特集/地域リハ 大都市における地域リハサービスの現状と課題

大都市における地域リハサービスの現状と課題

小田芳幸・伊藤利之 *

 

1.はじめに

 地域リハビリテーション(リハビリテーション:以下リハと略す)とは、生活の拠点を病院や施設において行うリハに対し、在宅生活を基盤として行うリハ活動である(表1)。

 

表1 地域リハビリテーションの定義
(横浜市総合リハビリテーションセンター:1995)

 地域リハとは、病院や施設で行われるリハに対し、生活の拠点を住み慣れた地域社会(在宅)において、その資源を活用して行われるリハのことであり、そのために必要な地域システムの構築、人材の育成、社会資源の開発など、関係するすべての活動を含むものである。

 『障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~』においても、ライフステージのすべての段階において、障害児・者の地域における自立的、主体的な生活に向けた支援に、リハの理念を位置づけている。ちなみに、リハは「身体的、精神的、かつまた社会的に最も適した機能水準の達成を可能とすることによって、各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことをめざし、かつ時間を限定したプロセスである」(国連障害者世界行動計画)と定義されている。

 医療機関でのリハを終えて在宅に戻った障害児・者は、在宅生活を経験するなかで次第にその問題点に気づき、そこで初めてリハに関するニーズが具体化することが多い。このため、地域リハでは生活スタイルの変更を適切に支援する技術が求められている。このことは障害児・者やその家族が主体的に生活できるための援助活動を意味しており、新たなニーズがない限り、限定した時間の中で計画されるべきものである。

 また、このようなリハの技術的サービスは、地域リハサービスの中核になるものと考えられる。具体的には、入院中に身に付けた機能の維持訓練、生活環境に適応するためのADL訓練、介護・介助方法の指導、これらを補助する福祉用具の利用や住居改造などである。しかし、これだけでは障害を抱えて地域で生活していくことは困難な場合が多く、ホームヘルプ、デイサービス、ショートステイといった各種の福祉サービスや訪問医療・看護といった保健・医療のサービスも欠かすことはできないであろう。

 地域リハサービスの目的は、これらの保健・医療・福祉のサービスを基盤に、リハサービスを中心とした総合的サービスを提供し、地域で生活する障害児・者の豊かで生きがいのある生活を保障することである。

 リハに「地域」という冠がつく以上、その内容はそれぞれの地域特性によって規定されるはずである。このため首都圏に隣接した大都市と小都市、地方都市、農村など、地域リハの内容は、それぞれ異なった方法とサービスメニューによって行われるのが適当である。そこで、ここでは地域リハの活動基盤となる在宅リハシステムについて、横浜市の例を紹介する。

2.横浜市における地域リハシステム

 横浜市は330万人の人口を有する大都市であり(18区に区分)、予算規模も大きい。しかし不動産価格は高く、中心部に福祉施設や医療機関を新設するのは困難である。一方、福祉やリハに関する市民の意識水準は高く、医療機関での急性期・回復期のリハが比較的充実して受けられるようになった昨今では、地域ケアや地域リハサービスの充実を求めるニーズが高まっている。

 これらの条件を踏まえて、昭和62年に総合リハセンターが開設され、ここを中心として横浜市全域を対象とする地域リハサービスを展開している(図1)。

図1 中核機関を中心としたシステム
図1 中核機関を中心としたシステム

 横浜市では地域リハサービスの基盤をなすものとして在宅リハサービスを位置づけ、その充実をはかってきた。リハセンターを中核に据え、そこに地域サービスを専門とする課が設置され、専任職員が配置されている。また、センター内には障害者更生相談所が配置されており、そことの一体運営をはかることで、身体障害者福祉法による福祉的サービスの判定が同時に提供できる体制になっている。その結果、在宅リハサービスの窓口を福祉保健サービス課が担い、それらをバックアップする技術的なリハサービスの提供、ニーズの把握、技術開発、政策的対応などシステムの中心的役割をリハセンターが担うという分担が明確になっている。

3.在宅リハサービスの実際(図2)

図2 在宅リハサービス業務の流れ(横浜市)
図2 在宅リハサービス業務の流れ(横浜市)

