特集/ケアマネジメント アメリカでのケアマネジメント

アメリカでのケアマネジメント

─長期ケアのクライエントを中心に─

白澤政和 *

 

1 アメリカでのケアマネジメントの枠組み

 アメリカでの長期ケアマネジメントの主たる展開は、第一義的には、ナーシング・ホーム入所の可能性の高い高齢者が地域社会の中で生活を続けていくようにすることにより、高齢者自身の機能的・精神的・社会的な機能の推進・維持や低下の緩和を図っていくことを目的としている。アメリカでのもう一方の意図は、対象者である高齢者がナーシング・ホームに入所した場合、公的な財源負担が大きく、ケアマネジメントを活用した地域福祉を推進していくことで、高騰している公的医療財源を抑えることを波及効果として求めていることに特徴がある。

 アメリカの現状では、ナーシング・ホームの通常経費の約6割が公的財源によって賄われており、個人負担部分は4割にすぎない。これは、ナーシング・ホームでの1人当たりの1987年1か年の平均経費が約2万2000ドルであるのに対して、高齢者の年間平均所得は1万1554ドルにすぎず、高齢者の多くは、入所直後に主としてメディケイド(低所得者向けの医療扶助)の公的財源に頼らざるをえない。その結果、メディケイド給付総額15,291百万ドルの内で入院費で7,203 百万ドルについでナーシング・ホーム経費が4,160 百万ドルと高くなり、連邦政府および州政府の財源を強く圧迫している。とりわけ、メディケイドの連邦政府と州政府の負担比率では州政府部分がほとんどであり、州によってはメディケイドが総支出の3分の1を超えているところもある。メディケイドは入院医療費によることも大きいが、他方ナーシング・ホーム入所費の割合も高く、要援護高齢者に対して、ケアマネジメントを基礎にした地域福祉を推進することにより、公的財源を抑制することを結果として求めているとも言える。

 そうした結果、ケアマネジメントを核とする長期ケアのデモンストレーション・プロジェクトは、不要なナーシング・ホームの入所を抑制し、地域社会の中での生活を継続させることを目的として、1970年代以降連邦政府の新しい取り組みの中で実施されてきた。メディケイドやメディケアを管轄する保健・福祉省(Department of Health and Human Services )の医療ケア財務局は、1972年の社会保障法改正によるメディケイド特例実験プログラム(1115項)や社会保障法改正によるメディケア特例実験プログラム(222項)により、1970年中に3つの長期ケア実験プロジェクトに対して財源を出してきた。これらの内では、1974年コネチカット州で開始の、メディケア特例(222項)を主財源とする選別モデル(triage model)がよく知られている。このプロジェクトでは、メディケアの資格要件を満たしている65歳以上の高齢者を対象として、コーディネート・サービスを実施するものである。このプログラムは、現在41の州で実施されており、その内の85%のプログラムにおいてケアマネジメントが活用されている。

 また、1980年にはアメリカ老人法第4章の実験プロジェクトに対する補助金により、15の州でプロジェクトも開始された。これは1982年には、全国的な長期ケア・チャネリング実験プログラム(National Long-Term Care Channeling Demonstration Program)となり、1984年6月までこの実験プログラムは実施され、ほかのプログラムに移行していった。

 これら以外に、連邦補助事業として社会健康維持機構(SHMO)でもケアマネジメントを実施している。ここでは、虚弱な高齢者だけでなく、健康な高齢者をも対象として、予防的な側面を強調したケアマネジメントが行われている。また、行政からの補助金ではなく、ロバート・ウッド・ジョンソン財団の基金で、24の病院が1983年に退院計画プログラムを実施し、この際にケアマネジメントを活用している。

 このように、アメリカでは、アメリカ老人法第4章のプログラムと社会保障法のブロック・グラント(一括補助金制度)によるプログラムがケアマネジメントの中心であり、これらが州レベル、さらには地域レベルで別個に実施されている。その一例としてハワイ州のホノルルの現状を紹介してみる。

 ハワイ州のホノルルでは、高齢者に対するケアマネジメントはメディケイド受給資格者向けのケアマネジメント窓口と、その他の介護を必要とする高齢者のケアマネジメント窓口に分かれている。前者は「壁のないナーシング・ホーム」という名称で、ナーシング・ホーム入所よりも在宅生活を求めている低所得の要介護高齢者に対して、ケアマネジャーが相談にのり、ケア計画を作成し、実施するものである。これは、ナーシング・ホームに入所すれば、1か月の必要経費が2000ドル程度必要であり、多くの高齢者は支払いが不可能となっていく。その結果、メディケイドに頼ることになるが、州はメディケイド予算の膨張に悩んでいる。こうした赤字減らしのために、メディケイドの受給資格があり在宅生活を求めている者に対して、ナーシング・ホーム入所経費の4分の3のお金を使って、在宅の各種サービスを利用できるように、ケアマネジャーが高齢者と一緒にケア計画を立てる。後者については、低所得以外の高齢者を対象に、相談活動を中心としたケアマネジメントを行っている。こちらのほうは「プロジェクト・マラマ」という名称である。以上ホノルル市でのケアマネジメントの実施システムは、図1のように整理できる。

