用語の解説 ユニバーサル・デザイン(Universal Design) アクセシブル・デザイン(Accessible Design) アダプタブル・デザイン(Adaptable Design)

用語の解説

ユニバーサル・デザイン(Universal Design)

 年齢,性別,能力などの如何に関わらず誰でも使えるように考慮したデザインを意味する。障害のある人などの利用を阻んでいるデザインに対して,問題を指摘された後にそれを何とか是正しようとしてバリアフリーデザインが始まったのに比べると,本来はすべての利用者を考慮して最初からデザインされるべきという理念に基づくものである。従って,特定の人のためだけを考えた特殊解(特別な解決策)を用いないのがユニバーサル・デザインの大原則である。つまり,入り口に階段をつくっておいて裏口に車いす用斜路を後からつくるのではなく,誰もが正面入り口から堂々と入れるようでなければならない。こうした考え方は,建築物や製品などのハードウェアだけでなくソフトウェアにも適用される。
 米国ではこの概念の説明に当たって障害者という概念を使うのを注意深く避け,成功するビジネスのあるべき姿として説得しようとしている。一方ヨーロッパでは,ほぼ同じ意味を表すためにインクルーシブ・デザイン(包摂デザイン)という用語が使われることがあるが,それは誰も排除(エクスクルード)されてはならないという理念が背景にあるからである。

アクセシブル・デザイン(Accessible Design)

 米国で最初のバリアフリー設計標準が作成されたとき,アクセシブル&ユーザブルという表現が用いられており,「近づくあるいは入ること」ができ,かつ「使える」,という2つの要件を満たす必要があるというのが共通理解だった。そういった由来から,米国では後者の「使える」という概念が切り離されたこの用語は,バリアフリーデザインと同様の意味,つまり特殊解だと受け取られがちで,最近ではこの用語はあまり使用されない傾向にある。アクセシブル・ハウジングという言葉が事実上は車いす対応住宅を意味したことも,そういった印象を強めるようである(ちなみにノースカロライナ州立大学のセンター・フォア・ユニバーサル・デザインは,設立当初はセンター・フォア・アクセシブル・ハウジングと呼ばれていた)。
 ただし,情報通信技術関連ではその多くがソフトウェアであり,必要に応じて起動させて使うことがなければ,機器本体の操作勝手は何ら変わらないことから,とくに視覚障害者やキーボード操作が困難な人が利用しやすいようにするアクセシブル・テクノロジーという用語にはさほど抵抗感がないようである。これは技術先導という性格もあるのだろうが。

アダプタブル・デザイン(Adaptable Design)

 時と場合,必要に応じて標準から改変可能なデザインという意味である。それが可能なものとそうでないものとがあるので,あまり一般的に用いられる用語ではない。ただ,アダプタブル・ハウジングという表現が,居住者に応じて改変可能な住居であることを指して用いられることがある。またカナダでは,フレキシブル・ハウジングという用語がライフスタイルや能力の変化に対応できる住宅を指しているが,これはさまざまな状況に対して対応の自由度を高めているという意味合いがある。
 なお英国では住宅改造をハウス・アダプテーションと表現するが,特定の個人,とくに車いす使用者に向けての改造を指すことがほとんどであったので,特殊解と理解されることが多く,居住者(とくに高齢者)の緩やかな能力低下に対応する工夫としては受け取られないようである。また,米国では住宅改造・改修はホーム・モディフィケーションと言われるが,これも必要に応じて変更することを意味している。
 本来ならば,加齢に伴う能力低下に対応するデザイン変更の仕組みが取り込まれているべきなのだが,ほとんどの場合にそうなっていないのがいちばんの問題であろう。

(古瀬 敏/静岡文化芸術大学教授)


主題・副題:リハビリテーション研究 第144号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第144号」

発行者・出版社:財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第40巻第2号(通巻144号) 50頁

発行月日:2010年9月1日

文献に関する問い合わせ:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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