リハビリテーション研究(第95号) NO.7 障害者福祉法制の分類と体系~新しい時代の法統合におけて~

<講座>


●障害者福祉法制の史的展開・3


障害者福祉法制の分類と体系

~新しい時代の法統合におけて~


仙台大学教授 宇山 勝儀


1.障害者福祉法制の法体系

 法律上、障害者の範囲は、障害者基本法(昭和25年法律第45号)第2条により、身体障害者、精神薄弱者及び精神障害者とされており、障害者福祉法制と呼ぶ場合はこれらの対象者の福祉に関するすべての法律ないし法政策の全領域を包含することになる。そして障害者福祉は、他の福祉理念の具体化と同様、行政の全分野、全領域によって総合的に進められるものであり、その全容を把握し、分類・体系化することは容易ではない。
 分類の一つの基準は、リハビリテーションの種類に基づく分類である。すなわち、医学的、理学的、教育学的、社会的、職業的リハビリテーションや経済的更生のための支援施策等に分類する方法である。しかし、例えば障害者基本法や対象別障害者福祉法等は何らかの形でこれらの諸要素を総合的に組み込んでおり、当該法が総合性を有するため必ずしも単一目的の法として分類することができない。また教育基本法や所得税法や公営住宅法等社会福祉サービス関連制度を構成する諸法も、部分的に障害者に村する福祉的支援に関する条項を含むものであって、当該法そのものを障害者福祉関連法と呼び得るかどうかについては、検討の余地がある。
 第二の分類基準は、社会福祉サービス概念の分類に基づく整理である。この例は障害者に対する福祉的支援のための法制であり、社会保障に占める社会保険(国民年金法、労働者災害補償保険法等)、公的扶助(生活保護法、特別児童扶養手当等の支給に関する法律等)、社会福祉(社会福祉事業法、障害者基本法、児童福祉法、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等)、保健(母子保健法、地域保健法)、医療(医療法等)、戦争犠牲者援護(戦傷病者特別援護法等)等に関するものや、さらに障害者及びその家族等を対象とした税制上の優遇、自立支援のための貸付ないし融資、障害者(児)のための教育保障、職業訓練、雇用促進等の障害者就労施策、障害者のための住宅確保やバリアフリーのための改造支援等の住宅施策その他街づくり、各種割引制度等広範な社会福祉サービス関連諸制度に関わる法制が含まれる。
 第三の分類基準は実務的に行われている分類である。これは障害者福祉関係法等を総則的・理念的なもの、対象別総合福祉法的なもの、別の行政分野の法で障害者の自立支援の条項を含むものといった分類である。この分類が実際的であり、便利であることから、実務的には一般的分類基準となっている。
 現行諸法制や諸施策のうち、障害者福祉の具体化に直接的な関連を有するとみられる主要なものは、次の表に示す通りである。従って障害者福祉法制を細部にわたり体系的に論ずる場合は、これら諸法について体系的に論じ、問題点等についても関連制度についてまで論究することが望ましい。しかしそのすべてを網羅的に把握し、分析を試みることは、ここで許された紙幅の範囲では困難である。いずれの方式が適切か、あるいは他に説得力のある分類と体系の理論化が可能か等については、追って別の機会に論ずることとし、本稿では第三の分類基準に拠りながら、とりあえず、法律上障害者とされている身体障害者、精神障害者及び精神障害者についてそれぞれ対象者別に制定された福祉法及び障害者基本法を中心に、その体系及びそれぞれの法がもつ法的性格、主要な内容、他法と調整すべき諸問題等について概括的に論じながら、これら諸法の統合に向けた立法論的議論を展開することとする。

