社会復帰扶助」は障害者の社会生活への参加を可能にするための入院医療、身体的世話、補装具等の扶助であり、特別扶助総額の33%を占めており、「介護扶助」は居宅や施設生活において疾病や障害により他者による世話・介護が必要な場合支給され、特別扶助総額の55.1%を占めている。また「家政継続扶助」は家事を行う人がいない場合の扶助である。ゾチアル・スタチオーンや障害者自立生活センターが行う介護・家事援助・社会参加サービスに対して、州政府と市町村が特別扶助でもって費用負担を行う。1989年以降の医療保険による在宅看護サービス、1995年4月1日以降の介護保険による在宅介護・家事援助サービスが創設され、州政府と市町村はその分だけ財政負担が軽減された。

 (3)地域格差: ドイツは地方自治が発達し、また16州間の地域格差がある。ゾチアル・スタチオーンの州別設置数を見ると、バイエルン州の約1400か所(39%)からザールラント州の31か所(約1%)、旧東ドイツ地域の皆無に近い状態までの格差がある。

 (4)連邦政府の障害者政策理念: 障害者政策の基本理念は障害者が社会から取り残されることを避け、生活回復を支援し、社会に再統合することにあり、主要な基本原則は社会統合、緊急の援助、可能な限りの早期介入、そして個別援助である。1989年現在重度障害者は約500万人であり、仕事を持つ重度障害者は842千人、雇用可能であるが仕事がない重度障害者は124千人、そして重度障害者の殆どの410万人が労働市場の外部にいる。社会統合のためのサービスとして、疾病・年金・労災の各保険からの医療サービス、連邦労働制度、年金・労災保険からの雇用関連サービス、そして労災保険と社会扶助からの一般的社会統合サービスがある。

3.ドイツの公的介護保険

 介護保険は1994年5月に社会法典XIとして成立し、11月7日に更に「要介護状態のメルクマールと介護等級の設定および要介護認定手続きに関する介護金庫中央協議会指針」(以下「介護指針」と言う)が定められ、サービスの報酬等に関しては地域性を認められているが、要介護、介護等級、介護必要性の認定手続きの項目に関して全国共通の基準が作られた。

 (1)保険者、被保険者: 保険者は独立の公法人である介護金庫(保険組合)であるが、医療保険の保険者である疾病金庫(保険組合)に設置され、両者は財政上明確に区分される。原則として被保険者は加入している疾病金庫に設置された介護金庫に加入する。即ち、介護金庫を疾病金庫の上に重ねて創設し、実際場面では被保険者の看護・介護・家事援助の複合したニーズに対応できるように工夫している。

 (2)保険事故: 年齢、理由の如何を問わず、身体的、精神的もしくは情緒的な疾病または障害によって、最低6ヶ月以上日常生活を送る上で日常的及び規則的に繰り返される活動を行う際に援助を必要とする状態(要介護状態)の発生を言う。

 (3)介護等級(要介護度)の設定: 「介護指針」の「3 要介護状態のメルクマール」、「4 介護等級の認定」のとおり、次の日常生活行動の質量を対象として、介護等級(要介護度)を設定して、介護保険の対象とするニーズをおのずと確定・限定している。質的側面では、<身体衛生の分野>体を洗う、シャワーを浴びる、入浴、歯磨き、髪をとかす、髭そり、排便・排尿の7つ、<食事の分野>食物を口に適度の大きさで運ぶ、食物の摂取の2つ、<行動の分野>起床・就寝、衣服の着脱、歩行、立位、階段の上り下り、住居からの外出・帰宅の6つ、<家事に関する分野>買い物、料理、住居の掃除、食器等の水洗い、着衣の交換・衣類や洗濯物の洗濯、暖房の6つの4分野計21種類である。さらに、非日常的行動は対象外である。洗髪・散髪、爪切り、散歩・文化的行事の訪問、通常の生活領域以外の掃除は対象外であること、口の手入れ、皮膚・顔の手入れ、食糧の認識、貨幣の認識、アイロン掛け、繕いは対象であるとの押念規定がある。量的側面では、財政運営を考えて、介護需要がわずか(1つ)、短時間しかない場合、家事援助のみの場合は介護等級の認定をしない。しかし、給付に関しては州の介護金庫・疾病金庫によって違い、バイエルン州は単独で600DMまで家事援助のみでも給付する。

