特集 第35回総合リハビリテーション研究大会-総合リハビリテーションの新生をめざして(3) 分科会1 子ども「障害のある子どもの総合的な支援 ―ライフステージと地域における領域・機関連携の視点から―」

分科会1 子ども「障害のある子どもの総合的な支援 ―ライフステージと地域における領域・機関連携の視点から―」

【座長】
松矢 勝宏(東京学芸大学名誉教授)
吉川 一義(金沢大学人間社会研究域学校教育系)

【パネリスト】
小川  淳(横浜市総合リハビリテーションセンター)
大政 里美(広島市こども療育センター)
小澤 信幸(東京都立青峰学園)

【指定発言者】
藤間 英之(あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく)
中村 敏之(青梅市健康福祉部障がい者福祉課認定サービス係)

要旨

 研究大会の3年間の統一テーマ「総合リハビリテーションの新生をめざして」に基づき,当分科会は障害のある子どもたちの発達と生活を総合的に支援するために,関係領域・機関が個別支援計画の考え方を共有し,協力・連携することが必要であり,このことにより統一テーマに接近することができると考え,第33回と第34回の研究協議を重ねてきた。また,第34回大会に先立って分科会独自の中間シンポジウムを企画し開催してきた。こうして今回の第35回研究大会では,大会統一テーマによる3年間の分科会協議のまとめとなるように,障害のある子どものライフステージに対応した総合的な支援を地域システムと関係領域・機関連携の視点から深めることにした。

(本文共・松矢勝宏)

(1)横浜市における地域療育システムのいままで,そしてこれから

小川 淳

 横浜市における地域療育システムは,昭和60年の南部地域療育センターの開設に始まり平成19年のセンター青葉の開設に至るまで,障害の重度・多様化と地域ニーズに対応して計画的に設置されてきた(8センター)。市が施設整備を主導し,指定管理方式で民間法人が運営を担う形で約20年にわたり展開されてきた。したがって,療育への社会的なニーズの変化を察知し,その対応の在り方を提言していくことは,療育センターの役割であるという認識で進めてきた。こうして近年の知的な遅れのない,いわゆる高機能な発達障害児に対する療育ニーズの顕在化が要因になり,新たな支援の在り方とその体系を検討することが急務となり,平成16年10月に療育センター長会に「療育センター新構想検討プロジェクト」が立ち上がり,平成20年2月に最終報告として「療育センターが新たに目指すべき方向性」が示された。
 新たな方向として,新しいニーズに対して療育センターがどのような役割を果たしていくか,第2に発達障害児の相談支援と療育の在り方を示すことである。まず,従来の横浜市の特徴であり,全国的なモデルにもなった医療を全置した通園療育センターの在り方に関する再検討である。今までは比重が少なかった地域支援と通園外支援という新たな支援体系を確立することである。そのような転換の必要性は,知的な遅れのない発達障害児の多くが幼稚園や保育所を利用していること,子育てを通し保護者が気づく「困り感」が,従来の中・重度,あるいは重複障害とは異なって,ケースによって時期がずれて発生することなどに求められ,子育て支援施策として柔軟に対応できるシステムがふさわしいとされたのである。要するに,知的な遅れがないために療育センターに相談支援を求めるには敷居が高すぎるので,気軽に相談支援が受けられる制度上の工夫が求められる。こうした考慮から,新たな集団療育体制として,週1回のデイサービスの支援(原則として週1回の集団プログラムを提供,療育センターにおける集団療育ルーティンとして2クラス制・各6人定員)が用意されることになった。具体的には平成22年度から2カ所のセンターで,23年度からは1カ所を除くすべてのセンターで,週の月曜日(地域関係機関での支援)を除く火曜日から金曜日まで実施することになった。今後の課題は,①対象児の規模(全幼児の1割)を想定し,発達障害児を含めた支援体制整備,②横浜市の療育センターの基本的スタイルの転換,③従来の早期発見・早期療育概念の転換,④育児支援を包含した地域支援スタイルの再構築である。

図 新たな集団療育体制の概念図

 もう一つの課題は,学校教育との連携の確立である。横浜市は平成19年度から,発達障害児の支援のために学校支援事業を展開している。その内容は各地の療育センターに学校支援スタッフを2名配置し,センターが有する経験と専門性をもとに訪問による市内全小学校(345校)の教職員へのコンサルテーションや研修など,各学校の状況に応じた技術支援を実施するものである。平成23年度の実績は実施学校数250校(72.2%)であった。コンサルテーションと研修の成果は,学校における発達障害児に関する理解が促進されたことであるが,それを基礎に学校における児童生徒の指導が改善されることが今後の課題といえる。