図1 ホノルル市でのケアマネジメントの実施プログラム

図1 ホノルル市でのケアマネジメントの実施プログラム

 

 そうした中で、ケアマネジメントの窓口を一本化する努力が試みられてきた。州レベルにおいて、アメリカ老人法に基づく長期ケアを所轄している州老人福祉部(State Units on Aging)が、いくつかの州において、社会保障法のブロック・グランド・プログラムにおけるコミュニティ・ケア・サービス部分をも実施するようになってきた。同時に、州政府独自の高齢者に対するコミュニティ・ケア・サービスも州老人福祉部が所轄することになり、州レベルでの窓口一本化に向けての改革が進んできた。

 そうした例として、イリノイ州のイリノイ・コミュニティ・ケア・プログラムを紹介する。このプログラムは、1980年1月から開始され、社会保障法とアメリカ老人法の財源を使って、州老人福祉部がホームヘルパー、デイケア、雑務サービスを総合的に60歳以上の高齢者に提供しようとするものである。

 このプログラムの組織は州老人福祉部、13の地域老人福祉部、63のケアマネジメント機関、 150のサービス提供機関・団体に分けられる。もっとも上部組織である州老人福祉部は、本プログラムの企画に対する責任を有しており、ここがサービス提供機関・団体やケアマネジメント機関と交渉・契約等を行っている。13の地域老人福祉部は、12の非営利団体と、シカゴ市庁内の1組織とに分けられるが、ここは当該地域での高齢者に対するプログラムの計画や調整の責任を持っている。また、地域内でのサービス提供機関・団体やケアマネジメント機関の活動内容をチェックし、技術的援助を提供すると同時に、両者間を調整することを行っている。サービス提供機関・団体は雑務サービス、ホームヘルパー、デイサービス等を、63のケアマネジメント機関の担当地域の1つないしはいくつかの地域において提供することを、州老人福祉部と契約をしている。こうした団体は、単に高齢者にサービスを提供するだけでなく、観察しえた要援護者の状況の変化について、即刻ケアマネジメント機関に報告する責任も持っている。

 63のケアマネジメント機関はさまざまな所に置かれている。これらは、在宅医療機関、カウンティ・保健部、老人福祉センター、家族福祉協会などである。こうした機関は州政府との契約でもって実施しており、高齢者やその家族に対してケアマネジメントを行っている。州の法律でもって、ケアマネジメント機関がサービス提供機関・団体になることは禁止されている。ケアマネジャーは高齢者が本プログラムを利用する資格の有無、要援護者のアセスメント、ケア計画の作成と実施、モニタリングを行うことになる。またケアマネジャーにはナーシング・ホーム入所に関するスクリーニングの責任も有している。

 こうしたイリノイ州のコミュニティ・ケア・プログラムを図示すると、図2のようになる。

図2 イリノイ州のコミュニティ・ケア・プログラム

図2 イリノイ州のコミュニティ・ケア・プログラム

 このプログラムの対象者は、所得に関係なく、60歳以上の者となっている。ケアマネジャーは、マニュアルに示された本プログラムに対するニーズを有しているか否かの得点表をもとにして、ニーズを有している者のみが利用できることになっている。援護を必要とするすべての高齢者を対象にしている以上、ある所得以上の者には、提供されるサービスが部分的に有料となっている。

2.シニア・ケア・ネットワークでのケアマネジメントの実際

① ケアマネジメント機関としてのシニア・ケア・ネットワーク

 こうしたケアマネジメント機関の援助実施状況について、具体的な例でもって詳しく説明してみる。ここでは、カリフォルニア州のパセディナ市で行われているケアマネジメント機関の実態を紹介してみる。これはハンティントン記念病院の内にケアマネジメント機関があり、地域の高齢者等に対するケアマネジメント活動を中心にした「シニア・ケア・ネットワーク」という名称の部門となっている。

 シニア・ケア・ネットワークは、ハンティントン記念病院の1プログラムとして1985年に設立された。そして、今でも病院の1機関としての位置づけには変わりはないが、創立時に比べて内容的には、病院の1プログラムというより、シニア・ケア・ネットワーク自体、1独立機関としての要素が強くなってきている。

