特集 第35回総合リハビリテーション研究大会-総合リハビリテーションの新生をめざして(3) 分科会2 労働・雇用(就労支援)「地域リハビリテーションにおける就労支援 ―地域づくりとの関連で考える―」

分科会2 労働・雇用(就労支援)「地域リハビリテーションにおける就労支援 ―地域づくりとの関連で考える―」

【座長】
松井 亮輔(法政大学名誉教授)
木村 伸也(愛知医科大学医学部特任教授)

【パネリスト】
戸枝 陽基(社会福祉法人むそう・特定非営利法人ふわり理事長)
松永 正昭(有限会社 C・ネットサービス取締役社長)

【助言者】
依田 晶男(国立がん研究センター企画経営部・元労働省障害者雇用対策課)

要旨

 「総合リハビリテーションの新生をめざして」という3年間のテーマの下,第33回,34回の労働・雇用(就労支援)分科会では,障害者の真の職業的自立に向けて,就労支援にかかわる関係機関・団体および施設の連携のあり方を議論してきた。しかし障害者のニーズに応じた多様な場と働き方を実現するには,関係機関・団体および施設等による連携と取り組みだけでなく,これら専門分野の枠組みをこえて,障害当事者・住民・地域における様々なステークホルダーが参画する,インクルーシブな地域づくりが不可欠である。そこで第35回大会の分科会では,こうしたインクルーシブな地域づくりに先駆的に取り組んできたパネリストを招き,障害者の就労支援を柱にすえた取り組みを紹介していただいた。今後,全国的に広めるための方策について考える貴重な機会となった。

(本文共・木村伸也)

「むそうの地域展開」
~発達保障と生涯保障と~

戸枝 陽基

1. ノーマライゼーションの理念

 スウェーデンのベンクト・ニィリエは,「障害者の住居・教育・労働・余暇などの生活の条件を,可能な限り障害のない人の生活条件と同じにする(=ノーマルにする)こと」を提唱し,そのためには「1日,1週間,1年間のノーマルなリズム,ライフサイクルを通じてノーマルな発達のための経験をする機会をもつ」こと等を条件としている。

2. エンパワメントの視点と環境整備

 障害者のエンパワメントとは,「障害者に本来ひとりの人間として高い能力が備わっているのであり,問題は社会的に抑圧されたそれをどのように引き出して開花させるかにある」という考え方であり,彼らの「自己決定を可能とし,自分自身の人生の主人公になれる」ように社会資源を再検討し,条件整備を行うことである。

3. 施設・在宅・地域を定義する

 大規模施設での処遇は,ノーマライゼーションの理念に沿わないと批判されている。一方,在宅支援は,家族の介護力を前提とするので,家族のノーマライゼーションが損なわれる。公的介護保険制度においても在宅支援と同量の家族による介護が必要とされるのが現実である。
 そこで私は,小人数の障害者を対象として,家族以外による介護を支援する仕組み,「地域支援」を根付かせたいと考え事業を進めてきた。

4. ハードの福祉からソフトの福祉へ

 私達は,従来の入所施設(ハード)中心の福祉ではなくソフト中心の福祉への転換を図ってきた。
 入所施設(ハード)は,①宿泊・食事など暮らしの場,②デイサービス・作業所などの日中活動の場,③クラブ活動・旅行など余暇・社会参加の場,という3つの機能を提供してきた。ソフト中心の福祉はこれらの機能を地域の福祉サービスの中から選択し,組み合わせて利用するケアマネジメントの手法を活用した生活を作り出す。例えば暮らしの場としては,自宅・グループホーム・アパートなどから,日中活動の場としては,通所サービス・就労実習などから,余暇・社会参加の場としては,当事者活動など,身近なところにあるサービスを選ぶ。そのため地域生活支援センターが必要なサービスを当事者と一緒に考える。

