用語の解説 インクルージョン トーキングブック

用語の解説

インクルージョン(Inclusion)

 この用語は、障害者の社会参加を進めるために、インテグレーションやノーマライゼーションに代わる新しい理念(戦略)として急速に浮上してきたものである。

 それは「障害」概念のとらえ直しに由来する。すなわち、心身の不全や個人的能力に責務を置くのでなく、障害のある人への環境の関わり、すなわち障壁(Barrier)や援助(Support)の有無と内容を問うたのである。しかし、場として特別に用意された所でないため、「通常の場面における、援助付きの共生戦略」と理解する。

 それゆえ、新しい動きとして紹介された「自立生活(Independent Living)」や「バリア・フリー(Barrier‐Free)」、「援助付き雇用(Supported Employment)」等もこの考えを基礎にしているといえる。

 これは欧米の教育実践が基礎になり、国連の「特別なニーズ教育に関するサラマンカ声明と行動大綱(1994年)」で結実した、といわれているので、教育の分野での提起が、UNESCOを中心に強く打ち出されている。従来の「統合教育(インテグレーション)」との相違は、障害児教育の専門性(技術・人・機関等)は否定せず、支援する上での「通常の場面(クラス)」における一体化の強調である。社会に投げ捨てること(Dumping)なく、適切な援助によって、社会の方が合わせること(Adaptation)である。そのため、「地域に根ざしたリハビリテーション(CBR/Community Based Rehabilitation)」とも密接な関係があるといえる。

(松友了/全日本手をつなぐ育成会)

トーキングブック

 広い意味では録音図書と同義。欧米では、一般の読者を対象とする市販のカセットブックと区別して「視覚障害、モビリティー障害、および知的障害等により、普通の印刷物を読むことが困難な人々のために製作された録音図書」と定義することが多い。このように定義されたトーキングブックは、著作権の一部制限など法律上も特別に扱われる。

 トーキングブックのメディアの主流は、今のところカセットテープである。現在進行中のデジタル音声情報システム(DAISY)の国際標準化により、1998年中には、カセットでは実現できなかった大量の音声情報の中から求める情報を効率的に検索することが可能になり、トーキングブックの概念の拡充が必要になる。DAISYは、インターネットを利用した音声情報の流通も可能にする。

 日本では、著作権法37条が視覚障害者の利用する録音図書(トーキングブック)を点字図書館等のもっぱら視覚障害者に奉仕する機関が著作権者の許諾なしに録音することを認めているが、これを同じくトーキングブックを必要とするモビリティー障害者や学習障害児に提供するためには、改めて労力と時間をかけて著作権者の許諾を得なければならない。トーキングブックを必要とするすべての人々が円滑にこれを利用できるよう、日本の著作権者団体に早急な事態改善の努力を期待したい。 

(河村宏/(財)日本障害者リハビリテーション協会企画研究部次長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1997年5月(第91号)51頁

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