用語の解説

IPW（Inter-professional Work）

和訳：複数の専門職間連携協働

　狭義には，保健（行政）・医療・福祉の複数領域の専門職者が活躍する臨床現場や地域において，それぞれの技術と役割を基に，共通の目標を目指す連携協働をInter-professional Work（IPW）と定義するが，広義には特に専門領域の境界はなく，これに教育，工学など多くの専門性を含む場合もある。
　同じような意味を包含する“Multi-disciplinary（またはprofessional）”という用語が存在するが，“multi-”は同時に複数の専門職がいるだけで“multi-”となり，相互 の関係性に対する明確な理念がない。厳密には2つの異なる専門性（人）間の関係性を表 す“Inter-”が“複数の専門職間連携協働”の定義に近いようである。“チーム医療（ケア）”の“チーム”の場合では，“心臓外科医のチーム”のように同じ専門職だけで編成される場合もあるが，IPWでは明確にそれらとは区別して考えるべきである（例：IPWによるチームケア等）。
　“Inter-professional”とは，保健医療福祉サービスを提供するシステムの中で効果的で効率的，経済効果にも優れ，かつ質の高いサービスを実践していくための望ましいアプローチ形態を表す理念の一つであり，それは複数のprofessional（専門職）のチームによるcollaboration（協働），すなわち「専門職間の高いレベルの協働関係」を意味する。また，“Inter-professional”は，”Inter-sectoral”“Inter-national”が施設や機関・国家間におけるハード，ソフト面での協力関係を意味するのに対し，専門職である人々を中心としたソフト面での協働関係を目指すものである。それには専門職としての成熟した人間関係（Matured Inter-professional Relationships）が基盤となる。

IPE（Inter-professional Education）

和訳：複数の専門職間連携教育

　IPEとはIPWを実践するための教育概念であり，かつ様々な教育手法を包括した教育体系，教育手段をも意味する。目的や理由に関係なく，複数の領域の専門職（以下，現職者および学生共通）が同じ場所で同時に学ぶことは単なるMulti-professional Educationであり，例えば一つの講義室で複数の専門学生が並んで解剖学を学ぶような場合を指す。それに対し，複数の専門職が連携およびケアサービスの質の改善を目的に，共に働くために共に学び，お互いから学び合いながら，他の専門職について学ぶことがIPEなのである。
　“Multi-”と比較すると，複数の専門職間の相互作用と，共通目標を共有する重要性が強調されている。またIPWについて学ぶことと，IPWの方法を学ぶこととは別のことであるとされている。IPEとは，IPWが必要な関係者間の双方向学習とその相互作用を特徴とし，学校教育ならびに臨床や地域の職場，両方で実施されるべきである。IPEでは，2つ以上の専門職が互いの職種とともに（with），互いの職種から（from），互いの職種について（about），協働と生活の質の向上を目的に学ぶことにより，効率的な関係を築くことが可能となる（CAIPE : 2001）。Inter-professionalの実践形態であるIPWでは，この関係が試され，これを発展させることによってさらに優れたケアサービスを提供するという共通の目標を達成する。単なる構造改革やきれいごとのシステム改革ではなく，根本的な人間関係にも関わることであり，個々の専門職において長期間の行動変容を促すものである。
　つまり，複数の専門職間連携のための学習に積極的に取り組むことで，自己の価値観や信念についても深く考えることが要求される。IPEにより“他の専門職と連携できる”ことが，実は専門性の一部であると考えることもできる。

（大嶋伸雄／首都大学東京健康福祉学部作業療法学科教授）

主題・副題：リハビリテーション研究　第140号

掲載雑誌名：ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究　第140号」

発行者・出版社：財団法人　日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数：第39巻第2号（通巻140号）　48頁

発行月日：2009年9月1日

文献に関する問い合わせ：
財団法人　日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052　東京都新宿区戸山1-22-1
電話：03-5273-0601　FAX：03-5273-1523