(2)広島市総合通園センターにおけるチーム療育と学童期への移行支援

大政 里美 (補足提言)小川 裕子

広島市においても総合通園センターは事業団経営で公立民営という点で,横浜市と共通性がある。知的障害児,肢体不自由児,難聴幼児の3通園施設を有する総合通園センターとして全国モデルとなった歴史があるが,地域のニーズを反映しながら,現在では子ども療育センター,北部子ども療育センター,西部子ども療育センターの3センターで運営されている。障害者自立支援法の下での障害児福祉の制度改革の課題が一方である中で,障害乳幼児支援では職種間アプローチによる個別療育計画と就学への移行支援計画を保護者の協力と同意に基づいて実施している。 個別支援計画作成の実際は,看護師,PT,OT,ST,保育士の各専門分野からの視点により多面的に子どもをとらえ療育計画を作成するが,子ども一人ひとりの生活プロフィールを保護者に記入してもらい,個別療育計画ケース会議で計画の提示・懇談,必要に応じて計画見直しケース会議,まとめのケース会議のサイクルで計画の実施をしている。生活プロフィールについては,子どもを取りまく環境面も含め,多面的,総合的に子どもの生活上の困難さを把握していくために毎年記入してもらっている。特に保護者の子育てにおける負担度,現時点での子育てへの価値観などを重視し,あわせて地域での福祉サービスの利用状況を把握している。平成18年以来,デイサービス,地域支援事業サービス等の利用者が増加している。生活プロフィールの項目は,①子どもの生活状況(家庭・地域での生活スタイル,移動方法など),②子どもの現在の状況(好きな活動・人・もの,嫌いな活動・人・もの,大変なこと,困っていること),③主に子育てをしている人(保護者)の生活状況(健康状態,子育ての協力者,生活の楽しみ,負担),④子どもにつけたい力(今年の目標),⑤子どもや家庭の将来の予測(障害のとらえ,将来の展望と課題)である。 保護者と子どもの姿を共有するために,①親子療育を重視(入園1年目は親子療育を基盤としている。),②保護者研修体制(発達研修・医療研修・福祉制度・コミュニケーション等に関する入園1年目の基礎的な研修),2年目以降の応用研修(就学研修・サポートブック支援など),③保護者集団支援(子どもを中心とした横と縦のつながりづくり,地域別療育等)を実施している。 このような個別療育計画に基づく子どもと保護者の支援の積み上げにより,幼稚園や保育所への移行支援計画,就学に伴う移行支援計画が,多種職によるケース会議において検討・作成される。保護者の同意による移行支援計画は,保護者の手で移行先に渡すようにしている。移行支援において並行して活用されるのが,ファイル様式のサポートブック支援である。主に発達障害児対象に平成20年に広島県内統一版として「心をつなぐサポートファイル結愛 ~yui~」がある。学校(他の支援場所)で,子どもの理解を深め,適切な支援が受けられるように,保護者が「他者にわが子を伝える取り組み」として,活用を支援している。 移行支援では,子ども自身へのアプローチのみならず家庭生活,地域生活など子どもの生活全般を支援していること,多職種による専門的,総合的な支援であると同時に家庭支援であるという全体的な観点による支援が,学童期につながっていない点に課題を感じている。療育側の推測ではあるが,教育現場ですぐに役立つ情報が優先されがちである。例として,療育側の業務として,学校と共に支援でつながっていくように特別支援学校や特別支援学級の教員との学習会を計画したが継続が困難であった。現在では課題解決の試みとして,いくつかの自主的な研修会がある。情報共有と相互の検証という成果は大きいが,会の広がりが常に課題になっている。 また,先に横浜市の報告があったが,広島市においても発達障害児の支援が開始されているが,療育センターの現体制では圧倒的に対応不足となっている。 移行支援,就学前の支援と学校における支援での好事例が広島県内の三次市における機関連携に見られる。ここではサポートブックが活用され,保健センターの赤ちゃん教室等の支援教室,市の発達支援センターが幼稚園,保育所等と連携し,さらに移行期には,市教育委員会において就学相談と就学後の学校における指導を担当する教育指導委員会の専任スタッフが発達支援センター等の就学前の支援と有機的につなぐ役割を果たし,移行の実際において成果を上げている。小規模な地域では顔と顔がつながった支援が成り立つのかもしれないと感じている。

