特集 第35回総合リハビリテーション研究大会-総合リハビリテーションの新生をめざして(3) 基調講演「総合リハビリテーションの実現に向けて ―地域リハビリテーションの実践から―」 伊藤 利之

基調講演「総合リハビリテーションの実現に向けて ―地域リハビリテーションの実践から―」

伊藤 利之
第35回総合リハビリテーション研究大会実行委員長 横浜市リハビリテーション事業団顧問

要旨

 総合リハ研究大会は,1977年にリハ交流セミナーとして創設された。その起点は職業リハ関係者からの発信であり,当初は4分野の混合チームであったが,次第に統一された一つのチームへと成長し,現在,改めて当事者の意向を尊重した総合リハを追求中である。そこで,3年間の統一テーマである「総合リハの新生」を目指し,横浜市における地域リハシステムを構成する療育システムと在宅リハシステムを中心に報告。現在の到達点としては,当初構想した計画は概ね実現した。しかし,社会ニーズの変遷に伴う法制度改革,新たに顕在化してきた成人期の発達障害や高次脳機能障害への対応は未だ緒についたばかりである。今後は,学童から成人期に至る一貫性と継続性をもったサービスの拡充と地域資源との連携の輪を強化し,余暇や就労活動へ結びつける事業への積極的介入が必要である。

1. はじめに

 総合リハビリテーション研究大会(以下,大会)は,1977年「リハビリテーション交流セミナー」として創設された。その趣旨は,文字通りリハビリテーション(以下,リハ)関連職種の交流である。とりわけ職業リハから見ると,医療・教育リハの関係者はもっと職業上の配慮をしてくれなければ困るという現実が原動力となったようで,この年を起点に35年を経過して現在に至っている。
 一方,1970~1980年代の高度経済成長期~バブル期には県単位で総合的なリハセンターが次々と開設された。そして1980年代後半には横浜市や名古屋市でも総合リハセンターが開設され,「市」のレベルだからこそできる地域密着型のリハを積極的に推し進めてきた経緯がある。
 そこで今回は,大会の歴史を概観することにより第35回大会の位置づけと開催意義を確認した上で,横浜市における地域リハの成果と,社会情勢の変遷や法制度改革に伴うニーズの変化に今後どのように取り組むべきか,その課題と展望について述べる。

2. 総合リハビリテーション研究大会の歴史と今大会の意義

1)歴史の概観

 リハ交流セミナーは,各分野にまたがるリハ関係者の交流を図るために彼らの手弁当のエネルギーで始められた。その甲斐あって,10年の地道な交流の結果,関係者のチームワークは次第に「混合チーム」から「統一された一つのチーム」へと成長した。少なくとも実行委員の間では,手を繋げる仲間意識が形成され,日常的な交流も盛んになった。
 1991年,横浜市や名古屋市で総合リハセンターが開設されたこともあり,第14回大会からは名称を「総合リハビリテーション研究大会」へと改称,名実ともにリハが総合的な取り組みであることを前面に押し出すこととなった。その流れの中で総合リハを追求した結果,障害当事者の参加の必要性が次第に顕在化し,大会においては当事者の登壇が当たり前のこととして位置づけられるようになった。しかしその反面,当事者の意向を慮りすぎる傾向も現れた。
 以上のような歴史的経緯を踏まえ,大会として,設立の趣旨であるリハ関係者の交流を軸に,当事者の意向を尊重したリハとはどのようなものか,どうすればそれを実現できるのか,それこそが真の総合リハではないかなど,あらためて議論する必要性が訴えられた。そこで第33回大会から今大会までの3年間,「総合リハビリテーションの新生をめざして」を共通テーマとして議論を深めることとした(表1)。

2)今大会の意義

 今大会の開催意義は,総合リハの新生をめざして,当事者中心のリハをどのように実践するか,とりわけ分科会においては3年計画で進めてきた議論の一応の結論を導き出すことである。また,地域リハをキーワードに,障害児者の地域生活を一貫して支える地域活動やシステム構築に関して,現状の課題と今後の展望を明らかにすることである。

