特集 第35回総合リハビリテーション研究大会-総合リハビリテーションの新生をめざして(3) 障害者制度改革の動向 特別報告「障害者に関わる法制度改革の動向」 鼎談「総合リハビリテーションの視点から見た障害者制度改革の動向」

障害者制度改革の動向
特別報告「障害者に関わる法制度改革の動向」
鼎談「総合リハビリテーションの視点から見た障害者制度改革の動向」

【特別報告/コーディネーター】
藤井 克徳(日本障害者協議会常務理事)

【パネリスト】
早瀬 憲太郎(映画監督)
大野 更紗(作家)

【指定発言者】
井上 剛伸(国立障害者リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部)
栗林  環(横浜市立脳血管医療センター診療科)
堀込 真理子((福)東京コロニー職能開発室)

要旨

 研究大会2日目の午前の部は,「障害者制度改革の動向」を主題に,特別報告と鼎談の2つの内容で構成された。特別報告は,2009年12月からの「障がい者制度改革推進会議」(以下,推進会議)に焦点を当て,そこでの成果と課題に時間を割きながら障害者権利条約(以下,権利条約)の批准との関係での推進会議の今日的な意義についても言及した。
 特別報告に続いての鼎談は,「障害当事者の立場からみた制度改革」をめぐって,筆者が進行役をかねて,作家の大野更紗さんと映画監督の早瀬憲太郎さんの3人で論じ合った。大野さんは難病による障害,早瀬さんは聴覚障害,筆者は視覚障害で,発言の一つひとつが体験に裏付けられているだけに,聴衆のリハビリテーション関係者には重みをもって伝わったに違いない。鼎談の終盤で,3人の指定発言者よりコメントをもらっている。
 以下,筆者による特別報告と鼎談について記す。紙幅の都合で大幅に割愛せざるを得ないことを,と言うよりはごく核心部分しか紹介できないことを予め断っておく。なお,特別報告については,その後も関連の動きが続き,最新の動向を織り込んでの記述とした。

(本文共・藤井克徳)

■特別報告 障害者に関わる法制度改革の動向

1. 政策水準をみる4つの視座

 最初に述べておきたいのが,日本の障害関連政策の水準をとらえるための視座(当日の報告では,「ものさし」とも表現)をどう持つかについてである。視座の明確化は,そのまま課題や問題点の炙り出しへとつながるのである。そして,この課題や問題点の好転にいかに効果的な影響を及ぼすことができるか,このことが後述する推進会議を中心とする制度改革に課せられた最大のテーマなのである。その意味で,政策水準をとらえる視座は,現在進行形にある制度改革がどの程度機能するかを推し測る目安とも重なろう。
 視座の第1は,障害のない市民の生活水準との比較である。権利条約には「他の者との平等を基礎に」というフレーズが34カ所出てくるが,これと同趣旨と考えてよい。所得水準などは典型的な分野である。福祉的就労に従事する者の半数以上が,就労による工賃と障害基礎年金を合わせても年間で100万円に満たない状況にある。勤労者一般との落差はあまりに大きい。
 第2は,国際的な規範ならびに日本と経済力を等しくする国々との比較である。この種の国際規範の最たるものは権利条約であり,個々の条項に照らせば自ずと水準が浮き彫りになろう。中部・北部欧州諸国との比較も有効である。
 第3は,過去との比較である。主要政策ならびに懸案政策について,以前と比べて変化があるのかないのか,あるとすれば変化の速度や質的な側面が妥当かどうかである。精神科病院における社会的入院状態や知的障害者に対する入所施設偏重政策などは,変化をみない最も象徴的な問題現象と言えよう。
 第4は,障害当事者のニーズや生活実態との比較である。関連政策の大半が当事者のニーズとかけ離れていると言われてきたが,その原因の1つに政策の形成過程での当事者不在が挙げられる。またニーズや生活実態に焦点を当てようにも,肝心の公的なデータが欠如しているためにこれが叶わないのである。相対的にみて,この4番目の視座が最も重要と位置付けてよかろう。
 以上4点の視座は筆者によるもので,主要なものを掲げた。改良の余地はあろうが,現状を見立てる上でとりあえずは一定の意味を持つものと思われる。