表 障害者福祉主要関連法等の状況(資料)
1.社会福祉事業通則
 (1) 社会福祉事業法(昭和26年法律第45号)
    社会福祉事業法施行令(昭和26年政令第28号)
    社会福祉事業法施行規則(昭和26年厚生省令第28号)
    社会福祉事業通則、福祉事務所、指導監督・訓練、社会福祉法人、社会福祉事業共同募金、社会福祉協議会、その他
2.障害者福祉基本法制
 (2) 障書者基本法(昭和45手法律第84号)
    障害者の意義、基本理念、行政・国民・障害者の義務、基本施策、施策推進協議会 その他
3.対象別福祉法制
 (1) 身体障筆者福祉法(昭和24手法律第283号)
    身体障筆者福祉法施行令(昭和25年政令第78号)
    身体障筆者福祉法施行規則(昭和25年厚生省令第15号)
    目的、行政・国民・身体障害者の義務、身体障害者の意義、援護の実施者等、身体障害者福祉審議会、援護の実施機関、福祉の措置(身体障害者手帳、障害認定、更生医療、補装具、在宅福祉、施設福祉、社会参加等)その他
 (2) 精神薄弱者福祉法(昭和35年法律第37号)
    精神薄弱者福祉法施行令(昭和35年政令第103号)
    精神薄弱者福祉法施行規則(昭和35年厚生省令第16号)
    目的、行政・関係職員の義務、提議の実施者等、福祉の措置(相談、指導、在宅福祉、施設福祉、社会参加等)、療育手帳、その他
 (3) 児童福祉法(昭和22年法律第164号)
    児童福祉法施行令(昭和23年政令第74号)
    児童福祉法施行規則(昭和23年厚生省令第11号)
    理念、育成責任、語彙の定義、児童福祉審議会、児童相談所等関係機関、福祉の措置(育成医療、補装具、療育、在宅福祉、施設福祉等)禁止行為、その他
 (4) 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)
    精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令(昭和25年政令第155号)
    精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則(昭和25年厚生省令第31号)
    目的、行政・国民・関係者の義務、精神障害者の意義、精神保健福祉センター、地方精神保健福祉審議会等、精神保健指定医・精神病院、医療及び保護、保健及び福祉(精神保健福祉手帳、相談・指導、在宅福祉、施設福祉、地域生活操助事業等)その他
4.関連支援法制
 ● 教育
  (1) 教育基本法
  (2) 学校教育法
 ● 雇用・就業
  (1) 障害者の雇用の促進に関する法律(昭和35年法律第123号)
  (2) 雇用対策法(昭和41年法律第132号)
  (3) 雇用保険法(昭和49年法律第116号)
 ● 住宅
  (1) 公営住宅法
 ● 所得保障
  (1) 特別児童扶養手当等の支給に関する法律(昭和39年法律第134号)
  (2) 国民年金法(昭和34年法律第141号)
  (3) 厚生年金保険法(昭和29年法律第111号)
  (4) 労働者災害補償保障法(昭和22手法律第50号)
  (5) 生活保護法(昭和25手法律第144号)
  (6) 特別児童扶養手当等の支給に関する法律(昭和39年法律第134号)
 ● 税制
  (1) 所得税法(昭和40年法律第33号)
  (2) 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)
  (3) 地方税法(昭和25年法律第226号)
  (4) 相続税法(昭和25年法律第73号)
 ● 福祉用具
  (1) 福祉用具の研究開発及び普及促進に関する法律(平成5年法律第38号)
 ● 町づくり
  (1) 高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(平成6年法律第44号)
5.関連支援施策
 ● 資金貸付
  (1) 障害者住宅整備資金貸付制度要綱
  (2) 生活福祉資金貸付制度要綱
 ● 公営住宅
  (1)心身障害者世帯向公営住宅建設
 ● 参政権の行使
  (1) 身体障害者更生援護施設及び保護施設における不在者投票
  (2) 郵便による不在者投票
  (3) 録音物による政権放送
 ● 公共村金の減免等
  (1) 障害者に対する航空運賃、鉄道旅客運賃及び有料道路使用料等の割引
  (2) 日本放送協会放送受信料免除
  (3) 聴覚障害者用小包郵便物制度
  (4) NTT番号案内料の無料
  (5) 公衆電話料金の福祉措置
 ● その他
   身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律(平成5年法律第54号)