 ①介護等級Ⅰ: 中度の要介護状態とは、身体衛生、食事または動作に関して、1つまたは2つ以上の分野での最低2つの活動で、少なくとも1日1回の援助を必要とし、更に家事に関して週に数回の援助を必要とする者である。週間介護時間は1日平均すると 1.5時間以上。

 ②介護等級Ⅱ: 重度の要介護状態とは、身体衛生、食事または動作に関して、少なくとも毎日3回の援助を必要とし、更に家事に関して週に数回の援助を必要とする者である。週間介護時間は1日平均 3時間以上。

 ③介護等級Ⅲ: 最重度の要介護状態とは、身体衛生、食事または動作に関して、昼夜を問わず1日24時間の援助を必要とし、更に家事に関して週に数回の援助を必要とする者である。週間介護時間は1日平均5時間以上。

 (4)保険給付内容: 表1のとおり、1995年4月1日から在宅介護関連給付が、1996年7月1日から終日施設介護給付が開始される。施設介護は介護費用のみが対象で、食費、宿泊費等のいわゆるホテル費用は給付対象外である。適切な家族介護の場合、現金給付、または現物給付と現金給付の併給も可能である。しかし、現金給付は家族介護を社会的労働として承認はするが、反面オーストリアの介護手当制度のように、介護サービス事業の創設・雇用の場の形成による地域活性化を妨げる側面もあり、また依然として家族介護の改善につながらないのではないかと思われる。

表1 給付内容

給 付 の 種 類

介護等級(要介護度)

特に過酷な場合

在宅介護給付 現物給付(月額) ~750DM ~1800DM ~2800DM ~3750DM
現金給付(月額)

400DM

800DM

1300DM
代替ホームヘルプ  年4週間の範囲で2800DMまで
部分施設介護(月額) デイケア、ナイトケア

~750DM

~1500DM

~2100DM
ショートステイ 年4週間の範囲で2800DMまで
終日施設介護(月額) ~2800DM(年30000DMまで) 

~3300DM

介護補助器具 消耗品 60DM(月額)
消耗品以外10%の自己負担(上限50DMが上限)
住宅改造  

 

看護処置          疾病保険
治療

 在宅介護の現物給付は基本介護・家事援助サービスである。「疾病金庫との報酬協約書」「疾病金庫への請求書」によると、①介護保険給付内容は、A基本介護:1)最高2回/1日の介護(洗面、入浴、口腔衛生、整髪、爪の手入れ、ベッドに寝かせる、他のベッドに移す、横にする、シーツ・洗濯もの交換、排泄物の処置、失禁の処置、予防的処置)、2)1時間ごとの日中、夜間の監護見守り、B家事援助と明示されている。また、1995年7月にようやく決まった「介護報酬基準(バイエルン州)」が、朝起こして身支度をする、夕方の夕食準備・就寝準備、日中の入浴援助等の在宅サービスの実際に沿った形で作られている。また、②疾病保険給付内容は、C看護処置:3)注射(使い捨て注射を含む)、4)包帯処置、肛門通過処置・ストマケア、じょくそう処置、5)気管カニョーレの挿入処置、6)洗浄を含むカテーテルの処置、7)浣腸、8)その他の看護処置((a)薬の配達、服薬管理、血圧測定、血糖値テスト、(b)目・耳の洗浄、塗布・湿布、おむつ、(c)膀胱洗浄、運動練習・歩行練習、リハビリテーション、薬風呂、ゾンデからの食物投与、酸素投与、気管吸引)と明示されている。

 要約すると、図1のとおり、社会保険の厳密な定義や財政運営の観点により、おのずと介護保険対象になるものと対象外のものとが生じており、対象外ニーズであっても在宅生活に必要なものへの工夫が必要である。低所得者の場合は社会扶助の特別扶助(介護扶助等)で対応している。

