特集 第35回総合リハビリテーション研究大会-総合リハビリテーションの新生をめざして(3) シンポジウム2「新たな地域リハビリテーションシステムの創造 ―総合リハビリテーションの視点から―

シンポジウム2「新たな地域リハビリテーションシステムの創造 ―総合リハビリテーションの視点から―

【コーディネーター】
高岡  徹(横浜市総合リハビリテーションセンター医療部)
渡邉 愼一(横浜市総合リハビリテーションセンター理学・作業療法課)

【シンポジスト】
本田 秀夫(山梨県立こころの発達総合支援センター)
小田 芳幸(横浜市総合リハビリテーションセンター就労支援課)
藤原  茂((福)夢のみずうみ村)

要旨

 本シンポジウムでは,「新たな地域リハビリテーションシステムの創造」をテーマに3つの取り組みを紹介,意見交換した。①山梨県では,従来の精神保健システムを再構築し,発達障害者支援センターを立ち上げ,発達障害の療育システムづくりを開始,②横浜市では,ニーズ調査をもとに横浜市総合リハビリテーションセンター内に高次脳機能障害支援センターを設置し,各区の特性に応じた支援体制の整備を行なっている。一方,③夢のみずうみ村では介護保険サービスの通所介護において自立支援の視点に立ったサービスを提供している。これらの取り組みから,疾患特性から派生する生活全般におけるニーズに対応するシステムが必要であること,これには医療,保健,福祉,教育にとどまらず,様々な社会資源を横断的に活用すること,就労支援を含めた生活の自立の視点の重要性が確認された。

(本文共・渡邉愼一)

1. はじめに

 わが国の第二次世界大戦後のリハビリテーションは,「身体障害者福祉法」(1949年)による社会保障としての制度的な整備からスタートし,特に医療におけるリハビリテーションは,1965年に理学療法士及び作業療法士法によりリハビリテーション専門職の資格制度が整備され,医療保険サービスとして位置づけられることで着実に発展した。その後,1970年代の自立生活運動による脱施設化とまちづくりの推進,社会保障費の増加などの社会的な背景により,「治療モデル」から「生活モデル」への転換が図られ,地域リハビリテーションが注目されるに至った。総合リハビリテーションセンターや更生相談所などの公的機関のみならず,一般病院等を中核機能とした実践的な取り組みが全国各地で行われ,わが国の地域リハビリテーションは発展してきた。
 2000年からスタートした介護保険制度は,生活を支援する社会資源を数多く生み出したものの,対象とする障害像は主に「脳卒中モデル」および「廃用症候群モデル」であり,近年のこれらのモデルでは適合できない障害ニーズや変化する地域ニーズに応じた新たなシステムが求められている。
 今回は,新たなニーズに対する地域リハビリテーションを推進し,実践している方々により,「地域リハビリテーションの創造」をテーマに,今後の地域リハビリテーションのあり方について議論した。

2. 発達障害の地域リハビリテーション
  ―山梨県における新たなシステムの創造―

本田 秀夫

「発言要旨」

○山梨県の特徴

 人口が370万人で財政力もある横浜市の療育システムづくりに19年間携わった後,2年前から山梨県で現職に就いた。横浜市は愛知県豊田市とともに,発達障害の早期療育システムが国際的にも著しく発展している地域である。一方,山梨県は人口86万人,年間出生数6600人,27市町村で構成され30万人以上の中核市はない。乳幼児健診は手厚く,県立の肢体不自由児の療育センターが一カ所ある。横浜市では発達障害の初診は大半が幼児期であるが,山梨県ではその半数が小中学生で,他の地域と同様に不登校や引きこもりの問題として取り上げられるのが特徴で,発達障害に関しては未開な地域である。このような山梨県での取り組みは,「山梨県でできるならうちの県でもできるだろう」という仕組みづくりを目標としている。