2.障害者福祉諸法の性格と特徴

 障害者基本法、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健柄祉法」という)、児童福祉法(以下障害者福祉諸法という)のうち、障害者基本法は、いわば障害者福祉に関するすべての施策の通則的理念法の性格を有し、障害者福祉政策のあり方等を示す基本法の性格をもっている。これに対して、対象別障害者福祉法は、それぞれの角度から対象特性に留意し、それぞれの対象ごとに有する福祉ニーズに対応し、施策の対象別具体化ないし対象妥当性を企図した法施策をその内容としている。例えば児童福祉法(昭和22年法律第22号)は、児窒の健全育成を法理念として掲げ、その具体化に向けた諸施策が組み込まれている。在宅諸施策、身体障害児や精神薄弱児を対象とする施設福祉、育成医療、補装具給付等は、その例である。
 一方、身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)における法理念は更生であり、身体障害者が自ら進んでその障害を克服し、能力を活用して社会経済的活動への参加の努力を訓示的に規定して、この努力に対し社会的支援を行うという法構成を採っている(身障法第2条)。これは、同法制定の契機や時代背景によるものであり、現時点で重度障害者を対象とした保護法的運用が見られるものの、法理念としては基本的に変更はない。
 また、精神薄弱者福祉法(昭和35年法律第37号)は、対象の特性から見て、身体障害者福祉法は場合のように、明確で際立った社会経済的更生を法理念とすることが困難であったため、法文上は更生と保護を規定しつつも、法令体に見られる理念は広い意味での更生ないし社会的更生と保護とみることができる(精福法第1条)。これは精神保健福祉法の場合もほぼ同様であり、同法における保護及び福祉の措置でも経済的ないし就労的自立を、身体障害者福祉法における場合ほどは求めていないように見受けられる。ただ、精神保健福祉法における施設への保護は前3法と異なり、多分に予防拘束的色彩が見られ、福祉の措置としての施設入所に他の2法に比して特別な法の要請が感じられる。例えば同法における緊急入院措置(精保福法第29条ほか)は、自傷他害のおそれがあることを理由としているが、処遇における身体の自由の制限は福祉施設における処遇理念と著しく異なる。もしこれも福祉の措置の範疇に含めるとすると、従来の福祉的処遇理念の修正が検討されなければならない。確かに例えば児童福祉法における福祉の措置の中には、児童自立支援施設(旧教護院・児福法第44条)への入所の ように、本人の意思に関係なく行政処分により強制的に入所が行われ、矯正的処遇が行われるものもあるが、社会的自由の拘束は見られるものの、身体的拘束は基本的にはない。障害者福祉諸法の中で、精神保健福祉法が異彩を放っているのはこの点である。この対象特異性が同法を福祉法として早期に整備し得なかった要因の一つであろう。
 国際障害者年とこれに続くさまざまな国際的活動や国内における法整備、施策の充実、市民啓発等の実績を背景に総括的法制として障害者基本法が制定されたが、同法の理念及び障害者施策の基本視点は法理論的には前記障害者福祉3法の理念を指導・拘束するものであり、今後障害者福祉施策が共通的な視点と基盤で整備されることになる。障害者福祉施策の共通的基盤の整備と障害者特性に基づく特性妥当性を企図した施策の整備はこれからの法政策の緊急かつ重要な課題である。
 現在国においても時代に適応した障害者福祉諸法のあり方を検討中であり、21世妃に向けた福祉法の誕生が期待されている。次章以降では、現行法の問題点と法政策の改訂について立法論的見地でいくつかの検討を試みたい。