図1:介護保険対象ニーズと対象外ニーズ

図1:介護保険対象ニーズと対象外ニーズ

*社会参加

注)在宅では介護保険と疾病保険がいつもセットで提供されている利点があるので、一緒に図示した。日本の場合は、介護、家事援助が看護と切り放されているので、両者をセットで提供することが緊急な在宅サービスの課題である。

 (5)介護サービス事業者: 介護金庫は介護サービス事業者との間でサービス供給契約及び報酬協定を締結する。介護サービス事業者は一定のサービスの質の保障のための条件を満たし介護金庫とサービス供給契約を締結しない限り、公的介護保険対象の介護サービスを提供することができない。バイエルン州では、介護サービス事業者は在宅サービス部門では6つの非営利民間福祉団体が経営しているゾチアル・スタチオーン、デイ・サービス、ショートステイ、障害者自立生活センター及び民間営利事業者等がある。1995年の看護・介護費用協定書から民間営利事業者団体が入った。

 (6)介護サービスの全財源: 元々自己責任原則の国であり、在宅での看護処置サービスは疾病保険で対応し、介護・家事援助サービスについては所得がある場合は自己負担、低所得の場合は社会扶助の特別扶助(介護扶助等)で賄っていたが、介護保険法の成立により、基本介護、家事援助サービスについての主財源が介護保険給付で賄われるようになり、被保険者は該当すれば自己負担部分が少なくなり、地方自治体も新たに介護施設の整備補助等の新しい負担が生じるが介護保険財源でカバーできる部分だけ財政的に負担が軽くなっている。但し、保険対象外のサービスについては自己負担部分もしくは社会扶助負担部分がなお少し存在する。実際は、退院後4週間までは、疾病金庫が看護処置、基本介護、家事援助サービスを負担し、5週間以降は、看護処置サービスは疾病金庫が、基本介護、家事援助サービスは介護金庫が負担し、保険対象外のサービスは自己負担か社会扶助で対応することになった。 給付手続 、要介護認定判定機関、財政方式については省略する。

4.ゾチアル・スタチオーンによる高齢者・障害者在宅サービス

 カトリック系の福祉団体のカリタスが経営するミュンヘンのゾチアル・スタチオーンの実際を見てみよう。ゾチアル・スタチオーンは日本の高齢者在宅介護支援センター、ホームヘルプセンター、訪問看護センター、そしてボランティア・センターを1つにしたもので、相談、看護、介護、家事援助の4つの融合したサービスを提供している。

 (1)ミュンヘン・ゼンドリング地域: ミュンヘンは、人口 130万人で、歴史が古く、かつ自動車やハイテクなどの最新の産業を抱えたドイツ第3番目の都市である。青年を含めて市民の60%が単身生活をしているため社会的介護が普通で、6つの非営利民間福祉団体が経営する約70のゾチアル・スタチオーンがあり、概ね人口2万に1ヶ所設置の計算になる。ゼンドリング地域は市内南西部の人口約10万人の地域であり、カリタス経営のゾチアル・スタチオーンと他団体経営のものが計2個あり、カリタスは医療保険構造改革法、介護保険法の成立以前の時代から在宅サービスを運営しており、16年間の事業実績がある。

 (2)利用者・サービス供給量: 1ヶ月の利用者実数は256人(1995年4月現在)で、年齢は80歳以上の高齢者が約50%であり、また60歳以下の身体障害者・退院患者は35人(約14%)もいて、利用者の年齢制限、対象分類をしていない。また、利用者は、短期間の治療回復可能な疾病状態よりも、虚弱、痴呆、障害、寝たきり、慢性的疾病(糖尿病やじょくそう等)の要介護状態を主たる対象にしている。職員は1日約20人従事し、従事者1人で1日14人援助しているので、殆どが1、2回/1日の低いサービス水準ではあるが、サービス供給量はこの1か所だけで約 280人、市内全てのゾチアル・スタチオーンで約2万人の高齢者と身体障害者を在宅援助している。