5. 社会福祉法人「むそう」の地域生活支援システム

 私達の法人は,どんなに障害が重くても生まれ育った地域で暮らしつづけていくことができる地域生活支援システムの創造を目指してきた。 当事者を中心に,基本的な支援として,①住む(一人暮らし,支援グループホーム,在宅支援),②働く・生きがい作り(通所施設,デイサービス,就労支援),③余暇・社会生活支援(移動支援,情報提供支援)を配置し,その周りに暮らしを包み込む支援として,④所得保障(障害基礎年金・手当・賃金確保),⑤権利保障(成年後見,権利擁護),⑥医療保障(日中活動の場での医療,訪問看護,連携医療機関),⑦家族援助(レスパイトサービス),⑧相談支援(個別支援計画作成・各種相談支援),⑨地域の意識改革(啓発活動),⑩人材育成機関(ヘルパー養成など)が利用できる。
 このような構想を基本として,「むそう」では,様々な事業体・職能集団との協働によって,少人数の単位で障害者と支援者が地域で生活する多様な事業を展開している。法人本部は各事業に知恵を提供するが,現場の短期的な成否に過剰な介入をせず,自発的な活動の発展を見守る。例えば,日中活動支援としては,生活介護を行いつつ,アジア雑貨の販売やラーメン店を経営するアートスクウェア・アート工房,養鶏やきのこの栽培をする農業部などである。医療保障としては,近隣医療機関や訪問看護ステーションと連携し,居宅支援として「なかよしホーム」,一人暮らしや在宅への支援サービス,訪問・社会参加支援としては,生活支援センター「あっと」の運営,権利擁護としてNPO法人知多地域成年後見センターとの連携などである。資本関係のない事業体や行政との間での協力を積極的に推進し,行政との事業委託指定管理,家主との契約で空家を福祉目的に利用,商工会との合意による空き店舗への出店支援,病院内へのカフェ誘致など,障害者と支援者の就労の場を拡大してきた。

6. まとめ

 「むそう」の活動は,公共の新しい問題解決領域に切り込むものといえる。これは,企業と行政が後退した結果,市民活動と社会事業が新たな社会的課題を解決する主体として働く領域といえる。
 福祉サービスを構成する3要素である,ケアマネジメント(障害の見立力,制度等の知識力),介護スキル(障害理解力),ソーシャルワーク(地域開発力)が重なるところに新たな支援が生まれてくると考えている。

障害者の親として顧みる地域での就労と生活に取り組んだ40年

松永 正昭

 C・ネットサービスは,福井県で知的障害者の自立と社会参加支援を目的とした各種事業を展開している「C・ネットふくい」のグループ企業として,食品販売,各種カタログ販売,軍手・ウエス販売,人材派遣業,損害保険代理店などの業務を行なっている。平成24年3月から,就労継続支援A型事業所を設立し,クリーニング業等を始めた。

1. 私自身の出会いと決意

 私の原点は,障害児の親として,障害のある人々が地域の中でさりげなく暮らせる社会を創造するという決意をしたことにある。障害児の保護者を結集し社会啓発・職場開拓・職場づくりの事業を行なってきた。

2. 膨らむ夢・希望

 当社は,小規模作業所(工賃8万円)からスタートし,「通授・福祉工場」の創設を目指した。これは多くの親の希望であった,障害のある人々が働く場を県内各所に創ることであった。職場・職種開拓のために「犬(も歩けば)棒(にあたる)作戦」を敢行し事業を拡大してきた。

3. 変わる制度,変わらぬ意識

 この間,障害者福祉をめぐる制度はめまぐるしく変化してきた。支援費制度による増収2,700万円を施設整備に投入し,障害者雇用数を210人から350人へと増員してきた。その後,自立支援法下では,減収見込み2億6,600万円であったが,新制度下での基準に基づく経営へ移行した。しかし,当初は新制度に対応する現場の改革が進まなかった。

4. 調査結果に自戒

 そこで,わが社の経営・雇用の実態について詳細な調査を行なった。その結果,社会福祉法人収益事業に社会は甘えを許さないという現実があることに気づいた。税金で施設を多機能化した結果,地域の零細企業から市場を奪ってしまうことになりかねない。一般企業と同じく,我々も経営理念と目標を明確にして経営体質強化を図らなくてはいけないという自戒を得たのである。
 社会から評価されるには,社会を支える負担者(納税者)にならなくてはいけないということでもあった。
 調査結果を紹介する。A型事業所で働く人の,社会保険加入率はNPO法人ではわずか0.6%,社会福祉法人では77%であった(一般企業は100%)。また,最低賃金減額特例措置申請率はNPO法人で38%,社会福祉法人で42%にものぼっていた(一般企業は0%)。A型(重度障害が39.0%,区分4以上の者が6.9%)とB型の賃金を比較すると,それぞれ76,397円,22,580円で格差は3.39倍になっていた。社会保険費などの負担額は本人の収入に対して,A型では21.9%であるのに対し,B型では67.7%にも達していた。社会を支える負担者・納税者となるにはあまりにも厳しい現実であった。

5. 就労系事業所の課題と対策

 平成19年度から事業所の課題と対策を明確にし,取り組んできた。まず,平成19年から21年度は,仕事の安定確保のための,地域企業との連携,福祉医療機構・日本政策銀行などからの貸付金制度の活用,事業開拓意欲とコスト意識の浸透,サービス管理責任者(サビ管)あるいはサビ管に代わる事業経験者の配置,他社とのコラボレーション強化およびA型事業所連絡協議会の立ち上げなどを行なった。
 平成22年度から23年度は,外部評価を重視し有能な職員を事業主に抜擢する,企業からの離職者が25%を占める未就業者に対する生活支援,通勤困難への対策として職住分離の見直し,送り出す職場がないという問題に対してはサポート事業を拡充するなどしてきた。

