特集 第34回総合リハビリテーション研究大会-総合リハビリテーションの新生をめざして(2) 分科会1 労働・雇用「障害当事者のニーズを中心とした就労支援のあり方を考える ―当事者参加の支援計画の策定と施策をめぐる関係機関の連携―」

分科会1 労働・雇用「障害当事者のニーズを中心とした就労支援のあり方を考える ―当事者参加の支援計画の策定と施策をめぐる関係機関の連携―」

【座長】
松井 亮輔(法政大学名誉教授)
木村 伸也(愛知医科大学リハビリテーション科特任教授)
1)教育機関 近田 求(東京都立板橋特別支援学校進路指導担当教諭)
2)就労移行支援機関 井上 忠幸(東京コロニー事務局長)
3)就業・生活支援機関 矢野 直子(町田市障がい者就労・生活支援センター・レッツ所長)
4)企業 木村 良二(OKIワークウェル前社長)

【助言者】
關  宏之(広島国際大学医療福祉学部教授)

要旨

 昨年のシンポジウムでは,労働,福祉,保健・医療,教育の各分野からの発表を通じて,雇用施策と福祉施策が分離された「二元モデル」から両者が同時並行的に展開できる「対角線モデル」に転換する必要性が提起された。今年度は,労働と福祉の切れ目ない連携に向けた課題を明確にするため,職業リハの現場の事例から,具体的支援のあり方を検討する分科会を企画した。教育,就労支援,就業・生活支援,企業の各機関からの発言と助言者からの提言を得た。この結果,現場での支援の連続性と一貫性には多くの問題があることが指摘され,当事者にとってトータルな個別支援計画を策定しこれを共有して各支援機関が対応することの重要性が確認された。来年度の研究大会では,改正障害者基本法,障害者権利条約27条を具体化する障害者雇用促進法,および障害者総合福祉法のあり方がより具体的に議論できることを期待する。

(本文共・木村伸也)

教育機関から
特別支援学校知的高等部卒業後の就労支援を考える ―関係機関との連携について―

近田 求

1. 企業就労した生徒の就労支援についてどこと連携しているか

 家庭,管轄する福祉事務所,会社,就労支援機関などと,卒業時の個別移行支援計画の話し合いや卒業後のケース会において情報交換を行ない,常に顔が見える関係作りを大切にしている。関係作りによって何かの時に機動力が発揮できる。

2. 障害の軽い生徒の就労・生活支援の事例と関係機関との連携について

 第1例は,我々にとっての失敗例。就労2年目のA子。本人が家事一切を背負って保護者の支援が受けづらい家庭環境にあったA子は,今年に入り本校卒業生を手下にした40歳代男性のグループに取り込まれて,6月に退社。我々は,本社人事部や就労支援機関・生活支援センターと連携して,勤務店舗を変え,グループホームに入寮するように支援をした。しかし家族から支援がなく,入寮を拒否してグループに完全に取り込まれてしまった。
 第2例は,第1例とは対照的な例。就労3年目のB男は,父親と折り合いが悪く家を飛び出して,A子を取り込んだグループに取り込まれていた。だが本人にグループから抜けたいという強い気持ちがあったため,我々と福祉事務所・グループホーム世話人・就労先店舗などが連携して支援し,夜逃げ同然で抜け出した。現在,グループホームで生活し,新たな職場で元気に働いている。

3. 生活支援と本人を取り巻く家庭環境について

 家庭・保護者が生活習慣を子に身につけさせる力が弱い,保護者の疲労感が強い,子の障害を受容できていないなどの問題に対して,在学中から生活支援を行うには関係機関との連携が必要である。18歳未満の知的障害児を管轄すべき児童相談所は,たくさんのケースを抱えているためすべての知的障害児に対応することは困難である。在学中や卒業後の生活支援をどこと連携して行うかが今後の課題である。

4. 余暇活動の充実について

 余暇活動が働き続ける力に繋がる。在学中,進路指導の時間に余暇の充実を促すと同時に,保護者には家庭での休日の過ごし方について意識を高めてもらう。
 就労支援と生活支援は切り離せない両輪である。特に生活支援は,進路学習の中に位置づけ在学中からの学びが必要である。

就労移行支援機関から
就労支援における個別支援の生かし方

井上 忠幸

1. 事例

 31歳男性,小学生時に交通事故で受傷。身体障害2級(右上肢機能全廃,右下肢機能障害)。療育手帳4度。失語症,注意障害,記憶障害等,高次脳機能障害があった。東京都心身障害者福祉センターで心理検査・職業評価等が行われた。
 在住区の障害者就労支援センターを経由して当法人,就労移行支援事業を利用開始。私たちは障害への対処方法や具体的な支援方法を検討し環境整備を中心に支援を行なった。現在特例子会社で雇用されており,継続的な支援を雇用先,在住区障害者就労支援センター,就労移行支援事業者が協力して行うこととした。

