特集 第34回総合リハビリテーション研究大会-総合リハビリテーションの新生をめざして(2) シンポジウム2および分科会5 災害「総合リハビリテーションの視点から災害を考える ―東日本大震災での取り組み:これまでとこれから―」

シンポジウム2および分科会5 災害「総合リハビリテーションの視点から災害を考える ―東日本大震災での取り組み:これまでとこれから―」

【座長】
大川 弥生((独)国立長寿医療研究センター研究所生活機能賦活研究部部長) ○報告者を兼ねる

【報告者】
丹羽 真一(福島県立医科大学医学部教授)
舟田 伸司(日本介護福祉士会 常任理事・災害対策マニュアル委員会委員長)
阿部 一彦(日本身体障害者団体連合会理事/被災障害者を支援するみやぎの会代表/仙台市障害者福祉協会会長/東北福祉大学教授)
後藤 敬二 (仙台市若林区保健福祉センター障害高齢課課長)
丹羽  登 (文部科学省初等中等教育局特別支援教育課特別支援教育調査官)

要旨

 災害を特別な事態として捉えるだけでは不十分と考え,「災害時とは平常時の体制の優れた点も問題点もが顕著に現れる時」と位置づけ,災害に関して得られた知見を,平常時の総合リハビリテーションの取り組みにも生かすことを目的として,種々の角度から検討した。災害時に同時多発する,生活不活発病による「防げたはずの生活機能低下」の予防・回復(大川),災害時の「心のケア」にむけての精神科からの取り組み(丹羽真一),総合リハビリテーションの視点に立った介護職としての災害に対する新たな取り組み(舟田伸司),当事者団体としての取り組み(阿部一彦),自治体としての取り組み(後藤敬二),災害による特別支援教育面の困難・問題点と今後に向けての教訓(丹羽 登)が主な論点であった。

(本文共・大川弥生)

はじめに-本シンポジウム・分科会の趣旨

 シンポジウム2および分科会5は,「災害時とは,平常時の体制の優れた点も問題点もが,顕著に現れる時」と位置づけ,災害に関して得られた知見を,平常時の総合リハビリテーションの取り組みにも生かすことを目的として行なった。すなわち,災害を特別な事態として捉えるだけでは不十分だとの問題意識に立っている。
 昨年の研究大会でのシンポジウムでは,これまでの状況についての共通認識と今後の課題を主としたが,今年は,東日本大震災での現地での取り組みに立って今後の課題を明らかにし,さらに平常時の総合リハビリテーションのあり方について論じた。
 なお,シンポジウムと分科会のメンバーは共通で,前者では時間の制約のため重点的に述べていただき,後者で詳しく話していただいたため,本特集では一つにまとめた。また,報告者の多くは本誌前号(149号)の特集「災害から考える総合リハビリテーション」にも書いておられるのでご参照いただきたい。

1. 生活機能をターゲットとした取り組みを-Preventable disabilityを防ぐ

大川 弥生

 災害に伴って,生活機能(functioning)の著しい低下が同時多発すること,そして,それが主として生活不活発病(廃用症候群)によることが確認されたのは中越地震(2004)の際である。
 それ以来,その予防・回復への努力が続けられてきたが,まだ微力なものにとどまっているうちに,今回の東日本大震災を迎え,これまでにない広範囲・大規模な生活機能低下の発生を許してしまった。震災発生9ヶ月後の現時点でも,今後新たに生活機能低下が発生する可能性は小さくない。
 報告者は,今回の東日本大震災でもこのような観点から自治体と協力して現地支援活動および調査研究を行なってきた。調査の具体例としては,発災1ヶ月目の仙台市,同2ヶ月目の南三陸町で,日中避難所にいる人々の歩行能力などの「活動」の著しい低下などを把握し,同7ヶ月目には南三陸町の全住民を対象とする大規模調査を行なった。
 このような経験に立って,あらためて災害時の「防げたはずの生活機能低下」(preventable disa-bility)の予防・改善策について考えたい。
 具体的対策としての予防の重点は次に述べるが,最も重要なのは,「参加」レベルを重視した「自立にむけた支援(生活機能向上)」である。

<生活不活発病の「予防」のポイント>

①「参加」の重視
②対象者の拡大:「元気な人」にまで拡大(実は一見元気な人もリスクを持っている)
③チームメンバーの拡大:様々な分野の行政担当者,各種のNPO,趣味やスポーツの指導者や仲間,老人クラブ,コミュニティのメンバー,等
④本人の積極的関与
⑤生活機能低下・向上の機序の理解

2. 心のケア・精神科からの取り組み

丹羽 真一

1)福島医大心のケアチーム

 大震災・原発事故の後,福島医大心のケアチームは次のような事業を行なってきた。なお放射能汚染への不安を抱く親への対応も課題となった。
(1)避難所の巡回と支援者のケア
(2)保健所への個別相談と入院ケースへの対応
(3)在宅支援
(4)保育園,幼稚園8か所での子供たちと親,先生へのケアを目的とする集団および個別相談
(5)保健所での乳児健診の際の兄弟・母へのケア
(6)病棟が閉鎖された相双地域での精神科医療を回復するために,公立相馬総合病院に臨時の精神科外来を開設し外来診療の実施