2. 障害者制度改革の新たな潮流

 制度改革の主幹的な存在となった推進会議の設立の経緯については他稿に譲るとし,ここでは今般の制度改革の背景について考えてみたい。
 背景については,より本質面と,関連する新たな動向という2つの側面で捉えることができる。そしてこの2つの側面を結び付けて新たな流れを創り出す触媒的な役割を担ったのが政権交代の動きである。大事なのは,2つの側面のそれぞれを正確にとらえることである。先ずは本質面であるが,これは極めて明快で,障害関連の基幹政策の立ち遅れに他ならない。加えて,不満が充満していたのが関連政策の審議システムのあり方だった。言うまでもなく,障害関連団体からは以前から,これらの問題点の指摘とあるべき姿の提言が繰り返されていた。政権交代のエネルギーは,こうした障害関連団体の要請を受け止め,審議システムの改良から手掛けることになったのである。
 次に,もう1つの側面である関連する新たな動向についてであるが,これらは背景としても掲げられるが,同時に推進会議の審議内容や運営にも効果をもたらした。3点をあげておく。
 第1は,権利条約の存在である。この点についてはいくつかの角度から詳述すべきであるが,紙幅の都合から1点のみに限定する。それは「条約の批准要件」との関係ということである。国際条約の批准(締結)には,日本国の場合は衆議院での過半数議決が必要となるが,その前提として条約水準と関連の国内法制との整合性が問われることになる。条約の水準と国内法制の落差があまりに大きいとなると,批准の審議に「時期尚早」といったネガティブな影響が出かねない。推進会議という審議システムは,条約と国内法制の関係を点検し,批准要件を満たすための法制基盤の改良の方向を示すことにあった。
 第2は,障害者自立支援法訴訟に伴って国と原告・弁護団との間で基本合意文書が交わされたことである。同文書において「国(厚生労働省)は,「障がい者制度改革推進本部」の下に設置された「障がい者制度改革推進会議」や「部会」における新たな福祉制度の構築に当たっては,……以下,省略」とし,重要案件を推進会議に委ねているのである。
 第3は,日本障害フォーラム(JDF)の存在である。推進会議とJDFとの関係は深いものがあるが,ポイントになったことの1つは推進会議の構成員の人選に貢献したことである。JDFを構成している障害当事者団体から1人ずつ送り出すことで,スムーズにまた安定した審議体を形成できたのである。

3. 推進会議の特徴と成果

 推進会議の成果については,運営面と内容面の二側面で確認しておく必要がある。総括的に言えば,「隔世の感あり」であり,日本の障害関連政策史において新たな到達点を得たと言っても過言でない。ただし,時が経つにつれ,各論に入るに従って,行政当局からの抵抗や風当たりが強まっている。
 運営面での成果は,①推進会議の構成員(オブザーバー2人を加えて計26人)のうち,障害者ならびに家族で過半数を占めたこと(オブザーバー1人を含む14人が当事者),②障害当事者の構成員に対する支援の充実(実験的な手法を含めて),③審議が実質的であったこと(2010年1月の発足時から2012年7月の解散時までの約2カ年半で38回開催,1回当たりの時間は約4時間),④審議の公開(CS放送での生中継,インターネットを使用してのオンデマンド中継)などである。これらは,障害分野を超えて,日本における政策審議システム全体からみても画期的な事と言えよう。
 内容面での成果は,推進会議とその後継である障害者政策委員会によって,この3年間で5点の政策文書を意見書という形で取りまとめたことである。具体的には,①障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見,2010年6月7日),②障害者制度改革の推進のための第二次意見(2010年12月17日),③障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言-新法の制定を目指して(2011年8月30日),④「障害を理由とする差別の禁止に関する法制」についての差別禁止部会の意見(2012年9月14日),⑤新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見(2012年12月17日)である。特筆すべきは,上記の中の第一次意見の主要部分については,閣議決定(2010年6月29日)が成されたことである。閣議決定において,障害者基本法の改正(2011年通常国会),障害者自立支援法の廃止と新法の制定(2012年通常国会),障害を理由とした差別禁止法制の制定(2013年通常国会)が方針化されたのである。