○新たなシステムづくりと課題

 全国調査では発達障害の割合は6.3%とされており,知的障害を含めて10%とも予想でき,発達障害への対応は社会的問題となっている。
 システムにおける早期介入とは長い支援の最初のボタンをかける作業であり,その始点は1歳半健診と3歳児健診である。横浜市では自閉症の8割は1歳半健診で発見される。また,①幼稚園・保育園の検出力を高める,②漫然とフォローアップせず,必ず「抽出・絞り込み」をすることなどが大切で,放っておくと起こりかねない並存の問題の出現や定着を予防するために,各専門機関が対象者をつないでいく,「点と線をつなぐ」といった細く長く見続けられるシステムづくりが重要である。
 山梨県では中央児童相談所と発達障害者支援センターを統合し,こころの発達総合支援センターとして,3つの階層からなる支援のシステムづくりを目指した。発達総合支援センターの職員は,医師2人,保健師2人,精神保健福祉士1人,作業療法士1人,臨床心理士7人,ケースワーカー4人等で合計20人である。
 医学的診断は大切であるが,いきなり医療ではなく(診断を受けてからでなく),障害ではないかもしれない,でも気になることがあれば来てくださいといった相談に対応する窓口を設けた。これには,主に相談スタッフが対応している。
 平成23年度の実績で相談延べ数4292件,新規相談数555件のうち診療に至った件数は279件で,約半数である。症状は薄いが困っているといった方の数が多く,これにどのように対応するかが課題である。横浜市では当事者が楽しむ活動(趣味のサークル)の充実を図るという形で当事者への支援を行なっていたが,山梨県では親への講演会が始まったばかりである。今後は,親が自由に活動できるスペースを提供する必要がある。

3. 横浜市における高次脳機能障害に対する地域リハビリテーション
  ―制度を超えた地域ネットワークの創造―

小田 芳幸

「発言要旨」

○横浜市の特徴

 横浜市総合リハビリテーションセンターは,横浜市の地域リハビリテーションの中核施設として1987年に開設した。2001年~2005年に国が高次脳機能障害モデル事業を実施し,神奈川県リハビリテーションセンターが支援拠点機関となった。2006年~2007年に横浜市において高次脳機能障害ニーズ調査を実施した結果,専門的な相談機関がほしい,診断や評価をしてほしい,継続して相談に乗ってほしい,実際の生活の場で指導してほしい,研修の機会や啓発活動が不足していることなどが明らかになった。この調査結果をもとに,2008年に横浜市総合リハビリテーションセンター(以下,リハセンター)に高次脳機能障害外来を開設するとともに中途障害者地域活動センターに対する支援事業を開始した。中途障害者地域活動センターは,脳血管疾患等の後遺症による障害者の方々が生活訓練や地域との交流を行いながら自立した生活や社会参加を促進するための活動拠点で,市内各区に整備されている。これらを経て,2010年4月から第2期横浜市障害者プランとしてリハセンターに高次脳機能障害支援センターを開設するに至った。

○新たなシステムづくりと課題

 横浜市の高次脳機能障害者支援システムの特徴は,ニーズ調査を横浜市の障害政策へ反映させ,横浜市の地域リハビリテーションの中核施設であるリハセンターの取り組みの延長線上に支援拠点の設置を図ったことである。センターインセンターとして,リハセンターの機能を活用することで,評価・診断機能,医療・福祉的サービス提供(就労支援等も含む)を包括的に提供することを可能にした。加えて,リハセンターのアウトリーチ機能を拡充して,利用者の実際の活動の場への専門職の派遣,各区レベルのサテライトの整備を図っている。
 横浜市は18行政区を有しているが,それぞれの区の福祉保健センターと中途障害者地域活動センターを軸にしながら関係機関の支援を行い,既存の社会資源を有効活用し,各区に支援体制の構築を図るための取り組みを徐々に展開している。支援体制整備重点区(4区)を設定し,それぞれの区の社会資源の特徴に対応してシステムづくりを行なっている。今後は,中途障害者地域活動センターのみならず,在宅介護支援センター等と連携するなど地域の特性に応じた仕組みづくりの検討・構築が課題である。