3.障害者福祉話法の整備にむけた検討視点

 障害者福祉法制における障害者福祉諸法の検討視点の第一は、法理念の検討である。現行障害者福祉法間の不整合性は、障害者の特性妥当性を重視したため、「完全参加と平等」の法理念から出発して来なかった法制定背景の残滓にほかならない。国際障害者年以来その理念の具体化が喧伝されたわりには、通達や要綱による政策の調整にエネルギーが割かれ、障害者観の形成についての法制的対応が、それぞれの障害者福祉行政を所管する省庁の思惑の中で個別的に進められてきたきらいがなくもない。しかし、障害者基本法が制定され、各障害者について共通した法理念が掲げられたことにより、現行障害者福祉諸法は、この理念のもとに再度調整され、統合されるとともに、真に共通的施策になじみにくいものについてのみ、特性妥当性のための法施策を講ずべきである。前者は例えば個人としての尊厳、その尊厳に相応しい処遇の保障、同一社会の構成員としてすべての活動に参加できるような配慮等であり、国、地方公共団体による福祉増進並びに障害発生予防責務、国民の協力義務、さらには障害者自身や障害者の家庭の努力義務等である。これらは、今後障者福祉に関するすべての法政策の基本 に位置づけられるべきであり、現行関係法問の調整と統合が求められる部分である。
 社会福祉法制の共通的法理念は、個人の自立と自己実現を支援する福祉サービスの整備でなければならない。障害者福祉法制における共通的法理念で最も重要なことは、障害者の自立を中心に、国民がこれを支援するということをもっと明確に、もっとしっかりと位置づけることである。この明確さが不十分だと、自立の意識、自立のための支援施策の方向に迷いが生じ、ともすると慈恵と依存の関係に引き戻されることともなりかねない。
 第二の視点は法施策の陳腐化の修正と新しいニーズへの対応である。法制定以来多年にわたり通達による調整によって時代適応を図って来ているが、本来福祉ニーズには時代関数的要素もあり、社会、経済、文化の発達・推移により変化するが、法改正の時間的ゆとりのない場合には、法に反しない範囲で通達等による整備が行われる場合が少なくない。福祉行政にはこのような手法が多く用いられているが、一定時点で安定的な施策となっているものについては、法による保障のための方途を採ることが望ましい。
 早急に対応を図るべきものには、例えば障害者在宅介護、とりわけ夜間介護の一般化、障害者のための授産施設や小規模作業所の見直しと安定的事業運営のための施策、ASL(筋萎縮性側索硬化症)等重度障害者対策、通園施設と授産施設との調整、障害者のための権利擁護制度等がかねてから指摘されているが、もっと基本的な問題では、精神障害者施策について地方公共団体の責務の具体化が多年にわたって消極的であるという事実である。精神障害者に対する法律が名称を替え、内容を替えて幾度となく誕生し、その都度地方公共団体に対し精神障害者施策の法上の義務の履行を求めてきたが、全国的に見て未だ長足的進展は見られていない状況にある。精神保健福祉法に基づく施策が身体障害者福祉法や精神薄弱者福祉法に基づくそれと著しい乖離があっては障害者福祉施策の整合性について指摘を甘受せざるを得ないであろう。
 第三の視点は、隣接関係福祉諸施策との調整である。例えば老人介護を中心とする公的介護保険の導入と、保育所に見られる施設利用における利用者の施設選択を可能とする契約方式の導入は、福祉施設の利用方式が措置から契約への変容をもたらしたが、障害者施設の利用についてもこの潮流から置き去りにされるべき理由はない。社会保険のもつ権利性は障害者の自立に大きな利点になるに違いない。また、重度障害者の長期にわたる施設入所についていえば、老人福祉法の対象ともされている重度の痴呆性老人の処遇は、特別養護老人ホームで行っている場合が少なくないが、ときに精神病院における処遇に準じた自由の拘束を不可避的とする場合もあり、医療でないという理由で拘束が虐待とされる問題等も起きている。また精神障害者の長期にわたる医療施設入院が要医療としての入院かあるいは看視的処遇のできる福祉施設が不足しているために採られている不可避的便法なのか、老人福祉法における処遇と精神保健福祉法における処遇との整合性のための検討が望まれる。
 また、施設利用についても、社会福祉施設が地域社会での貴重な社会資源であるにもかかわらず、老人、児童、身体障害者、精神薄弱者、精神障害者等がそれぞれ対象別固有施設として利用しており、相互利用のケースはまだ一般的でない。在宅サービス、レスパイトサービス、短期入所サービス等で相互利用による社会資源の効率的活用が望まれる。障害者の多くは、重複的障害をもつため現行の縦割り行政の中での処遇では不十分なものも指摘されている。例えば精神障害者のなかには身体障害を合併するものもあり、また老人福祉施設利用者の平均年齢の高まりとともに、精神障害を発現するケースも珍しくなくなってきている。さらに精神薄弱と身体障害の重複の場合は、利用該当施設が得られないままに、生活保護法の救護施設への入所を余儀なくされる場合も少なくない。これら多様な処遇ニーズへの対応も隣接福祉行政との調整の中で早急に検討し施策として具体化する必要がある。
 さらにサービスの供給についていえば、多様化、専門化するニーズに対応するためには、民間社会福祉サービスの主たる担い手が社会福祉法人に限られるざるを得ない現行法制を改訂し、民間によるサービス事業への参入をできるだけ容易にし、消費者行政等との連携の中で広範なサービスメニューの用意と利用者に対する選択権の保障を図っていく必要があろう。このことは、バリアフリーの往宅供給における建設行政や意思と能力に応じて参加を立揺する教育行政との連携、さらには移動を支援する交通業界の施策や文化活動への参加等を容易にするためのコミュニケーションハンデへの支援を図る機器の開発等社会福祉サービス関連行政等との密接な連携が確保されるような制度的担保も必要である。
 第四の視点は、福祉行政における地方分権の推進である。1990年の福祉関係八法の改正は、これまで国に留保していた施設入所の措置権等多くの権限を、住民に身近な地方公共団体に委譲する画期的なものであった。しかし、現在の障害者関係の施策の中ででもさらに地方公共団体への委譲が可能と思われるものも少なくない。地方行政の独自性に委ねられるものは未だ少なくない。この期に再度総点検の必要はないだろうか。
 ところで、近時、地方分権が一つのブームとなっていることは事実だが、その実効性を担保するものは分権に見合う財源の保障である。ここ数年の国と地方の財政関係の推移でみると、税財政の面からは必ずしも地方分権化が進んでいるとは思えない。地方公共団体の権限と責任において実施される、地方公共団体のいわゆる独自施策の財源となる自主財源の比率は、国の施策の実施に伴って交付される国庫支出金等の特定財源に比して、地方財政の中で占めている割合が、むしろ減少している傾向さえ見られる。権限の委譲は責任の委譲を伴うものであり、責任の履行を可能とする税財政制度の確保が同時に実施されない地方分権は、実質的には空虚のそしりを免れない。障害者施策の地方行政における充実整備を財政的側面からも整備する必要がある。責任の地方委譲と財政の中央集権化があってはならない。