4. 障害者基本法の改正と評価

 推進会議が発足して,最初の改正作業となったのが障害者基本法であった(改正法の交付は2011年8月5日)。作業のベースとなったのが,上記に掲げた「障害者制度改革の推進のための第二次意見」(以下,第二次意見)である。障害者基本法の改正は,それ自体の水準もさることながら,その後に続く自立支援法に代わる新法や障害者差別禁止法の行方(水準)を占う意味からも注目を集めた。どうにか及第点を確保できたのではというのが大方の評価である。ただし,第二次意見の水準からは遠く及ばず,それ以降の法律の制定に向けて暗雲を漂わすことになった。
 先ず評価できる点であるが,ここでは主なものとして2点を挙げておく。
 第1は,「障害者」の定義についてである。第2条(定義)1項において,「障害者」の定義を「身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」とし,2項において「社会的障壁」の定義を「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物,制度,慣行,観念その他一切のものをいう」とした。こうした考え方は権利条約(第1条・目的)を踏襲したものであり,「障害」と「社会的障壁」の相互作用モデルに踏み込んだという点で画期的と言えよう。
 第2は,障害者政策委員会についてである。推進会議が閣議決定の審議体であったのに対して,障害者政策委員会は法定の審議体に改められた(第32条)。これと関連しながら,監視機能や勧告権(総理大臣等に対して)など,全体的に機能強化が図られたのである。この他,言語に手話が包含されたこと(第3条3項)も特筆できよう。
 他方,第二次意見との比較では不十分さも少なくない。主なものとしては,①前文が省かれたこと,②立ち遅れている「精神障害者」や「女性障害者」に関する特別条項が省かれたこと,③「可能な限り」という曖昧さを助長するような表記が旧法の1カ所から6カ所に増えたこと,などが挙げられる。

5. 第一次意見に陰り

 上記の第一次意見(うち主要部分は閣議決定)において3つの法律が改正もしくは制定が方向付けられていたが,問題は及第点をクリアしたとされた障害者基本法以外がどうなったのかということである。結論から言えば,「障害者総合福祉法」と「障害者差別禁止法」の双方ともに行政や政治の分厚い壁に苛まれ,法案の礎を記したそれぞれの意見書からは遠く及ばない状況にあると言ってよかろう。
 「障害者総合福祉法」については,推進会議の下に設置された障害者総合福祉部会(55人の構成員,19回の会合)において取りまとめられた「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(以下,骨格提言)に沿っての法案づくりが期待された。最終的には骨格提言の反映はほとんどなく,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下,障害者総合支援法)で決着をみた。その内容は,2010年12月3日に議員立法で成立した「障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて障害保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等の地域生活を支援するための関係法律の整備に関する法律」(いわゆる「つなぎ法」)を下敷きとしたもので,結局は自立支援法の部分修正に終わった感がある。消極的ながら期待をつなぐ点があるとすれば,骨格提言とも重なる主要分野が障害者総合支援法附則(第3条)において,「施行後三年以内を目途に検討」とされたことである(障害者総合支援法の施行は2013年4月)。
 「障害者差別禁止法」については,さらに厳しい状況にある。本来であれば,「「障害を理由とする差別の禁止に関する法制」についての差別禁止部会の意見」(2012年9月14日)に沿って,内閣府法制局において法案づくりが進められるはずであるが,2013年1月現在で頓挫状態が続いたままである。元々行政の姿勢は消極的であり,新政権もまたこれに拍車をかける様相にある。第一次意見にある2013年の通常国会への法案上程が成るかどうか,危うい状況にあると言えよう。