 (3)従事者: 1979年の事業開始当初は6人の看護職、介護職及び7人のアマチュアのアルバイトで出発しているが、医療構造改革法、介護保険法の成立を経て、1995年4月1日現在、看護職、老人介護士(介護福祉士)、ソーシャルワーカー(社会福祉士)の29人の技術職、並びに家事援助ヘルパー等96人のアマチュアのアルバイトの体制に拡大している。勤務時間はフルタイム(38.5h/週)、パートタイム(15h、25h、30h、35h)と様々で通常サービスは常勤が7:00~15:30、非常勤が7:30か8:00からの5時間、これに夕方サービス(16:00~21:00)及び週末サービス(7:00~16:00)が加わり、これを1週の法定の労働時間で調整している。

 (4)サービス内容: ニーズに応じて、看護、介護、家事援助、関係機関とのサービス調整、家族調整等である。看護職は看護ニーズの高い人を中心に看護・介護・一部分の家事援助を行い、老人介護士は介護ニーズの高い人を中心に法的に実施できる部分的看護・介護・一部分の家事援助を行い、アマチュアのアルバイトは一部分の介護・ゆったりとした家事援助を行っている。

 (5)サービス方法: 通常サービスでは、朝7時には第1番目の家庭を訪れており、予め預かった鍵を使ってアパートと利用者宅のドアを開け、寝室まで入り、カーテンを開け、起こし、排泄、洗面(入浴)、着せ替え、朝食準備等の約1時間の援助を行い、1日のリズムを作り、寝かせきりにさせない「朝起こす」援助を行っている。あるいは、 5~20分間程度のインシュリン等の注射、じょくそうケア、ストーマケア、服薬管理等の「健康維持・看護」援助、20~40分の入浴の「身体の清潔を保つ」援助であったり、30分~2時間の食事、買い物等の家事援助を行っている。障害状態、家族事情、自己負担能力等により、サービス内容も多様である。これらの組み合わせで従事者1人で1日14人援助している。夕方サービスは、排泄介助、着せ替え、夕食準備等の快適な就寝援助を行い、19人、7.4%の利用率(1995年4月実績)である。週末サービスは勿論週末生活の保障であり、60人、23.4%の利用率(1995年4月実績)である。ここはまだ北欧のような24時間サービスを行っていない。

 (6)介護保険利用者の実数

 介護保険開始直後である1995年4月実績の介護保険利用者数は、介護等級Ⅰが6人、介護等級Ⅱが37人、介護等級Ⅲが2人、介護等級Ⅲ(特別)0人の合計45人、約18%の利用で出発している。他の利用者は疾病金庫給付、自己負担、社会扶助負担である。

 (7)課題: まだサービス提供組織が不足しており、利用者が多く、ゆっくりとサービス提供ができない、利用者が一人暮らし、痴呆の高齢者が多く、ゾチアル・スタチオーンだけでは十分対応できない、深夜サービスは未着手であること(市内で3箇所実施)を同センター管理者 Sr.イングリットはあげている。

 なお、(6)と財源内訳については、近く追加調査の予定である。

5.障害者自立生活センターによる24時間サービス

 (1)略称VIFは、1978年に創設され、既に17年の実績を持ち、学校、教育、職業、労働における障害者の社会統合と機会均等を目指し、また生活運営のための障害者、長期療養者、高齢者の自己決定と選択の実現を目指し、政治的社会的な環境の発展の広がりを目標に、在宅援助、生活相談、職業的統合のための援助等を行っている。1995年4月からVIFもまた介護保険対象の介護サービス事業所となっている。ミュンヘンには、全ての種類の自助組織が約400箇、うち障害者自助団体だけで約70箇あり、A5判、約200ページの本が出ているほど多い。

 (2)30代半ばの男性の全身性重度障害者(介護等級Ⅲ)の24時間生活を観察した。彼は福祉施設を出て、ヘルパーの介護・家事援助により既に10年間一般アパートにおいて自立生活を行っている。彼を援助しているヘルパーは1日人24時間(10:00~翌10:00)*1週間7人で3人の交替要員を含めて10人確保して、365日24時間の在宅生活を支えている。彼の場合、看護ニーズは少なく、主として基本介護、家事援助、社会参加ニーズが高く、ヘルパーは1人のみ元福祉施設職員であり、他は写真家や園芸家等の全くのアマチュアで対応できる。1人の重度障害者の地域自立生活サービスのために、10人の雇用の場が創出されている。