表1 総合リハビリテーション研究大会の歴史概観

1977年9月21~22日
第1回大会:リハビリテーション交流セミナー77
実行委員長:松本征二/事務局:東京コロニー

1991年12月5~6日
第14回 総合リハビリテーション研究大会
テーマ:変革期におけるリハビリテーションを問う
実行委員長:小川 孟/事務局:障害者リハ協会

2010年9月3~4日
第33回 総合リハビリテーション研究大会
テーマ:総合リハビリテーションの新生をめざして
2010~2012年の3年計画(大川弥生→藤井克徳→伊藤利之)

3. 横浜市における地域リハビリテーション

 横浜市における地域リハは,横浜市総合リハセンターを中核に,障害の発生から学校生活や地域生活,職業生活に至る一貫・継続したリハを保障するために構築されたものである。その内容は主に,①発達障害児の早期発見・早期療育システムとそれに続くフォローアップ外来であり,②中途障害者の地域生活を支援する在宅リハシステムである。
 先天障害児の早期発見・療育システムは,現在すでに市内7カ所(3区に1カ所の割合)に地域療育センターが開設されており,それぞれのセンターを中心に各区の福祉保健センターと療育相談事業(4カ月および1歳6カ月健診で発達の異常や遅れをチェック→相談が必要な児に療育センターから出向いた専門職が対応→必要に応じて各療育センターで療育を開始)を展開している。
 一方,中途障害者に対する在宅リハシステムは,市内3カ所に福祉機器支援センター(在宅リハセンター)を開設し(図1),それぞれに分担された区の福祉保健センター(保健所・福祉事務所)や訪問看護ステーション,医療機関,ケアマネジャーなどから依頼された障害者を対象に,チームによる総合評価に基づく訪問リハを実施している(図2)。また同時に,リハの立場から障害者の地域・在宅生活を保障するためには住環境の整備が欠かせないことから,横浜市の単独事業として住環境整備事業を立ち上げ,このチームによるアセスメントに基づき150万円(介護保険施行後120万円に減額)の整備費が使える仕組みも構築した。

図1 地域リハビリテーション

図2 在宅リハビリテーションの実際

1)これまでの成果

 発達障害児の早期発見・療育システムは市内全区で稼動しており,肢体系発達障害児については0歳児からの療育が定着。また,フォローアップについても小学校卒業までは各地域療育センターで,その後は総合リハセンターを軸に,地域活動ホームや重症心身障害施設などとの連携の中で,必要に応じて定期的に行われている。精神発達系障害児についても2歳児からの外来療育,3歳児からの通園療育,その後のフォローアップは肢体系発達障害児と同様に定着している。肢体系と異なる点は,中学生以後のフォローアップについて,中途障害部門の医師と交代せず,幼児期から診てきた発達精神科の医師が引き続き対応していることである。
 一方,在宅リハシステムは医師,ソーシャルワーカー,理学療法士または作業療法士のチームで訪問する総合評価と,それに続く訪問リハや住環境整備事業など多岐にわたっており,介護保険施行後は,各区の福祉保健センターに限らず訪問系事業者からの依頼が増えている。また,訪問看護ステーションなどを拠点に訪問リハを行う事業者は増えているが,総合評価に基づくリハ計画の作成,住環境整備事業の利用などが無料という好条件からか,高齢障害者を含む需要は減らず,むしろ増加傾向にある。

