用語の解説 カスタマイズ雇用 ソーシャル・ファーム

用語の解説

カスタマイズ雇用

 米国において,障害の有無にかかわらず,全ての人が仕事を通して企業や社会に貢献したいという明確なニーズに応えるための統合的な支援を構築するために,実績のあった実践事例を踏まえて新たな就業支援モデルとして提唱されている方法である。
 この実践上の特徴は,(1)希望する人は例外なく対象とし,事前に雇用・就業の可能性を評価し判定することはしないこと,(2)本人の希望や興味あるいは好みなどの個性を見出して,それを将来のキャリア設計に結びつけるよう支援すること,(3)多様なミーティングを通して,仕事をする自己像を拡げて具体化すること,(4)企業社会の文化を踏まえたマーケティング活動を重視すること,(5)企業訪問などを通して,求人側と求職者の双方のニーズを満たすような仕事の創出や提案をすること,(6)雇用・就業を含めた医療・保健・福祉などの広汎なニーズについて相談できる「ワンストップ窓口」や継続的なフォローアップ体制などを設けて,本人中心の地域ネットワークを構築すること,(7)これらの成果を踏まえて,雇用・就業に向けた支援の効果や成功事例を蓄積して,地域変革へのエビデンスやノウハウを提供すること,などに特徴がある。
 「職業準備性モデル」や「援助付き雇用モデル」と比較して記述すると,(1)重度の障害がある人への就業支援に焦点があり,(2)職種や働き方や支援方法の決定に際しては常に本人の希望を最優先とし,(3)個性としてのストレングス(強み)を見出すことを最優先し,(4)企業関係者に対して人材活用のためのマーケティング活動を推進し,(5)事業主の要望に応えることで企業の利点につながる支援をし,(6)地域の関係機関と連携してワンストップサービスを含めた,制度やサービスあるいは資金の統合的な調整をする,といった点に特徴がある。

ソーシャル・ファーム

 ソーシャル・ファームは,「全ての人々を健康で文化的な生活の実現につなげるよう社会の構成員として包み支え合う」という理念をもつソーシャル・インクルージョンの実現に向けて推進されている,ソーシャル・エンタープライズのひとつの形態である。ソーシャル・エンタープライズは,社会的な目的を持った多種多様なビジネスを意味するが,共通する特徴は,事業で得られた利益は,株主や事業主の利益を最大限に増やすためではなく,主にその社会的な目的を達成するために新たなビジネスやコミュニティーに再投資されることである。
 1970年頃に北イタリアでの精神病院の解体に始まったソーシャル・ファーム(イタリアでは「ソーシャル・コーポラティブ」)は,1980年代に入ってヨーロッパ各地に広がっていった。それは,障害のある人あるいは労働市場で不利な立場にある人々のために仕事を生み出し,また援助付き雇用の機会を提供することに焦点をおいたビジネスである。そうした社会的な任務を遂行するために,市場性のある商品の製造とサービスを提供し,そこで働く人は,仕事に応じた賃金や給料を市場の相場によって支払われる。また,労働の機会は,不利な立場にある従業員とそうでない従業員との間で平等に与えられる。そのため,すべての従業員は同じ権利と義務を持つことになる。
 日本でも,福祉的就労と一般企業での雇用の場との中間に位置する第3の分野として,障害のある人に仕事を提供したり雇用を創出する活動として,各地で展開され始めている。だが,これをさらに発展させていくには,(1)今後の成長が見込めるような市場性のあるサービスや商品を生産し,(2)従事する人の労働力を生かすような仕事を創出し,(3)行政の支援や市民参加を巻き込んだ社会的な支援体制を構築し,(4)働くことを通した共生社会の実現を目指すための事業運営資金への助成措置をすること,などが課題となろう。

(松為信雄/神奈川県立保健福祉大学教授)


主題・副題:リハビリテーション研究 第148号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第148号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第41巻第2号(通巻148号) 48頁

発行月日:2011年9月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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