2)心のケア ― その課題と方向性

 今回の大震災と原発事故による被災・被害は生活を根こそぎ変えてしまい,生計の拠り所をなくしてしまったことに特徴がある。地域ごと県内外の他地域へ移住している人が現在なお約4万人おられ(福島県人口は約200万人なので約2%にあたる),県外へ転校した小・中の児童生徒は約1万4千人にのぼり(県内小,中,高校生数は24万人なので6%以上にあたる),放射能汚染への不安は広範に及び長期化し,避難者の中の抑うつやアルコール問題が少しずつ顕在化し自殺者の増加も尋常ではない状況である。
 こうした現状を踏まえると,心のケアには次のような課題がある。1)精神疾患患者の治療の継続と維持,2)震災・原発事故のために新たに発生するPTSDやアルコール依存などへの早期介入,3)高齢者の認知機能低下の抑止,4)自殺の抑止,5)医療・福祉スタッフのメンタルケア力の向上,などである。
 そして心のケアを行う効果的な枠組み,方向性としては,1)医療,保健,福祉を総合して行うこと,2)地域のつながりを大切にして進めること,3)生活の再建を基本にして進めるよう心がけること,などである。
 現在,長期にわたり活動する全県的な心のケアセンターの設置,こどもの心のケアチームの設置を県と相談しながら進めようとしている。

3. 介護としての新たな取り組み

舟田 伸司

1)日本介護福祉士会の災害支援活動

 主に避難所で暮らす介助が必要な方への日常生活支援として全国から介護福祉士会員を派遣した。

2)生活不活発病予防と自立支援での役割

  • 「生活の不活発化」という原因へのアプローチ:「環境因子」を考えながら「参加」や「活動」に働きかける。
  • 生活継続の場となるコミュニティの特徴の理解と,それを乱さず活かす環境因子への働きかけ。
  • 不自由な生活行為(「活動」)を手伝うだけでなく,目標指向的介護(「している活動」の専門職としての「よくする介護」の視点)を通じて生活機能全体を向上し,生活不活発病を予防・改善。

3)尊厳のある暮らし(自立支援は尊厳を守る)

  • 自己選択と自己決定による利用者本位の生き方ができるよう,介護技術を駆使して自立を支援。
  • 人のためになる役割の遂行を支援する。
  • 生活は「生命の維持」だけでなく「活き活きと暮らす」ということ。避難所で生活する方々の主体的な役割を守り,活きる意欲を生かす。

4)災害活動での多職種協働によるチームケア

  • 医療,介護,福祉の専門職が連携して被災者の生活機能の向上と,生活不活発病の予防・改善を目的とする災害ボランティアを行うパイロット事業(「生活機能対応専門職チーム」)に参加した。
  • 介護福祉士は生活支援の専門職としての多職種協働連携の重要性を理解しなくてはならない。「真の当事者中心」を理念とし,各専門職の相乗効果で「プラスがプラスを生む」ような,チームケアができてこそ「生活不活発-生活機能低下の悪循環」の予防・改善が実現する。

4. 当事者団体としての取り組み

阿部 一彦

 東日本大震災発生後,仙台市障害者福祉協会では安否確認活動を行うとともに福祉避難所を開設した。24時間体制の福祉避難所運営には職員数が十分ではなかったが,県外を含め関係団体の人的支援や物資支援を受けて取り組んだ。
 3月23日にJDF(日本障害フォーラム)幹事会メンバーと宮城県内の障害者団体等との意見交換会を開き,地元団体の緩やかなネットワークとして「被災障害者を支援するみやぎの会」が結成された。3月30日には総合的な支援活動を行うための「JDFみやぎ支援センター」が開設され,約1週間単位で交替するボランティアによって毎日40名前後が被災地等に出向いて活動している。
 障害者は様々な理由で避難所に居づらさを感じ,自主退去して被災した自宅に戻ったり,親戚宅等を転々としたりせざるを得なかった。センターでは依頼があれば,障害特性に応じた個別的支援に取り組んだが,個人情報保護条例の壁は障害者との出会いを困難にし,適切な支援を妨げている。
 被災障害者を支援するみやぎの会では,JDFみやぎ支援センターやJDFを構成する団体毎の現地対策本部,難民を助ける会等との情報交換会を重ねている。被災障害者のニーズを確認しながら,総合的な支援活動につなげ,JDFを通して国や地方自治体へ要望する活動は重要である。
 現在,被災地では仮設住宅等での生活が始まり,人々の孤立と孤独死を防ぐ活動とともに,障害や慢性疾患のある人々にとって多様な生活支援が必要になっている。地域における各職能団体を巻き込んだ活動が必要になる。
 全市町村には日本身体障害者団体連合会の支部協会があり,身体障害者相談員が配置されている。被災地及び避難先地域の障害者団体等は相互に連携し,被災した障害者とつながり,当事者の視点から総合的な支援に結びつけるコーディネート役を担うとともに,社会参加活動の機会を創り,情報支援等,支え合う活動に取り組む必要がある。
 今回,多くの団体の支援を受け,失いかけているとされてきた絆,つながり,支え合いの素晴らしさが確認できた。復興への道のりには課題も多いが,社会を構成する一人ひとりを大切にするインクルーシブな共生社会の実現に結び付けたい。