1.在宅リハサービスの提供は、法的根拠に基づいて保健所・福祉事務所・児童相談所などが行っている事業を補完する形で、これら関係機関からの依頼に基づいて行う。
2.保健所および福祉事務所からの依頼については、あらかじめ両者間で調整のうえ、可能なかぎり共通の依頼として扱う(福祉保健サービス課)。
3.病院・診療所などの医療機関から直接依頼された場合は、依頼内容から適当と思われる対象者の管轄行政機関と連絡し、その協力下に具体的なリハサービスを行う。
4.第1回目の訪問は、福祉保健サービス課・児童相談所などの職員とチームを組んで行う、いわゆる「評価訪問」とする。
5.評価訪問の後に、参加した関係諸機関の職員と「地区別合同評価会議」を行い、障害や障害児を取り巻く環境を総合的に評価し、これに基づいたリハ計画を作成する。
6.その後の具体的なリハサービスはすべてこの計画に沿って行い、計画の変更は再び評価訪問を行わない場合でも、同地区の「合同評価会議」で確認することを原則とする。
7.理学療法士・作業療法士をはじめとする専門職派遣による機能訓練など、具体的なリハサービスが終了した場合には、担当者は実際に行ったサービスの内容とその結果を報告書にまとめ、担当医師の確認を得たうえで、調整担当の保健婦またはソーシャルワーカーを通して関係機関に連絡する。

(1) 在宅リハサービスの対象

 身体障害の程度が重く、通院・通所が困難なため在宅生活を余儀なくされている重度の障害児・者で、実生活の場で具体的なリハサービスを必要としているものを対象としている。ちなみに、1994年度の新患数は479 人(男:252人、女:227人)で、平均年齢は66.1歳であった。また疾患別では、脳卒中220人(46%)、神経筋疾患85人(18%)、慢性関節リウマチ35人(7%)、その他の骨関節疾患27人(6%)、脊柱脊髄疾患31人(6%)その他81人(17%)であり、脳卒中が全体の5割弱を占めていた。

(2) 対象者の把握・選定

 在宅リハサービスの窓口は福祉保健サービス課、保健所、児童相談所、医療機関などである。しかし、法律の年齢割・行政組織の縦割りは、施策を実施する側にとっては都合がよくてもこれを受ける側には面倒なことが多いことから、在宅リハサービスに関する相談および調整は各区の福祉保健サービス課で集約される。福祉保健サービス課の保健婦、ケースワーカーに対象者の把握、選定が委ねられ、そこでスクリーニングされた障害児・者を対象に、依頼を受けたリハセンターが技術的な援助を行っている。ちなみに保健所、児童相談所、医療機関などからのニーズに対しても福祉保健サービス課との調整の上で実施しており、リハセンターはリハに関する技術的なバックアップ機能を果たしている。

 以前は保健所、福祉事務所の連携で対象者を把握・選定していたが、市の機構改革によって、福祉、保健に関する相談の窓口が福祉保健サービス課に統一され、本事業の窓口も一本化した。福祉、保健のドッキングはサービスの提供において一定の成果があったものと評価している。

(3) チームアプローチ

 在宅リハでは、各区の福祉保健サービス課を事務局に多職種からなる地域リハチームを形成(図3)、このチームが居宅を訪問し、以下のようなサービスを実施している。

① リハの視点からみた総合評価

② 健康・機能維持のための訓練・指導

③ 介護方法の指導

④ 福祉用具の選択

⑤ 福祉用具の使い方の指導

⑥ 住環境整備の指導

⑦ 家事動作の訓練・指導

図3 横浜市における地域リハチーム
図3 横浜市における地域リハチーム

 チームの基本メンバーは、福祉保健サービス課のケースワーカー、保健婦あるいは保健所の保健婦、リハセンターの医師、PTあるいはOT、ソーシャルワーカーあるいは保健婦であるが、必要に応じて地域診療所の主治医や訪問看護ステーションの看護婦、ホームヘルプ協会のコーディネーターなどの関係職種の参加を要請している。

 具体的には、チームによる最初の訪問(評価訪問)の後に行っているカンファレンスで、リハのゴール設定とそれを達成するための計画を作成、これに基づくチームメンバーの役割分担を行い、実際のサービスを提供している。ちなみに、PT、OT、ST、リハ工学技師などによる専門的サービスについては、担当医師の依頼により、おおむね週1回程度の頻度で3~6ヵ月にわたって継続的に行っている。

