特集 第35回総合リハビリテーション研究大会-総合リハビリテーションの新生をめざして(3) 分科会4 医療「地域リハビリテーションにおける総合性の追求 ―総合リハビリテーションセンターの果たすべき役割と機能―」

分科会4 医療「地域リハビリテーションにおける総合性の追求 ―総合リハビリテーションセンターの果たすべき役割と機能―」

【座長】
吉永 勝訓(千葉県千葉リハビリテーションセンター)
伊藤 利之((福)横浜市リハビリテーション事業団)

【パネリスト】
小島 久美子(川崎市北部リハビリテーションセンター)
高橋  明((財)いわてリハビリテーションセンター)
逢坂 悟郎(兵庫県西播磨総合リハビリテーションセンター西播磨病院)

要旨

 各地の総合リハビリテーションセンターが地域リハビリテーションに関して行なっている先進的な取り組みが紹介された。川崎市北部リハビリテーションセンターは,川崎市リハビリテーションのブランチであるが,実際の利用者ニーズから高次脳機能障害者への支援が行われており,市全体からの利用者があって成果を上げ,川崎市の総合リハビリテーションにおける重要な役割を果たしている。いわてリハビリテーションセンターでは以前から岩手県の地域リハビリテーション支援センターとして県内の地域リハ整備推進に努めていたが,3.11東日本大震災後においてはその地域リハ整備推進システムが効果を発揮した。兵庫県西播磨総合リハビリテーションセンターの働きかけにより,同地区では保健所や看護協会の協力を得て地域の病院がネットワーク化されたが,複数の保健所がネットワーク化されることにより二次圏域を越えた連携へと広がっていく可能性がある。

(本文共・吉永勝訓)

1. はじめに

 介護保険施行後,わが国のリハビリテーション(以下,リハ)事業は大きく変わった。とりわけ地域では,ケアマネジャーなどの新たな職種が生まれ,関連機関とそれに伴うサービス量も飛躍的に充実した。しかしその一方で,対象者は高齢者に,リハは医療に偏り,総合性が軽視される傾向にある。また,医療や介護保険における経済効率の追求,障害者自立支援法におけるホテルコストの分離や応益負担の導入によりリハの画一化が進み,地域・在宅生活へのリハの総合的支援は相対的に後退したといえよう。
 本分科会では,以上のような介護保険施行後の時代背景を踏まえ,現代,あるいは近未来における新生総合リハのあり方について,3年間を通して検討してきた。
 今年はその最終年であり,各地の総合リハセンターが先進的に取り組んでいる地域リハについて交流を図るとともに,当事者中心のリハを総合的に提供するためにはどうしたらよいか,そこにおける総合リハセンターの果たすべき役割と機能について検討した。

2. 各センターにおける取組の現状と課題

1)「川崎市における地域リハ構想」
 ―高次脳機能障害など制度外対象者を含めて―

小島 久美子

 川崎市は南北に細長い地形をしており7つの行政区がある。平成24年7月現在,人口は1,437,520人で,高齢化率は17%,平均年齢は41.8歳と若く,出生率は20大都市の中で21年連続第1位である。
 同市では平成12年12月に「リハ基本構想(案)」が打ち出され,地域性,総合性,専門性を重視したシステムづくりを目指した。総合的な地域リハシステムにおいては,急性期・回復期における病院でのリハと維持期・慢性期の介護福祉との間をつなぐ生活の場でのリハが担当範囲とされた。
 その後,平成20年3月に再編整備基本計画の策定が行われ,「総合的な地域リハシステムの構築の推進,障害者自立支援法による事業体系の再編,施設の老朽化への対応」が盛り込まれた。そして市内に,北部・西部・中部・南部の療育センターとそれに付随するリハセンターを設置する構想が打ち出された。
 北部リハセンターのコンセプトは,主な担当地域を多摩区・麻生区(人口約37万人)とし,地域生活に密着して他の地域資源と連携しながらサービスを提供すること,障害種別を問わないサービス提供を行い,あらゆるニーズに対応し,生活全般にわたるリハビリテーションを行うこと,そして,リハに必要な医療,保健,福祉,介護,心理,工学領域の良質な専門技術を提供することである。その組織は総合相談部門(障害者センター)として,精神保健センターと障害者更生相談所および在宅支援室がある。その他に日中活動センターとして障害者自立支援法による日中活動系施設と地域支援センターとがあって,これらの指定管理を受けて運営している。障害者センターの業務である障害者更生相談所・精神保健センターについては,所長(作業療法士)ほかスタッフ9人で運営しており,一方の在宅支援室は所長(保健師)ほか7人で運営している。
 在宅支援室での総合相談はすべての障害者を対象として一次相談機関の機能をもち,ワンストップで,アウトリーチを行なっている。相談件数は平成20年度から23年度まで毎年200件前後であり,その中では高次脳機能障害を呈する利用者の割合が毎年40%を超えていて,その結果セラピスト別では心理士のニーズが高くなっている。平成23年度は,利用者の男女比は約7:3で,年代別には30歳台と50歳台にピークがあり,センターのある北部地域以外からも利用者が訪れている。疾患別では脳卒中・脳外傷で全体の4分の3以上になり,障害別では高次脳機能障害55%,言語障害30%となっている。主な支援内容は,評価(41%),家族指導(29%)のほか認知リハや環境調整なども実施しており,帰結としては全体の約7割の方が復職・就労(福祉的も含む)や復学を果たしている。
 このような背景の中で平成24年7月からは,高次脳機能障害についての地域活動新センターを障害者センターの在宅支援室に開設した。これは川崎市の単独事業で,高次脳機能障害に特化した日中活動の場としては川崎市初のものである。それまでの活動に加えて相談支援機能を付加し,専門的リハ技術を住み慣れた地域で提供することにより,社会参加を増大させたり個々のニーズに合わせた生活の再構築を行なっている。
 平成24年8月に策定された川崎市地域リハセンター整備基本計画案では,専門的リハ支援の概念図として,一次相談窓口(市内各区保健福祉センター,健康福祉ステーション2か所,市区相談支援事業所35か所)は専門的支援機関である各地域リハセンター等のリハ機能を利用し,各専門的支援機関は一次相談窓口やサービス提供者に対して技術支援を行うという構想になっている。
 以上のように,川崎市北部リハセンターでは,総合リハセンターからではなく市のブランチから,実際の利用者ニーズによって高次脳機能障害者への支援が行われており,市全体の利用があって成果を上げている。