 ここでの事業は、ケアマネジメントを実施することが中心であるが、それ以外に、①保険会社との新商品(介護保険)の研究開発、②ホーム・ケア企業やナーシング・ホームのコンサルティング、③啓発事業として健康づくりの番組作成など、広範囲にわたっている。

 シニア・ケア・ネットワークで実施している公的補助ケアマネジメント・プログラムにはMSSP(多目的シニア・ケア・サービス・プログラム)とリンケージ・プログラムの2種類がある。前者は、連邦政府補助のメディケイド認定者に対するプログラムであり、後者は純粋に州政府のプログラムである。これらのプログラムの適用資格条件は表1のとおりである。これら以外に、こうした資格条件に該当しない者を対象として、個々人が私費によってケアマネジメントを受ける私費プログラムもある。

表1 ケアマネジメント・プログラムの内容
  多目的シニア・サービス・プログラム(MSSP) リンケージ・プログラム

財源

連邦ならびに州政府 州政府

資格条件

65歳以上
メディケイド認定者
施設入所を余儀なくされている者
18歳以上
低所得者
施設入所の恐れのある者
最大適用者数(定員)

200人

200人

 

 シニア・ケア・ネットワークにおけるMSSP、リンケージ両プログラムの要援護者数はどちらも最大 200名を限度にしているが、予算はMSSPが年間85万ドルに対してリンケージは30万ドルと大きく異なっている。これは、メディケイド受給者の場合、高齢者が一定範囲の額で各種のサービスを買いとり、在宅生活ができるよう援助しているためである(施設入所では1カ月最低3000ドルかかるので、その3分の2の2000ドルで、各種サービスを買いとるようケアマネジャーが援助している)。

 ここでは、本人や家族あるいは医者から、電話などでケアマネジメント援助の情報があった場合、まず即座にトリアージャー(ケースを仕分けする人)が、MSSPの対象者か、リンケージ対象者か、あるいは私費プログラムの対象者かに分類する。問い合わせの半数は情報のみの照会であり、残りの半数がケアマネジメントに関する照会である。このうちで、ケアマネジメントを利用するのはさらに半数となっている。これらのケアマネジメント利用者の内訳では、MSSP利用者が20%、リンケージ利用者が40%、私費サービスが40%となっている。

 こうしたトリアージャーによって利用するケアマネジメントのプログラムが決定すると、次にケアマネジャーによる援助が開始される。

②ケアマネジャー活動の実際

 リンケージ・プログラムが適用されたスミスさんの家庭への訪問によるケアマネジメントの実際を紹介する。これは、シニア・ケア・ネットワークのソーシャルワーカーとレジスタード・ナースがケアマネジメント援助のために、スミスさんの家庭へ初回訪問するのに同行した時の内容である。ソーシャルワーカーの運転する自動車で、同僚のレジスタード・ナースが同行訪問したものである。

 スミスさんは交通事故に遭って、脊髄損傷で歩くことが不自由になり、現在歩行器を使って歩いている。孫娘と同居しているが、すでに病院のリハビリを終了し、PTが家庭に派遣されていた。ホームヘルパーにも週に4回、1回につき4時間の家事援助を受けている。看護婦は、今まで訪問看護をしてきたが、今回は、PTによる身体的なリハビリが終了し、スミスさんの生活を全体からみてケア計画をたて直すものである。それで、いま受けているサービスの調整をはかり、さらに必要とするサービスがあるかどうかを確認することである。そのため、今日は、車で半時間ほど離れた所に住んでいる娘さんもやってきて、一緒に相談を受けた。

 シニア・ケア・ネットワークの既存のアセスメント用紙を利用して、面接は進められる。ADLのチェックでは、実際にスミスさんに歩行器を使って歩いてもらったり、トイレや風呂の介護機器の活用状況を観察し、問題点を尋ねる。約2時間、主としてソーシャルワーカーが面接を行ったが、最後のケア計画を立てるまでには至らず、次回に再度訪問することとなった。

 面接での質問は、基本的にはあらかじめ用意してある用紙に従ってするが、ソーシャルワーカーが全般的な質問をし、レジスタード・ナースは身体上の変化や医者との関係、投薬の管理状態など保健・医療についての質問をしていた。

 もう1回の訪問でケア計画が作成されたが、その結果は、従来からの2週間に1回の訪問看護に加えて、ホームヘルパーの週4回(1回に4時間)の派遣を3回に削減し、地域社会への参加や社会的なリハビリを続けるためにデイサービスを週に2回利用することを加えた。また、孫娘の仕事が忙しく、食事時間が不規則なため、新たに週に4日配食サービスを利用することになった。

