用語の解説

障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言

　障害者権利条約の批准に必要な国内法の整備を目的に発足した障がい者制度改革推進会議の部会として，2010年４月より総合福祉部会が設置された。総合福祉部会では，同年１月「障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団と国（厚生労働省）との基本合意文書」の合意事項である，「遅くとも2013年８月までに，障害者自立支援法を廃止し，新たな総合的な福祉法制を実施する」ことを目的に，新法について１年半にわたり議論を行なった。なお，部会委員55人は，その過半数が障害当事者および家族の代表により構成された。
　部会では新法の方向性と盛り込むべき内容について，主な課題別に作業チームを編成し，議論を行い， その結果をもとに取りまとめ，2011年８月末日に「総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言（以下骨格提言）」を，55人の総意のもとに提出した。
　骨格提言では，新法のめざすポイントとして，1.障害のない市民との平等と公平，2.谷間や空白の解消，3.格差の是正，4.放置できない社会問題の解決，5.本人のニーズにあった支援サービス，6.安定した予算の確保の6点を挙げた。1は障害者権利条約が求める障害者と非障害者の市民としての平等の権利の保障であり，法の目的として明記すべきとしている。2については，これまでの我が国の障害者福祉の課題である障害者手帳制度から除外されてきた障害者の問題の解決，通勤や通学支援など福祉，雇用，教育制度の空白部分の解消をめざすべきとしている。3については，市町村によるサービス利用の格差をなくし，新たにどの地域でも共通して必要とされる支援（例えば移動やコミュニケーション，相談支援など）は国の事業として位置づけることとしている。4は，精神障害者の社会的入院や，長期施設入所の解消を目指し，重点的な緊急課題として，「地域基盤整備10ヶ年戦略」を設定し，地域資源の基盤整備を図るべきとした。5は，障害福祉サービスの支給決定について，障害程度区分をなくし，障害者の個別ニーズに基づく協議調整による支給決定システムとすべきとした。その前提として本人の意思決定支援や，権利擁護制度体制の充実が必要としている。6では，以上のような新たな支援体制の実現のために，障害者福祉予算についてOECD諸国の平均並みの予算確保を国民の理解を得ながら実現していくべきとした。
　骨格提言では，さらに法律に盛り込む内容として10項目にわたり，具体的な提言を行なっている。その中で，主なものを列記する。「法の対象となる障害の範囲」としては，「身体，知的，精神障害（発達障害を含む）その他の機能の障害がある者であって，障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活上に相当な制限を受ける状態あるもの」とし，慢性疾患に伴う機能障害も含むことを明記した。「支援体系」では，全国共通の仕組みで提供される支援として，就労支援，日中活動支援等，居住支援，施設入所支援，個別生活支援，コミュニケーション及び通訳・介助支援，補装具・日常生活用具，相談支援，権利擁護の9項目を示した。このうち個別生活支援では，権利条約にも規定されている日常生活全般にわたる介助支援として現状の重度障害者訪問介護の発展継承として「パーソナルアシスタンス」制度の創設が盛り込まれた。「地域移行」としては，住まいを単に施設や病院から元の家族に戻すことではなく，市民として障害者が自ら選んだ住まいで自分らしい暮らしを実現することを意味するとし，機能障害の程度や状況に関わらず，すべての障害者が地域で暮らす権利を有し，地域移行の対象となることを明記した。そのために地域移行プログラムや定着支援は国の事業として位置づけ，さらに地域基盤整備10ヶ年戦略として地域資源整備を法定化すべきとした。
　全体を通して，骨格提言が提起する障害者総合福祉法は「社会モデル」に基づき，障害者が障害のない市民と同様に社会参加することを目的として，主体的に支援を受けることが可能となることを前提としている。その意味で保護の対象として障害者をみなし，手帳制度を前提とした従来の障害者福祉制度のあり方とは大きく異なる方向性を打ち出したものである。

（茨木尚子／明治学院大学教授）

主題・副題：リハビリテーション研究　第150号

掲載雑誌名：ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究　第150号」

発行者・出版社：公益財団法人　日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数：第41巻第4号（通巻150号）　48頁

発行月日：2012年3月1日

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