6. 推進会議から障害者政策委員会へ

 推進会議の後継となったのが障害者政策委員会である。2012年7月23日に第1回目の障害者政策委員会が首相官邸にて開催され,この日をもって推進会議は解散となった。既に述べた通り,これら2つの最大の相違点は障害者政策委員会が法定の審議体に格上げされたことであり,これに伴って機能や権限が拡充された。委員の定数は30人で,加えて幹事という名目で関係省庁の代表が審議に同席することになった。委員のうち,障害当事者と家族は16人で,障害のある委員への支援や審議の公開などは推進会議を継承している。
 障害者政策委員会の最初のテーマは,新たな障害者基本計画の策定へ向けて内閣総理大臣に意見具申を行うことであった。現行の障害者基本計画は2012年度をもって期限が切れるために,障害者基本法第11条に則った新たな計画が2012年度内に閣議決定されなければならないのである。意見具申は,「新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見」と題して取りまとめられ,2012年12月17日に政府に手交された。
 意見書は総論(①基本的な方針,②共通して求められる視点,③先送りできない重要な課題)ならびに各論(分野別施策の基本的方向,15分野にわたって),推進体制等の3部から成り,質量ともに現行の計画を凌駕していると言えよう。目を引くものの1つに,先送りできない課題を明示したことが挙げられる。この中で,①精神障害,②難病,③高次脳機能障害,④認知症を早急に解消しなければならない谷間・空白問題に位置付けている。さらに,①欠格条項,②障害者手帳制度,③成年後見人制度,④家族の介助等を前提としない支援制度を積み残してきた課題として掲げている。
 本意見書が最終的な政府案にどこまで盛り込まれるかは予断を許さないが,総合的な観点から主要政策の到達点と課題を整理したことは間違いない。ここに掲げられた内容は,障害者政策委員会の機能に付加された「障害者基本計画の監視」に際し,そのまま有効な指標(チェックリスト)となろう。

■鼎談 障害当事者の立場からみた制度改革

1. 日本の政策水準をどうみるか

 鼎談は,①日本の障害関連政策の水準をどうみるか,②障害分野を好転させていくための基本視点として何が,③専門職への期待,の3つを柱とした。それぞれを掘り下げるまでには至らなかったが,関連や周辺の意見を含めて興味深い話が聞けた。ここでは大野さんと早瀬さんの話のエキスを中心に,また3人の指定発言者のキーワードを拾ってみたい。

 1つ目の柱である「日本の政策水準をどうみるか」であるが,大野さんは「「3月11日を境に私たちの社会は変わった」という言い方があるが,一面では的を射ている。平時には社会的に分断され,互いの存在を意識すらしない「遠くの他者」が,非常時には「近しい隣人」に見えることがある。巨大な惨禍の下だからこそ,限界状態にあるからこそ,市井の人々は困っている見知らぬ他人を助けようとする。そのような極端に利他的な社会が一時的に出現する現象を,アメリカ人作家のレベッカ・ソルニットは「災害ユートピア」と呼んでいる。震災後の日本社会の一年余は,このような状態に置かれている。自身の難病分野を含めて,障害者施策の立ち遅れが気になっている。この社会が本質的に変われるかどうかであるが,大震災から少しずつ意識が遠ざかり始めるこれからが正念場になるのでは。このことはこれからの障害分野の水準とも重なるように思う」と述べた。
 早瀬さんからは「はっきり言って満足できる状況には程遠い。例えば,今般の障害者基本法の改正で「手話が言語に含まれた」というのがある。障害分野に携わる多くの関係者から喜ばれ,たしかに法律に位置付けられたこと自体は評価できる。一方で考えなければならないのが,手話を駆使できるろう者が一体どれくらいいるのかということである。正確な数値は明らかになっていないが,ろう者全体からすれば数パーセントとされている。ろう者=手話というイメージがあるかもしれないが,実際のところは90%以上が手話と関係のない社会生活にある。最大の問題点は,乳幼児期を含めて,発達や成長の過程で手話を学ぶ環境が保障されていないことである。ろう者にとって最も重要な手話の問題一つ取ってみても,このような水準でしかないのである」との見解が示された。