 (3)彼の1995年5月の介護費用は、(5月実績の8人の総介護時間649.9時間×@16.90DM/h=11232.70DM)+社会保険料249.39DM+(交通費@4DM*総日数=104DM)=11336.70DMであった。財源は1995年3月までは全て社会扶助(生計扶助、特別扶助)があったが、この4月からは介護保険と社会扶助のコンビネーションで賄われている。 財源内訳は、11336.70DM=ミュンヘン市社会扶助8536.70DM+介護保険2800DMであった。報酬はミュンヘン市が直接ヘルパーに支払う。彼のような低所得の障害者の場合は本人の負担は変化せず、ミュンヘン市は新たな介護保険財源の 2800DM分財政負担が軽くなった。

 (4)彼の生活費は470DM/月、アパート家賃(水道、電気、ガス、ゴミ代含む)約2000DM/月の合計2470DMの社会扶助で支払われている。従って、彼(重度障害者)の地域自立生活の総費用は、11336.70+470+2000=13806.70 DM(約966,469円)であり、ナチズムへの反省も含めた社会統合を志向するドイツの伝統であろう。ヘルパーの話によれば、財政の厳しい地方自治体は障害者に施設生活を勧める現実もあり、闘っているという。

 (5)24時間要介護であるが、介護内容は、服薬介助、着替え介助、車椅子の介助、買い物、調理、食事介助、清掃、車椅子センターでの交渉代行、コンピュータの準備、室内の移動介助、トイレ介助、ベッドに寝る/ベッドから出る介助、体位交換、ヘルパー間・本人との打合せ、喫煙介助、散歩介助、手紙の表書き代行、友人への電話の意思伝達代行の19種類43回、実介護716分=約12時間であった。介護保険対象は「介護指針」にそって喫煙、手紙、電話の代行、外出等を除外すると503分=8.3時間になる。しかし、障害者の自己決定生活の理念から考えると、生活を細切れにせず生活全体を援助することが必須事項であるので実介護時間全てで考えることが必要である。仮眠6時間を除く18時間で考えると約12時間は結構忙しい。

 (6)この青年期の障害者介護は、基本介護、家事援助及び社会参加のニーズが看護処置ニーズよりも高いので、ゾチアル・スタチオーンよりも在宅サービスを備えた当事者組織・障害者自立生活センターが有効と言える。

6.税金・社会保険料負担

 これらの福祉サービスを含めた全ての社会サービスを支えるための財源負担は、ナチズムへの反省によるインフレ監視、失業率監視、社会資本の充実を前提として、概ね所得税・社会保険料(年金保険18.7%、失業保険4.3%、 医療保険の平均12.3%)が所得の約40%、消費税が7~15%である。

7.考えさせられたこと

 (1)在宅ケアの領域においては、保健、医療、福祉の垣根がおのずと一定程度取り払われ、融合していくことが必須である。日本では絶対的に不足している在宅看護と社会参加サービスを早急に拡大し、小地域を基盤に、福祉側にとっては医療連携(医療側にとっては福祉連携)の上に、1事業所もしくは複数事業所の機能連携で、相談・看護・介護・家事援助・社会参加のサービスをセットで提供することが必要である。

 (2)障害者自立センターのアマチュアによる24時間介護サービスは不可欠である。ゾチアル・スタチオーンのサービスは高齢者、慢性状態、虚弱の人には有効であるが、青年期の障害者のニーズには十分対応できない。

 (3)社会保険方式はサービスの本体には成るがおのずと対象外を生むので、社会保険給付以外に単独の支援措置(ドイツの場合は社会扶助)を最初から用意することが不可欠である。

 (4)民間福祉団体はその原点に立ち返り、必要なサービスを含めた仕組みづくりを、主体的に住民参加で先行して創造することが必要である。そのことが市民社会を形成していくことであり、社会サービスをめぐる政治への監視を進め、新しいサービスに対応する財の負担を現実的に考えていく道ではなかろうか。

 この小論は清水基金及び大同生命厚生事業団の研究費助成による研究を基にまとめた。紙上を借りて両団体にお礼を述べたい。

注(文献) 略

広島県社会福祉協議会地域福祉課長・社会福祉士


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1996年4月(第86号)2頁~8頁

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