特集 第34回総合リハビリテーション研究大会-総合リハビリテーションの新生をめざして(2) 分科会4 医療「一貫したリハビリテーションサービスを総合的に提供するために ―総合リハセンターの果たすべき役割と機能―」

分科会4 医療「一貫したリハビリテーションサービスを総合的に提供するために ―総合リハセンターの果たすべき役割と機能―」

【座長】
吉永勝訓(千葉県千葉リハビリテーションセンターセンター長)
伊藤利之(横浜市総合リハビリテーション事業団顧問)

1)脳性麻痺の早期発見・早期療育から青年期へ
川田英樹(MD・とちぎリハビリテーションセンター) 福原啓子(SW・横浜市戸塚地域療育センター)

2)脳卒中片麻痺の急性期治療から就労へ
吉村理(MD・広島市総合リハビリテーションセンター) 渡邊佳代子(SW・広島市総合リハビリテーションセンター)

3)頭部外傷に伴う高次脳機能障害の医学的リハから就労へ
青木重陽(MD・神奈川県総合リハビリテーションセンター) 生方克之(SW・神奈川県総合リハビリテーションセンター)

4)頸髄損傷の外科的治療から地域・在宅生活へ
小川鉄男(MD・名古屋市総合リハビリテーションセンター) 尋木佐一(SW・名古屋市総合リハビリテーションセンター)

【コメンテーター】
中島八十一(MD・国立障害者リハビリテーションセンター)
酒井郁子(Ns・千葉大学大学院看護学研究科)

要旨

 各地の総合リハセンターがそれぞれに管轄する地域において,一貫したリハサービスを総合的に提供する上で果たすべき役割と機能について,疾患別に検討した。今回は,脳性麻痺,脳卒中片麻痺,高次脳機能障害,頸髄損傷に対する取り組みをテーマとしたが,いずれも対象疾患の減少,重度・重複化,高齢化などが進んでおり,総合リハセンターといえども既存サービスの枠組みでは対応しきれない状況にある。一方で,高次脳機能障害などの新たな障害への取り組みでは,医療や介護保険の裏づけが乏しく,現状では,経営効率の面からも総合リハセンターでしか取り組めない課題であり,それ故に新たな枠組みを構築する可能性も秘めている。今後は,各センターがそれぞれの分野で新たなリハシステムを構築し,情報交流する必要があろう。

(本文共・伊藤利之)

1. はじめに

 今年度は,各地の総合リハビリテーションセンター(リハビリテーションは,以下リハと略す)がそれぞれに管轄する地域において,生誕から青年期,発症から地域生活に至るまで,一貫したリハサービスを総合的に提供する上で果たすべき役割と機能について,疾患別に,医学的リハを中心に検討した。

2. 各センターにおける取り組みの現状と課題

1)脳性麻痺の早期発見・早期療育から青年期へ

 とちぎリハセンターは,1960年に設立された「県立肢体不自由児施設」を出発点としている。その後,1973年に「県立身体障害医療福祉センター」に拡充,2001年に,これを引き継ぐとともにリハ病院や心身障害児総合通園センター,知的障害者更生相談所を新たに付加した「とちぎリハセンター」が開設された。
 脳性麻痺に対する実際の支援は,リハ病院診療部(外来)において0歳児から対応し,3歳前後で総合通園センターに引き継がれるシステムである。その後は小学校入学と同時に,療育センターの入所児を除き再びリハ病院診療部において概ね18歳までフォローするが,高校を卒業後に駒生園(身体障害者更生施設)を利用して社会生活訓練などを行う場合もある。またこれとは別に,総合相談部(障害者更生相談所など)では,身障手帳の発行,福祉用具の提供や住宅改修の相談などに応じて側面から支援している(図1)。
 リハセンターとしては,主に障害児を中心とした複合施設として活動してきた利点を生かし,乳幼児から成人に至るまで,自立と社会参加促進のために切れ目のないサービス提供体制を構築してきた。しかし最近では,脳性麻痺児が減少(1998年に比べて2010年では約1/3に減少)して広汎性発達障害児が増加するなど対象児の障害像が大きく変化しており,サービス提供の重点は肢体系から知的・精神系へとシフトしている。今後は脳性麻痺児に対するサービス体制を維持しつつも,広汎性発達障害児へのサービス提供のニーズが質量ともに高まることが予測されるため,その充実を図る必要があろう。
 ソーシャルワーカーの役割は,就学前では主に保護者支援にある。保護者とともに歩き,家族全体を見つめ,保護者の本音を把握することに神経を集中させている。具体的には,①保護者の障害理解への支援,②保護者自身の生活再構築への支援,③療育関係者と保護者の二人三脚の支援などである。学齢期では,①家庭から学校への移行支援,②徐々に,保護者支援から自我に目覚めてくる本人支援へとシフトしていく態勢づくり,③母子一体から母子分離,さらに本人の自立に向けて青年期を迎える準備などであり,保護者支援・本人支援,機関連携のマネージメントが特に重要である。成人期への移行支援では,医療から福祉:①現状や課題の確認,②訓練やフォロー頻度の見直し,③転科時期の検討など。学校から地域生活:①プレ生活訓練プログラム利用の適否,②生活訓練・社会参加プログラム利用の適否,③社会制度・地域資源案内の必要性,④介助・介護負担の軽減:在宅リハサービス利用の適否などである。ちなみに今後の課題としては,①学齢期におけるプログラムの開発,②保護者が子どもの将来像を考えられるような支援のあり方の検討,③小・中・高校期を通して,教育・福祉が連動した一貫性のある広域的支援システムの構築,④二次的合併症への対応を含む医療としてのフォローアップ体制の確立などが挙げられる。