2. 事例を通してみえてきた課題

①企業だけでは環境整備や就労支援での限界がある。継続した支援のあり方が問題。
②将来,生活領域の支援が必要な際にどこが主体的に動くか。
③今後成年後見制度の対象となる可能性が高いが,いつ実施すべきか。
 この事例は生活領域の支援に先んじて就労を達成した事例であるが,生活領域を先に整備した後に就職に結びつく事例も多い。

3. 機関連携と個別支援計画の活用

 サービス利用者は我々のもとから,実習先・就職先企業,ハローワーク,担当行政福祉(障害者職業センター,就労・生活支援センター,保健師等),医療機関,生活支援機関等へ移行するのでこれらとの連携が必要となる。
 個別支援計画は当法人で作成した様式を活用しており,事業所などで日々のアセスメントを行いながら,変化が見えたときに我々も関わる。例えば精神障害の場合,本人が記録できるので,目標を達成した本人を評価し,できなかったときには本人とともに振り返るようにする。ただし教育の場と就労支援の場など,利用者が置かれている場が移行すると希望や機関側の評価が変化し,自ずと内容は変わってくる。福祉施設を利用していない場合,就職という目標を見失う,衝動性などから突然就職活動をはじめる等,それまで積みあげてきたものが崩れる場合がある。そのような時,個別支援計画を作成し紙面上に残しておくことが有効である。

就業・生活支援機関から

矢野 直子

1. 町田市障がい者就労・生活支援センターの支援について

 職には就きたいが,当センターの支援は有効とは感じられないという精神障害当事者が多い。障害故にうまくいかないことを体験し就労への漠然とした不安がある彼らにとって,具体的な「課題」が明確になることが大切である。そこで,当センターは当事者自ら課題を認識し取り組むことを基本としている。

2. 個別支援計画の活用法

 当センターに個別支援計画の作成義務はないが,1)「見通しが立たないと不安」「衝動的に行動してしまう」などの場合や,2)将来の計画と現在の自身の状況を理解し立ち戻るためのツールとして,積極的に活用している。職員からアドバイスは行うが具体的内容は提示せず,本人が自分の言葉で計画を作る。自分の言葉に責任を持って行動できることも計画作成の目的のひとつである。なお計画を自ら作成するのは,知的障害や発達障害には難しい場合もある。
 大切なことは,就職準備を通して「自己理解」を深め,他人に理解を求めるばかりでなく,相手に自分の事を伝えられるようになることである。これは働く場でのコミュニケーションにおいてとても大切である。そして,当センターでの準備を通して築いた本人と支援者の相互信頼関係は,最終的に職業マッチングにも生かされる。

3. 関係機関との連携と課題

 就職準備としては,就労移行支援事業所等,福祉施設を利用することが多い。当センターから紹介する場合,情報の共有やモチベーションの維持のために,個別支援計画作成に当センター職員が同席し,本人からの報告を定期的にもらっている。当センターでは働き始めたあとも支援が続く。就労移行支援事業所も定着支援を行なっているが,長期にフォローしていくのは難しい。企業側からも多数の福祉関係の事業所が出入りするのではなく,一本化してほしいとの意見も多い。今後,定着支援を当センターに行なってほしいとなれば,早い段階からの連携が望ましい。
 高齢化によって離職した後のことを心配する企業からの声も大きい。就職準備→就職→職場定着(パフォーマンスの発揮)→退職→福祉施設での再構築といった循環フローが出来上がることが理想である。しかし現状では遅々として進んでいない。

企業から

木村 良二

1. OKIワークウェルの沿革

 OKIワークウェルは36人の在宅勤務者を中心とした㈱OKIの特例子会社で,社会福祉法人東京コロニーの支援で1998年に発足した。就労支援団体と企業とのコラボレーションによる成功事例である。2004年に特例子会社となり通勤する障害者も雇用している。

2. 障害者の状況やニーズを無視した就労支援の体験例

 我々企業が受け入れた障害者には,次のように就労支援者側の配慮の欠如が背景にある問題発生が少なくない。当事者と企業のニーズが正しくマッチングする支援のあり方が問われている。
①訓練校で不随意運動のある脳性まひ者に塗装の訓練をして就職させようとしたが,就職先が見つからず,現在はパソコン作業で就職している。
②特別支援学校からの職場実習で,視力の矯正,薬の調整をしないで送り出し,文書が読めない,極度の眠気などで企業,当事者ともに苦労をした。
③支援団体が,身体的疾患を併せもつ知的障害者を,身体状況を会社に伝えずに就職させ,生命に関わる状況になった。