4. 新たな地域リハビリテーションシステムの創生

藤原 茂

「発言要旨」

○夢のみずうみ村の特徴

 夢のみずうみ村のデイサービスは,山口市内に開設した障害者の通所施設をもとに,2001年から介護保険の通所介護事業を開始した。その後,山口県防府市,千葉県浦安市にも通所介護事業所を立ち上げ,2013年は東京都世田谷区にも事業所を開所する予定である。
 夢のみずうみ村の通所介護(以下,デイサービス)の特徴は,利用者が一日のスケジュールを自分で作るなど,自分の意思をしっかり出せるようにしていることで,自己選択・自己決定を徹底している。選択できるスケジュール内容には,何もしない,そよ風に吹かれる,ボーっとする,気分次第というメニューもある。また,①施設はバリアフリーではなく,段差,階段,コンセント等が一般の家庭と同じようにあり,デイサービスで動作を習得できるようにしている,②料理,パン,苗など家で使うものを作る,あるいは施設内通貨を用いてそれらを売り買いし必要なものを自宅に持ち帰る,③パソコンの機能を覚えて生活で使う,料理のレシピを習い,家で調理を行うなど,単に機能維持や預かり機能のみでなくデイサービスで実生活を支援することを目標としている。

○新たなシステム作りと課題

 リハビリテーションは機能訓練と理解されていることからも,生活を支える視点がまだまだ不足している。本来,障害があっても生活に不自由がないことを目指すのがリハビリテーションのはずで,医療・福祉を含めた社会資源に複合的・総合的・相互的に関わる思想が乏しい。また,介護保険では,リハビリテーション前置としながらも,できる能力を引き出し伸ばすという視点はなく,要介護者等ができないことに対して,介護者が一生懸命援助している。リハ専門職は,利用者に対して「できそうか,どうか」と見守る視点からスタートし,できなければ介助する,できるのであれば介助しない。この視点をシステムづくりに活かすことが大切である。
 現在,愛知県高浜市で「健康」をキーワードに,市役所が公募した医療・福祉・商業・観光業・農業・自治会などさまざまな分野の人たちが集い,どのような施設が健康を作り出すのかを検討している。どのくらいの期間のどういうサービスをどこで受けたかを記録し,健康度を判定しようという試みである。このように,地域リハビリテーションは,医療・福祉分野のみならず,旅館・観光組合など,さまざまな分野を含めた,まちづくりという視点からのネットワークづくりを目指すべきである。病者,障害者,高齢者,赤ちゃん子ども,一般市民などすべての人を対象にすることが大切で,通所施設においても住民参加型デイサービスが理想である。今年度から実施されている介護予防・日常生活支援総合事業として提案したい。
 また,地域リハビリテーションでは,働き口を提供することが重要である。地域リハビリテーションに関わる人が,この意識を持って取り組むべきである。

5. おわりに

 身体(肢体)障害から高次脳機能障害,発達障害などの精神・心理系へリハビリテーションの対象者が移行しつつある中,発達障害,高次脳機能障害および介護保険のデイサービスを活用した地域リハビリテーションの新たなシステムづくりが紹介された。シンポジウムを通じて確認されたことは以下のとおりである。

①疾患特性と生活ニーズに対応したシステム

 システムづくりは,それぞれの疾患特性から派生する生活全般におけるニーズに対応する必要があり,介護者,支援者(サービス提供者)を含めたニーズを分析し,専門的な相談体制の強化だけでなく,気軽に相談できる窓口の設置,疾患の理解などの講演会,当事者団体への支援など階層的であることが重要である。

②自立支援の視点の強化

 高齢者のリハビリテーションにおいて,「脳卒中モデル」「廃用症候群モデル」に対するリハビリテーションの重要性が指摘され,介護保険サービスにおいてリハビリテーションの視点の強化が行われている。夢のみずうみ村における自立支援の取り組みは,稀有な事例であり,総じて介護保険サービスでの自立支援の視点は不十分である。今後の介護保険制度を中心にした地域包括ケアシステムにおいては,より一層,地域リハビリテーションの視点の強化が必要である。

③横断的な地域づくり

 地域リハビリテーションでは,障害者や要介護高齢者の「生活」を支える視点が大切である。生活は,高齢化,少子化,過疎化,医療・保健サービスの量と質等々の社会環境により異なり,変化しているため,地域リハビリテーションで提供されるサービスも柔軟に対応する必要がある。また,対象者を中心に据え,医療,保健,福祉,教育分野を超えた横断的なまちづくりに地域リハビリテーションシステムを包含することが大切である。


主題・副題:リハビリテーション研究 第154号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第154号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第42巻第4号(通巻154号) 48頁

発行月日:2013年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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