6. C・ネットふくいの現在と未来像

 現在,われわれの事業・サービスを利用する障害者は,就労系では就労移行訓練25人,A型事業雇用282人,B型事業就労84人の計391人,生活系では生活自立訓練2人,生活介護103人,生活援助等109人,計214人で,総計605人にのぼる。
 私はC・ネットふくいの未来像を以下のように構想している。まず社会福祉事業として,就労移行訓練に,職業コース別訓練を設け入寮を義務づけ,現場重視の姿勢を徹底すること,生活介護として,高齢者対策を重視し地域分散型でフルタイム支援可能な体制をつくること,生活援助として,グループホーム・ケアハウスの設置と相談事業の充実である。収益事業として,A型の各事業の事業範囲を限定し相互協業化,施設外での就業拡大,B型事業では小規模多業種がそれぞれに専業化し施設外就労を促進することである。

医療機関における知的障害者雇用
―国立がん研究センターが示すモデル

依田 晶男

1. 国立がん研究センターの概要

 昭和37年2月1日に設置された国立がん研究センターは,東京都中央区築地5-1-1(600床)と千葉県柏市柏の葉6-5-1(425床)のキャンパスに約2,500人(築地1,600,柏900)が従事し,障害者24人(身体9,知的13,精神2)(平成24年4月1日現在)を雇用している。

2. 国立がん研究センターにおける知的障害者雇用のチャレンジ

 契機は,独立行政法人になることで顕在化した障害者雇用率の低さ(0.59%)であった。しかし障害者雇用に際して,患者に対する配慮,医療事故への懸念といった医療機関の抱える難しさがあった。
 加えて,独立行政法人として,総人件費改革(常勤職員を減らす)を求められること,給与規程が特別の処遇を設けにくいものとなっていることが難しい点であった。

3. 障害者雇用の導入に当たっての配慮と方針・具体的枠組み

 トップダウンのプロジェクトチームを形成し,実働部隊の意識啓発に取り組むこと,専門機関のサポートを求め,職員全体への啓発,職員に喜ばれる仕事・目に触れる仕事を創造することに取り組んできた。
 求職者の採用条件を以下のようにした。
 ①働く意欲があり,②仕事の指示に従うことができる,③居住地区の障がい者就労支援機関に登録している,④身なりや衛生面に気をつけられる,⑤規則正しい生活ができる,⑥挨拶ができる,⑦ローマ字が読める,⑧求められる技術を備えているである。募集から採用に至る枠組みとしては,近隣の障害者就労支援センターへ応募情報を伝え,マッチングと選抜の後,採用実習(5日間)を経て選考を行なった。この間も就労支援センターからの支援を受けつつ,非常勤雇用から開始(定着支援を受ける)した。これとは別に,ハローワークとの連携での採用選考・非常勤雇用(この場合も同様の支援を受けながら)に至る枠組みも設けた。

4. 障害者の業務内容

 平成23年度に築地キャンパスでは,郵便仕分け・配達業務(郵便物,荷物を仕分けし各職場まで配送),シュレッダー業務(職場で出る廃棄文書を回収してシュレッダーで裁断して廃棄),連絡通知等の仕分け配達業務(各職場で印刷した文書を1カ所に集約しその場で仕分けし配送),名刺印刷業務(がん研究センター創立50周年記念事業として,全職員に名刺を配布し,その後は100枚につき500円で販売)を開始した。
 同年,柏キャンパスでは業務内容を拡大し,看護部関連業務(シート業務,テープ業務,注射針業務,ネット業務,アルコール綿切り離し,ストップコック業務,オーキューバン切り離し,パッド業務,点滴台点検,PCU廊下の手すり拭き,固定用絆創膏カット業務,ネブライザーチューブ切り離し),医局関連業務(当直室ベッドメーキング,郵便物仕分け,郵便物仕分け付随業務),病院環境整備関連業務(外回りゴミ拾い,会議室等清掃,朝礼,終礼,ミーティング参加・在庫管理,受け取り,納品,突発的業務への対応)などを開始した。
 平成24年度からは,柏キャンパスで先行実施していた看護部関連業務を築地キャンパスでも開始した。

5. 現状と今後の目標

 現在,障害者雇用率は2.14%である。今後の目標は,全国的に知名度の高い「国立がん研究センター」において,知的障害者が能力を発揮する職域があることを具体的に提示し,障害者雇用が立ち遅れている全国の医療機関にモデルを提供していくことである。


主題・副題:リハビリテーション研究 第154号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第154号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第42巻第4号(通巻154号) 48頁

発行月日:2013年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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