(3) 障害のある子どもの総合支援~ライフステージと地域における関係機関との連携の視点から~

小澤 信幸 (指定討論)藤間 英之  中村 敏之

 東京都の西多摩地域にある都立青峰学園の実践例である。青峰学園は西多摩地域を学区域とする肢体不自由特別支援学校と軽度の知的障害生徒を対象とする高等部職業学科(就業技術科)の併置校である。職業学科の募集は東京都全域を学区域としているが,在籍生徒は多摩地域から通学している。生徒全員の企業就労を目的に設置され,1学年の定員は40人である。コースはロジスティクス,食品,エコロジーサービス,福祉の4コースからなり,2年生からコースを選択し,専門教科学習とインターンシップ(就業体験,現場実習)を重ね,将来への生き方学習(キャリア教育)を通して社会参加を実現する。生徒の社会参加において個別の教育支援計画(3年次には個別移行支援計画)の作成実施,企業をはじめ関係領域・機関との連携は極めて重要な意義をもつ。平成24年3月に,初めての卒業生を出し,就職者は38人(95%)であった。今回の報告は,初めての卒業生の進路支援の課題を中心に,関係機関連携の重要性と実際についての課題提言である。
 まず第1期の生徒が入学してから,生活指導の課題が大きくクローズアップされた。学校の教育設備の破損行為,生徒同士のけんか,教員への不信感等に翻弄される事態が続いた。今まで周囲から受けていた自尊感情の阻害に対して,教職員全員が受容することからはじめ,信頼関係の確立に多くの時間が必要とされた。中学校までのライフステージで自己理解等の必要な支援がなかったことが推測された。そのような時期を過ぎると,多くの生徒が相談を持ちかけてくるようになった。家庭の経済状況等,家庭環境に恵まれない生徒も多く,卒業時に家庭から住まいを移す必要のある生徒の移行支援が大きな課題になった。新たに8人分のグループホームの開設が課題になり,就労・生活支援センター等の関係機関や地域行政との連携が必要になった。結果としてグループホームの開設を実現し,移行支援の結果,通勤寮1人,一人暮らし2人,グループホーム10人という家庭からの自立を図る結果(計13人,卒業生の32.5%)となった。
 残された課題は,自立に伴う費用の負担である。グループホームに入居するに当たり,防災カーテン,就職用のスーツ,家賃,1か月の生活費等の捻出が困難な生徒である。年金は20歳からであり,初任給が出るまでどうするかという大きな問題があった。結局は家族の同意を求め,行政の配慮による緊急措置として生活保護の支給により,自立を図ることになった。このような対処が可能になったのは,青峰学園の進路支援担当者が当市の障害者自立支援協議会の構成員であり,生徒の支援情報を協議会が共有していたことによるところが大きい。
 このように,軽度の知的障害(療育手帳の支給対象にならなかった2人の発達障害児を含む)の自立と社会参加には大きな課題があり,学校と就業・生活支援センター等による卒業生全員に対する地域生活における移行支援が現在も続けられている。

 全パネリスト報告後に協議に入った。東京都は,現在3校の軽度の知的障害のある生徒を対象に3校の都立職業学科高等部校がある。青峰学園のほかにすでに3回卒業生を出している永福学園(1学年定員100名)と平成25年3月に卒業生を出す南大沢学園(永福校と同定員数)である。さらに2校の新設・開設が予定されている。これらの生徒の実態から,発達障害のある子どもと保護者に対する早期からのライフステージに対応した相談支援・療育体制,および関係機関の連携・協力の必要性が確認された。
 総合リハビリテーションの実現についても議論された。地域障害者自立支援協議会の確立がようやく法定化された現在,幼少期から成人期までのライフステージに対応した相談支援体制を整えること,そして医療,福祉,教育,労働等の関係機関の協力と連携によって,個別的なニーズに応じた支援を丁寧に積み上げる過程において,総合リハビリテーションの具体化と実現があることを確認し,協議のまとめとした。


主題・副題:リハビリテーション研究 第154号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第154号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第42巻第4号(通巻154号) 48頁

発行月日:2013年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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