>特集 第34回総合リハビリテーション研究大会-総合リハビリテーションの新生をめざして(2) 各分野からみた総合リハビリテーション ―各分野のトピックと最新動向(分科会テーマを中心に)―

各分野からみた総合リハビリテーション
 ―各分野のトピックと最新動向(分科会テーマを中心に)―

【座長】
寺山 久美子(大阪河﨑リハビリテーション大学副学長)

【発表者】
松井 亮輔(法政大学名誉教授)
松矢 勝宏(目白大学客員教授)
山内  繁(早稲田大学研究推進部参与)
松本 吉央((独)産業技術総合研究所知能システム研究部門グループ長)
伊藤 利之(横浜市総合リハビリテーション事業団顧問)

 本研究大会は「総合リハビリテーションの新生をめざして」を主題に昨年から3年間連続企画実施している2年目の大会である。前大会実行委員長大川弥生先生は,「総合リハビリテーションの新生をめざして」の議論を大きく次の3項目で深めて欲しいと提言された。

1 「真」の当事者中心

 ここでは本当の意味での当事者中心とは何かを考えて欲しい。

2 「対立軸から考えるのではなく」とは

 ここでは専門家の専門性を生かしつつ,当事者の自己決定権を生かすにはどうしたらよいかを考えて欲しい。

3 総合リハの新生が必要な背景

 生活機能の低下のある人々やその人々に関与する専門職が増え,その専門性を真に当事者のために生かす新たな連携のシステム,プログラムが必要になってきたという背景があり,総合リハの新たな展開が必要になってきた。

 本セッションは上記の3事項を中心とした前年度の議論,1日目(9月30日)の2つの記念講演とシンポジウム,そして本日午後に行われる4分科会(労働・雇用,子ども,工学,医療)を踏まえて展開された。各分科会の座長の先生方には,ほぼ次の点を踏まえてお話していただくことをお願いした。

1 ご担当の分野を昨年からの繋がりをもって,総合リハビリテーションの視点から述べていただく。

2 ご担当の分野の前研究大会以後のこの1年,変化や新知見があれば紹介していただく。

3 午後の分科会のご担当部分を総合リハビリテーションの視点から導入していただく。

4 午後のご担当の分科会の「魅力」「ここは面白いぞ」といったことをPRしていただく。

 発表者と担当分野のテーマは以下の通りである。

分科会1
 座長 松井亮輔氏(法政大学名誉教授)
 労働・雇用 「障害当事者のニーズを中心とした就労支援のあり方を考える―当事者参加の支援計画の策定と施策をめぐる関係機関の連携―」

分科会2
 座長 松矢勝宏氏(目白大学客員教授)
 子ども 「関係機関が連携した地域生活移行に向けた取組み―肢体不自由の子どもの学齢期から青年期までの連携による事例報告―」

分科会3
 座長 山内繁氏(早稲田大学研究推進部参与) 松本吉央氏((独)産業技術総合研究所知能システム研究部門グループ長)
 工学 「総合リハビリテーションに生かす工学―支援技術の産業化に向けて―」

分科会4
 座長 伊藤利之氏(横浜市総合リハビリテーション事業団顧問)
 医療 「一貫したリハビリテーションサービスを総合的に提供するために―総合リハセンターの果たすべき役割と機能―」

<松井氏の発言要旨>

 昨年の労働・雇用分科会では,「総合リハビリテーションの視点から<働くこと>を考える」であった。そこでは,就労支援における各分野の連携や地域ネットワークは進んできているものの十分ではない。切れ目のない支援を受けられるようにするには,現行の労働政策と福祉政策が分離した状態からの脱皮が必要であるとの協議がなされた。
 前研究大会以後のこの1年の労働・雇用分野の大きな動きは,障害者総合福祉法をめぐる障がい者制度改革推進会議による第一次,第二次意見等であった。
 このような動きと前研究大会の討議を背景に,今年度の労働・雇用分科会では,個々の障害者のニーズが尊重されるような就労支援計画の策定と実施にかかる具体的な事例を提示し,その妥当性や有効性を検証することによって,総合リハビリテーションの視点からの課題解決へと導いていきたい。

<松矢氏の発言要旨>

 昨年の子ども分科会では,「小児の生活支援と領域・機関連携―個別の支援計画における共通言語を探る―」であった。そこでは大川弥生実行委員長が強調した「サービス中心の総合リハ」から「本人中心の総合リハ」の考え方の必要性を確認し,検討を進めた。前研究大会以後のこの1年間の子ども分野の動きの1つとしては,2011年7月に開催された「病気の子ども達の生活を創る<教育と医療との対話的関係>」が挙げられる。そこでは主として小児ガンの治療を受ける子どもの院内学級における医療と教育の連携のあり方について掘り下げて討議された。
 このような討議を積み重ね,今年度の分科会では「子どもの生活支援と領域・関連機関の連携」をテーマに,肢体不自由児療護施設に措置された学齢児について,関係機関が連携し地域生活施行を実現した事例から,子ども中心の総合リハのあり方を考えたい。

<山内氏・松本氏の発言要旨>

 昨年の工学分科会では「総合リハビリテーションに生かす工学」と題して,一人一人の社会参加を高めるために工学技術をどのように生かせるかの議論を始めよう,との目標の下,リハ工学専門家4名,さまざまな工学分野の専門家4名で議論を行なった。
 前研究大会以後のこの1年の工学分野の大きな動きは,ロボットのリハビリテーション分野への導入であり,国際的な機器展でも顕著であった。
 このような動向を踏まえ,今年度の工学分科会では,前回同様のテーマの下,全般は義肢装具などオーファンプロダクツ,後半は支援ロボットの産業化へ向けた取り組みを議論する。その中で山内氏は「福祉機器はこのところ全く成長していない。またロボットも生活支援の観点からは今回の東日本大震災を見ればわかる通り役立つものはない」と警鐘をならした。

<伊藤氏の発言要旨>

 昨年の医療分科会では,「総合リハビリテーションセンターにおける医療部門の位置づけおよび役割と機能」と題して,各部門間の連携の「混合」から「化合」への変化,対象とすべき疾患は障害の精神・心理系への変化等について話し合われた。
 前研究大会以後も総合リハビリテーションセンターの役割は,特に高次脳機能障害を主障害とする場合は,地域資源との連携のもとに心理・社会的アプローチを継続するなど,医療部門の変革を迫られている。
 こうした状況を踏まえ,今年度の医療分科会では,「一貫したリハビリテーションサービスを総合的に提供するために―総合リハセンターの果たすべき役割と機能―」と題して,医学的リハビリテーションを中心に検討したい。

 以上5名の発言を踏まえ,各分科会では更なる議論の広がりと深化へと展開された。今年の34回研究大会は総合リハビリテーションの新生の模索の中間年であり,最終年を迎える来年度の本大会へと継承され飛躍を遂げていくことを期待したい。

(本文・寺山久美子)


主題・副題:リハビリテーション研究 第150号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第150号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第41巻第4号(通巻150号) 48頁

発行月日:2012年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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