クリニカルパスは,施設によってクリティカルパス,クリニカルパスウェイ,ケアマップなどと呼ばれる。現在は専門の学会も組織されており,特定の疾患の治療や検査に対して,時間軸を取って標準化されたスケジュールを表にまとめたものである。クリニカルパスは,通常ある治療や検査ごとにそれぞれ作られる。患者用では,入院後の処置や食事・入浴,検査・治療とその準備,退院後の対応などが1日ごとにわかりやすく説明される。
ここではわが国で年間十数万人が受傷する大腿骨頸部骨折を例としよう。もしあなたが麻酔下に手術を受ける上で重要な支障がなければ,病院収容後,数日以内に骨折部の固定手術ないし人工骨頭置換術手術が行われるのが通例である。骨折部の安定化が図られれば直ちに座位,立位,歩行訓練との治療計画が標準化されていて,歩行再獲得に向けた訓練が適応される。一部を除くと概ね受傷以前の機能レベルを保って,自宅復帰となるが,療養型施設に移らなければならない例もある。手術を行う医師のみならず,訓練担当のリハビリテーション療法士,さらには看護師,薬剤師,栄養士,ソーシャルワーカーなどの多職種が作成に関与するので,医療従事者全てが情報を共有することになる。従ってクリニカルパスは,医療チーム内での連携を進めて入院期間も短縮できる上,医療内容の公開・カルテ開示にも利用でき,他施設との間で比較も可能になるので,その時点で最適の治療法が取り入れられ,医療の質が向上するとされる。
但し対象はいわゆるcommon diseaseとなるが,ひとたび合併症などがあるとその対応は 難しくなってくる(varianceと呼ぶ)。また同じ病名が付いていても社会的背景が異なっていれば,その対応は大きく変わらざるを得ないこともある。基本的には一定数以上の対象疾患を扱う急性期病院や回復期リハ病院に適応される。
わが国における病院の機能分化によってもたらされた新たな医療・福祉システムを言う。ここでは脳卒中に罹患した例を見てみよう。
急いで救急車が呼ばれ,あなたは救急病院に収容されることになる。神経学的所見及びCTやMRIなどの画像診断を基に脳卒中との診断が下され,手術を含む各種の急性期処置が行われる。既往に高血圧症や不整脈,糖尿病などの合併症があれば,その治療も併せて行わなければならない。その後回復期の病院に移り,片麻痺や失語,構音障害などに対するリハビリテーションが始まる。回復期のリハビリテーション訓練が一定レベルに達すると,在宅準備を整えて自宅退院となり,今度は維持期に入る。多少なりとも障害が残ることは避けられず,自宅で後遺症を抱えながら生活していく症例も多いが,その際でも,介護保険を使って生活を維持するための各種サービスを受けることになる。医療ソーシャルワーカーやケアマネジャーの支援のもと,訪問介護や看護,訪問や通所リハビリなどが利用できよう。また,主治医の管理下に再発の予防や合併症の治療が引き続き行われる。場合によっては療養型病院入院や福祉施設入所となることもある。
このように,発症からの一連の経過中に,急性期・回復期の複数の病院,訪問看護ステーション,医院・診療所など多くの医療・福祉施設が関わっており,関係者も救急隊員から始まり,医師,看護師,リハビリテーション関連職種,医療ソーシャルワーカー,ケアマネジャーなど多岐にわたる。関係者が次々に替わっていくので,重要な点は各施設間や関係者間の連携であり,医療と福祉の関係者が一体となって患者に対応し,地域ぐるみで支えていくことになる。つまり地域連携パスとは,患者・家族の理解を前提に,地域全体で情報内容や評価法を統一し,患者の必要な情報を効率良く次々に関係者に伝達していくシステムである。
(赤居正美/国立障害者リハビリテーションセンター病院長)
主題・副題:リハビリテーション研究 第142号
掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第142号」
発行者・出版社:財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
巻数・頁数:第39巻第4号(通巻142号) 52頁
発行月日:2010年3月1日
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