4.障害者福祉法制の統合

 身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、精神保健福祉法は、それぞれ異なる対象特性に対して、それぞれ異なる法制定の要因を軸として生成・発展をとげてきたものである。いまこれらの法律を見ると、例えば福祉の措置等の中には概念としても、施策としても統合を図らなければならないものもある。その場合対象者が特殊なのではなく、これまで特殊性という先入観念で理解してきたわが国の福祉の精神的風土が未成熟であったことにも留意しなければならない。障害者基本法は総則的基本的な理念法であるが、その存在は対象別障害者基本法はもとより、関連する諸法が理念法であってはならず、障害者の権利を保障する具体的施策法とならなければ、理念法の屋上屋を重ねることともなりかねない。
 障害者の自立を支援することを目的とするすべての施策は、立法技術的に不可能な場合を除き、一定期間ごとにそれらを点検し法文等を改訂することが望ましい。また障害者福祉施策が一定期間ごとに点検されるべきことが法によって保障されることも意義がある。例えば精神保健法(昭和25年法立弟123号・精神保健福祉法の前身)は附則の第9条で「政府はこの法律施行後5年を目途として、新法の規定の施行状況を勘案し、必要があると認めるときは、新法の規定について検討を加え、この結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」としておリ、その結果が平成7年の精神保健福祉法の誕生に結実したのであり、法による施策の検討の要請は、日々変化するニーズとこれに対応する施策との乖離をチェックするうえで極めて有効な手段といえよ。
 このように考えてくると、障害者福祉諸法は基本的な流れとしては、障害者基本法に吸収合併されて統合的障害者福祉法となっていくことが予想される。このことは障害種別ごとの特性を超えて、施策の不整合や不均衡を点検する絶好の過程ともなりうるであろう。もとより特性妥当性に配慮しなければならない要素もあるが、特性妥当性の尊重に名を借りた施策立案の逡巡を排除する手段とはなりうるであろう。
 障害者の自立を支える施策は、保健・医療・福祉施策や社会福祉サービス関連施策との日常的で緊密な連携を必要とするが少なくない。障害者福祉関係のすべての法施策が理念的整合性と施策のリニューアルと関連諸制度との連携のなかで、21世紀にむけて法整備のかたちで再生することが強く望まれる。
 国の「社会福祉事業等のあり方に関する検討会」では、社会福祉の基礎構造改革について検討が進められている。これはやがて現行社会福祉事業法等の改正に逢着するに違いない。また「身体障害者福祉審議会」、「中央児童福祉審議会障害福祉部会」、「公衆衛生審議会精神保健福祉部会」の合同企画分科会でも、昨年末「今後の障害者保健福祉施策の在り方について」という中間答申を出した。間もなく障害者福祉諸法の改正を企図した答申が出るものと思われる。障害者福祉について、これら3審議会が合同で審議することにも意義があるが、それぞれの領域での特性妥当性にこだわることなく、「障害者の自立」とこれを社会的に支援する「法施策」の位置どころを見失うことのないよう望みたい。


主題・副題:

リハビリテーション研究 第95号

掲載雑誌名:

ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第95号」

発行者・出版社:

財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

号数・頁数:

95号 22~27頁

発行月日:

西暦 1998年7月8日

文献に関する問い合わせ:

財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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