5. 自治体としての取り組み

後藤 敬二

 仙台市若林区は面積の約半分が浸水したが,避難所は全て7月下旬に閉鎖した。この間私達は,保健チームにおいて保健医療関係者調整と避難者の個別支援を行い,運営チームにおいて避難者で作る団体やボランティア等の組織調整を行なってきた。不完全ながら,この二つのチームで避難者の生活再建に向けた「ニーズ」を捉えようと試み,その実現を支援することに心がけた。
ニーズに対する考え方の違い:私達は日頃からニーズ概念の捉え方が,自立支援を行う保健福祉センター職員とそれ以外に所属する職員との間で,また一般の方々との間で違いがあると感じていた。その違いを被災者支援で改めて感じた。これは私達のニーズ概念と「商業ベース」で使われるニーズ概念との違いでもあったと思われる。
善意と不安:避難所には多種多様で大量の善意が押し寄せる。また,避難者は将来への不安や疲労感から様々な要求を発信する。これを「商業ベース」のニーズ概念で結び付けると,何もしないではいられない状況や将来を考える暇もない状況になる。つまり生活機能低下に結び付く場合や自立に逆効果になる場合がある。そこで私達の調整が必要になった。この調整は,結果として善意をお断りすることになるので,支援者と被災者双方からのクレームに繋がることもあった。
ニーズとサービス:被災者から発信されるどのような要求にも耳を傾けることは重要である。それを直接サービスに結び付けるのが「商業ベース」であり,一般的な需要と供給の関係である。しかし,自立支援の場合には,この欲求を「生きることの全体像」に照らして,本当のニーズを確認し,生きることにプラスに作用するよう配慮しながらサービスに結び付けなければならない。
誰もが自立支援の担い手:災害時は行政の他,企業やNPO,個人も支援の担い手である。また,資格や障害の有無にも関係なく支援者にも被支援者にもなりうる。だからこそ多くの人々が「商業ベース」とは違うニーズ概念を理解する必要がある。この理解のために,誰もが学校,職場または生涯学習機関などで「生きることの全体像」である生活機能モデル(ICF:国際生活機能分類)を学び,その学びを通して「健康」や「よく生きること」を考えることが必要になっていると,被災者支援を通して強く感じている。

6. 災害による特別支援教育面の困難・問題点と今後に向けての教訓

丹羽 登

 不登校や校内での暴力行為,家庭での虐待等への対応等,学校での課題は複雑かつ多様になっている。これらの学校での課題は,教師だけで解決することは難しい。地域や家庭の協力とともに,医療や福祉等の外部の関係者の理解と協力が今まで以上に求められる。
 学校では,定期的に地震等を想定した避難訓練を実施している。その際,子どもたちの「自らの危険を予測し,回避する能力」や「支援者としての視点から,安全で安心な社会づくりに貢献する意識」を高めることが求められている。例えば,障害のない子どもが支援者としての視点から,障害のある子どもを支援しながら,一緒に素早く避難することは,とても重要なことである。
 今回の震災では,障害のある子どもの避難時やその後の対応等を通して,今後検討しなければならない課題が何点かあった。例えば,車いすの使用者や,病気や障害のため迅速に避難できない子どもへの移動支援,交通機関が利用できない状況下での児童生徒の安否確認や保護者への受け渡し,保護者が被災したため自宅に戻ることができない児童生徒への対応などである。また,学校は地域の人々の避難所としての機能もあるので,前述の課題への対応と並行して避難者への対応も必要となる。しかし,病気や障害のある子どもは,多様な視覚刺激や多くの人の声などにより落ち着かない,トイレ等の順番を待つことが出来ない等の理由で避難所での生活が困難となり,自宅や自家用車で生活するケースもあったと聞いている。
 また,どこに行けば必要な支援を受けることが出来るのか分からないという声がある一方,例えばアレルギーのある乳児のために送ったアレルゲン除去粉ミルクが,通常の避難所で使われていたなど,必要な情報や物資が届かないということもあった。教育に関する支援のミスマッチを防ぐため,文部科学省では,学びの支援ポータルサイト(http://manabishien.mext.go.jp/)を設置し,効果的な支援に取り組んでいる。この様に今回の震災では,e-mailやメーリングリスト,ソーシャル・ネットワーキング・サービス等による情報伝達が効果を発揮した。全国特別支援学校病弱校長会でもこれらを活用し,各校の子どもの情報や被害状況,必要な支援等の情報交換が行われた。
 今後,関係者の方々からの協力を得ながら,これらの課題や効果のあった取組等を整理し,より良い対応を考えていく必要があると思われる。


主題・副題:リハビリテーション研究 第150号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第150号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第41巻第4号(通巻150号) 48頁

発行月日:2012年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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