2. 好転への基本視点と専門職に対する期待

 次に,「障害分野を好転させていくための基本視点」であるが,大野さんは「日本で社会保障や社会福祉と言うと,メディアを含めて財政支出額に終始する傾向にある。または法律面からのアプローチに重点が置かれる。これらの重要さは否定しない。しかし,社会政策で大切なのは問題の本質を社会全体で共有することではなかろうか。実は私自身もここにいて,藤井さんの視覚障害や早瀬さんの聴覚障害についてほとんどわかっていない。障害問題の共有化,普遍化,このことの実質化が最大のテーマになるように思う」と述べた。
 早瀬さんの意見は「障害者政策を好転させていくためには,2つのポイントがあるように思う。1つは,問題の多い現状をとりあえずは修復していくことであり,推進会議が行なっている制度改革の作業はこれに位置付けられる。今1つは,既成の考え方や制度にとらわれることなく「本来どうあるべきか」の視点を持つことである。両方が大事だが,今の日本にあっては後者に重心を置くべきかと思う。壊滅的な打撃を被った震災地帯にあっては,ゼロからの創造を思い切って実践してほしい」だった。
 3つ目の柱である「専門職への期待」について,大野さんからは「制度の谷間とされる希少性難治性疾患にある私であり,リハビリテーション関係者とは接触も多く,期待も大きい。とくにPTやOTに期待したいのは,「患者の生活」「障害当事者の生き方」の代弁者として「自分の意見」を持ってほしいということである。専門職の言動の答えのすべては目の前の患者,障害当事者の中にあると言って言い過ぎではない。もっと勇気を持ってほしい」だった。
 早瀬さんは「被災地でのドキュメンタリー映画の撮影を通して,何人ものリハビリテーション関係者に会った。病院が損壊したために,3カ月余にわたって医師やPT,OTなどの専門職が避難所や地域を駆けずり回ったと聞かされた。共通して強調していたのが「改めて生活の中でリハビリテーションを捉えることの大切さを思い知らされた」だった。生活から遊離したリハビリテーション,それはもはやリハビリテーションとは言えないのでは」と述べていた。
 鼎談の終盤で3人の指定発言者(専門職)よりコメントをもらったが,キーワード風に紹介する。栗林環さん(横浜市立脳血管医療センター診療科医師)からは,「鼎談を聞いて「障害の本質」を知らされた思い。患者一人ひとりに「障害をいかに伝えるか」でいつも悩むが,ヒントをもらったように思う」,井上剛伸さん(国立障害者リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部部長)からは,「「政策と社会のあり方」について考えさせられた。「エンジニアと当事者の接近・連携」を本格的に図らなければ」,堀込真理子さん((福)東京コロニー職能開発室室長)からは,「緊急時におけるベストの「マイツール」は何か。大事なことは進歩した技術や道具の「使いこなし」」などが話された。

■むすびにかえて

 当日の特別報告の冒頭でも触れたが,昨今最も気になる数値として「2倍以上」がある。「2倍以上」,これは東日本大震災での障害者(障害関連手帳所持者)と総人口の死亡率の関係を表したもので,障害者の死亡率が総人口のそれを2倍以上,上回っているというものである。数値は,宮城県当局や各種報道機関による発表であるが,共通しているのは「2倍以上」である。極限状況は事の本質を顕在化させるというが,今般の大震災での障害者の死亡率の異常な高さはこのことを如実に物語っている。「障害ゆえ」を背景とした「2倍以上」であるが,日本列島のどこにあってもその可能性は等しいと言ってよかろう。リハビリテーション関係者はこの数値を厳粛に受け止めるべきである。
 最後に,権利条約の批准に関連して付言しておく。改めてこの時期に批准の見通しをどうもつかということである。結論から言えば,「国内法制の整備との関係で時期尚早」の域を出ていないと言ってよい。JDFなどの意向に沿って,2009年3月の時点で政府自らが批准方針の旗を下ろしたが,本質的にはこの時点と変わっていない。障害者総合支援法の制定と関連して掲げられた「施行後三年間での検討事項」や「障害者差別禁止法」の制定にどう道筋をつけるか,最低でもこれらは「批准」の前提条件となろう。前後20年程度を見渡して最強のカードとなる「批准」であり,安易な切り方は許されまい。


主題・副題:リハビリテーション研究 第154号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第154号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第42巻第4号(通巻154号) 48頁

発行月日:2013年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

menu