 一方、各種補装具や福祉機器の給付、住宅改造などのサービスについても、チームによって合議された計画にしたがって一括して提供できるようになっている。身体障害者福祉法を利用する場合には、担当医に障害者更生相談所の嘱託医としての役割を担ってもらい、その場で医学的判定を行っている。また、リハセンターは、このような障害者更生相談所の機能に加えて「障害者・高齢者住環境整備事業(横浜市単独事業)」についても判定権を有しており、先のリハ計画に基づき給付できるようになっている(表2)。これらの結果はサービス終了後にチームに報告されるが、日常的にも進捗状況を連絡調整しながらそれぞれの役割を果たしている。

 

表2 障害者・高齢者住環境整備事業の概要
高齢者・障害者の生活環境を、長く在宅生活を維持しうる適切な環境に整えるための住宅改造費と自立支援機器購入費・設置費の助成を行う。
(1) 住宅改造費

助成限度額:150万円(所得により自己負担あり)
対象者:①1、2級の身体障害者手帳所持者、またはIQ35以下の方
     ②介助を必要とするおおむね65歳以上の高齢者
     ③3級の身体障害者手帳所持者で、かつIQ50以下の方

(2) 自立支援機器(所得により自己負担あり)

対象機器 機器購入費 設置工事費 助成対象者
移動リフター 100万円 40万円 下肢または体幹機能障害 1、2級の身体障害者
階段昇降機 100万円 12万円
段差解消機 55万円 20万円
環境制御装置 60万円 7万円 四肢機能障害1、2級の身体障害者
コミュニケーション機器 30万円 3万円

(3) 制度の特徴

・申し込み窓口は各区の福祉事務所、ここでのスクリーニング後リハセンターが技術面のサービスを担当する。
・建築士や工学技師のほか、理学療法士・作業療法士・ケースワーカー・保健婦等が訪問し、連携して住宅改造や自立支援機器の設置を指導する。
・施行者への技術指導や情報提供を行う。
・制度利用者に工務店の紹介を行う。

(4) 関係機関との連携

 重度の障害児・者が安心して在宅生活を送るためには、前述したようなリハサービスだけでなく、各種の福祉サービスが必要なことは言うまでもない。

 このため、ホームヘルパーの派遣、入浴サービス、デイサービス、ショートステイの利用についてもチームによる合議で決定できるようになっている。前述した障害者更生相談所の判定権に加えて、福祉事務所の措置権もチームに包括していることは有効で、必要に応じてこれらの機関やスタッフとの情報交換を実施している。特に、介護方法や福祉機器の活用などの実際生活場面での指導が必要な場合には、リハセンターから専門職を派遣、技術面での援助を行っている。また、各種講習会も行っており、関係機関の人材育成もリハセンターの大きな役割の一つである。

 医療機関との連携は、福祉保健サービス課または保健所の保健婦が中心となって行っている。在宅リハサービス導入にあたっての主治医連絡による情報交換や、病院や退院連絡などは、チームがリハ計画を立てるための基礎資料となっており、これを基に立てられたリハ計画は、同様に保健婦を通して主治医に戻している。

 この他、車いすメーカー、義肢・装具メーカー、福祉機器業者、建築業者などとの技術面での情報交換と連携は、リハ計画を遂行する中で実践的に行われている。

 さらに、更生相談所を事務局として開催されている地域リハ協議会は、関係機関や施設、障害者団体などとの交流をはかり、それぞれがもつニーズの把握や連携の方法について検討しており、こうした活動を通して、在宅リハチームを側面から支援している。

4.システムの現状と問題点

 横浜市における地域リハシステムは、前述したように、大都市におけるマンパワーの不足、土地価格の高騰という問題をどう解消してサービスを提供するか、という課題の一つの解決策という見方もできる。専門職は確保しやすいが、ホームヘルパーなどの人材は量的に不足しているのが都市の特徴である。この点を解決するために福祉用具の利用やそれに伴う家屋改造は有効であり、これにより、いわゆる「力の介護」を補うことができる。

 また、在宅でこのようなサービスを提供することは、すでにある土地を利用することができ、施設建設を必要最小限に抑えることができる。しかし、いくら在宅リハを充実強化しても、それはデイケアやショートステイを含む養護性のニーズには応えられず、施設ケアの必要性を否定することはできない。したがって地域リハシステムを構築する上では、これらの保健・福祉施設の整備拡充をはかることも、重要な条件の一つである。