2)現状の課題と展望

(1)制度改革への対応

 総合リハセンター開設後に行われた法制度の改定は,その都度,センターの将来計画の変更を招いたが,基本的方向性に違いはなく,開設後20年の課題は概ね当初の構想をいかに実践するかにあった。しかしその後,制度改定に伴う社会構造の変化が明らかになるにつれ,ハード・ソフトの両面において様々なひずみが顕在化し,現在,その抜本的見直しを迫られている。
 とりわけ,①介護保険の施行に伴い在宅リハの一次窓口(依頼元)が多様化したこと,②医療保険改定により回復期リハ病棟が創設されたことに加え,診療報酬の急性期シフトにより入院期間が短縮され,より多くの医療的管理を必要とする障害児者が在宅復帰するようになったこと,③障害認定制度をはじめとする障害者制度の改革が遅れており,医療サービスから福祉サービスへの橋渡しがスムーズにいかないこと,などの課題にどう対処すべきか苦慮している。
 その対策として,①については,在宅リハチームのソーシャルワーク業務を増やし,依頼元である一次窓口の力量に応じて利用者への直接的介入を増やしているが,それだけでは限界があろう。②については,常設の在宅リハチームに看護職を配置して医療機関との連携を強化し,総合リハセンターの外来・入院機能をバックに在宅リハ事業が展開できる計画を立てているところである。ちなみに③については,予定されている法制度改革を待って対処せざるを得ないと考えている。

(2)新たな障害への対応

 わが国における成人期の発達障害に関する問題は,①治療やリハサービスが欠如していること,②障害が見えない上に成長過程でゆがめられ,適切な診断・対応が困難な状況にあることなどである。横浜市では,早期発見・療育のシステムに加え,教育機関との連携により学童期への専門職(医師や臨床心理士)による介入が比較的進んでいる。そこで今後は,学童から成人期に至る一貫性と継続性をもったサービスの拡充と社会参加に関わる地域サービス機関との連携を強化し,余暇や就労活動へ結びつける事業への積極的介入が必要と考えている(図3:細い矢印部分の連携を強化)。
 また最近では,高機能の発達障害児者への対応が問題視されている。彼らの課題としては,①早期発見・療育システムでは発見できないことが多く,幼稚園~学童期になってからの対応にならざるを得ないこと,②人数が多いためにこれまでの体制では見切れないことなどがあげられる。今後の展望としては,教育機関における一次支援の充実が急務であり,その体制の整備を目標に学校支援事業を強化することが肝要と考えている。
 高次脳機能障害については,①治療・医学的リハの効果に限界がある,②長期にわたるリハが必要である (長期経過の中で一定の改善が見込める),③障害が見えず周囲の理解が得られないなどの問題がある。そのため,一般の医療機関では対応しきれず総合リハセンターなどに集中する傾向にあり,その受け皿として,総合リハセンター内に高次脳機能障害支援センターを開設して対処している。しかし,現状では医学的リハ技術の開発が進んでおらず,その対応は社会・職業リハに重点を置かざるを得ない。今後は医学的リハ技術の開発に努めることはもちろんであるが,より現実的な展望として,①長期にわたるフォローアップ体制の確立,②地域における専門施設の増設,③広報活動の強化などが必要であり,総合リハセンターを軸に社会参加に関わる地域資源との連携を基に,これらのシステムの拡充を計画している(図4)。

図3 発達障害に対する取り組み  ―現状と課題―

図4 高次脳機能障害に対する取り組み  ―現状と課題―

4. おわりに

 横浜市において地域リハを中心に総合リハを追求して25年が経過した。当初構想した先天障害児と中途障害者に対するプログラムや地域システムはそれなりに実現したと自負している。しかし現在,社会ニーズの変遷に伴う制度改革や新たな障害の顕在化により,システムのさらなる拡充や変更を余儀なくされている。自らを変革しない限り適切な対応が困難なことはいうまでもなく,今後とも,①現場におけるニーズの把握,②対応策の検討→技術の習得,③サービスの実践→実証(効果を確認),④政策提言,⑤地域システムの構築,⑥リハ技術の研究・開発→人材育成,⑦広報→リハの普及などに努めることが,行政組織の一翼を担う総合リハセンターの責務と考える。


主題・副題:リハビリテーション研究 第154号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第154号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第42巻第4号(通巻154号) 48頁

発行月日:2013年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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