③整備されている質問用紙

 2回の家庭訪問に同行しての感想は、アセスメントやケア計画の作成に相当時間をかけていることである。それも、座って質問するだけではなく、訪ねて行って階段や風呂、トイレを見ることまで行っていることが、評価できる部分である。

 第2の点は、ケースマネジメント開始時、あるいは作成したケア計画を実行する時点でも、スミスさんからサインをもらい、了解を取っていることである。ケアマネジメントのすべての場面で、インフォームド・コンセント(詳しく説明し、了解を得ること)が徹底している。これは、ケアマネジメントの理念として、クライエントに対する尊厳から引き出される自己決定の原則に基づいている。

 さらに関心したことは、アセスメントやケア計画の詳細な用紙が作られており、しかも定期的に改訂されていることである。実際にスミスさんとの面接では、アセスメント用紙としては、次のようなものが使われた。①一般健康状態、②精神的社会的アセスメント(出来事)、③精神的社会的アセスメント(精神状態)、④精神状態アセスメント質問表、⑤日常生活動作(ADL)アセスメント、⑥投薬に関するアセスメント、⑦公的サービス利用アセスメント、そしてまとめとしての⑧アセスメント概要である。ケア計画では、①個々のニードに合わせたケア計画を立案する「ケア計画管理表」、②投薬計画表、③ケア計画承諾書、といった用紙が活用される。

 ここでは、⑤の日常生活動作アセスメントの用紙(表2)をつけておく。この用紙の特徴は、電話やお金の管理といったIADL(手段的ADL)も含めた多数の動作について査定していることである。さらに、どの程度できるかの能力を尋ねるだけでなく、現状での援助へのニードをも尋ねている。このような質問をすることにより、ケア計画を作成することが容易になる。大変参考になる用紙といえる。

表2 日常生活動作アセスメント用紙

表2 日常生活動作アセスメント用紙

④専門職としてのケアマネジャー

 シニア・ケア・ネットワークでのケアマネジャーは、管理職を含めて多くはソーシャルワーカーで、一部がレジスタード・ナースである。これは、アメリカでの一般的な実態である。ただ、一部、OT、PTもケアマネジメントを担っており、競合がみられる。

 こうした中で、全米ソーシャルワーカー協会(NASW)は、ケアマネジメントはソーシャルワーカーに固有の仕事であり、ケアマネジャーとしてソーシャルワーカーを雇用することを求めている。また、それぞれの職種でねらいとするケアマネジメントの研究が進められている。例えば、社会福祉職では、クライアントへの弁護的な役割、さらにはクライエントの自己決定権を強調したケアマネジメント・モデルが追求されている。

 また、こうしたケアマネジャーを専門家として養成していくだけでなく、相談援助を受ける高齢者の家族をケアマネジャーとして育成していくことも実験的に行われている。例えば、ボストン市のベイ・イスラエル病院で退院患者の家族にケアマネジメントの方法を教育し、家族もケアマネジャーになることで、在宅生活でのニードを充足する効果を発揮している。また、障害者などでのケアマネジメントでは、本人をケアマネジャーに教育・育成している試みもなされている。

3.まとめ

 ケアマネジメントの対象者は、高齢者に限ったものではない。障害者や退院患者、エイズ患者、また非行などの問題をもった子どもなど、あらゆる人たちを含むものである。

 日本でもケアマネジメントは高齢者のみでなくあらゆる人たちを対象として展開していかなければならない。高齢者についても、保健所、福祉事務所、高齢者総合相談センター、在宅介護支援センターなど多様な相談窓口で実施可能である。ただ、こうした援助を実施するにあたって、誰がどこで実施するとしても、シニア・ケア・ネットワークで行っているような、きめ細かいケアマネジメントが求められる。そのためには、ソーシャルワーカーや保健婦・看護婦等をいかに研修・教育し、育成していくかという大きな課題が残っている。その意味では、大学などの教育機関や研修機関の今後の役割はきわめて大きいといえる。

 

 [注]アメリカでは、ケアマネジメントという用語はほとんど使われず、主としてケースマネジメントが使われているが、本稿のタイトルの関係でケアマネジメントという用語で統一して論じている。

 なお、「シニア・ケア・ネットワーク」の詳しい内容は、以下を参照にして下さい。

 白澤政和監修 『ケース・マネージメントの考え方と実際―「シニア・ケア・ネットワークの実践から―」』vol.1 ~vol.4,フランスベッドメディカルサービス株式会社

*大阪市立大学生活科学部教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1996年8月(第88号)9頁~14頁

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