 横浜市におけるシステムは行政主導型であり、そのための中核機関を有した組織的・系統的な取り組みを基盤としている。しかし、全市対応のシステムの大きさから小回りがきかず、柔軟なシステムのつもりがいつのまにか不動のシステムになってしまい、新たなニーズに速やかに対応できないことが最大の問題である。

 窓口である福祉保健サービス課の保健婦、ケースワーカーからも「必要な時に、迅速な対応をしてほしい」「日常的な関わりをリハセンターのスタッフともちたい」「ちょっとした相談にのってほしい」といった要望が出されている。最近では、チームのメンバーのレベルアップがはかられたことにより、簡易な相談に対しては依頼があるときに、リハセンターPTあるいはOT、ソーシャルワーカーあるいは保健婦と福祉保健サービス課の保健婦、ケースワーカーだけで訪問する体制を始めた。これにより住環境整備事業のように主訴が限定され、整理されている場合は、リハセンターのPT、OTあるいは建築士と福祉保健サービス課のケースワーカーによる対応が可能となった。

 また、前述したようにリハセンターの役割は福祉保健サービス課などの窓口機関のバックアップ機能を担う形をとっており、最初から単独で在宅リハサービスは行っていない。最近では、医療機関からの直接の依頼が増えてきているが、現状では窓口である福祉保健サービス課に一度戻して、そこからあらためて依頼してもらう形を整えている。そのため、医療機関からの依頼に対しては、必ずしも迅速に対応しきれていない。そこで医療機関からリハセンター、リハセンターから福祉保健サービス課という逆ルートの対応についても試行を始めている。今後は、在宅介護支援センター、訪問看護ステーションなどの地域関係機関との直接連携を実現する必要があると考え、その具体化をはかっているところである。

 しかし、こうした行政主導型の在宅リハサービスには限界があるのも事実である。行政的サービスは、何時、いかなる時も、誰に対しても同じようなサービスの提供ができる公平性が求められている。また、より高度なニーズや新たなニーズに応えていくには、すぐにはままならないことが多く、一層豊かな、きめ細かな技術やシステムの開発を行うにはかなりの労力を要する。これは単にシステムの大きさだけでなく、公平・平等を原則とした行政的サービスの限界ともいえる問題である。

5.今後の課題

 地域リハシステムは、行政機関と無関係に構築することは困難であるし、市民ニーズに適切に応えるという立場からも適当とはいえない。身近なところで相談ができ、サービスの提供が得られるシステムを合わせて考えると、地域リハセンター(または組織)のようなものが各地区に点在し、行政機関や地域の関係機関、社会資源との密接な関係をもちながら地域リハを推進することが理想である。一方で、中核センターは、それらの地域リハセンターを統括する役割を担い、技術の開発・提供、人材の育成機能を合わせもち、これらをバックアップする必要があろう。

 しかし、行政だけの力でこれを進めれば、前述したようなシステムの硬直化を招きかねない。多様化・複雑化するニーズに応じる、柔軟さをもったシステムを考えると、どうしても民間活力の導入が必要である。地域保健・福祉分野において、公的介護保健制度の導入を念頭に、サービスの質的向上をめざすには、競争の原理を取り入れることのできる条件づくりが最大の課題ある。民間の力でこのような活動が展開されることが、より豊かな地域リハサービスを保障することになるであろう。それには障害の評価とリハ計画の作成能力のある人材の育成が必須であり、急務といえよう。

 今後のリハの動向は、医療機関における早期リハの実現と、慢性期における地域リハの拡充という2局分化が一層進むものと予想される。このことは、両者がそれぞれ努力目標を定めるべきもので、重度の障害児・者への援助において矛盾するものではない。医学的リハはできるだけ早期に開始すべきであり、地域リハサービスがより有効に機能するためには、単にそれが提供できるシステムを整備するだけでなく、急性期から慢性期、在宅生活に至るまでの一貫したサービスシステムを構築することが、今後の課題である。

〈参考文献〉 略

*横浜市総合リハビリテーションセンター


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1997年5月(第91号)16頁~22頁

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