図1 とちぎリハセンター  ―脳性麻痺児者への支援―

2)脳卒中片麻痺の急性期治療から就労へ

 広島市総合リハセンターは2008年に開設した新しいセンターで,総合相談部門(総合相談室:身体障害者更生相談所),医学的リハ部門(リハ病院:回復期病棟100床),社会的リハ部門(自立訓練施設50床)の3部門からなる地域リハ活動の拠点施設として,障害者の地域における生活の再構築を支援している。
 病院部門が回復期リハ病棟100床を有していることもあり,脳卒中者の利用が多く(67%),なかでも若年者の就労に関する相談業務が増加傾向にある。サービスの時期と内容に関しては,急性期病院からの紹介患者を受け入れる形で,その後の回復期リハ病棟(自宅復帰率:約70%)における医学的リハ(亜急性期)と自立訓練施設における社会・職業リハが主体である(図2)。回復期以後の一貫したリハの成果として何らかの就労に至ったのは,回復期リハ病棟入院患者127人中23人(18%),自立訓練施設では12人(12%)であった。ちなみに,回復期リハ病棟からは元の職場への復帰が多く,自立訓練施設においては福祉的就労(地域作業所など)が多かった。
 就労におけるソーシャルワーカーの役割は,①心身機能と活動性を最大限に生かす工夫をする,②就労の目的を確認する:本人のQOLや家族の経済面などを考慮する,③発症前に比べ,失ったことや得たことを確認する:医学的評価,本人・家族・職場の評価を把握し調整する,④就労時の役割設定を調整する:業務内容・通勤方法・勤務時間などを産業医や上司と連携し調整する,ジョブコーチなど就労支援事業制度の利用を支援する,⑤就労時の給与と生活保障の確認をするなど,多岐にわたっている。
 しかし就労を実現するには,①雇用する側の受け入れに対する柔軟な対応が不可欠である(就労できるかどうかは本人の能力にかかわらず,雇用する側の判断で大きく左右されやすい),②障害に対する周囲の人たちの理解が重要である(高次脳機能障害など傍目には分かりにくい障害への理解がないと就労後もうまくいかない),③本人や家族の就労に対する考え方に違いがあるため,本人と家族間の調整が必要など,乗り越えなければならない多くのバリアがある。年齢が比較的高く,肢体系障害に加えて失語症や記憶障害,遂行機能障害などの高次脳機能障害を随伴することの多い脳卒中者の就労は,一貫したサービスを提供している総合リハセンターにおいても決して容易ではない。
 今後は,多くの要因を整理・分析するとともに,医療・会社・行政との連携やチーム形成を支援するなど,就労支援の方法論を確立する必要があろう。

