用語の解説 障害者総合支援法の成立―障害者自立支援法以降の制度改革を振り返る―

用語の解説

障害者総合支援法の成立―障害者自立支援法以降の制度改革を振り返る―

1.障害者自立支援法と障がい者制度改革推進会議

 2006年4月,障害者自立支援法が施行された。応益負担の原則が障害者・家族の生活を追い詰めることになり,2008年10月には違憲訴訟が起こされた。2009年8月,民主党政権誕生を機に国(厚生労働省)が和解を提案し,2010年1月に基本合意が成立した。この合意文書において,障害者自立支援法を廃止し,遅くとも2013年8月までに新法施行をめざすことが確認された。
 2009年12月,民主党政権は内閣総理大臣を本部長とする障がい者制度改革推進本部を設置し,その下に2010年1月,障害当事者が過半数を占める障がい者制度改革推進会議を位置づけた。2006年12月に国連で採択された障害者権利条約の批准も視野に入れ,(1)障害者基本法の抜本的改正,(2)障害者自立支援法に代わる新法の制定,(3)障害者差別禁止法の制定が,推進会議において当事者主体で議論されることになった。

2.障害者総合福祉法の論議と「つなぎ法」への改正

 2010年4月,推進会議の中に総合福祉部会が設置され,新法としての障害者総合福祉法(仮称)制定をめざす論議が開始された。しかし,こうした流れとは別に2010年12月,議員立法で障害者自立支援法が改正された。これは,新法が成立するまでの間,当面の課題に対応するために必要な改正とされ, 「つなぎ法」「整備法」などと呼ばれた。
 主な改正点は次の5点である。(1)応能負担を原則とする利用者負担の見直し,(2)発達障害が自立支援法の対象となることを明確化,(3)自立支援協議会の法定化やサービス等利用計画の対象拡大など相談支援の充実,(4)児童福祉法を基本に障害児支援の強化,(5)重度視覚障害者の「同行援護」創設など地域支援の充実等で,その多くは2012年4月から施行された。

3.障害者総合福祉法の骨格提言と障害者総合支援法の成立

 総合福祉部会では集中的・精力的な論議を重ね,2011年8月30日に, 「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言(骨格提言)」を出した。この骨格提言では,新法制定にあたっての6つのポイントが示され,盛り込むべき10項目が提言され,これからの障害者福祉がめざすべき方向性として高く評価された。
 6つのポイントとは,(1)障害のない市民との平等と公平,(2)(障害の)谷間や空白の解消,(3)(障害種別や地域の)格差の是正,(4)(社会的入院など)放置できない社会問題の解決,(5)本人のニーズにあった支援サービス,(6)安定した予算の確保,である。10項目の提言とは,(1)法の理念・目的・範囲,(2)障害(者)の範囲,(3)選択と決定(支給決定),(4)支援(サービス)体系,(5)地域移行,(6)地域生活の基盤整備,(7)利用者負担,(8)相談支援,(9)権利擁護,(10)報酬と人材確保,についてである。
 ところが,この骨格提言がほとんど反映されない厚生労働省案が,2012年2月8日に示された。当事者・関係者の厳しい批判が相次いだが,3月13日に閣議決定され,6月20日に参議院で成立した。これが「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」である。
 障害者自立支援法の改正と位置づけられ,次の5点が示されている。(1)共生社会実現などの基本理念,(2)障害の範囲に難病等を追加,(3)重度訪問介護の対象者拡大など支援の充実,(4)障害福祉計画作成・見直しなどでサービス基盤の計画的整備,(5)移動支援,就労支援,障害程度区分のあり方等を施行後3年を目途に検討,などである。これらについて,2013年4月1日(一部は2014年4月1日)から施行となっている。
 このような経過で成立した障害者総合支援法には批判の声も多く,都道府県・区市町村の議会からは,障害者総合福祉法の制定を国に求める意見書が224もの自治体から出されている(2012年10月現在)。「骨格提言」の実現をめざし,今後も運動を継続するとの立場を強調する当事者・関係者も多い。障害者総合支援法施行後の状況を踏まえ,それぞれの立場からの検討を続けていくことが求められよう。

(石渡和実/東洋英和女学院大学人間科学部教授)


主題・副題:リハビリテーション研究 第153号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第153号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第42巻第3号(通巻153号) 48頁

発行月日:2012年12月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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