2) 3.11東日本大震災と岩手県のリハ活動

高橋 明

 岩手県の人口は約133万人。東日本大震災の被害者は死者4,671人,行方不明者1,201人,負傷者200人に上った。
 地震直後には,停電が発生して外部との連絡が遮断し,病院では,エレベータの停止,夕食をどうするか,断水・燃料不足・備蓄の心配があり,また患者や被災者を沿岸から内陸に移送する必要が生じた。
 災害直後の3週間は,電池のテレビとラジオだけが情報源で,ガソリンなどのエネルギー窮乏により身動きが取れなかった。患者も従業員も家族の安否確認が取れず,不安が増強した。備蓄は徐々に底をつき,日常生活上の無理が限界に達していた。
 県内には倒壊・流出した身体障害者入所施設はなく,在宅の身障者で重度な人は施設に入所した。一般の避難所に身を寄せた身障者も多かった。補装具を失った方へは3月11日当日の通知に従い弾力的に再支給された。避難所ではT字杖,シルバーカーなどの起居・歩行支援器具のニーズが高かったものの,使用法がわからない場合もありリハの必要性があった。
 今回は大津波による被害のため水死者以外のケガ人は少なかった一方,住居・職場・家族・知人などの住み慣れた“ホームグラウンド”を失った。各地のダメージは一様でなく,共通する問題点や適切な対策の抽出が難しかった。実効を上げたのは自律的・地域解決型の地域リハ活動であった。すなわち,保健所・広域支援センターは状況を確実に把握していて,保健活動に関連する互助的な「~会」が重層的に存在して地域福祉と連動して活動した。そして求めに応じて広域支援センターが要員を派遣した。
 各避難現場では,廃用症候群が5~10%の者にみられていた。保健スタッフの数が減少し,介護予防・運動療法のスタッフも欠乏していた。現場で最も多かったリクエストは,局面を理解でき解決できるコーディネーターが欲しいということだった。コーディネーターに求められたのは,解決すべき案件を的確にキャッチアップして解決能力のある組織や人・部署に連絡ができる能力であり,また人員配置スケジューリング技術も求められた。これにはベテラン保健師・師長,リハ医,そしてリハ療法士などが適任であった。
 上記のような状況の中で思案の上,当面は廃用の除去と生活不活発病の予防を目指した。その方法は,①地元の保健師・保健所と連携し介護予防を直接支援,②沿岸の広域支援センターとの連携,③必要な人員は県地域リハ連絡協議会を通じて動員。3月30日にはタスクフォース・連絡会議を編成し,4月1日に雫石にPT・Nsが,陸前高田にはPTが,釜石にはOTがそれぞれ出動した。
 いわてリハセンターの支援活動としては,①避難所等における被災者の状況把握,②廃用防止のための運動指導,③その他健康維持のための支援,④被災者への情報提供,⑤補装具・福祉用具の手配,⑥地域医療・保健・福祉との連携強化,⑦関係諸団体(医師会・保健所・療法士会)との連携,⑧必要に応じた活動,などを行なった。同センターによる支援活動の中間報告を表に示す。
 避難者たちは帰る家を失っており,人間関係やフラッシュバックなどの強大なストレスが継続していた。情動不安定により血圧変化・不眠・うつなどの症状が多くみられた。実態調査でニーズとして多かったのは,行政・事業者・民生委員によるフォロー,精神的ケア,生活ニーズ不満の解消,コミュニティーの再建,そして雇用問題・経済不安への対応などであった。
 震災から時間が経つにつれ,ニーズの変化によりリハの処方も変更する必要があった。①“波を見た人”対策としてサイバーズギルト対策やグリーフケアを行い,②閉じこもり対策としては集団作業療法・心のケアや運動療法,そしてサロンや茶話会を通してコミュニティーの再構築を図った。一方,③役割・職欠乏対策は政治の役割と思われた。
 恐ろしい速度で過ぎた1年を振り返ると,①大規模災害と医療は救命と減災である。②救命はDMAT・JMATだが,減災はリハ支援チームの独断場である。減災の中核は災害連鎖の阻止であり,それには予防的リハと生活支援・生活機能支援が必要である。③被災中心地では行政もリハ・ケアもメンバーが欠落する。④リハは災害援助法適用外職種であるが,災害支援こそリハの原点である。
 現在は「予防的リハ」を中心に活動しており,生活機能確保を目標とした「介護予防」がその中心である。これは心理的ダメージの軽減にも効果があると思われる。
 今後に備えて,関係者間での“普段からの交流”がカギである。岩手県では地域リハ整備推進システムが効果を発揮した。そしてDMAT同様,リハ支援出動を法案に加えるように提言したい。