図2 広島市総合リハセンター ―脳卒中片麻痺者への支援(イメージ図)―

3)頭部外傷に伴う高次脳機能障害の医学的リハビリテーションから就労へ

 頭部外傷へのアプローチでは,機能障害の回復,適応力の変化,障害認識の変化,本人の歴史や内面世界の変遷,それに社会制度や帰属先環境などの諸要素を踏まえながら総合リハを提供することが望ましい。そのため,神奈川県総合リハセンターでは,急性期医療,医学的リハ,社会的リハ,職業リハ・社会参加支援の4段階に分け,それぞれの時期に適宜適切なサービスが提供できる体制を整備してきた(図3)。
 彼らを支援する際の問題は,①他の疾患に比べて回復スピードが遅く長期間を要するため,望ましい入院時期との間にギャップが生じる可能性がある(意識障害・行動障害が強い場合や退院後に評価をすべき場合など),②グループ訓練や臨床心理士の介入が望ましいが,診療報酬の裏付けが乏しい,③地域の福祉機関は,本人の認知機能や気づきの変化に合わせた医療機関との連携や就労支援機関との連携が求められる,④コーディネーターには,一般的なケアマネージャー以上に障害に対する理解と専門知識が求められるなど,既存の医学的リハの枠組みでは対応しにくいことである。そのため,一般の回復期リハ病棟ではもちろん,総合リハセンターにおいても対応に苦慮することが多く,医療機関,地域機関,就労支援機関,家族会などを併せた支援が可能になる,高次脳機能障害に特化したリハシステムの構築が必要である。
 2001年から始まった「高次脳機能障害支援モデル事業」では,その障害特性を踏まえ,医療,障害福祉,介護保険,労働に関する諸制度の支援機能を調整する役割や,個別支援と機関連携などを担うコーディネーターが必要とされ,2006年施行の障害者自立支援法では,都道府県地域障害者支援事業の中に高次脳機能障害支援普及事業が位置づけられ,拠点施設にコーディネーターが配置された。これにより神奈川県総合リハセンターでは,アウトリーチ活動が可能なコーディネーターが媒介となり,地域の関係機関と連携した種々の支援を展開するなど,総合リハセンターの機能提供に幅ができた。
 なお,彼らに対するリハ支援とソーシャルワーカーの役割については,国際生活機能分類(ICF)に照らして図4に示した。

図3 神奈川県総合リハセンター ―高次脳機能障害者への支援―

図4 高次脳機能障害者のリハ支援とソーシャルワーカーの役割

4)頸髄損傷の外科的治療から地域・在宅生活へ

 頸髄損傷者に対する名古屋市総合リハセンター附属病院の役割は,①ADL予測,リスク管理(慢性期合併症),②機能訓練(残存能力,ADLなど),③その他の治療的介入,④環境整備・介護者指導,⑤社会的リハの紹介・導入,⑥地域医療機関への情報提供,フィードバックで,医療・社会的リハのワンストップ機能を果たすことである。しかし最近では,障害の重度・高齢化が進み,一方で就労に向けた長期間の介入が必要な人たちが増えるなど,センター附属病院のみの対応では困難なことが多くなってきたため,重度者には市内の労災病院の協力を得てリハ医療が継続できるようにしている。すなわち,治療や医学的リハについては労災病院と連携しつつ,その後の環境整備,介護者指導,社会・職業リハ,在宅生活支援などについては共有している関係にある(図5)。ちなみに,総合リハセンターの在宅支援部門が提供しているサービスとしては,自助具の製作やITサポート支援,スポーツ活動支援,介助犬相談・認定,生活相談支援などがある。
 このような地域環境の中で,現状において総合リハセンターが求められている機能は,①必要なサービスに的確にアクセスできる相談窓口の実現,②ニーズを社会化し内部のニーズ充足機能につなぐ情報の窓口機能の充実,③センターの機能を外部に十分に伝え,ニーズを発掘する広報機能の拡充,④利用者の主体性を尊重した相談援助が行えるソーシャルワーク機能の向上などである。
 また,今後に求められる機能は,①病院部門と自立支援部門(自立訓練や就労移行支援だけでなく,家庭生活,社会参加,趣味・文化活動,旅行,スポーツ活動などの支援を含む)の連続性が確保されたシステムの構築,②在宅障害者の再評価・訓練機能を有したリハシステムの構築,②複合障害に対応力のあるリハシステムの構築,④地域が求める専門知識の提供に応えるシステムの構築などであり,総合リハセンターが相談機関の核となり,急性期を含めた多施設でのシームレスなリハが提供できる体制を構築していきたい。

図5 愛知県における頸髄損傷リハの流れ

3. 議論のまとめ

 総合リハセンターは,その名の通りあらゆる障害に対応できるシステムをもつべきかもしれないが,実際には,設立された時代背景や地域特性,あるいは設立主体である行政組織の縦割りや専門職間の連携の不十分さから,それぞれの充実程度に偏りがあることは否めない。とりわけ近年は,対象とすべき障害像が大きく変化しており,既存の枠組みでは対応しきれない状態に陥っている。そのため,疾患・障害別に総合的で一貫したリハサービスを提供できている状況にはない。
 今後は,対象疾患・障害,法制度などのゆくえをしっかりと見据え,それぞれのセンターが県や市の障害児者の中核センターとして機能するとともに,各センター間の情報交流と連携を前提として,それぞれが得意とする疾患・障害別の一貫したリハシステムを構築することが重要である。


主題・副題:リハビリテーション研究 第150号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第150号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第41巻第4号(通巻150号) 48頁

発行月日:2012年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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