3. 障害当事者と就職先ニーズのマッチング及び調整

 特に以下の2点が問題である。
①一般的に就職先のすべてのニーズに合う障害者は存在しない。
②就職先との該当障害者にマッチングする仕事の抽出と内容の調整。

4. アセスメントの重要性

 その根拠は以下である。
①職業能力,生活面でのアセスメントによって適正配置や就労管理ができる。
②何でもできるようにする訓練でなく,チェックリストを活用したアセスメント情報が就職先には必要。
③障害者を良く見せようとするのでなく,できること,できないことを正直に就職先に伝えること。
④ハローワークはアセスメントまで手が回らない。訓練機関の役割が重要。

5. 支援機関の有効活用

 支援機関と企業の連携を強化し,支援機関を有効に活用するメリットは大きい。
①企業や団体が障害者就労支援機関に関する情報を持っていないという問題の解決。
②支援機関が雇用後のフォローについて説明すると就職先は安心。
③支援機関がハッピーリタイアまで関わることによる就職先の負担の解消。

6. 障害者雇用支援アドバイザーの役割

 埼玉県では障害者雇用支援アドバイザーによる次のような活動が効果を発揮している。
①企業(団体)に対する障害者雇用相談窓口があり,職域開拓や就労支援関連機関との橋渡しをしている。
②企業で障害者雇用を実践した経験のあるアドバイザーが企業(団体)と相談し,就労支援関連機関にニーズを伝えベストマッチングを計る。

助言者から

關宏之

1. 障害者の就労実態とニーズ

 知的障害の当事者グループである“さくら会”による「仕事と暮らしの調査ほうこく:日本財団助成事業(2008年4月28日)」という極めて貴重な調査があり,彼らの思いの一端が報告されている。調査協力者362人の就労の場は,51%が企業,29%が作業所,12%が施設であり,6%はその他,さまざまな業態で働いている。74%は障害基礎年金を受給しており,転職回数は,1回35%,2回16%,3回以上28%であり,転職していない人はわずか21%であった。理由として46%は給料が安いことをあげており,転職に際して支援者がいるかとの設問に対して,半数以上がいると答えている。

2. 障害種別ごとの就労実態(表)

 表は障害種別ごとにみた近年の求職件数と就職件数である。身体障害,知的障害において,就職件数が伸びていない。気になる数値である。

表 最近5年間の障害別新規求職件数と就職件数

年度身体障害知的障害精神障害その他障害
類別新規求職
申込件数
就職件数新規求職
申込件数
就職件数新規求職
申込件数
就職件数新規求職
申込件数
就職件数
17年度62,45823,83420,31610,15414,0954,665757229
18年度62,21725,49021,60711,44118,9186,739895317
19年度61,44524,53522,27312,18622,8048,4791,384365
20年度65,20722,62324,38111,88928,4839,4561,694495
21年度65,14222,17225,03411,44033,27710,9292,435716

出典:平成21年度における障害者の職業紹介状況等より(職業安定局高齢・障害者雇用対策部障害者雇用対策課 平成21年度5月7日)
(注)その他の障害者;発達障害者,高次脳機能障害者,難病者等

3. 生活基盤を支える真の就労支援策の必要性

 障害者の就労に関して,職業訓練・職場開拓・企業理解や本人の能力特性と業務とのマッチングなど,障害特性へのアプローチや障害者への理解喚起が主要テーマとされ,支援側の指導理念・支援方法が問われてきた。その結果,多くの課題が未解決のままで,障害者を「働く生活」へと導くことを至上命題としてきた。わが国の労働基準法は,「労働条件は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」とし,ILOでもディーセントワークを掲げて「働くものの立場」を強調する。これに対し,「障害者自立支援法」による就労への誘導策がどれほどの成果をあげたかは今後の検証を待つとしても,「社会生活に足る賃金の獲得」は,解決すべき喫緊の課題である。
 障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言は,「労働と雇用」に関し,「賃金補填の導入を考える上で,現行の所得保障制度(障害基礎年金等)との関係を整理した上で,両者を調整する仕組みを設ける」としている。もっともな提言である。

参考資料

『資料集 完全実現をめざして』日本障害者協議会(JD),2011.


主題・副題:リハビリテーション研究 第150号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第150号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第41巻第4号(通巻150号) 48頁

発行月日:2012年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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