表 いわてリハセンターの支援活動の中間報告
(2011年4月1日~7月15日)

1.沿岸部→生活不活発病防止のための運動指導・福祉用具の調整

①従事者数:PT,OT等 延べ106人日(気仙8,釜石29,山田68,野田1)

②対象者数:個別対応 延べ340名(気仙33,釜石116,山田191) 集団指導 延べ22名(野田)

2.内陸部→生活不活発病防止のための運動指導・健康相談など

①従事者数:PT,OT,看護師等 延べ99人日(雫石75,花巻24)

②対象者数:個別相談 延べ321名,集団指導 延べ222名

合計

①従事者数:延べ205人日

②対象者数:個別 延べ661名,集団 延べ244名 計905名

3)地域包括ケア構築に向けて
 ―地域全体の病院・在宅介護連携について―

逢坂 悟郎

 わが国の超高齢社会を乗り切る条件として,地域包括ケア研究会の報告書(2010年3月)では,「地域包括ケアシステムとは,中学校区単位で,個々人のニーズに応じて,365日24時間,医療・介護等の様々なサービスが適切に提供できるような地域での体制である」「団塊の世代が後期高齢者となる2025年へ向けて解決すべき課題を検討する必要がある」と述べられており,そのコーディネーターとして地域包括支援センターが位置づけられている。地域包括ケアセンターに期待されるコーディネート内容は,「在宅医療・リハ・介護の連携」,「365日24時間,医療・介護等の様々なサービスの提供体制を作る」,「住民の助け合い活動を支援して,これをケアプランに利用できるようにケアマネジャーと調整する」などである。
 しかし,このような地域包括(在宅)ケアができたとしても病院とは連携ができるのか。すなわち,退院調整が不十分な要介護者・障害者が次々に退院してきたら在宅ケアは耐えられるのか。退院調整の現状をみると,北海道北見市の住民の退院調整もれ率は58%,大阪大東市では要介護(支援)者の50%は退院調整を受けずに退院しているとの報告がある。兵庫県でも姫路市の退院調整もれ率は27%,揖龍地区では43%に上る。
 このような事態の打開策として,二次圏域において病院・在宅が共にネットワーク化することが考えられるが,そのためには二次圏域の医療・介護をまとめるコーディネーターが必要である。そのコーディネーターに求められる役割は,疾患を問わない病院のネットワーク化,市町村と協力して地域包括支援センターのコーディネート能力を高めること,圏域レベルの在宅ネットワークを育成すること,病院・在宅サービスの連携調整を行うこと,などである。
 このようなコーディネーター役として適任なのは,保健所と広域支援センターが協働して活動することであると考え,兵庫県では保健所を二次圏域コーディネーター化する活動を平成22年4月から開始した。最初は県庁内で保健・医療・福祉の各課が一同に会し,保健所の二次圏域コーディネーター化を検討した。
 その後,西播磨の揖龍地区において看護協会に呼びかけ,保健所の協力により同地区の10病院がネットワーク化され,その地区のケアマネジャー会合の協力により揖龍地区急性期病院・ケアマネ協議会が開催された。また,姫路市においては急性期・介護協議会が開催され,MSWが担当したケースはMSWが,そしてそれ以外の患者については看護師が退院調整することになった。このように,中播磨の病院ネットワークを中心に複数の保健所を巻き込んだ病院・介護連携が完成する予定である。
 以上をまとめると,わが国の病院・在宅連携は,医療連携はすでに文化であるが,医療・介護連絡は未成熟である。ケアマネジャーへの退院調整もれは本人・家族の不利益,在宅ケアスタッフの不要な労力につながる。どこの住民でも二次医療圏を越えた圏域の病院に入院しており,病院・ケアマネジャー連携は二次医療圏を越えて行う必要がある。二次圏域のコーディネーター,地域包括支援センターが協力して活動すると,病院・ケアマネジャー連携が実現する可能性が高まる。将来は自立支援分野にも連携を広げていきたい。


主題・副題:リハビリテーション研究 第154号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第154号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第42巻第4号(通巻154号) 48頁

発行月日:2013年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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