用語の解説 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)

用語の解説

共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)

 平成24年7月23日に中央教育審議会が,表題に示したタイトルの報告を公表した。この報告は,平成18年12月の第61回国連総会において採択された「障害者の権利に関する条約」の批准に向けた日本での教育制度検討の一環として示された報告である。ここでは,報告の内容を簡単に紹介し,その実現に向けた課題について言及したい。

1.特別委員会の報告の概要

 報告は,はじめに審議の経過を述べた後,5つの観点から記述されている。

(1)共生社会の形成に向けて

 「目指すべき共生社会について,誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い,人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である」と規定し,共生社会の形成に向けてインクルーシブ教育システムの理念が重要であり,その構築のために特別支援教育を着実に進めていく必要があること。また,同じ場で共に学ぶことを追求するとともに,その時点での教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる多様で柔軟な仕組みの整備が重要であるとしている。

(2)早期からの教育相談・就学先決定の在り方

 就学先決定の仕組みについては,従来の就学先決定の仕組みを改め,総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすること。その際,本人・保護者に対し十分な情報提供や本人・保護者の意見を最大限尊重すること。本人・保護者と市町村教育委員会,学校等が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とすること等,踏み込んだ指摘がなされた。

(3)合理的配慮及びその基礎になる環境整備

 「合理的配慮」とは,「障害のある子どもが,他の子どもと平等に『教育を受ける権利』を享有・行使することを確保するために,学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり,障害のある子どもに対し,その状況に応じて,学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であるとしている。その基礎となる環境整備については,「基礎的環境整備」と称し,国・各自治体が,財源を確保し,その充実を図っていく必要性に言及している。

(4)多様な学び場の整備と学校間連携等の推進

 インクルーシブ教育システム構築のためには,多様な学びの場の整備と教職員の確保が求められること等が触れられた。また,学校間連携の推進として,域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)により,各地域におけるインクルーシブ教育システムを構築することの必要が挙げられている。

(5)教職員の専門性向上等

 すべての教員は,特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められること。従って,現職教員の研修の充実や必要に応じて外部人材の活用も含めて学校全体としての専門性を確保していくことが必要である等が指摘された。

2.特別委員会報告の実現に向けた課題

 特別委員会報告の提言の実現は,従来の教育制度転換についての具体的な検討が必要とされる。また,学校教育分野だけで解決できる内容ばかりではなく,国民全体で共通理解して進めるべき課題も多い。今後の具体的な取組についての検討課題は,1~2例を挙げるにとどめる。

[1]就学相談・就学先決定の在り方について

 就学相談・就学先決定については,自治体に任せるだけでは限界がある。国において何らかのモデル的取組を示すとともに,具体例の共有化を図る必要がある。

[2)]「合理的配慮」の充実

 「合理的配慮」は新しい概念で,まだ理解が不十分であり,学校・教育委員会,本人・保護者の双方で情報が不足していると考えられる。早急に「合理的配慮」の充実に向けた調査研究事業を実施し,国としての「合理的配慮」のデータベースの整備や提供される合理的配慮の評価についての研究が求められる。

(宮﨑英憲/東洋大学教授)


主題・副題:リハビリテーション研究 第154号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第154号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第42巻第4号(通巻154号) 48頁

発行月日:2013年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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